5-12.
ウィッチこと友香が占いの力を失っていた時、朱美は彼女と同じ能力を持つ魔法少女に依頼をする事で渡りのモルドンを探し当てた。
過去に朱美が依頼をした魔法少女のように、その力を使ってささやかな商売をしている者が少なからず居るのだ。
しかしそれは余り大っぴらにやるとゲームマスターの怒りに触れるので、知る人ぞ知るレベルの個人的な商売の場合が殆どである。
千春は今回のクリスタルチェイサーとやらも、それらと同類の魔法少女であると認識して不審に思うことは無かった。
実際に朱美に教えられた依頼窓口を兼ねたSNSページにもおかしな所も無く、クリスタルチェイサーは中学生くらいの魔法少女なのだと予想していた。
「全く、困った魔法少女だなー。 クリスタルチェイサーの件がすっかり知られちまったな、偽渡りたちに警戒されてしまうぞ」
平日で真美子も学校に行っているので、千春は喫茶店メモリーに出勤して溜まっていた通販業務を進めていた。
千春の作業場に顔を出した朱美相手にクリスタルチェイサーに対する愚痴を零しながら、千春はコーヒーの梱包作業を行う。
中学生らしい思慮の無さからか、彼女は自身のSNS上にマスクドナイトNIOHからの依頼の件を投稿していた。
その結果、クリスタルチェイサーのSNSページは一躍世間の注目を集めることとなる。
魔法少女について興味を持っている者であれば、クリスタルチェイサーの存在を把握しているだろう。
しかしそれは偽渡りの背後に居ると思われる魔法少女にも、彼女の存在が知られた可能性が高いという事だ。
出来れば偽渡りにたちに気付かれない内に、クリスタルチェイサーの能力を使って奇襲を掛けたかったがこれでは台無しである。
「彩雲からも文句を言われたぞ、学校でクリスタルチェイサーの事を質問されて困っているって…。 もう普通の中学生にも広まっているんだ、絶対に偽渡りたちの耳にも入っているぞ」
「ええ、こちらの思惑通りにね…」
「…? それはどういう意味だ?」
「…そうね」
苦い顔をしている千春と対照的に、朱美はしてやったりとばかりの笑みを浮かべていた。
その表情と意味深な言葉を訝しむ千春は、朱美に対してその真意を問う。
千春の問い掛けに対して朱美は顎に手を当てながら、何かを考えている素振りを見せていた。
「まあ、そろそろネタバラシしてもいいわよね。 千春、あんたは不思議に思わなかったの、私たちに取って都合が良すぎるクリスタルチェイサーの存在を?」
「それは…、確かにニッチ過ぎる能力だと思うぞ。 それこそ、今の俺たちくらいしか需要が無さそうだし…」
確かに朱美の言う通り、SNSページに公開されていたクリスタルチェイサーの能力は非常に特殊な物であった。
魔法少女やモルドンが大手を振って活動している今の世の中であれば、クリスタルを追跡するという彼女の能力は一見有用かもしれない。
しかし現実にクリスタルチェイサーの能力を活用できる状況は殆ど無さそうであり、それを証明するように彼女のSNSページは閑古鳥が鳴いていた。
千春は何処ぞの魔法少女が考えなしに、クリスタルを追跡するという一見有用で実は産廃の能力を構築したのだと考えていた。
「魔法少女は基本的に何でもありよ、それらしい理由さえあればどんな能力だってあり得るわ。 偽渡りたちも恐らくあんたと同じように、クリスタルチェイサーのような魔法少女が居てもおかしくないと思うわよねー」
「おいおい、その口ぶりだともしかして…」
クリスタルチェイサーのSNSページは半年程前から開設されており、SNS映えを意識した彼女の日常風景を捉えた写真が定期的に投稿されている。
個人情報を意識してか本人の顔や姿が分かる写真は無かったが、千春はこのSNSページの内容からクリスタルチェイサーという魔法少女が存在する事を無邪気に信じていた。
しかし千春は実際にクリスタルチェイサーなる魔法少女と会った事はなく、SNSページの情報を除けば朱美の口からしかその存在を認識できていない。
そして朱美の意味深な言葉を聞いた千春はある可能性に辿り着き、背筋に冷たいものが走った。
「その反応だと、もう答えは分かったようね。 クリスタルチェイサー、彼女は偽渡りを誘き寄せるために作られた架空の魔法少女よ」
「だから偽渡りたちに知られても良かったのか。 クリスタルチェイサーを囮にして、NIOHのを誘き寄せる作戦かよ…。
何故、俺に秘密にしていた?」
「クリスタルチェイサーの存在を疑われたら全てがパーになるのよ。 リスクは出来るだけ避けないとね…」
クリスタルチェイサー、何処かに潜んでいる渡りのモルドンを偽装した使い魔を見つけるための切り札となる魔法少女。
渡りのモルドンに全ての罪を被せるために、わざわざその姿を真似た使い魔を作り出した魔法少女なのだ。
偽渡りを従える魔法少女は、絶対にクリスタルチェイサーの存在を見逃せないだろう。
使い魔を探知する能力を持つガロロを早々に排除したように、クリスタルチェイサーも排除しようするに違いない。
そして偽渡りが自分から現れてくれるならば、クリスタルチェイサーが本物である必要は無いのだ。
千春の予想通り、クリスタルチェイサーは架空の魔法少女であることが朱美の口から明言された。
朱美は偽渡りの裏に魔法少女が居るいう推測の元に、その少女を騙すための策を練った。
クリスタルチェイサーという架空の魔法少女の存在を証明するため、半年前からの記録があるSNSページを準備する。
そして魔法少女研究会や朱美自身が持つ魔法少女関係のネットワークを活用して、それとなくクリスタルチェイサーの存在を周知する。
クリスタルチェイサーの存在を示せる下地が出来てしまったら、後の作業は簡単である。
最後の仕上げとしてクリスタルチェイサーの存在を世間へ一気に広めるため、マスクドナイトNIOHのネームバリューを利用したという事らしい。
「普通に騙されていた俺が言う事じゃないかもしれないが、クリスタルチェイサーの能力は出来過ぎている。 偽渡りたちに気付かれる可能性もあったんじゃ無いか…」
「その可能性も否定はしないけど、私はかなり勝利が高いと思ったわ。 あんたも前に言っていたでしょう、偽渡りは焦っているって…。
そんな彼らがクリスタルチェイサーなんて致命的な存在を知って、冷静で居られるかしらね?」
「まあ、そうだな…」
偽渡りを従える魔法少女が思慮深く冷静であれば、クリスタルチェイサーと言う存在に違和感を覚えたかもしれない。
しかしそもそも偽渡りたちが冷静ならば、ガロロや千春のアパートを襲うような無茶な行動をしなかった筈だ。
明らかに焦りが見て取れる偽渡りの一連の行動を見て、朱美は今回の作戦が成功する見込みは十分にあると考えていた。
「…一つだけ言わせてくれ。 これは情報戦とかそれ以前に、普通にでっち上げだろう! ジャーナリストが一番しちゃいけない事じゃんか!!」
「ふっふっふ、これは偽渡りと私たちとの戦争よ。 相手に偽情報を流して引っ掛けるのは、現代戦では常識なんだから…」
「これからお前の書いた記事を見るときは、まず捏造を疑うからな…」
それは現代人とは切っても切れないSNSを活用した、見事な情報戦と言えなくも無い。
しかし言ってしまえはそれは、真実を第一とするジャーナリストとは対局に位置する捏造行為と言えた。
自ら捏造ジャーナリストと成り下がった朱美は、これは戦争時の緊急措置だとして悪びれる様子は無い。
こちらの糾弾を受けても平然とした様子の朱美の姿から、千春は今回が初犯では無いのではと若干疑いを持つのだった。




