4-13.
漫画的にアレンジされた派手な柄の袴衣装、そして腰に差した大振りの刀。
地元魔法少女である美湖は、侍を題材にしたとある漫画作品のキャラクターを参考にして能力を構築していた。
偶然にも美湖を含むこの辺りの魔法少女たちの力は、全てこの侍漫画を元ネタにしている。
この元ネタの被りが彼女たちの仲の悪さの原因の一つであるが、その能力が完全に一致しているかと言われたらそうでは無い。
漫画には様々な登場人物が活躍しており、流石に一押しキャラまでは被らなかったようだ。
例えば以前に渡りのモルドンに追い回された丹心は、劇中で未来視染みた勘を駆使して戦う侍がお気に入りらしい。
丹心はそのキャラクターの衣装を能力をほぼ丸パクリしており、詳しい人ならば一目で彼女の能力の元ネタを察するだろう。
「も、もういいわよね…?」
袋小路となっている狭い道路から渡りのモルドンが居なくなってから数分後、同じ場所から袴姿の少女が顔を出していた。
彼女の背には渡りのモルドンにクリスタルを喰われた元魔法少女おり、ノックアウトの影響で未だに気絶した状況である。
偏見かもしれないがこの手の少年向けバトル漫画、特に侍を題材にした類の作品には必ず一人は居るであろうキャラクター。
目にも止まらぬ居合で敵を両断する、神速の刀使い。
それが美湖の魔法少女としての能力のネタ元であり、彼女は瞬間的にそのキャラクターのような高速移動を可能としていた。
この能力を駆使して渡りのモルドンと入れ替わる様に袋小路へ入った美湖は、無事に被害に遭った魔法少女を回収できたようだ。
「大丈夫そうね…。 これからどうしよう、病院に連れて行けばいいのかしら…」
「お、おい…。 大丈夫か、生きているよな」
渡りのモルドンの姿が居ないか辺りを見回すが、周囲にはそれらしい気配は全くない。
どうやら千春は事前の打ち合わせ通り、上手く渡りのモルドンを他の場所に引き付けてくれたらしい。
とりあえず自身の安全は確認できた美湖は、その後の行動について悩み始まる。
緊急事態という事もあって、千春とはこの元魔法少女を助けるまでの段取りしか話していなかった。
助けた後の行動にについては特に指示されておらず、未だに意識が戻らない被害者を抱えた美湖は困惑していた。
そんな美湖に声を掛けてきたのは、千春たちに渡りのモルドンの情報を伝えたあの若い男である。
どうやら事の顛末が気になった男は、近くで身を潜めながら成り行きを見守っていたらしい。
「あら、さっきの…。 丁度いいわ、悪いけどこの子をお願いね」
「えっ、ちょっと待ってくれ」
「これからどうしよう…、とりあえず連絡よね…。
あ、一ご…、じゃなくて伊智子! うん、美湖の方は大丈夫。 実はこっちで…」
これ幸いと被害者の面倒を押し付けた美湖は、携帯で今夜の作戦における別チームに同行している伊智子へと連絡する。
いきなり気絶した少女を渡された男は見るからに動揺しているが、それを意図的に無視しながら電話で現状報告を行う。
美湖のチームの指揮官である千春が居なくなったので、もう一方のチームに指示を求めるのは自然な流れと言えよう。
「…そうそう。 それで結局、あの魔法少女は渡りにやられちゃったの。 それでNIOHがあいつを引き付けている間に、美湖がノックアウトしているあの子を助けたのよ。 もう作戦も何もないわよねー、今日の所はこれで解散でもいいんじゃない?」
え、…NIOHと渡りが何処に行ったか? ねぇ、渡りのモルドンが何処に行ったか見てた?」
「ああ、あの化け物だよな。 バイクに乗った兄ちゃんを追って、あっちの方まで行ったぞ」
「オッケー。 いい、NIOHと渡りは…」
男から渡りのモルドンと千春が向かった方向を確認した美湖は、その情報をあちらのチームに伝える。
対渡りのために準備してきた今夜の作戦は、当初の予定とは大きく異なる展開を見せていた。
数の差で攻める筈が結果的に彼女たち分断されてしまい、千春と渡りのモルドンの現在の居場所も把握できない。
加えてクリスタルを奪われた魔法少女の犠牲者も出てしまい、状況は最悪と言っていいだろう。
成り行きで今夜の戦いに参加しただけのモチベーションが低い美湖は、もう諦めた方がいいのではと考えていた。
美湖が密かに渡りのモルドン討伐を諦めていた頃、千春の方は未だに闘志を燃やしていた。
彼の脳裏には地面に倒れている魔法少女の犠牲者の姿が焼き付いており、それが渡りのモルドンに対する敵意を強くしている。
大きな口と長い尾を持つ二足歩行の蜥蜴と言うべき、街を渡り歩く異形の蜥蜴型モルドン。
渡りのモルドンの被害者をこれ以上出さないためには、あれを今夜討伐するしか道は無い。
「おら、こっちだぞ!!」
「ヲヲ!!」
相手の注意をこちらに引き付けるため、背後から追ってくる渡りのモルドンに向かってヴァジュラを放つ。
ゆっくり狙っている余裕は無く射撃精度は今一であるが、目的は相手への挑発行為なので今はそれで十分だ。
一瞬足を止めて銃撃を行い、再びバイクに乗って距離を取る。
その繰り返しを何回か行うことで、千春たちは出発点からそれなりに距離を稼げた。
「ヲヲヲ、ヲヲヲヲヲヲ!!」
「光弾!? こんな能力もあるのか!? くぅぅぅ…」
「○○!!」
しかし流石の渡りのモルドンも、この単調な追いかけっこに業を煮やしたらしい。
再びヴァジュラを放つために足を止めた千春に向かって、渡りのモルドンが繰り出したのは十数のエネルギー弾であった。
それは千春が見たことの無い渡り能力であり、一瞬驚いた千春はすぐさまバイクを走らせて回避を試みる。
勢いが衰える事なく直進してくる光弾を回避するため、千春は急旋回して道路脇の建設現場へと逃げ込んだ。
「ヲヲヲヲヲ!!」
「…まあこれだけ離れれば大丈夫だろう。 さて、第二ラウンドといこうか!!」
「○○○!!」
目標を失った光弾がそのまま道路を直進していくが、渡りのモルドンはそうならない。
千春に続いて渡りのモルドンが建設現場に飛び込み、再びその周囲にあの光弾を浮かび上がらせる。
あの光弾を出されたらこれ以上の追いかけっこは難しいだろうが、美湖があの少女を助けるだけの時間と距離は作れた。
偶然入り込んだ建設現場であるが、まだ地ならしの段階のようで邪魔になりそうな障害物は殆ど無い。
それなりの広さもあるようなので、此処なら思い切り戦えるだろう。
バイクから降りた千春はヴァジュラの両刃を展開して構え、シロは相手を威嚇するように機械翼を広げる。
対する渡りのモルドンはこちらを挑発するように大口を開き、以前に千春たち破壊した筈の口内のクリスタルを露にしていた。
渡りのモルドンの胸部で光る一つ目のクリスタル、そして魔法少女のクリスタルを喰らうことで生み出された口内で光る二つ目のクリスタル。
二人のクリスタルを備えた渡りのモルドンが周囲に展開した光弾を放ち、千春たちはそれを迎え撃った。
余り時間が取れず、結局土日更新となりました…。
とりあえず明日も更新するので、続き期待しておいて下さい。
では。




