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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
188/384

5-8.


 千春の想像通り佐奈がわざわざ牧場を訪れる理由を作ったのは、彼女が面倒を見る小学生魔法少女たちだった。

 しかしそれはファミリアショーのファンと言う表向きの理由では無く、佐奈のためを思っての行動である。

 切っ掛けは今から数日前、あんずと梨歩が佐奈に見せたマジマジに投稿されたとある動画にあった。


「"ああ、可愛いぃぃぃっ!! なんて可愛らしいのぉぉぉぉ!!”」

「"あのー、掃除の邪魔なんだけど…"」

「"こら、坊主! 真美子ちゃんに何をした!!"」

「"ええ、俺は何にも…"」


 そこには"ファミリアショー+NIOHチャンネル"のコラボ動画として投稿された、千春と使い魔たちの牧場生活の一部始終が映されていた。

 映像の中で千春は牧場の手伝いとして牛舎の掃除しており、使い魔たちは彼の後ろの付いて来ている。

 暇なのか使い魔たちは千春の真似して掃除を始めるのだが、日常モードの小さい体では上手く出来ないようだ。

 上手く掃除しようと悪戦苦闘する使い魔たちの姿は、中々に愛らしい物であった。

 そんな千春たちの姿を撮影しているのは、牧場に遊びに来ているマジゴロウこと真美子である。

 動画の中で真美子は可愛らしい使い魔たちに悲鳴のような嬌声をあげており、その声を誤解した牧場の人間が千春に詰め寄って来ていた。

 

 この動画を作成した理由は真美子の気晴らしもあるが、それ以外にも千春たちの現状を世間に公開する目的があった。

 マスクドナイトNIOHこと千春と使い魔という戦力が集まっていると、推定偽渡りたちに動画を通して警告しているのだ。

 相手がただのモルドンであれば意味が無いだろうが、恐らく魔法少女が絡んでいる偽渡りにはこの動画の効果があるだろう。

 まずこの動画を見た偽渡りは使い魔不在の魔法少女を襲う必要が無くなり、彼女たちの安全が保証される。

 そして使い魔や千春のクリスタルを狙おうとしても、これだけ戦力が整っている牧場は狙いにくい筈だ。

 裏で朱美が魔法少女研究会が進行している作戦とやらが実を結ぶまで、千春たちは出来るだけ時間を稼ぐ必要があった。


「思わぬ伏兵の出現だよ、佐奈さん!!」

「まずいよ、このままだとNIOHの外堀が埋められちゃう!?」

「千春さんと真美子さんはそんな風にはなりません! で、でも…」


 しかし偽渡りへの牽制を兼ねているこの動画は、思わぬところで反響を呼んでいた。

 牧場で使い魔たちと共に仲良くしている千春と真美子の姿は、一部の界隈で新たな話題を提供していたのだ。

 マスクドナイトNIOHを一つの作品として考えた時、主役は千春であるとことは間違いない。

 そして作品を彩るメインヒロインは誰かと常日頃から議論している馬鹿者たちにとって、マジゴロウこと真美子の存在はまさしく衝撃であった。

 真美子の親戚の牧場で働く千春、二人の仲を温かく見舞っている風の優しい牧場の人間たち。

 朝の日常ドラマに出てきそうな風景を前にして、真美子がヒロインだと断ずるの勢力が急成長しているのだ。

 おませな小学生たちも耳聡くその噂を耳にしたようで、千春に明確な恋心を抱いている佐奈を唆していた。


「一度、NIOHの所に顔を出しといた方がいいよ。 佐奈さんも一杯アピールしなきゃ…」

「渡りのモルドンの件もあるし、一回NIOHの様子を見に行くのも手だよ」

「そ、そうよね…。 あくまで千春さんや使い魔ちゃんの様子を見に行くなら普通よね。 こ、今度牧場の方に行っていいか、真美子さんに聞いてみるわ」


 口では何でもないと言っていたが、佐奈自身も内心で千春と真美子のことが気になっていたらしい。

 心優しい佐奈は、ガロロを失った真美子のことを強く同情していた。

 しかし動画の中で千春と仲良くしている真美子の姿を見ていると、その同情を忘れる程のモヤモヤとした感情が生まれてしまう。

 そしてあんずと梨歩の口車に乗った彼女のは、千春や使い魔の様子を見に行くと言う建前で牧場を訪れることを決意する。

 いそいそと携帯で真美子にアポイントメントを取っている佐奈は気付かなかった、二人の魔法少女がしてやったりと笑い合う光景を…。






 此処は観光牧場では無いのだが、折角訪れた真美子と千春のお客様を無下には出来ない。

 牧場の人たちから来客の案内を任された新人の千春くんは、三人を連れて牧場の敷地中を巡っていく。

 このルートは千春が働き始めた時に案内されたルートと全く同じであり、記憶に新しいので説明もほぼ丸パクリである。

 しかしそんな裏事情を知らない佐奈は、博識な千春の姿に感嘆の溜息をついていた。


「凄いぞ、この機械でわらが固められているんだ。 牛にやるときはこれをほぐして…」

「はぁ…、千春さん」

「思ったより牧場も面白いねー」

「今度、学校のみんなにも見せてあげよー」

「写真はいいけど、フラッシュは消せよー。 牛たちが怖がるからなー」

「「はーい!!」」


 それなり広い牧場なので一周回るにも時間が掛かり、ちょっとした観光ツアーと言えよう。

 佐奈は千春と一緒に居られて満足、小学生たちも目新しい牧場の風景に満足しているようだ。

 彼女たちは後で話の種にするのか、携帯で牛舎の牛たちや牧場の設備を次々に撮影していた。


 そして一通り牧場の中を案内して戻ってきた千春を出迎えたのは、これまた予想外の人物であった。

 此処のスタッフが休憩時などに使用しているキッチンが設置された、ログハウス風のお洒落な家屋。

 幾つかある丸机の一つに座っている千春の小学生時代からの腐れ縁女は、美味しそうにアイスを頬張っていた。

 それは牧場を一周した後に振舞われる予定だった、牧場の自家製牛乳アイスである。

 どうやら使い魔と共に残っていた真美子が出した物のようで、隣に座っている彼女も同じ物を食べていた。


「あれ、朱美!? 何でお前が…」

「っ!? 朱美さん!?」

「うわっ、ラスボス登場」

「もしかして佐奈さんと同じ理由で? いやー、無いかなー」


 朱美の来訪を聞いていなかった千春たちは、それぞれに驚きの声を口に出した。

 そんな間抜け面を晒している千春をじろりと睨みつけた朱美は、食べ終えたアイスのカップをテーブルに置いてまくし立てる。


「あんたがメモリーの方に来ないからよ。 お陰でこっちが来る羽目になったじゃない、後で此処までの交通費を払いなさいよ」

「知るかよ、別に約束なんかしてないだろう…」

「休むなら休むって連絡しておきなさいよ。 全く、相変わらず"ホウレンソウ"が出来ない男ねー」

「勝手なことを…。 一体何しに来たんだ? 話なら電話でもいいだろうに…」


 その口ぶりから朱美は千春が喫茶店メモリーで仕事をしていると考えて、一度店の方に顔を出したらしい。

 恐らくそこで千春が今日は休みを取り、牧場の方に残ることを初めて聞いたのだろう。

 何時も足に使っている千春が居ないため、仕方なく公共機関とタクシーを使って此処まで来たと言う訳だ。

 千春は文明の利器に頼ることなく、わざわざ牧場まで訪れた朱美の行動を訝しむ。


「こっちの方で色々と動きがあったのよ。 その説明をしたかったのに、勝手な行動してくれちゃって…」

「偽渡りの件か!? お前が進めている作戦が上手くいったのか?」

「!? ガロロのクリスタルを奪った犯人が見付かったのですか?」

「まずは座りなさい。 色々と話したいことがあるから、少し落ち着きましょう。 美味しかったわよ、此処のアイス」


 よく考えれば分かる事だったが、今の朱美が千春の元に直接訪れる理由は一つだけだ。

 朱美は正体不明の偽渡りを見つけるための作戦を進めており、恐らくのその成果が出たのだろう。

 どうやら朱美の来訪の理由を聞かされてなかった真美子も、偽渡りの話を聞いてにわかに色めき立つ。

 動揺する千春や真美子を落ち着かせるために、朱美は未だに入り口付近から動かない千春たちへ席に着く様に進める。


「はぁー、とりあえずそこに座ってくれ。 アイスでも食いながらこいつの話を聞くぞ」

「は、はい」

「わーい、アイス、アイス」

「この牧場で絞った牛乳から作ったんだよね。 美味しそうー」

「あ、千春。 私の分もよろしく」

「お前はさっき食ってただろう!!」


 朱美の言う通り一度落ち着いた方がいいと判断した千春は、佐奈たちを座らせながら冷蔵庫の方に向かって行く。

 佐奈たちの分のアイスを取りに行った千春に向かって、朱美が図々しく自分の分も要求してくる。

 既にアイスを一個食べているので、朱美の発言が単なる冗談であるとは理解している。

 しかし苛ついてた千春は朱美のそんな冗談に対して、若干切れ気味の反応を見せるのだった。

 

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