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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
169/384

4-9.


 渡りのモルドンとの決戦に向けて、千春は自身が率いる使い魔パーティーと、その他の魔法少女パーティーに分けた。

 この偏った編成の理由はただ一つ、機動力の一点集中である。

 使い魔たちの大半は自力で空を飛べる上、日常用の小型モードという運びやすい形態にもなれる。

 仮にもう一方の方面に渡りのモルドンが現れたら、即座に現場へ急行することが出来るだろう。

 逆に千春たちが当たりを引いた場合は、その機動力を生かして渡りのモルドンを誘導したり退避したりなどの手段が取れる。

 下手に移動手段にもなる使い魔たちを分散させるよりは、一つにまとめた方が戦いの幅が広がると判断したのだ。


「…それにこの編成の方が、他の魔法少女たちの生存率が上がるわね。 あんたが当たりを引いた場合は、上手く行けばあの子たちを巻き込まないで渡りと戦える。 外れでもシロちゃんたちの足なら、すぐにあの子たちの元に出来るから…」

 女の子たちのために体を張るなんて、流石はヒーロー様ね」

「茶化すなよ…」


 曲がりなりにも成人男性である千春としては、出来れば未成年の少女たちを渡りのモルドンなどと言う危険な存在と戦わせたく無い。

 しかし彼女たちは千春の思いなど知る由も無く、渡りのモルドンとの戦いにやる気を見せている。

 戦力的も魔法少女である彼女たちの助けは有り難いので、今回の戦いから彼女たちを外す事は出来ない。

 せめて少しでも若い子供たちの危険を減らすため、大人である自分が矢面に立つべきだと言う千春の思いが今回の作戦には込められていた。


「もうすぐ時間だぞ…、離れていろよ」

「はいはい…。 香ちゃんの代理として、NIOHチャンネルで使う映像はしっかり撮らせて貰うわよ」

「別にお前が撮影しなくても、動画の素材ならSNS上で幾らでも転がってそうだけどな…」


 朱美から視線を外した千春は、彼女の後方で集まる野次馬たちの様子を確認する。

 SNS上でモルドンの出現時刻などが拡散されている事もあり、彼らもモルドンの出現を今か今かと待ち構えていた。

 殆どの連中の手には携帯やらカメラがあり、恐らく千春の今の姿はネット上にあげられている事だろう。

 今回の作戦に同行しなかったNIOHチャンネルの主である香の代わりに、朱美が今日の撮影係を担当するようだが余り意味の無い行為になるかもしれない。

 余りに馬鹿馬鹿しい風景に萎え掛けたやる気を無理やり奮い立たせて、千春はこの場に現れる渡りかもしれないモルドンの出現を待つ。


 戦いの気配を感じ取ったのか、この場に集められた使い魔たちは一斉に戦闘用の姿へと変化していく。

 バイクと一体化したシロ、巨大なドラゴンとなったリュー、狼型の名に相応しいサイズになったガロロ、巨大化すると共に出現させた剣を咥えたスカイ、他の使い魔たちに負けない大きさとなったブレイブ。

 そして一斉に変貌した使い魔たちの中心に立つ千春もまた、その腰にクリスタルが埋め込まれたベルトを展開させながら何時ものポーズを取る


「…変身っ!!」


 自身の指を魔法少女のステッキに見立てた、千春のオリジナル変身ポーズ。

 少し前に変身のプロとも言える、本家マスクドナイトから教えを受けた切れのある動きに合わせて千春の体は変化する。

 一瞬の内に体が光に包まれていき、光が晴れるとそこには赤い鎧を纏ったヒーローの姿があった。

 マスクドナイトNIOHのAHの型、二人の魔法少女から授けられた力を解放した千春も準備万端である。


「おおっ、あれが変身シーンか!!」

「使い魔たちもいいなー」

「えぇぇ、私は前の方が可愛かったーー!!」

「ああ、なんて勇ましい使い魔ちゃんたちなんでしょうぉぉぉっ!! そう思うでしょう、里津さん!!」

「はいはい…、そうですね…」


 この千春と使い魔たちの変身シーンは、この場に集まった暇人たちには格好のネタになったらしい。

 野次馬たちの間で異様な盛り上がりを見せており、口々に勝手な感想を言いながら携帯を弄っている。

 恐らく今の千春と使い魔たちの雄姿は、もうSNSを通してネット上に拡散していることだろう。

 そして使い魔たちの話となれば、マジゴロウさんが黙っている筈も無い。

 彼女に取ってもこれだけの数の使い魔たちが勢揃いする姿は珍しいらしく、異様なテンションで隣に居る里津に絡んでいる。

 里津の方は本気で嫌そうにしながら適当な相槌を返しているが、そんな彼女の態度に気付くことなくマジゴロウは使い魔たちの雄姿を愛でていた。






 使い魔たちと共に変身をして、戦いの準備を終えた千春たちはモルドンの出現を待ち構えていた。

 しかし占いで予告された時間から数分が経ったのにも拘らず、肝心のモルドンが一向に現れないのだ。

 これまでの友香の占いの精度を考えたら、これだけ予想された時間とずれるのは異常な事だった。

 予想外の事態に千春たちだけでなく、同じ情報を共有している野次馬たちの方にも動揺が広がっていく。


「おい、何でモルドンが来ないんだ…」

「もしかして逃げたのか?」

「ネットの情報だと、渡りじゃなくてもモルドンは来るんだよな? もしかしてガセだったのか…」

「何だよ、絶対にNIOHの方に渡りが出ると思ったのに…」

「くそぉぉ、深読みし過ぎたか!? ヒロインサイドの方に強敵が現れて、リョナるパターンかよ」


 一向に姿を見せないモルドン、その事実を前にした野次馬たちの間に落胆の声が広がる。

 SNSに上げられた情報により、彼らは千春たちが二手に分かれて渡りのモルドンを待ち構えることを知っていた。

 この場にモルドンが現れない事から、彼らは自分たちは二択の賭けに負けたと判断したようだ。


「…来た! ちょっと、連絡が遅いわよ。 …えぇ、分かったわ。

 千春! あっちの組から連絡があった、あっちには普通のモルドンが出たそうよ。 もう倒しちゃったらしいけど…」

「あれだけの数が居れば、ただのモルドンが太刀打ちできる筈も無いからなー。 しかしそれなら、こっちには渡りが出る筈なんだけど…」


 困惑する千春たちの元に、二面作戦のもう一方を担当する魔法少女チームからの連絡が来たようだ。

 携帯を通して文句を言う朱美の元に、他方の戦場での状況が伝えられた。

 どうやら魔法少女チームの方に現れたのはただのモルドンだったらしく、既に対処済みの状況のようだ。

 一人の魔法少女が相手でも勝てないノーマルモルドンが、あれだけの魔法少女の前に現れたのなら当然の結果と言えよう。

 しかしそれが事実ならば、千春たちは渡りのモルドンという当たりを引いた筈なのだ。

 それなのにこの場に渡りのモルドンが現れないとは、一体どういうことなのだろうか。


「…あ、あの、NIOHさん! 今、別の場所に渡りのモルドンが出たって情報が…、SNSに動画が上がってますよ」

「…あ、本当だ!!」

「何だよ、やっぱりガセネタだったのかよ! 何処だよ此処…」

「はぁ、何だと!?」


 皮肉なことに動揺する千春たちを救ったのは、その瞬間まで邪魔者でしか無かった筈の野次馬たちだった。

 モルドンが現れない事を疑問に感じた彼らの一部が、ネットを通してモルドンに関する情報を漁っていたらしい。

 そしてその内の一人が此処では無い何処かに姿を見せた渡りのモルドンの情報に辿り着き、千春に伝えたのだ。


「ちょっと借りるぞ!!」

「…ああ、俺の携帯!!」

「これは…!? おい、3号!! ちょっとこっちに来い!!」

「だからー、美湖を3号なんて呼ばないでよー」


 こちらに声を掛けた男の元に駆け寄った千春は、持っていた携帯を有無を言わさず奪い取る。

 男の抗議を無視して携帯の画面を見た千春は、そこに映し出された映像に驚かされた。

 それは明らかに素人仕事の荒れた動画だったが、確かにそこに渡りのモルドンが居た。

 しかもその動画に居るのは渡りのモルドンだけでなく、数日前の丹心と同じように追われている魔法少女らしき姿もあったのだ。

 千春はすぐさま地元魔法少女の3号こと美湖を呼びつけて、不満顔の少女に向けて携帯の画面を突きつける。


「3号、これを見てくれ! これが何処か分かるか…」

「きゃっ!? ち、ちょっと待って。 何か見覚えがあるから、多分この街の何処かだと思うけど…」

「悪いがすぐにこの場所を見つけてくれ、頼む!!」

「う、うん…」


 何故この場に現れる筈だった渡りのモルドンが、他の場所で見知らぬ魔法少女を追っているかは分からない。

 しかし理由はどうであれ、これがリアルタイムの映像であるならば千春は現場に急行しなければならない。

 この辺りの土地勘がある地元魔法少女の美湖を頼り、渡りのモルドンがいる場所を突き止めようとしていた。


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