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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
184/384

5-4.


 それは具体的な証拠は存在しない、状況証拠を繋ぎ合わせた憶測でしか無い。

 しかし物的証拠ゼロの千春の憶測に対して、朱美や魔法少女研究会の浅田も同意してくれた。

 どちらにしろ先の渡りのモルドンとの戦いに参加していた魔法少女たちは、次のターゲットにされる可能性は十分にあり得る。

 千春は新たな渡りの脅威を伝えると共に、自身の憶測に基づく情報を彼女たちに伝えることを決めた。

 渡りと偽渡り、この世界には少なくとも二体の渡りのモルドンが居ると言うとんでもない話を…。


「…と言う訳で、今回の犯人はこの前に戦った渡りとは別物だと思う。 証拠も無いただの推測なのは分かっているが、あの渡りのモルドンは異常過ぎる。

 どう考えても裏に人間…、魔法少女が絡んでいると思うんだ」

「「「………」」」


 千春の自宅が襲われた日から一晩経ち、その翌日に千春たちは喫茶店メモリーで魔法少女たちの会合を開いていた。

 何時かと同じくネットを通じてオンライン会議に集まった魔法少女たち、その中には新顔として1号・2号・3号呼びが定着してしまった魔法少女の姿もある。

 彼女たちは先ほど聞かされたガロロと千春の自宅を襲った一件と、その犯人と思われる推定偽渡りの情報を説明されていた。

 この手の話が得意な朱美や浅田のサポートもあったので、過不足なく必要な情報を伝えられたと思う。

 考えをまとめる時間が必要らしく彼女たちは一様に無言となっているが、その表情から千春たちの説明を受け入れている事は見て取れた。

 何も知らない一般人なら兎も角、モルドンと関りある魔法少女たちであれば、今回の犯人の異様さを嫌でも感じ取れる。

 そのモルドンらしからぬ人間臭さが見える事件を起こした犯人が、モルドンを偽装した使い魔であると説明された方が納得できたのだろう。


「…相手が偽物だろうと本物だろうとどうでもいいわ! 先輩のクリスタルを奪った奴は、私が絶対に倒してやるんだから!!」

「ジュニアちゃん…」

「渡りのモルドンと、ジュニアちゃんの先輩のクリスタル…。 確か後何人かのクリスタルも預かってたわよね、NIOHさん?」

「ああ。 呪いの鏡の奴と、ストーカー女の人形の奴とかな…。 まあ、先輩さんのクリスタルは兎も角、そっちは返す気はなかったから別にいいんだけど…」


 この場に集められた中で一番激昂している少女、後輩系魔法少女の"ジュニア"こと朋絵は今回の事件を引き起こした渡りに対して怒りを燃やす。

 あの推定偽渡りによって千春が保管していたクリスタルの欠片は全て奪われており、その中は彼女の愛する先輩魔法少女の"有情 慧"の物も含まれていたのだ。

 渡りのモルドンの黒いクリスタルと序に奪われたのだろうが、朋絵に取っては決して見過ごせる事では無かった。


「安心しろ…、あの渡りは絶対に倒すさ…。 ガロロのクリスタルを回収しないといけなし、俺のコレクションの恨みも晴らさないとな…」

「酷い有様だったもんね、あんたの部屋…」

「くっそぉぉぉ、俺の青春の思い出を全てぶち壊しやがってぇぇぇっ!!」


 朋絵の怒りに呼応するかのように、千春もまた現在の住居であるアパートを襲われた事に怒り狂う。

 千春がクリスタルを保管していると分かっていても、流石にそれが何処にあるかは分かっていなかったらしい。

 そのため千春のアパートに押し入った下手人は、その人外の力を使って室内を徹底的に破壊し尽くした。

 そして部屋の中には千春が学生時代にバイト代をやり繰りしながら集めていた、大事な特撮グッズも含まれていたのだ。

 当然ように犯人の荒っぽい探索の余波でそれらも全て壊されており、その惨状を見た千春は意識を失いかける程に衝撃を受けてしまう。

 ガロロの一件もあり、大事なコレクションを破壊した推定偽渡りに対する千春の敵意は急上昇していた。


「…本当災難よねー、結局アパートも追い出されたんでしょう? 流石に昨日は実家に帰ったの?」

「…店長に頼んで、この店に泊めて貰った。 新しい住処は…、その内見つけるよ」

「相変わらずお母様と不仲なのねー。 いい加減に和解でもしなさいよ、バカ春」

「五月蠅い! あんまり人の家庭の事情に口を挟むなよ、朱美」


 あの室内の惨状ではとても寝泊りは出来ず、それ以前に切れた大家さんからアパートを追い出された千春は絶賛家なき子の状況であった。

 普通であれば朱美の言う通り近くにある実家へ一時避難するのが筋だろうが、千春はわざわざ喫茶店メモリーで一晩を明かしたらしい。

 諸々の事情で母親と不仲である千春としては、出来るだけ実家には頼りたく無いようだ。

 小学生時代からの長い付き合いである朱美は、千春の家庭事情をある程度は把握しているらしい。

 その上で意地を張っているようにしか見えない千春対して、呆れたような顔つきを見せていた。


「あ、あの…、千春さんが言う偽物の渡りは私たちの所にも来るのでしょうか?」

「…正直分からないな。 相手は使い魔の天敵に成り得るガロロの排除して、"渡りのモルドン"を偽装するために必要だった渡りのクリスタルを手に入れた。

 本物の渡りのモルドンの動きを出来るだけトレースするなら、胸のクリスタルが修復するまで動かない筈だけど…」

「焦りすら感じさせる一連の動きを見る限り、相手が動きを止めるとは思えない。 多分、このまま渡りのモルドンの振りをして、何らかの動きを見せる筈よ。

 ガロロと千春のアパート、先の作戦に関わったメンバーを襲っている流れを続けるならば、佐奈ちゃんや他の魔法少女の所に現れる可能性は十分にあり得るわよねー」


 自分の知らない千春の家庭環境に踏み込む朱美にジェラシーを感じたかのか、二人の会話に割り込むように佐奈が質問を投げかける。

 本筋から外れてしまったが、会合の第一の目的は推定偽渡りの対策についてであろう。

 千春たちは特に不自然さを感じることなく話を戻して、今後の推定偽渡りの動きについて考えを巡らす。

 渡りのモルドンとして振る舞い続けるならば、佐奈を含む先の作戦に参加した魔法少女は決して安全とは言えないだろう。

 年末に魔法学部を襲って大量のクリスタルを奪った事から見ても、偽物の方もクリスタルを欲していることは分かっている。

 魔法少女たちを襲えば"渡り"らしさを強調する偽装にもなるし、クリスタルも手に入るので推定偽渡りにとっては一石二鳥なのだ。


「でも…、仮に私たちを狙ってくるとして、どうすればいいのよ? 普通のモルドンなら夜に出歩かなければいいけど、その偽物は昼にも動くし、NIOHやマジゴロウの自宅を直接襲ったんでしょう。

 私の家も知られているかも…」

「相手が偽物だろうと、本物と同じくらい強ければどっちにしろ同じよ!?」

「寝込みを襲われたどうするの、怖い…」


 モルドンが活動しない筈の日中に動き、自宅を直接襲撃する可能性がある推定偽渡りは脅威そのものと言っていい。

 今回の個体が魔法学部の時と同じ個体であるならば、その実力は本物の渡りのモルドンに近い物だ。

 一人の魔法少女ではとても太刀打ちできず、ガロロのように強襲されたらとても太刀打ちできないだろう。

 推定偽渡りの異様さと自身が狙われている恐怖を自覚した魔法少女たちの間に、予想通り不安が広がっていく。


「すまん、今は各自警戒してくれとしか言えない。 このお兄さんとお姉さんが何とかしてくれるらしいから…、それまで耐えてくれ」

「ふっ、相手がモルドンでは無く魔法少女…、人間相手ならやりようは幾らでもあるのよ。 見てなさい…、すぐに尻尾を掴んでやるわよ」

「我々、魔法少女研究会も力を貸します。 件の魔法少女の正体を掴んで見せますよ、ふふふふ…」


 考えれば考える程に厄介な相手であるが、その裏にまだ見ぬ魔法少女が居るのならば幾らでもやりようがある。

 相手が魔法少女であると推測したことで、朱美は魔法少女研究会と組んで何らかの策を実行するつもりらしい。

 ジャーナリスト志望であり情報通である朱美としては、むしろ人間相手の方が専門分野と言える。

 この状況を打破する方法が全く思い付かない千春は、不敵な笑みを浮かべる朱美たちに全てを託すしか道は無い。

 情報が洩れたらまずいとその作戦から締め出されている千春には、それが成功するまで出来るだけ警戒してくれと忠告することしか出来なかった。



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