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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
189/384

5-9.


 それは先のオンライン会議による魔法少女たちとの会合において、千春が偽渡りの脅威を伝えた時であった。

 実際にガロロや千春のアパートが被害に遭っている事もあり、とても楽観できる状況では無いと認識したのだろう。

 カメラを通して映し出される映像に移る魔法少女たちの表情は、その大半は暗い物になっていた。 


「うぅぅぅ、渡りの偽物が美湖の所に来たらどうしよう…」

「あら、ビビっているの、美湖? そんなに怖いなら、あなたもNIOHにクリスタルを預けておけばいいじゃない?」

「べ、別にビビってない! そう言う丹心こそどうなの? また渡りのモルドンに追い掛け回されるわよ?」

「ふ、私は本物の渡りのモルドンさえ捉えられなかった女よ。 偽物が私を捉えられる筈は無いわ!!」


 しかしその中で一人、自信満々な態度を見せている魔法少女が居た。

 丹心、千春たちが本物の渡りのモルドンの復活を知る事になった、あの逃走劇の主役だった魔法少女である。

 彼女は本物から生き延びた自分が、偽物にやられる訳では無いとカメラ越しに胸を張っていた。


「…なんか凄い自身だな」

「あれ、最近のあの子の鉄板なんです。 NIOHさえ倒しきれなかった渡りのモルドンから一晩逃げ延びたって、ウザいくらい自慢してくるんですよ」

「ふん、丹心なんか偽渡りに倒されちゃえばいいのよ!!」

「生憎だけど私は今度も生き残って見せる。 私の勘があれば渡りなんて怖くないわ!!」

「いや、それって確かモルドン専用なんじゃ…」

「おーほっほっほっほっほ!!」


 伊智子の話によると、どうやら彼女は渡りのモルドンから逃げ切った偉業を徹底的に自慢しているらしい。

 確かにそれは偉業と呼べる結果かもしれないが、だからと言って今度も偽渡りから逃げられるという話でも無い。

 千春はそれとなく丹心を注意しようとするが、その忠告が彼女の耳に届いていなさそうだ。

 現実世界にオタク特有のノリを持ち込むのはよろしくないが、どう見てもこれは一種のフラグと呼ばれるものだろう。

 調子に乗り過ぎて高笑いまで始めた丹心の姿を、千春は残念な物でも見るような目で眺めていた。






 佐奈とあんずと梨歩にアイスを手渡した千春は、自分の分を口にしながら朱美に話を促した。

 食べながら話をするのはマナー違反かもしれないが、偽渡りに関する情報なら一刻も早く耳に入れておきたい。

 千春に言われずとも、朱美はそのためにわざわざこの牧場まで来たのだ。

 待ってましたとばかりに朱美は、開始早々から爆弾発言を繰り出してきた。


「まず偽渡りの新しい被害者がまた出たわよ」

「…誰だ!?」

「2号ちゃん。 普通に奇襲を受けて、あっさりやられたそうよ」

「あー、早速フラグ回収かよ…」


 またしても偽渡りの被害者が出たにも拘わらず、千春たちの空気は何処か緩い物であった。

 千春は呆れたような表情で顔を手で覆い、佐奈や朱美も苦笑いを浮かべている。

 丹心、千春たちに"2号"と身も蓋も無い渾名で呼ばれている魔法少女。

 以前に本物の渡りのモルドンから逃げ切った彼女も、残念ながら偽渡りの手から逃れられなかったらしい。


「あの子、変に自信満々だったからね…。 私なら絶対大丈夫だって言って」

「前に渡りのモルドンから逃げ切った事で、妙な自信を付けてたんだろうなー。 1号と3号は大丈夫だったか?」

「そっちは大丈夫。 1号ちゃんと3号ちゃんは普通にスルーされたらしいわ」


 千春は先の会合で偽渡りについて警告した時に、渡りのモルドンから逃げ切った自分なら大丈夫だと胸を張る丹心の姿を思い出していた。

 その過剰な自信はある種のフラグにしか見えず、千春たちは色々と忠告していたのだ。

 そもそも丹心が渡りのモルドンから逃げ切った理由は、土地勘とモルドンの動きを察知する勘を備えていたからに他ならない。

 その"勘"が推定使い魔の偽渡りに通じない可能性が高いので、もう少し気を付けた方がいいとも伝えた。

 しかしどうやら千春の忠告は彼女に届かなかったようで、こうして偽渡りの新たな犠牲者となったようだ。

 曲りなりにも渡りから逃げ切った彼女の勘が通じなかった結果を見る限り、偽渡り使い魔説を補強する材料が手に入ったと言えなくも無い。


「そうか…。 モルドンは動画なんか見ないから、あの時に直接渡りと会っていない魔法少女は逆に狙えないのか。

 1号は殆ど出番が無かったし、3号も直接は渡りのモルドンとは会っていない。 渡りのモルドンとして振舞うなら、一度取り逃がした2号がターゲットになるよな」

「最初に渡りから逃げ切った2号ちゃん、渡りと直接戦ったあんたと使い魔たち、そして…」

「次に狙われるのは私かもしれませんね…」

「佐奈さんが!?」

「大丈夫、佐奈さんは僕たちが守るよ!!」

「戦力が集中している此処に現れるとは思えないし、その可能性は十分あり得るわよ…。 佐奈ちゃんにも注意しておきたかったから、此処に居てくれて助かったわね」


 クリスタルを喰われた丹心には少々悪いが、彼女の犠牲によって偽渡りのスタンスも見えてきた。

 千春のアパートやガロロを直接狙うなどの、モルドンに有るまじき行動を見せたてきた推定偽渡り。

 しかしそれらはあくまで必要に応じて行われた例外的な動きであり、基本的には渡りのモルドンとして振る舞いたいらしい。

 そして例の動画を見る筈も無いモルドンが復讐するであろう相手は、渡りのモルドンと直接交戦した者に限定されることになる。

 先の戦いでは渡りのモルドンの予想外の動きもあり、何人かの魔法少女たちは渡りと直接戦うことは無かった。

 実際に偽渡りは本物の渡りが取り逃がした2号だけを襲い、本物の渡りとは直接相対していない1号と3号には見向きもしなかった。

 その法則に則るならば本物の渡りと直接戦った千春と使い魔たち、そしてNASAこと佐奈が偽渡りに狙われると言うことだ。


「しかしなー、今更本物の振りをしても無理がある気がするんだけどな…。 俺も暇な時に軽く調べたけど、ネットだとあの偽渡りのことを疑っている人が結構居るよな?」

「半信半疑って所よね…。 ピンポイントであんた家やガロロを襲った理由も、世に知られていない渡りの能力によるものだって力説する人もいるし…。

 裏に居る偽渡りの魔法少女ちゃんが本物に罪を擦り付けたいなら、今のスタンスは維持する筈だわ…」

「くっそー、セコイことしやがって…」


 仮にこのまま偽渡りの正体を暴けないなら、全ての罪は本物の渡りのモルドンに押し付けられることだろう。

 別に本物の渡りに同情する気はさらさら無いが、コソコソと動いている偽渡りのやり方は気に入らない。

 ガロロやアパートが犠牲になっている千春たちからすれば、偽渡りは決して見逃しておけない相手だった。


 話に夢中になっている間に溶けてしまったアイスを飲み干し、容器を机に置いた千春は朱美を睨みつける。

 2号こと丹心の犠牲と引き換えにして、現状の偽渡りの方針は凡その把握できただろう。

 しかしこの内容だけなら電話でも十分に伝わるであり、本題が別にあることは明白であった。


「…それで、流石に話はこれで終わりじゃ無いだろうな?」

「当然よ。 偽渡りを引っ張り出す段取りが付いたわ。 これを見なさい」

「これは…」


 千春の予想通り、朱美はにんまりと人の悪い笑みを浮かべながら携帯の画面を向けてきた。

 その画面に映し出されたのはSNSの個人ページだったが、そこに書かれた紹介文が問題であった。


「"クリスタルチェイサー、有料でモルドンや魔法少女を追跡します"、だと…」

「魔法少女の能力は千差万別、中にはこの手の能力を持つ商売に使う魔法少女も居るわよね…。 私の方で交渉中よ、この子の力を使って偽渡りの飼い主を見つけるわ」

「こっちから殴り込みをかけるのか…。 いいな、凄くいいぞ…。 何時、動ける?」

「多分、来週くらいねー。 しっかり準備しておきなさいよ」

「千春さん…」

「ガロロ…」


 魔法少女が誕生して10年以上経過しており、この世界には多数の魔法少女たちが存在している。

 確かに今のこの世の中では、魔法少女を追跡する能力は商売の種になるかもしれない。

 朱美は何処からか千春たちが求めている能力を持つ魔法少女を探し出し、既にコンタクトを取っていたようだ。

 ガロロや千春のアパートを襲った偽渡りの意趣返しとして、こちらから本丸の魔法少女に強襲するということか。

 これまでいいようにやられていた所に訪れた反撃の機会を前に、千春は自然と拳を強く握りしめていた。


世間はお盆休みに入ったので、連日更新に挑戦してみます!

俺のストックはまだ3話分あるぞー!!

(金曜までに一話分を仕上げなければ、更新が木曜で途切れますね…)


では。

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