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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
176/384

4-16.


 半年前に行われた最初の戦いにおいて、渡りのモルドンは二つあるクリスタルの片割れを破壊されるまで戦い続けた。

 それは千春たちの介入によって、マジカルレッドのクリスタルを喰い損ねた恨みもあったのだろう。

 食べ物の恨みは恐ろしいものであり、今回も渡りは楽しい食事を邪魔してきた千春を追って此処までやって来たのだ。

 しかし前回と今回の渡りのモルドンの状況を比べた所、決定的な差異が存在していた。


「ヲヲヲ…」

「…」

「○○…」

「□□…」

「▽▽…」

「☆☆…」


 建設現場の中央に陣取る渡りのモルドン、そしてそれを取り囲むように位置取る千春と魔法少女の使い魔たち。

 渡りのモルドンは忌々し気に、千春や使い魔たちの姿を見やる。

 二つのクリスタルを手に入れた影響か、この渡りのモルドンは明らかに普通のモルドンと逸脱した知性を持っていた。

 ゲームの敵キャラクターのように暴れまわるだけの有象無象のモルドンたちとは異なり、渡りは明確な目的を持って行動しているのだ。

 もしかしたらこの時の渡りのモルドンの脳裏には、かつて千春に口内のクリスタルを砕かれた時の記憶が蘇っていたのかもしれない。


「ヲヲ…、ヲッ!!」

「この程度…、っ!? こいつ、逃げる気か!?」

「□□!?」


 渡りのモルドンの立場からすれば、それは当然の選択であった。

 半年前の場合と異なり、この渡りのモルドンは既に魔法少女のクリスタルというご馳走を完食している。

 魔法少女のクリスタルを狙ってこの街まで渡ってきた蜥蜴型モルドンは、現時点でその目的を達成していると言えるだろう。

 食事の余韻を邪魔された事への怒りから千春を追ってきたが、今の渡りのモルドンには千春たちと戦う理由は存在しないのだ。

 戦っている内に怒りも冷めたらしい渡りのモルドンが選んだ選択は、この危険な建設現場からの逃走である。

 千春たちの目を晦ますために四方に放たれた光弾、その対処をしている千春の目に飛び込んできたのは建設現場から立ち去ろうとする渡りの姿であった。


 食事後の余韻を邪魔された程度では、命を懸ける程の恨みは抱かなかったのだろう。

 あっさりと千春たちへの報復を諦めたらしい渡りのモルドンは、一目散にこの危険地帯からの逃走を試みる。

 渡りのモルドンが選んだ逃走ルートは、低空をホバリングしていたリューが居た位置である。

 先ほど千春を救うために地上に降りてきたシロと千春たちと違い、未だに空中に位置取るリューの方面なら邪魔になる障害は存在しない。

 当然リューも黙って渡りを行かせる筈も無く、慌てて地上に降下しながらドラゴンブレスを放って迎撃を試みる。


「□□!!」

「ヲヲヲっ!!」

「待て、渡りぃぃ!!」


 先ほどの不意打ちとは違い、来ると分かっている攻撃に対処できない渡りのモルドンでは無い。

 空中に居る自身の足元を抜けようとする渡りに目掛けて放たれた火球は、空中に作り出された氷の盾に防がれてしまう。

 やはり氷は炎と相性が悪いらしく渡りのモルドンの盾は一瞬の内に溶けてしまった。

 しかしその一瞬の時間があれば、渡りのモルドンがリューの足元を抜けて建設現場を飛び出すには十分だったのだ。

 その予想外の行動に度肝を抜かれた千春たちは慌てて追おうとするが、既に渡りのモルドンの体は建設現場を抜けて道路に飛び出している。

 渡りのモルドンの凄まじい身体能力であれば、あっという間に夜の闇の中に消えてしまうだろう。


「…ヲっ? ヲヲっ!?」

「!? あれは…」

「…お待たせました、千春さん!!」


 しかし道路に出てきた瞬間、渡りのモルドンは体の自由を奪われてしまう。

 突然空から落ちてきた何かに体を絡め捕られた渡りは、動きを阻害されてその場で膝をつく。

 それは何時の間にか渡りのモルドンの頭上に居た少女が投下した、この日のために用意された特製の投げ網である。

 一体どんな素材で作られているのか、渡りのモルドンが幾ら力を込めてもその網が敗れることは無い。

 逆に渡りのモルドンが下手に動き回ったことで、ますます網が絡みついてしまい動きを封じられていく。

 そして千春たちの危機を救った女神が、夜空から地上に居る千春の元へと降りてくる。

 宇宙服風のボディースーツ衣装を身に纏い、アイマスクで顔を隠した魔法少女。

 魔法少女NASA、言葉通り夜空を跳んできた佐奈は千春に向かって自慢げに微笑んで見せた。






 渡りのモルドンに対抗するにあたって、千春たちは当然のように幾つかの策を用意していた。

 その一つがこの投げ網、魔法学部が何処から調達してきた秘密兵器である。

 魔法学部の連中の話が本当であれば、これは象でも捕獲できる優れものだという話だ。

 確かに普通の漁業用の網と比べたら明らかに重量があり、何かの特殊な素材で作られた投げ網なのは確かである。


「他の子たちももう少ししたら来ます。 私は跳べるので、一足先に合流しました」

「助かったよ、佐奈! 研究会特製の投げ網が役に立ったなー、よくこれを持ってきてくれた」

「い、いえ…。 何かの役に立つかと思って持って来たのですが、逃げる渡りを見て咄嗟に…」


 渡りのモルドンに対する千春たちのアドバンテージの一つに、空中戦を得意とする面子を揃えている事があった。

 前回の戦いにおいても空から襲い掛かるシロやリューを相手に、渡りのモルドンはそれなりに苦戦していた印象にある。

 渡りのモルドンが空を飛ぶ能力でも持たない限り、戦いにおける制空権は千春たちが握ったも同然だ。

 その優位を活かす方法の一つとして、投げ網投下による疑似的な空爆作戦が立てられていた。

 飛ぶことは出来ないが跳ぶことは出来る佐奈はこの投げ網を使う機会があるのではと考えて、わざわざこれを持って来てくれたらしい。

 結果的にそれは渡りのモルドンの逃走を防ぐ一手となり、流石はベテラン魔法少女の勘と言うべきだろうか。


 幾ら特製の投げ網であっても、渡りのモルドンを長時間捕まえておくことは出来ないだろう。

 実際に渡りのモルドンの周囲に冷気が立ち上がり、投げ網が丸ごと氷漬けになっていくでは無いか。

 研究会自慢の網は強度的には十分であろうが、流石に急激な温度変化にまで耐えられるとは思えない。

 渡りのモルドンがあの戒めから脱出する前に、此処で勝負を付けてしまうべきだ。


「あいつの口元に目掛けて一斉攻撃、あの大口ごとクリスタルを破壊してやるぞ!!」

「○○!!」

「□□!!」

「▽▽!!」

「☆☆!!」


 今日のために集められた他の魔法少女たちには悪いが、この場に居るメンバーで決着を付ける。

 千春の号令と共に、使い魔たちは未だに網に拘束されている渡りのモルドンの口元を狙える位置へと移動する。

 網の中で蹲る渡りのモルドンは、急所である胸元を隠すようにうつ伏せに近い状態になっていた。

 あれでは胸元のクリスタルは狙えないので、口の中に隠されている方のクリスタルに狙いを絞る。


「やれぇぇぇぇっ!!」

「「「「!!!!」」」」

「ヲヲ、ヲヲヲッッッ!!」


 リューのドラゴンブレスとシロの羽の弾丸が、渡りのモルドンの口元に向かって放たれる。

 渡りのモルドンは先ほど同様に自身を守る氷柱を作り出し、その第一陣の攻撃を凌ぎきった。

 しかし罅割れになった氷柱に向かって、千春とガロロとスカイが間髪淹れずに追撃する。

 彼らの一斉攻撃をまともに受けたら、氷柱を突き破ってその刃が渡りのモルドンに届くことは確実であろう。

 絶体絶命の状況に置かれた渡りのモルドンは、投げ網の中で明らかに焦ったような声を漏らしていた。


次の更新は土曜ですね。

多分土日の更新で、渡りのモルドンとの戦いは終わらせられると思います。


では。

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