4-5.
突然、待ち合わせ場所である喫茶店に乱入してきた中学生らしい二人の少女。
どうやら丹心はこの少女たちと顔見知りのようだが、そのやり取りを見る限り仲良しという訳では無いらしい。
そのまま彼女たちは周囲に居る千春たちのことを無視して、姦しい口喧嘩を始めてしまう。
「ふざけるんじゃ無いわ! この地域最強の魔法少女は私、伊智子様よ!」
「はぁ、何言っているの? 地元最強はこの美湖ちゃんよ!!」
「ふん。 ちゃんちゃらおかしいわ。 最強はあの渡りのモルドンと互角に渡り合った、丹心で決まりなんだから」
「お前は逃げ回ってただけだろう!?」
「地元の恥さらしー!!」
「何ですって…」
大音量で繰り広げられる女子たちの口喧嘩の内容は、近くに居る千春の耳に嫌でも入ってしまう。
その内容を聞く限りでは、どうも彼女たちは丹心と同じ地元の魔法少女であるらしい。
彼女たちは互いに互いをライバル視しているのか、自分こそが地元最強であると譲らないでいた。
別々の制服姿やどう見ても血のつながりは無さそうな異なる容貌から、彼女たちは赤の他人の間柄であると思われる。
しかし狙ったかのように一・二・三とも読める名前を持つ少女たちに力を与えるとは、これもゲームマスター様の遊び心なのだろうか。
「はいはい。 その位にしておいて…、まずは私の話を聞いてくれない」
「でも…」
「落ち着いて、丹心ちゃん。 伊智子ちゃんも美子ちゃんもいいわね」
「くぅぅ…」
「わ、分かりました…」
女性たちの口喧嘩に圧倒されている千春を尻目に、彼女たちと同姓である朱美がすんなりと仲裁して見せた。
その言葉を聞いた彼女たちは、この場に自分たち以外の人間が居る事に今更ながら気付いたのだろう。
先ほどまでの勢いが衰えた所を見逃さず、朱美は彼女たちを自分のペースに巻き込むことに成功していた。
そして朱美のリードの元で、千春はようやく新たに現れた魔法少女たちと言葉を交わす事が出来た。
喫茶店に乱入してきた丹心と同じ地元魔法少女、伊智子と美湖。
別々の制服から予想は付いていたが、彼女たちはこの辺りの地域を三分割した縄張りでそれぞれ活動している魔法少女である。
最初のやり取りを見ても分かる通り、互いに縄張りが隣り合っている彼女たちは互いに互いをライバル視していた。
そして些かスケールが小さいが、彼女たちは自分こそがこの地域で最強の魔法少女であると自称しているらしい。
「…それで朱美、なんでお前は彼女たちを此処に呼んだんだ?」
「そうですよ、何でこんな奴らなんか…」
「どういう意味!?」
「こんな奴らって何よ!!」
実は伊智子と美湖と言う名の地元魔法少女をこの場に呼んだのは、何を隠そうこの朱美であるらしい。
道理で彼女たちの乱入を前にしても全く動揺することなく、落ち着いた対処が取れた筈だ。
しかしわざわざ彼女たちの連絡先を調べてコンタクトと取ったくらいなら、朱美は彼女たちが丹心と不仲であることも知っていたに違いない。
先ほどような喧嘩が起きることも予想できた筈なのに、どうしてそれを承知で二人の魔法少女を此処に呼び寄せたのか。
「丹心ちゃん…、あなたは私たちに嘘を付いていたわよね」
「うっ…」
「嘘…、それって?」
自身と敵対する魔法少女に声を掛けた朱美に対して、先ほどまでの丹心は彼女に対する不信感を隠せずに居た。
しかし朱美からの指摘を受けた瞬間にそれは綺麗さっぱり消えていて、代わりに浮かび上がってきたのは痛い所を突かれた顔である。
千春はその丹心の嘘とやら何を意味しているのか分からず、朱美に話の続きを促した。
「友香ちゃんに占ってもらった、この地域で次にモルドンが現れる日時と場所の情報は分かっているわよね?」
「ああ、同日のほぼ同時刻に同時出現、片方はただのモルドン、もう片方は十中八九"渡り"の奴だろう」
今回の作戦における問題点の一つ、それは渡りのモルドンの出現地点が絞り切れないことにある。
偶然にも次に渡りのモルドンが動き出す夜に、通常のモルドンも出現すると言う占いの結果が出てしまったのだ。
同じ地域にモルドンが二体同時に現る事例はほぼ無いので、恐らく片方が渡りのモルドンであることは間違いないだろう。
しかしウィッチの占いではモルドンの出現場所・日時は分かっても、モルドンの種類までは把握することは出来ない。
そのため千春たちは戦力分散をして、両方の出現地点に網を張るリスクを背負う事になっていた。
「その出現地域って、さっき私たちが見てて来た街中からそこそこ離れているでしょう。 実はその辺って、丹心ちゃんの縄張りじゃ無いのよ…」
「はぁ!?」
「この女は手柄を独り占めするために、私たちの縄張りが自分の物であると嘘を付いたんですよ!!」
「この卑怯もの!」
「うぅぅ…」
確かに今夜のモルドンの出現地域は少し離れており、数日前の街中を含めると一人の魔法少女が管理するには少々広すぎる面積だとは思っていた。
しかし絶対にあり得ない範囲でも無かったので、千春はあまり疑問に思うことなく丹心の話を信用してしまった。
一方の朱美は丹心の話を鵜呑みにせずに裏付け調査を行い、この地域で活動している伊智子・美湖に辿り着いたようだ。
魔法少女の世界において他の縄張りで活動することは喧嘩を売る行為と同義であり、本来であればご法度である。
以前に花音の縄張りで勝手に渡りのモルドンと戦おうとしていた千春が言えることでは無いが、可能であれば地元の魔法少女には事前に話を通しておくべきなのである。
「だって、だって…。 この連中を巻き込んだら、進む話も進まなくなりそうだったし…」
「ふん、大方自分の手柄が取られると思ったのね。 心底腐ったやつよね、あんたは…」
「やっぱり最強は私…」
「違うもん。 そこは美湖ちゃんが…」
「違う、私が…」
朱美の指摘通り丹心は、今回の渡り討伐の話にライバル関係にあるお隣の魔法少女を咬ませたくない一心で自身の縄張りを偽ってしまったようだ。
下手をしたらそれこそ花音の時のように何も知らない地元魔法少女が巻き込まれる可能性もあるので、丹心の嘘は決して許されるものでは無い。
しかし再び始まった自身が地元最強であるとマウントを取り合う不毛なやり取りを見る限り、丹心が彼女たちを加えたくなかった理由も分からなくは無い。
露骨に相手を敵視している彼女たちが、仲良く渡りのモルドンと戦ってくれるとは思えないからだ。
「…どうするんだよ、これ」
「わ、私も此処まで酷いとは思って無くて…」
再び始まった少女たちの諍いを前にして、千春は付き合ってられないと言うような疲れた表情で朱美の方を見る。
朱美の方も流石に彼女たちの仲が此処まで拗れているとは思ってなかったようで、明らかに困惑している様子であった。
今夜の作戦に置いて実力未知数な地元魔法少女たちは、正直に言って戦力には入れていない。
彼女たちにやって欲しいことは地元地理に不利な千春たちの道案内役なのだが、その最低限の役目を果たしてくれるかどうか。
今の様子だと地元魔法少女同士の対抗意識から彼女たちが暴走してしまい、下手すれば作戦が破綻する可能性も見えてくる。
しかし地元の魔法少女を無視して作戦を進める訳にもいかず、残念ながら彼女たちを切る選択肢を取る事は出来ない。
一体どうやってこの場を収拾すればいいか分からず、千春は現実逃避気味に冷めたコーヒーの残りを飲み干した。




