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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
177/384

4-17.


 一閃。

 千春たちと渡りのモルドンを遮る氷の盾が砕かれた瞬間、風切り音と共にそれは走った。

 突き出していたヴァジュラの刀身が何か弾かれ、その場から千春は体ごと吹き飛ばされてしまう。


「なっ!? くぅぅぅ!!」

「▽▽!?」

「☆!」


 足元に力を込めて地面に倒れ込むことを回避した千春は、すぐさま辺りを見回して何が起きたのかを確認する。

 周りには千春と同様に渡りのモルドンから弾かれたらしいスカイと、自分から後ろに下がった様子のガロロが居た。

 少し先ではガロロが先行させていた分身体が両断されており、分身たちはそのまま光となって消えていく。

 そして正面には忌々しい投げ網から脱出した渡りのモルドンが、怪しく光る長い尾をこちらに向けている姿があるでは無いか。

 よく見れば網の残骸は何か鋭利な物で切り裂かれたような状態になっており、スカイの咥えている剣にも刃こぼれが出来ていた。


「ヲヲヲッ!!」

「尻尾が剣になったのか!? そんな能力までもっているのかよ…」


 渡りのモルドンの長い尾が鋭い刃となり、急速な温度変化によって脆くなった網ごと千春たちを薙ぎ払ったらしい。

 斬撃付与とでもいうべきか、己の体を武器化する中々に厄介な能力である。

 千春とスカイは武器に、ガロロは分身体の方が命中したことで被害は無いが、一歩間違えた体ごと真っ二つにされていたに違いない。

 恐らく渡りのモルドンは千春たちが動かなくても、最終的に急速凍結により脆くなった網を尾で切り裂くつもりだったのだろう。

 千春たちがのこのこと近付いて来たため、タイミングを見計らって一網打尽を狙ったかもしれない。

 渡りのモルドンは怪しく光る尾を威嚇するように揺らしながら、千春たちの様子を伺っていた。


 二つのクリスタルを備えたことにより、渡りのモルドンは基本的なスペックだけでも通常のモルドンを超えている。

 この驚異的な身体能力に加えて、あの斬撃付与の能力があれば近接戦闘では鬼に金棒だろう。

 しかし今日の渡りのモルドンは千春たちに積極的に近づこうとせず、光弾を多用することでむしろ距離を置こうとしていた。

 あの氷の能力のように出し惜しみをしていただけかもしれないが、単に使う機会が無かったというのが正解のような気がする。

 過去に渡りのモルドンがクリスタルの片割れを破壊された原因は、どちらも不要に相手に近づいたことで起きた事故とも言えた。

 その反省から渡りは相手へ不用意に近づくのを止めたようで、この斬撃付与をお披露目する場面が無かったらしい。


「相変わらず多芸だな…、どうするか…」

「千春さん…」


 渡りのモルドンの新たな能力、鋭い刃と化した尾を突きつけられた千春たちは迂闊に動けない。

 下手にあの長い尾の射程範囲に足を踏み入れたら、容赦なくその刃は迫ってくるだろう。

 文字通り刃物を突きつけられた千春たちは、そのプレッシャーを前に身動きが取れずにいた。






 千春たちは渡りのモルドンの新たな能力を前にして、次の一手を出しあぐねていた。

 苦境から見事に脱した渡りのモルドンの力を前に見せつけられた千春は、自然に相手には他の切り札を残しているのではと考えてしまう。

 千春の指揮下にある使い魔たちも、指揮官の号令を待ちながら渡りのモルドンを睨みつけていた。

 一方の渡りのモルドンも先ほどの逃走を防いだ、佐奈の投げ網による奇襲が印象に残っているのだろう。

 ようやく戒めから脱したものの、千春たちの次の一手が気になる様子ですぐにこの場から離れようとしない。

 頭上から投げ網が余程に効いたのか、渡りのモルドンは不動のまま正面の千春たちと頭上へ交互に視線を動かしている。

 対峙する千春たちと渡りのモルドン、戦いの舞台となった建設現場で奇妙な硬直状態となっていた。

 そして次の瞬間、この状況を待ち望んでいた千春たちの切り札が動き出していた。


「。。。。!!」

「…ヲ!?」

「ヒュゥ! ジャックポット…、なんてな」


 それは一瞬の出来事であった。

 黒い塊が夜の建設現場を凄まじい速度で水平に駆け抜けて、背後から渡りのモルドンを貫いたのだ。

 千春たちの方に意識を割いていた渡りのモルドンは、背後から襲い掛かるそれに最後まで気付けなかった。

 気付いたときには渡りのモルドンの体を貫通して、胸部のクリスタルは破壊されていた。

 それを成した夜の建設現場に溶け込む黒い体色の怪鳥、使い魔ブレイブの活躍に千春は下手な口笛と共に賞賛の声をあげた。


 使い魔ブレイブ、渡りのモルドンとの決戦に向けて千春がかき集めた戦力の一つである。

 モルドンのクリスタルを喰らうことで成長する、ある意味で渡りのモルドンと同類と言ってもいい特異な使い魔。

 流石に渡りのモルドン程では無いが、既に普通の使い魔を超えた性能を備えている鳥型の使い魔への期待は大きかった。

 しかし千春たちと違い、使い魔ブレイブを生み出した魔法少女にしてゲーム実況者のTreeと渡りのモルドンの因縁はほぼ皆無である。

 今日のために千春がお願いする形で参戦することになった使い魔ブレイブは、代償として幾つかの条件を課せられていた。

 その一つが使い魔ブレイブの安全確保、その条件もあって千春たちは使い魔ブレイブの使い所を限定することにしたのだ。


「攻撃とスピードに特化している紙装甲のブレイブ、これを能力の種が割れていない渡りのモルドンと普通に戦わせると事故る可能性もあったからな…。 それなら切り札として、ギリギリまで隠しておいた方がいい。

 それにこの手の戦い方はこいつの十八番だ、少し心配だったけど上手いこと嵌ってくれたなー」

「ブレイブさんも此処に居たんですね、姿が見えなかったから合流して無いかと思いました…」

「渡りのモルドンの隙を窺うために、近くで潜んでいたんだよ。 カラーチェンジで風景と同化してな…」

「。。。!!」


 カラーチェンジ、ゲームのキャラクターのように体色を変える事が出来る使い魔ブレイブの能力の一つ。

 そういう用途で生み出された訳では無いので移動中は無理らしいが、静止状態であればブレイブはその応用で周囲の風景と擬態できる。

 ガロロが率いる使い魔たちが合流した時にブレイブも一緒に建設現場に来ていたのだが、この瞬間まで姿を隠していたのだ。

 戦いの最中で渡りのモルドンの感知能力が失われていることも解り、千春たちに集中していた渡りのモルドンは絶好の標的であった。

 その隙を逃すことなく使い魔ブレイブは、弾丸のように渡りのモルドンの背後から襲い掛かる。

 幾多のモルドンたちを瞬殺してきたブレイブの嘴は、渡りのモルドンの体ごとクリスタルを破壊したのだ。

 カラーチェンジによってデフォルトの赤色の鳥に戻ったブレイブは、千春の近くに居たシロの車体の上に乗る。

 今日の戦いで最大の戦果を上げたことが誇らしいのか、その姿は胸を張っているようにも見えた。


「○、○!!」

「□□」

「▽…、▽▽▽!!」

「☆☆、☆☆!!」

「。。。。!!」


 シロたち他の使い魔たちは、各々の奇妙な鳴き声と共にブレイブを褒め称えているようだ。

 同類である使い魔に賞賛されて悪い気がしないのか、ブレイブは赤い翼を大きく広げて勝利のポーズを決める。

 どうやら今日の戦いを通じて使い魔たちの間で友情が結ばれたらしく、マジゴロウ辺りがこれを見ていたら鼻血でも出していたかもしれない。

 互いの健闘を称え合う使い魔たちから視線を外した千春は、地面に崩れ落ちた渡りのモルドンの姿に注目する。


「…胸のクリスタルが本体の筈だが、まだ生きているのか? やっぱりクリスタルを両方破壊しないと駄目なのか?」

「ヲヲ…、ヲヲヲヲっ!?」


 地面には破壊されたクリスタルの欠片が散らばり、渡りのモルドンは胸に空いた大穴の方に手をやりながら苦しんでいる。

 しかしクリスタルを破壊された普通のモルドンたちとは異なり、その体が崩れ落ちる気配は全くない。

 恐らく口内に作られたクリスタルは、魔法少女のクリスタルを取り込み続けることによって誕生した第二の存在だ。

 渡りのモルドンが元々持っていたクリスタルは胸の方になる筈だが、生来のクリスタルを失っても代わりがあればモルドンは死なないらしい。


「しかし前と違って、胸に大穴を開けられたら流石に身動きは取れないだろう。 このまま引導を渡してやるよ…」

「ヲヲ、ヲヲヲ…」


 胸部が貫通された時点で、普通の生物なら死んでもおかしく無いほどの重傷を受けたのだ。

 クリスタルの片割れを失った反動もあって、渡りのモルドンは最早虫の息に近い有様であった。

 生への執着から千春たちから距離を取ろうと地面を這いずるが、そのスピードは蛞蝓のように鈍い。

 千春は渡りのモルドンとの決着をつけるため、ヴァジュラを携えながらゆっくりと近づいて行った。




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