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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
174/384

4-14.


 マスクドナイトNIOH、シロ、リュー、マジカルレッド。

 以前の戦いでマスクドナイトNIOHこと千春は、魔法少女四人分の戦力で渡りのモルドンと戦った。

 結果だけ見ればギリギリ判定勝ちと言えるかもしれないが、それは千春たちの奇策が通じたからに過ぎない。

 千春たちは最後まで渡りのモルドンに翻弄されていたと言ってよく、あの戦いで全滅させられていた展開も十分にあり得た。

 あの戦いから半年もの月日が流れ、様々な経験を積んできた千春はあの時より自分は強くなっていると自負している。

 しかしそれを差し引いても千春と渡りとの戦力差は未だに隔絶しており、現状での千春の勝機は皆無と言っていい。


「くそっ、厄介だな!!

「ヲヲヲ!!」


 渡りのモルドンから放たれる光弾をヴァジュラの刃で迎撃しながら、千春は相手に向かって近づこうとする。

 そんな千春を嘲笑うかのように渡りの周囲には次々に光が生み出されて、迫り来る相手を拒絶していた。

 渡りのモルドンの光弾は一度放った後はコントロールが利かないようで、不用意に動かなければ命中する弾だけを捌くだけでいい。

 しかし光弾を弾いた時のヴァジュラの手応えは非常に重く、恐らくAHの型の防御力を持っても何度も受けられない威力を秘めているようだ。

 絶え間なく放たれる光弾の圧力を前に千春の前進は遮られ、渡りのモルドンへ近づく事すらままならない。

 仕方なく千春は渡りのモルドンから距離を置いて、ヴァジュラを銃形態にして牽制射撃を行う。


「シロ、援護だけでいいぞ!!」

「○っ!!」


 何時もの千春であればAHの型の防御力を頼みに、被弾覚悟で光弾を放つ渡りのモルドンに向かって突っ込んでいいただろう。

 しかし相手との戦力差をはっきりと認識している今の千春は、リスクを極力避けるような戦い方をしていた。

 必要以上に深追いはせず、相手を倒す事より自分が傷つかないことを優先した消極的な戦い方。

 シロも同じように空か機械羽による援護射撃のみを行い、渡りのモルドンから一定の距離を保つようにしている。

 そんな安全策があの渡りに通じる筈も無く、その漆黒の体には未だに傷一つ無かった。


 先ほどまでの千春の意気込みが嘘のような消極的な戦い方であるが、これには幾つかの理由が存在した。

 一つは単純な戦力差、千春とシロだけでは例え特攻を仕掛けても渡りのモルドンには通じないことは分かっている。

 一つは様子見、先ほどの光弾のように渡りの能力はまだ未知数であり、出来れば相手の手札をもう少し把握しておきた。

 そして最大の理由は時間稼ぎ、援軍の当てがある千春は此処でリスクを負う必要が無かったのである。


「□□!」

「ヲヲっ!!」

「来たかっ、リュー!!」


 渡りのモルドンが光弾を放ち終えて、次の弾幕を作成するまでの僅かな隙間時間にそれは行われた。

 千春と対峙している渡りのモルドンはそれが命中の瞬間まで、背後から放たれた火球の存在に気付けなかった。

 ドラゴンブレス、それを放ったのは既に戦闘モードなっている巨大なドラゴン、使い魔のリューである。

 何時の間にか来ていた頼れる援軍の登場を前にして、千春はNIOHのマスクの下で笑みを浮かべていた。

 耐久力も普通のモルドンとはかけ離れている渡りのモルドンが相手では、あの程度の攻撃では致命傷には程遠いだろう。

 しかし背後から奇襲を受けた渡りはその衝撃で体勢を崩してしまい、地面に倒れ込みそうになってしまう。


「▽▽▽!!」

「☆☆っ!!」

「ガロロ、スカイ!! 俺たちも行くぞ!!」

「○○!!」


 リューのドラゴンブレスに合わせて、地を這い駆ける、空より急襲する新たな影。

 戦闘モードとなった巨大な狼たちの群れ、使い魔のガロロが能力によって生み出された分身と共に突っ込んできていた。

 戦闘モードとなった翼を広げた犬、使い魔スカイが口元に咥えた剣を構えたまま急降下してきた。

 渡りのモルドン探索のために分かれていた千春のチームメンバー、魔法少女の使い魔たちが合流したのだ。

 今の渡りのモルドンにはあの厄介な光弾は無く、今なら容易に相手へと接近できる。

 これは好機であると判断した千春は、彼らに同調してシロと共に渡りのモルドンの元へ向かっていった。


 千春は本来、この使い魔たちと共に渡りのモルドンと戦うつもりであった。

 しかし渡りのモルドンの出現位置が変わり、それに追われている魔法少女の存在によってその予定は狂ってしまう。

 渡りのモルドン探索のために分散していた使い魔たちを集めたのは、何を隠そう使い魔ガロロである。

 千春が渡りのモルドンを発見した時点で、ガロロは周囲にばらけていた他の使い魔たちを集める役割を任されていたのだ。

 ガロロには使い魔の匂いを嗅ぎ分ける、ウィッチのモルドン占いの使い魔版と言うべき能力を備えている。

 加えてガロロは自身の分身を生み出す能力もあり、分散していた使い魔たちを集めるのには打ってつけの存在であろう。


「▽▽、▽▽!!」

「☆…」

「□、□□!」


 使い魔たちと合流したガロロは、同じように変わり種であるが使い魔の一種であるシロの匂いを辿って建設現場までやって来たようだ。

 そして千春たちが渡りのモルドンと戦闘中であることを確認した彼らは、即座に奇襲を選択したらしい。

 リューのドラゴンブレスによる援護射撃、それに合わせてガロロとスカイによる急襲。

 使い魔たちの動きを把握した千春もその連携に加わり、接近した千春はヴァジュラの刃を振り下ろし、シロも空中から羽の弾丸を放つ。

 マスクドナイトNIOHと使い魔たちの一斉攻撃が、渡りのモルドンに向かって放たれた。






 本当に嫌になるが、千春は自分たちの一斉攻撃がこの渡りのモルドンに通じないことを半ば確信していた。

 こいつはモルドンの癖に頭が良く、出来るだけ自分の切り札を隠そうとする癖がある。

 そして渡りのモルドンの手札があの光弾だけである筈も無く、この苦境を脱する切り札を隠し持っている筈なのだ。

 ワンチャンスを狙って使い魔たちの動きに合わせて見たが、千春は手元に伝わるヴァジュラの手応えから失敗を確信していた。


「…それがお前の新しい能力か、渡りぃぃ!!」

「ヲヲヲっ!!」


 千春の目の前には、渡りのモルドンとヴァジュラの刃を遮る分厚い壁が存在していた。

 以前に渡りが使っていた半透明の障壁では無く、それは確かな存在感と冷気を千春に伝える。

 どうやら渡りのモルドンは、何処かに居る氷を操る魔法少女のクリスタルを喰らっていたらしい。

 恐らく空気中の水分を凍らせるか何かの魔法少女特有のトンデモ理論で、一瞬の内にこの氷柱を作り出したようだ。

 よく見れば正面だけでなく渡りの四方を覆うように氷柱が伸びており、それが千春たちの攻撃を全て防いでいた。


「しかし前の障壁ほど固くは無いな! こんな氷なんかで俺のヴァジュラを…」

「ヲヲヲッ!!」

「▽▽▽!!」

「☆☆、☆☆!!!」


 千春の言う通り目の前に出来上がった氷柱はヴァジュラの刃を完全に抑えられておらず、既に罅割れの状態になっていた。

 既に氷に刃先が半ばまで入っており、もう少し力を入れたらこの即席の盾は粉々に砕けてしまうだろう。

 どうやらこの氷の盾は、あの厄介だった障壁の代用品でしか無いらしい。

 純粋に身を守るための盾として作り出された障壁と、あくまで氷を生み出す能力を流用して作り出した盾との差は大きいようだ。

 千春はこのまま氷柱ごと渡りのモルドンを両断しようと、ヴァジュラの柄を強く握りしめた。


 渡りのモルドンが生み出した氷の壁は、千春たちの初撃は辛うじて防いだようだ。

 しかし千春以外の使い魔たちの眼前に生み出された氷の盾も、どれも既に罅割れになって崩壊寸前である。

 使い魔たちは千春と同じように、この氷の壁を力尽くで突破しようとしていた。


「なっ、体が…。 くっ、渡りのモルドンから離れろ!!」

「▽▽!?」

「☆☆!?」

「くそっ、これが氷の能力のメリットかよ…」


 千春は自身の動きが遮られる冷たい感覚を覚えて、咄嗟に他の使い魔たちに警告しながら渡りのモルドンから飛び退く。

 見ればその体は渡りのモルドンに近い箇所ほど凍っており、特に先ほどまでヴァジュラで切りかかっていた手元は完全に氷に覆われていた。

 周りを見渡せば同じように渡りのモルドンと接近していたガロロとスカイの体も凍っており、地面に転がって無理やりそれを落とそうとしていた。

 よく考えて見たら当然の話であるが、氷を操る能力を盾としか使わないのは馬鹿げている。

 以前の障壁の能力と違って、あの氷は盾だけでなく千春たちを害する剣にもなりうるのだ。

 千春は体を覆う氷を力尽くで剥がしながら、新たな渡りのモルドンの力にどう立ち向かうかを考えていた。


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