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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
178/384

4-18.


 千春は地面に蹲る渡りのモルドンに止めを刺すため、ヴァジュラを構えながら慎重に近づいていく。

 その鎧は青色のUNの型に切り替わっており、強化された感覚によって渡りのモルドンの動きを観察していた。

 例の魔法学部の奴が偽物であるならば、今回の戦いは渡りのモルドンとの二度目の対面と言える。

 短い付き合いであるが、千春はこの異形のモルドンとの戦いがこのまますんなり終わるとは思えないらしい。

 バックアップとして佐奈も千春の背後で身構えており、何かあれば彼女も即座に対応してくれるだろう。

 他の使い魔たちも佐奈と同じように、千春の背後で相手の出方を窺っていた。


「…ヲヲっ!?」

「この光!? まずい!!」

「千春さん」

「○○!!」


 そして非常に残念なことであるが、千春の悪い予感が当たってしまった。

 突然淡い光に包まれる渡りのモルドンの体、そのエフェクトは何処か見覚えのある光景である。

 ゲームや漫画に毒された現代人なら必ず見たことがあるであろう、味方の回復や支援を行う時に使われる表現方法。

 一目でそれが渡りのモルドンを支援する効果であると判断した千春は、慌てて渡りのモルドンに向かって駆ける。

 千春に続いて佐奈や他の使い魔たちも、光る渡りのモルドンへ仕掛けようとしていた。


「なんて速さだ!? くっそっ!!」

「みて下さい、あいつの傷口が…、強化と回復効果!?」

「ヲヲヲ、ヲヲヲヲっ!!」


 しかし千春たちが辿り着くより早く、渡りのモルドンは胸部のダメージを感じさせない身のこなしでその場を離れていく。

 明らかに先ほどの逃走時より素早い動きに加えて、ブレイブによって作られた傷口が塞がっていく様子が見える。

 流石にクリスタルの破損までは修復できないようだが、強化の効果も相まって自由に動けるくらいには回復したようだ。

 まさしく渡りのモルドンを包み込んだ光は、ゲーム風に言えば回復呪文+強化呪文と言うべき効果の代物だったのだろう。

 こんな奥の手を残しているとは、流石は渡りのモルドンと言わざるを得ない。


 一足飛び千春との距離を開けた渡りのモルドンは、建設現場を囲う衝立を飛び越してそのまま逃げようとする。

 千春は慌ててヴァジュラで逃げる渡りの脚部を狙い撃ち、UNの型で強化された視覚などもあって見事に命中していた。

 しかし渡りのモルドンの支援は防御力上昇の効果もあるのか、足に命中した筈の雷撃は全く効果が無い様子だ。

 空から追う佐奈たちも今の渡りのモルドンには着いて行けず、どんどんと離れていってしまう。


「っ!? 駄目だ、追わなくていい。あれにはもう追い付けない…」

「□□!?」

「▽…、…」

「☆っ」

「。。。。! 。。。。。!?」

「そんな、あそこまで追い詰めて…」


 渡りのモルドンを相手にして優位に戦えた理由の一つは、事前に戦力を整えた事による数の差が大きい。

 しかし此処で考えなしに渡りのモルドンを追いかけてしまったら、下手すれば分断されてしまう可能性もある。

 千春とシロだけなら無理をしてでも追ったかもしれないが、その無謀に佐奈や他の使い魔たちを巻き込むわけにはいかない。

 まんまと獲物に逃がした千春たちは悔しそうに、夜の闇に消えて行った渡りのモルドンの姿を見ていた。


「相手が一枚上手だったんだろう、まさかあんな奥の手があったなんてな…。 しかし何故、このタイミングなんだ、出し惜しみか? それにしても…」


 自己を対象にした強化・回復などは良く見られる能力であり、ゲームなどを元ネタにした魔法少女が持っていてもおかしくない力だ。

 そんな魔法少女からクリスタルを取り込みことで、先ほどの回復・自己強化の力を入手していても不思議では無い。

 しかし千春は渡りのモルドンが、あの能力をこの瞬間まで隠していたことが解せない。

 今日の戦いであの能力を活用で出来る場面は幾らでもあり、そうすれば渡りのモルドンが此処まで追い詰められる事も無かった筈なのだ。

 加えてUNの型で強化された感覚を使って渡りのモルドンを観察していた千春は、奴がこの能力を発動する兆候を全く読めなかった。

 あの傷付いた状況でUNの型の監視を掻い潜って、あの強化・回復の能力を発動できるのだろうか。


「…ち、千春さん。 援軍が来ましたよ」

「え、そうか…、一歩遅かったなー。 あの子たちには、悪いことをしたかな…」

「…はーい、アヤリン華麗に登場ぉぉぉ!! さぁ、渡りのモルドンちゃんは何処かなー」

「マジカルレッド、推参っ! 渡りのモルドン、今日こそ貴様と因縁にケリを付けてくれる」

「見ててください、先輩ぃぃぃ!!」


 渡りのモルドンの動きを訝しむ千春であったが、その思考を邪魔するかのように建設現場に突入してくる複数の車両。

 その先頭を走っていたワゴン車から飛び出してきたのは、この日にために千春が集めた魔法少女たちである。

 彼らはやる気満々と言った様子で少し前まで戦場であった建設現場に降り立ち、獲物である渡りのモルドンの姿を探す。

 そんな彼女たちの姿を目の当たりにした千春は、出番ゼロで終わってしまった援軍たちに申し訳無さを感じていた。






 渡りのモルドンの逃走、その事実を知らされたアヤリンたちは当然のように阿鼻叫喚となった。

 しかし何時までも私有地である建設現場に居られないので、千春たちはそのまま移動することになる。

 戦闘の余波で建設現場はすっかり荒れており、恐らく整地の段階からやり直す羽目になるだろう。

 魔法少女やモルドンに関わる被害は何やかんやで有耶無耶になるので、恐らく今回もゲームマスター様が何とかしてくれるに違いない。


「…それで渡りのモルドンが逃げたと。 まあ詳しい内容は、NIOHさんの例の動画が上がれば分かるかな?」

「ちょっと詰めが甘くない? それでもヒーローなの!! ああ、私たちが間に合っていたらぁぁぁ!!」

「言い訳はしないさ…。 くっそぉぉ、また痛み分けかよ…」

「すみません、私の占いが外れなければ…」

「友香さんのせいでは無いですよ。 渡りのモルドンの動きには、変化が大きいことが分かっただけでも収穫です。

 次の機会に挽回しましょう」


 この日のためにわざわざ集めた魔法少女たちである、流石にこのまま解散では収まりが付かないだろう。

 とりあえず説明責任くらいは果たすため、千春たち一同は深夜営業しているファミレスへと集合していた。

 変身を解いた千春はファミレスのまずいアイスコーヒーを口に含みながら、敗北の味を噛み締めている様子だ。

 そんな千春に対してアヤリンや花音は不満をぶつけるが、千春は甘んじてそれを受け止めていた。


「私は収穫があったし、別にいいかなー。 ブレイブの性能も確かめられたし…」

「ブレイブには本当に助けられたよ、他の使い魔たちにもな…」

「シロちゃんたちには、後で何かご褒美をあげないといけませんね」


 ペットとの相席が認められていないファミレスに使い魔たちを入れられないので、彼らは駐車場の車内でお留守番だった。

 使い魔たちが寂しがらないようにとマジゴロウこと真美子氏が自主的に残ったので、あちらは特に心配は無いだろう。

 むしろマジゴロウとしては狭い車内で使い魔たちに囲まれている、天国のような状況で夢現となっているに違いない。


「やっぱり普通のモルドンとは全然違うわよねー」

「そうそう、プレッシャーとか本当に凄いわよ。 そう思うよね、伊智子? あ、ごめーん。 伊智子は渡りのモルドンを直接見たことが無かったわよね」

「付いているわよねー。 美湖なんて夢に見ちゃいそうなくらい怖かったもの、会わないのが正解よ」

「あんたたち…」


 結果的に最後まで千春たちの作戦に同行していた地元魔法少女たちは、地元から渡りのモルドンという脅威が消えた事を素直に喜んでいた。

 流石にあれだけ痛めつけられた渡りのモルドンがこの街に居座るとは思えず、少なくとも彼女たちの前に奴が現れることは無いだろう。

 しかし彼女たちの仲の悪さは相変わらずのようで、丹心と美湖は一人だけ渡りのモルドンと遭遇していない伊智子に大してさり気なくマウントを取っているようだ。

 白々しい話し方で渡りのモルドンと対面しなかった自分を褒める二人の少女に対して、伊智子の怒りが募っていく。


「はいはい、これで俺からの説明は終わりだ、もう遅いから今日はこれで解散するぞ。 連絡先は交換したから、何かあるなら直接連絡をくれ。 これから数時間ドライブが待ってるんだ、さっさと街から撤収するぞ。

 ああ、帰る前にこれも持って行ってくれ。 ささやかなお礼って所だな」

「…何これ?」

「ああ、これが噂の…」

「美湖、コーヒーより紅茶の方が好きなんだけどなー」

「バカ春ー、もう少しいい物を寄こしなさいよねー」

「おまえの分は無ぇよ!!」


 今日被害にあった魔法少女の意識が回復したことも、一緒に病院へ付き添っていた研究会メンバーから伝えられている。

 渡りのモルドン討伐と言う最終目標を果たせなかったが、千春たちの被害はほぼ無かったのでそれ程悪い結果では無かっただろう。

 新しい課題も見えてきたし、次があれば確実に渡りのモルドンを倒せるに違いない。

 こうして集められた魔法少女たちは、千春が持参してきた喫茶店メモリーの試供品コーヒーを手土産に帰途につくのだった。



渡りのモルドン戦はこれで決着ですが、話の方は後一話残っています。

明日か明後日あたりに投下できると思うのでよろしく。


では。

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