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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
195/384

5-15.


 それを例えるならば、ソーシャルゲームのレアリティが一番妥当であろう。

 レアリティ、ゲーム内のキャラクターやアイテムの価値を示す記号。

 大抵のソーシャルゲームでは、レアリティの差による明確な性能差が設定されている。

 スキルの効果などを含めると話が複雑になるので、此処で言う性能とは総合的なパラメータ数値として欲しい。

 例えばレアリティの優劣があるキャラクターに対して、ゲーム内での経験値リソースを与えたとする。

 その場合はレアリティの低いキャラクターは、レアリティの高いキャラクターと同じ性能に決してならない。


「なっ…、こんな短時間で…」

「ヲヲヲ…」

「千春さん…」


 そしてこの世界における魔法少女とモルドンで、どちらのレアリティが高いかは明白であろう。

 千春たちの誤算は本物の渡りのモルドン、レアリティの低いモルドンを素体とした存在の強さを上限とした事に他ならない。

 これもゲーム風に例えるならば魔法少女のクリスタルというリソースを取り込み、限界突破することで渡りのモルドンは魔法少女を上回る性能を手にした。

 そして使い魔ライフも渡りのモルドンと同様の手段を用いて、クリスタルによる限界突破を行ったと言えるだろう。

 しかし元が低レアリティである渡りのモルドンと、高レアリティである使い魔ライフの限界突破による性能の伸びしろが同じである筈は無いのだ。


 これまでは縛りプレイしていた使い魔ライフが、少し本気を出せばこの通りである。

 千春が朱美を避難させて戻ってくる間に、牧場に集められた魔法少女は無残に倒されて地面に転がっていた。

 流石にこの数の魔法少女相手にして、クリスタルの破壊までしている余裕は無かったのだろう。

 ライフに倒された魔法少女たちのクリスタルは無事なようで、苦悶の声を漏らしながら蹲っている。

 そしてこの惨事を引き起こした下手人は千春の復帰に気付いたようで、こちらを警戒するように動きを止めていた。


「動ける余裕があったら、下がってろ。 此処に居ると、クリスタルを喰われちまうぞ」

「む、むりー」

「痛いよぉぉっ」

「ママー、ママー」


 彼女たちを庇う様にライフの前に出てきた千春は、ヴァジュラの両刃を構えながら倒された魔法少女たちに逃げるよう指示する。

 しかしクリスタル破壊は免れたとは言え、彼女たちはライフに手痛くやられたようですぐに動けそうにない。

 格下のモルドンとの戦いで此処までの被害を受けることは有り得ないので、今のようなダメージを受けた経験は皆無なのだろう。

 慣れない痛みに悶え苦しむその姿は、彼女たちが魔法少女である前にただの平凡な少女であることを千春に伝えていた。


「千春さん」

「佐奈、リュー、シロも無事か!!」

「はい。 私たちは空に居たので後回しにされたようです。 スカイちゃんは相手に切りかかろうとして、逆に…」


 生き残った魔法少女と使い魔、佐奈とシロとリューが千春の元に合流する。

 彼女たちは空中に浮遊して上空から攻撃を仕掛けていたため、運よく生き残ることが出来たらしい。

 ただし彼女たちと同じく飛行能力を持つが、攻撃手段が近接戦闘しか無い使い魔スカイは残念ながら既に撃墜済みのようだ。

 よく見ればダメージを受けて日常モードになったスカイが、他の魔法少女と同様に地面に転がっている。


「あいつの足を止めるしか無いな…。 俺があいつを足止めする、最悪俺ごとでいいから奴を…」

「それはっ!? 分かりました…」

「リューは俺の援護。 佐奈はシロに乗ってタイミングを図ってくれ、例の物はまだ残っているよな?」

「はい、使うタイミングが無かったので…」

「よし、行くぞっ!!」


 千春は佐奈たちと即興で、使い魔ライフに対抗するための段取りを立てる。

 朱美を運びながら遠目でライフの暴れっぷりを見ていたが、まずは奴の足を止めなければ話しにならない。

 その目的に打ってつけの装備がシロと一体化しているバイクへ搭載しており、此処で使わずに何時使うと言うのだ。

 ライフを警戒して具体的な名称を口にしなかったが、察しの好い佐奈は千春の意図を読み取ってくれた。

 即席の作戦会議が終わったところで、千春はライフに向かって突貫していく。






 目にも止まらぬ速さで動き回るライフの動きを見た千春は、かつて戦った使い魔ブレイブのことを思い出していた。

 あの戦いではUNの型の強化された感覚を駆使して、どうにか相手の動きを読むことが出来た。

 今回もあれと同じことをすればいいと、千春は自身を鼓舞しながら使い魔ライフに向かって剣を構える。


「っ!? 重いっ!! ぐぁ!!」

「ヲヲ、ヲヲ!!」


 そんな浅はかな千春を嘲笑うかのように、ライフは圧倒的な力を見せつけた。

 体感的に言うならば純粋な速さならば、それに特化しているブレイブの方が優れている気がする。

 ただしブレイブの攻撃が鋭さと危うい脆さを兼ね備えた日本刀ならば、ライフのそれは超重量の頑丈な大斧と言うべきか。

 ライフの攻撃を感じ取りヴァジュラで迎撃することで、何とか相手のスピードには対抗できた。

 しかし相手は魔法少女を一撃で倒せるほどのパワー自慢でもあり、スピードとパワーが合わさったライフの動きはそれだけで規格外の暴力装置である。

 UNの型の膂力では相手の攻撃を僅かに逸らすのが精一杯であり、一撃一撃を捌くだけで千春の体力と精神は消耗していく。


「千春さんっ!?」

「○○…」


 千春がライフに追い詰められていく様を、指示通りシロに乗った佐奈が辛そうな表情で見守る。

 残念ながら自分やシロにあの超高速の戦いには着いて行けない、悔しくしても今は千春に任せるしか無いのだ。

 佐奈はバイクに搭載されていた荷物、先の渡りのモルドン戦でも使われた例の投げ網を構えながら地上の千春の戦いを見守っていた。

 一時的であるが渡りのモルドンの動きを完全に封じたこれならば、あの化け物の足を止められる筈だ。


「っ、舐めるなぁぁ!!」

「ヲヲっ!!」


 それは一か八かの賭けであった。

 UNの型の膂力ではライフに圧倒されてしまうが、AHの型ではライフの動きに着いて行けない。

 そこで千春はUNの型で相手の動きを読んだ後、瞬時にAHの型にスイッチすると言う荒業を敢行したようだ。

 仮にAHの型に切り替えた後でライフが動きを変えたら、千春は成すすべなくやられていただろう。

 しかし賭けに勝った千春は、事前の読み通り左方から襲い掛かってくるライフに大してAHの型の姿で立ち向かえた。

 そしてAHの型の頑丈さを信じて相手の攻撃を体で受け止めた千春は、その衝撃に歯を食いしばって耐えながら相手の体に組み付く。

「ぐぅぅ、やれぇぇ!!」

「はいっ!!」

「ヲヲっ!?」


 AHの型の力を持っても拮抗は一瞬であり、僅かな時間しからライフを押しとどめることは出来ないだろう。

 しかし一瞬足を止めれば、それは上空から投げ網を投下するには十分な時間である。

 佐奈は事前の指示通り、ライフを抑えつけている千春を巻き込む形で投げ網を投下した。

 そこで上空の佐奈から迫り来る投げ網の存在に気付いたライフは、驚いたような鳴き声をあげる


「ヲヲ…」

「っ!? させるかぁぁ!!」

「ヲっ!?」


 上空に目を向けたライフは、その大口を開いて迫り来る投げ網に狙いを定める。

 恐らく先ほどブレイブを迎撃した時と同様に、例の光線で投げ網を吹き飛ばす気だろう。

 既に見た攻撃は通す訳にはいかないと、千春は組み付いた姿勢のまま勢い付けて頭を振り下ろす。

 千春からのヘッドバッドをまともに喰らったライフは苦悶の声を漏らし、同時に千春たちの頭上に投げ網が届こうとしていた。


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