表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
171/384

4-11.


 その少女は無名の魔法少女であった。

 街の平和を守りたいなどと言う崇高な目的も無く、たまたま魔法少女の力を手に入れただけの女子中学生。

 魔法少女という特別な存在となった少女は、嫌々ながら街に現れるモルドンと戦うようになった。

 当然のようにその理由は正義に目覚めなどでは無く、単に自らの保身からくる行動である。

 世間の噂に敏感である女子中学生は、魔法少女の役目を放棄した者の顛末を知っていたからだ。


「ぅぅ、怖い。 でも魔法少女になったことを友達に話しちゃったからなー。 秘密にしておけば、こんな苦労することは無かったのにぃぃぃ」

「■■■■っ!!」


 最初の頃は戦いとモルドンへの恐怖から何時もギリギリだったが、幾多の勝利を重ねることで段々とモルドン退治にも慣れてきた。

 世間で言われている通り、魔法少女の能力はモルドンと上回っている事実を身をもって実感できたのが大きいのだろう。

 そして傍から見たら魔法少女として模範的な活動をする少女を、彼女の友人や街の人たちは口々に褒め称えた。


花梨(かりん)ちゃん、昨日も大活躍だったねー」

「お父さんも言っていたよ。 花梨ちゃんは街の英雄だって!!」

「へへへ…、そんな…。 任せて、この街の平和はこの花梨ちゃんが守るから!!」


 さしたる特技も無く容姿も平凡である少女は、これだけ世間から注目されるのは人生で初めての事であった。

 普通であれば決して主役になれる筈でない普通の少女が、ある日を境に街一番の有名人になったのだ。

 少女は自分が特別な存在となった事を自覚し、その特別な立場に酔いしれる。

 今までの灰色の人生は間違いだった、自分の本当の人生はこれから始まるのだと少女とは舞い上がっていた。


 魔法少女という特別な存在となった少女は、更なる高みを目指すために始めたのは魔法少女専門動画サイト"マジマジ"である。

 街の守護者という狭い世界を超えて、彼女は自分が特別であることを世間に知らしめたかったらしい。


「なんでよ、私は魔法少女なのよ! 私は特別になったのに…」


 他の魔法少女と同じように自己顕示欲を満たすために始めた彼女のマジマジの活動は、残念ながら全く芽が出なかった。

 彼女の立ち上げたチャンネルを登録してくれるファンは僅かであり、ランキング入りなど夢のまた夢。

 狭い街の中では彼女の魔法少女と言うステータスは極めて有効であったが、マジマジの世界ではそれは前提条件でしか無い。

 そして残念ながら少女には、魔法少女と言うステータス以外に勝負できる手筈は皆無であった。

 しかし少女はその事実を認められず、自分が特別であることに固執していく。


「…渡りのモルドンってあの危ない奴よね、またNIOHと戦うんだ。 …そんなに遠くない、これなら今から向かえば間に合うかも」


 ネット上に拡散していたマスクドナイトNIOHと渡りのモルドンとの決戦、その情報を少女は偶然にも拾ってしまう。

 マスクドナイトNIOH、瞬く間にマジマジにランキング入りした世界初の男性ヒーロー。

 それはランキング入りとは全く縁の無い、零細チャンネルを運営する少女に取っては眩しい存在であった。

 そのヒーローが少女の住まいからそう遠くない場所で、あの渡りのモルドンと戦うと言うのだ。


「そうよ…。 私がマジマジで埋没しているのは、ただただ切っ掛けが無いからだけよ。

 みんな私のことを知ってくれれば、きっと私もNIOHみたいに…」


 平凡であった少女は、魔法少女の力を得たことで特別な存在になった。

 もう昔の自分には戻りたくない、自分はもっともっと周りの人たちから賞賛される特別になるのだ。

 マスクドナイトNIOHと渡りのモルドンと言うビックネームに近づけば、自分の存在を世間に知って貰えるかもしれない。

 そんな都合の良い思惑を胸に秘めて、自己顕示欲に支配された魔法少女は渡りのモルドンが潜む街へと向かうことを決意する。

 それがどれだけ危険な行為であるかは、今の視野狭窄となっている少女は全く気付く事は無かった。


 渡りのモルドンの潜む街に現れた一人の魔法少女、花梨はその時非常に焦っていた。

 今夜の戦いの情報を知った少女は慌てて支度をして、急いで地元の駅まで向かった。

 そして電車を乗り継いで目的地から最寄りの駅まで辿り着いた時は、既に予告された時刻までの猶予が殆ど残って無かったのだ。

 今から普通に目的地へ向かったら、下手をすれば移動中に渡りのモルドンとの戦いが終わってしまう。

 それでは此処まで来た苦労は報われず、花梨は一刻も早く目的地へまで辿り着かなければならない。


「なんだ!? はやっ!!」

「うわっ、魔法少女!!」

「早く、早く行かないと…。 NIOHが居る場所は…、こっちね!!」


 焦りに焦った花梨が選んだ手段は、平凡な自身を特別な存在としてくれた力に頼ることだった。

 その場で魔法少女の衣装を身に纏った花梨は、強化された身体能力を駆使して駅から飛び出す。

 見知らぬ街中を携帯の地図を頼りに、普通の人間では出せない速度で目的の場所まで駆けていく。

 胸元で光るペンダント、魔法少女の力の源であるクリスタルを見せびらかしながら…。






 モルドン。

 魔法少女という存在を引き立たせるために生み出されたとしか思えない、都合の良い敵役。

 ランダムに夜の街へと現れて、魔法少女に倒されるまでただただ暴れまわるだけの傍迷惑な存在である。

 その在り方は生物と言うより、プログラムされた行動を繰り返すだけのテレビゲームの敵キャラクターの方が近い。

 戦闘中に相手の動きを見て対処している所から見て、モルドンには一定の思考ルーチンが設けられていることは確かだ。

 しかしそれは受け身の行動でしか無く、普通のモルドンが破壊以外の目的で自発的に行動することは無い。


「おい、あれって…」

「うわっ、またモルドンかよ」

「なっ、渡り! どうして此処に…、情報と違うぞ!?」

「と、とりあえず撮っておこう」


 モルドンの出現位置や時刻を導き出す友香の占いは、恐らくモルドンの出現パターンを推測した結果なのだろう。

 魔法少女とモルドンは能力の優劣はあるものの、元を辿れば同じ存在に行き着く。

 その在り方からゲームマスターとも呼ばれる謎多き超常者の手によって、魔法少女はその力を与えられ、街にモルドンが放たれた。

 ゲームの雑魚キャラのように、ゲームマスターから定められた通りに動くモルドン。

 もしかしたら友香の占いはゲームマスターに与えられた力を使って、モルドンに組み込まれたプログラムの一部を解析して導き出された結果なのかもしれない。


 渡りのモルドン。

 魔法少女たちの都合の良い敵役の立場を脱して、彼女たちの天敵となった異端の存在。

 幾多の魔法少女たちのクリスタルを喰らい、成長した渡りのモルドンはその行動までも普通のモルドンから逸脱していた。

 魔法少女のクリスタルがそれほど美味しいのか、その名の通り街を渡りながら次々に魔法少女へと襲い掛かる。

 渡りのモルドンの何よりの目的はクリスタルであり、モルドンの本来の役目である破壊活動は二の次になっていた。


「ああぁ、何でよぉぉぉ! 誰か、助けてぇぇぇっ!!」

「ヲヲヲヲヲヲ!!」


 数時間前にSNSへと投稿されて、ネット上で拡散された今夜のモルドンの出現予測情報。

 それを見た愚かな人間たちは自分だけは安全だと言う根拠のない自信と共に、モルドンの出現を予告された場所へと集まってきた。

 その愚か者たちの中にはただの人間だけでなく、千春たちと同じ魔法少女の力を持った少女の姿もあった。

 渡りのモルドンが求めて止まないクリスタルを持った餌が、渡りのモルドンの潜む危険な街に自分から現れたのだ。

 そして明らかに当初のプログラムから逸脱した動きを見せるそれが、格好の獲物を見逃す筈が無い。

 恐らくこの街に彼女が現れなければ、渡りのモルドンは予定通り千春たちの前に現れていただろう。

 しかし友香の占いは愚かな魔法少女の出現によって外れてしまい、渡りのモルドンは何時かの夜のように獲物を追い駆けるのだった。


ひょろ 様

レビューの方に返信出来ないので、この後書きでお礼を言わせて貰います。

拙作、「俺はマスクドナイト」にレビューを頂き、本当にありがとうございました。

これを励みにして、今後も地道に作品を続けて行こうと思います。


では。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 一気に読んじゃいました 非常に面白かったです! [気になる点] リソースの話になるんですが  NIOHのようにフォームを分けることはリソースの節約になるんでしょうか?  例えばAHとUNの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ