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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
191/384

5-11.


 クリスタルチェイサーを名乗る魔法少女が、自身のSNSページに新たな写真を投稿した日の夜。

 夜の闇から生まれたかのように、二足歩行の蜥蜴と言うべき異形が姿を現した。

 ライフ、魔法少女である志月が渡りのモルドンを真似て生み出した使い魔。

 渡りのモルドンと装って何人もの魔法少女を襲ってきた忠実な使い魔は、今日も志月の言い付け通りに働いていた。


「ヲヲヲヲ…」


 姿だけでなく鳴き声までも本物と合わせている、渡りのモルドン型使い魔のライフが様子を窺うように辺りを見渡す。

 そこは少し前にライフがとある使い魔を襲った、広い敷地を持つ郊外の牧場であった。

 前回はターゲットが外に出ていたので簡単に見つけられたら、今回は流石にそのような幸運は無いらしい。

 辺りは静まり返っており、牧場内の整地された敷地内には人や動物の気配は全くなかった。

 恐らく奥の住居施設に居るのだと判断したライフは、そのまま辺りを注意しながら牧場中へと足を踏み入れていく。


 クリスタルチェイサーが最後に投稿した、クリスタルの欠片を掴む女性の腕が映っている写真。

 見栄えのいい背景を意識したらしく、それはわざわざ屋外の洒落た木造建築をバックして撮られている。

 その建築物に見覚えのあった志月は必死に頭を巡らして、やがて答えに辿り着いた。

 マジゴロウを名乗る魔法少女が動画撮影の時に利用しているあの牧場、そこで撮られた物に間違いない。


「これは…、確かあの牧場の建物? そうか、NIOHたちと合流したのね…」


 志月はライフを警戒したマスクドナイトNIOHや使い魔たちが、あの牧場に集まっていることを既に把握している。

 よくよく考えれば牧場に居る面子は、そのまま渡りのモルドンを偽装しているライフと戦うための戦力になるのだ。

 NIOHたちはクリスタルチェイサーを牧場に直接呼びよせて、彼女の能力を使って渡りのモルドンを追跡するつもりらしい。

 このままクリスタルチェイサーを野放しにすれば、明日にはNIOHがライフに辿り着いてしまうだろう。


「あそこにはNIOHと使い魔たちが居る…、下手すればライフが…。 でもこのまま放っておく訳には…」


 クリスタルチェイサーの存在は、志月に取っては致命的であった。

 あの投稿が正しければクリスタルチェイサーは、明日クリスタルを辿ってライフの居場所を掴んでしまう。

 マスクドナイトNIOHそその仲間たちは本物の渡りのモルドンさえ、倒す寸前まで持ち込んだのだ。

 ライフがNIOHたちを返り討ちにするという、楽観的な結果になるとはとても思えない。

 志月が生き残る方法はただ一つ、マスクドナイトNIOHと使い魔たちが居る牧場を襲ってクリスタルチェイサーを潰すしか無いのだ。

 そしてライフは志月の命令に従い、再びあの牧場へと現れたのである。


 今回のターゲットはあくまでクリスタルチェイサーだけであり、マスクドナイトNIOHや他の使い魔たちは関係ない。

 相手が油断してくれているなら、上手く奇襲を掛ければすぐにミッションを達成出来るかもしれない。

 しかしNIOHたちが余程の馬鹿で無ければ、渡りのモルドンを装ってガロロや丹心を襲撃したライフを今も警戒している筈だ。

 そもそもあの牧場にNIOHと使い魔たちが居るのも、まさしくライフに備えた物であろう。


「ヲヲ…」


 幾ら警戒しているとは言え、何処かで気が緩む時間が必ずある筈だ。

 明日は渡りのモルドンとの決戦であると認識しているNIOHたちならば、体調を万全にするために既に就寝しているに違いない。

 それは希望的観測でしか無いのは分かっているが、今の志月とライフはその希望に縋るしか無かった。

 襲撃を掛ける前に気付かれたら元も子もないので、ライフは周囲を警戒しながら慎重な足取りで進んでいく。

 しかしこの時ライフは気付くことは無かった、今夜の牧場には前回には無かった物が配置されていたことを…。

 長閑な牧場には似つかわしくない高性能センサー機器、それらが敏感に侵入者の来訪を感知していた。






 残念ながらSNSページから集めた情報では、クリスタルチェイサー本人の顔は確認できていなかった。

 しかしその文面や投稿された写真の感じから、恐らく志月と同年代の中学生あたりであると推測できている。

 牧場で働くスタッフや家族のその年代の子供は居ないことは調べられているので、中学生らしき少女が居ればそれがクリスタルチェイサーに間違いない。

 荒っぽいやり方であるがライフに一暴れしてもらい、それらしい少女を外に誘き寄せれば何とかなるだろう。

 行き当たりばったりもいい所であるが、悠長に作戦を考えている時間は志月たちに残されていなかった。


「ヲヲヲ…」


 それは慎重な足取りで進んでいたライフが、牧場奥の住居施設の近くまで辿り着いた瞬間である。

 使い魔の匂いを探知するガロロのクリスタルを取り込んだライフは、あの建物内に使い魔たちが居る事を嗅ぎ取っていた。

 悪戯に戦力を分散するとは思えないので、あそこにマスクドナイトNIOHやクリスタルチェイサーも居るに違いない。

 ライフは主の言い付け通り、クリスタルチェイサーを外に誘き寄せるためにモルドンらしい破壊行為を始めようとしていた。

 恐らくNIOHや使い魔がすぐにライフの元に駆けつけるので、一秒でも早くクリスタルチェイサーを見つけて彼女のクリスタルを喰わなければならない。

 しかしライフが例の光線で家屋の一部を破壊しようとした時、その暴挙を遮る様に四方から何かが降り注いだ。

 雷撃、銃弾、光弾、火炎、爆発、斬撃、多種多様な攻撃が一斉に襲い、ライフは咄嗟に急所である顔と胸部を庇った。


「ヲヲっ!?」

「死ねぇぇぇぇ!!」

「正義の力を思い知れぇぇぇ!!」

「狙い撃っちゃうわよ!!」

「おい、牧場の方に被害は出すなよ」


 激しい痛みに耐えながらその場から飛び退いたライフは、遅まきながら自身が罠に嵌ったことを悟る。

 そこには近くの物陰に潜んでいたららしい、既に変身済みのマスクドナイトNIOHと魔法少女たちの姿があるでは無いか。

 青い鎧のUNの型となっている千春と共に、魔法少女アヤリンとマジカルレッドが手持ちの銃器をライフに突きつけている。

 そして先ほどまで超能力で爆発を起こしていた魔法少女ジュニアが、殺意の籠った表情でライフを睨みつけていた。

 彼女たち続いて続々と他の魔法少女たちも、ライフの前に姿を見せていく。


「これが…、本当に使い魔なの?」

「私の占いに全く反応しない、少なくともモルドンじゃ無いと思います」

「どっちにしろ、此処で倒せば問題無いって。 いくよ、梨歩」

「ああ、僕たちも佐奈さんの役に立てる事を見せてやる!!」

「丹心、仇は美湖が取ってあげるからね!!」

「ちょっと、人を死んだみたいに言わないでくれる」

「はいはい、魔法少女の力が無い一般人は下がって下がって…」

「伊智子、あんたまで…」


 牧場にこの使い魔たちとマスクドナイトNIOHが居る事は分かっており、彼らとの交戦は覚悟していた筈だ。

 しかし先ほどライフを襲ったアヤリンたちに加えて、NASAやウィッチや他の魔法少女たちの姿は予想外である。

 彼らに続いて他の魔法少女や使い魔たちが姿を現し、ライフを逃さないように周囲を囲って行く。

 数の差で相手を徹底的にやり込める。

 本物の渡りのモルドン相手では出来なかった作戦が、偽渡り相手で成功するとは些か皮肉ではあった。


「○○!!」

「□□…」

「▽▽…、▽!」

「。。。。」


 他の魔法少女たちから少し遅れて、住居施設の方から使い魔たちが飛び出してくる。

 既に戦闘モードとなっているリューとスカイとブレイブが、相手を威嚇するように唸り声を上げていた。

 恐らくガロロの能力を取り込んでいる可能性があるライフを警戒して、使い魔たちはあえて住居施設に控えていたのだろう。


「ふふふ…、上手く引っかかてくれたわね。 やっぱり人間が相手だと楽よねー、これが高度な情報戦って奴よ」

「いや、ただの詐欺だと思うぞ。 感謝しているけどさー」


 そして今回の段取りを立てた朱美は、マスクドナイトNIOHこと千春の背後で自慢気に胸を張っていた。

 確かに偽渡りを追い詰めている今の状況は、朱美が作り出した物と言っていい。

 しかし朱美の進めていた極秘作戦の内容の詳細を、数時間前にようやく説明された千春はその悪辣なやり口に若干引いていた。

 そんな千春の複雑な心境に気付くことなく、朱美はまんまと罠に嵌まり込んだ偽渡りの姿にご満悦な様子であった。



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