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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
170/384

4-10.


 か細い明かりが照らしている薄暗い道路上で、微かに痙攣する黒い塊が徐々に崩れていく。

 その体は魔法少女たちの弾幕によって粉々になっており、元がどんな型のモルドンだったかも把握できない程だ。

 この惨状を引き起こした住宅街には似合わない派手な衣装を纏う魔法彼女たちは、勝利を確信したようで構えていた武器を降ろしていく。


「よし、大勝利ーー!!」

「あー、こっちは外れだったみたいね。 またNIOHさんに美味しい所を持ってかれちゃうなー」

「見ててくれましたかー、先輩ぃぃぃっ!!」

「…うわっ、瞬殺」

「何かモルドンが可哀そうでしたね…」

「いいぞー、アヤリン!!」


 暗闇の中から姿を見せたモルドン、そのシルエットは明らかに蜥蜴型とは異なる物であった。

 相手が渡りのモルドンでは無いと分かった瞬間、この場に居た魔法少女の一部が容赦なく銃撃を開始したのだ。

 仮に相手が一人であればモルドンも勝てないにしても、もう少しは戦いの形にはなっただろう。

 しかしこの場には対渡りのために集められた魔法少女が何人もいた、ただのモルドンが彼女たちを相手に僅かな抵抗も出来る筈が無い。

 その余りの惨状に一部の魔法少女は若干引き、千春たちの所と同様に集まっていた野次馬たちは呑気な歓声をあげていた。


「こっちが外れなら…、千春さんの所はどうですか? もう渡りは現れたのでしょうか」

「ちょっと待ってください。 今連絡を…。

 うわっ、怒鳴らいで下さいよ。 …はい、こっちは普通のモルドンが現れて既に撃退です。 そっちは…。

 えっ、何もでない!? 渡りどころか通常のモルドンもですか…。 一体どうして…」


 予定通り二面作戦の片割れである彼女たちの前には、不運な通常のモルドンが現れた。

 それならば千春と使い魔たちが受け持つもう一方には、渡りのモルドンが現れる筈なのだ。

 相手がこちらが予想した渡りでは無かったにしても、少なくとも何らかのモルドンは現れるべきだった。

 しかしどういう訳か、予定された時刻を過ぎても千春たちの元にはモルドンが現れないらしい。


「えっ…、千春さんの所にモルドンが現れない? ど、どういうこと? 私の占いだと確かに…」

「友香さん、落ち着いて…。 誰にだって失敗は…」

「数か月後の未来とかなら別ですが、数日程度の先の占いは外したことが無いんです! あり得ない、どうして私の力が…」


 その現実に一番驚かされたのは、今日のモルドンの出現を占ったウィッチこと友香だろう。

 魔法少女は決して万能では無くある日理由も無く授けられた力、その限られたリソースの範囲で構築した能力しか使えない。

 しかしその力は魔法少女では無い普通の人間から見れば、まさに神の如き人外の力である。

 友香がモルドン退治の効率化のためにリソースの一部を割いて構築した、モルドンの出現時刻・場所を占う能力。

 この占いも完全な未来予知と言う訳では無く、先の未来になる程にその精度は落ちていく。

 逆を言えば近い未来なら正確な結果を導き出し、本人の言う通り数日くらいの未来であればは完璧にモルドンの出現時刻・場所を予測できたのだ。

 佐奈は動揺する友人を落ち着かせようとするが、予想外の事態に直面した友香は混乱する一方であった。


「うーん、今まで百発百中だったのに、今夜だけ外れるってのはおかしいわよねー。 ウィッチちゃん、試しにもう一回占って見れば?」

「そ、そうですよ、友香さん! もう一度占ってみましょう」

「う、うん…」


 アヤリンや佐奈のアドバイスに従い、友香は駄目元でもう一度占いの能力を使うことにした。

 友香自身の過去の経験から言って、一度占った結果が変わることはほぼ無い。

 数か月後の未来を占った時と、同じ占いを当日の一週間前に行った時ならば確かに占いの結果は変化した。

 それはより近い未来を占うことになり、占いの精度が上がったからだろう。

 しかし今回は数日前に占った結果であり、この程度の時間差ならば当日に占った結果とほぼ変わらない筈だった。


「っ!? 結果が変わった…? こ、この辺りの地図を下さい!!」

「はい! おい、車から地図を早く持ってこい…」

「了解です、会長!!」


 またしても予想外の事態に直面した友香は、驚きの余りに掠れた声で悲鳴を漏らしてしまった。

 外れる筈が無い占いが外れてしまい、ずれる筈の無い結果がずれてしまったのだ。

 魔法少女研究会の人たちから受け取った地図を前に、友香は恐る恐るある一点を指差した。


「…此処です、モルドンが此処に現れると占いで出ました」

「今居る場所と全然違うじゃん!」

「やっぱり占いが外れたのかよ…」

「いや、ウィッチさんだけでなく、他の魔法少女の予測も外れたのですよ。 きっと何か理由があるのです、一体何が…」


 友香が指し示した場所は、確かに数日前に出た占いとは異なる内容だった。

 この結果だけ見ると、数日前の友香の占い結果が間違っていたとしか言えないだろう。

 しかし結果的に誤りであったモルドンの出現位置を予想した魔法少女が、友香の他に少なくとも一人いるのだ。

 数時間前にSNSなどを通じて拡散された今夜のモルドンの出現予測、それは友香が数日前に占った結果とほぼ一致していた。

 友香がSNSに情報を上げる筈もなく、彼女と同種の能力を持った魔法少女が投稿したことはほぼ確実である。

 つまりは友香以外の他の魔法少女の予想も同様に外れており、何が原因で魔法少女たちの予想がずれたのか。

 日夜魔法少女たちを研究している研究会会長の浅田は興味深い疑問を前にして、思わすその場で顎に手を触れながら考え込んでしまう。


「ああ、見て下さい、会長! SNSに渡りの動画が上がってます…。 1号さん、2号さんも…、この場所は分かりますか?」

「だからその呼び方はやめてよ…。 うーん、何か見覚えがあるような…」

「あ、私分かる! 地図だとこの辺…、ああ、その子の占い通りね」

「会長さん! この事を千春さんたちにも教えないと…」

「分かっていますよ、すぐに連絡を…」


 そんな浅田の探求に待ったを掛けたのは、彼の同士である研究会員であった。

 慌てた様子で浅田と魔法少女たちの元に駆け寄ってきた会員は、彼らの前に手に持った携帯の画面を見せる。

 そこにはほぼ同時刻に千春たちの方でも見ていた、渡りのモルドンに追われる魔法少女の姿を撮影した映像であった。

 こちらの組に同行していた地元魔法少女の伊智子と丹心の確認により、この映像が友香の新しい占いで導き出された地点である事も判明する。

 占いの結果がずれたのは奇妙であるが、この近くに渡りのモルドンが居る事は分かった。

 この新情報を古い占いを信じて今も来る筈も無いモルドンを待ち構えている、千春たちの方にも伝えなければならない。


「や、八幡さん。 落ち着いて聞いて下さい、実はウィッチさんが占いの結果が変化して…。

 えっ…、そっちでも例の動画を見たんですか? そんな、NIOHさんが3号さんと一緒にもう現場に向かっている!?

 確かにシロさんや他の使い魔たちの足なら、すぐに現場まで向かえますね」

「やっぱりずるいよ、あの分け方は。 飛べる子たちがあんなに居たら、ピューって飛んでいけるもん!!」

「そんな…、私たちも早く行かないと!!」


 流石のヒーローは行動が早かった。

 どうやら千春たちもSNSに上がっていた例の動画から、渡りのモルドンの出現位置がずれた事に気付いたらしい。

 そして地元魔法少女の美湖に道案内役を頼んで、もう他の使い魔たちを引き連れて現場へと向かっているそうだ。

 置いてけぼりをくらったらしい朱美を通して、千春の現状を知った魔法少女たちの間に焦燥が広がる。

 千春たちに負けじとこの場に居る魔法少女たちもすぐさま、渡りのモルドンの居る目的地まで向かおうとしていた。


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