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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
162/384

4-2.


 世間からの下世話な干渉を極力減らしたい、魔法少女の全てを管理しているゲームマスター様の意向もあるのだろう。

 基本的に魔法少女関連の情報は意図的に遮断されており、当たり障りのない話題以外は世間に伝わる事はない。

 例えば過去に千春と対峙した犯罪を冒した魔法少女の不祥事などは、決して街の外には広まらないようになっていた。

 しかし渡りのモルドンと呼ばれるイレギュラーの存在について言えば、現在ではこの法則は全く適応されていない。

 昨年の千春と"渡り"との戦いを境に、渡りのモルドンの知名度は全国区になったと言っていい。


「な、なんで渡りのモルドンがこんな所に居るのよぉぉぉっ!!」

「ヲヲヲヲヲヲ…」


 昨年の夏時点で既に何人もの魔法少女のクリスタルを喰っていた渡りは、ゲームマスターとしても放っておけない存在だったのかもしれない。

 千春の住む街に渡りの被害を受けた先輩魔法少女ウィッチが居た事もあり、千春は戦力を集めて渡りに戦いを挑むことになった。

 その後の展開を考えればこの渡りの一件が、後に千春へ対魔法少女の専門家という面倒な役割を押し付ける切っ掛けとなった可能性もある。

 結果的に千春たちは"渡り"を取り逃したが、その情報がマジマジを通して広まったことで他の魔法少女たちもその危険性を知るようになった。

 今では怪しい蜥蜴型モルドンの姿を見た瞬間、一目散に逃げる選択肢が取れる程に渡りのモルドンの危険性は魔法少女に知られているのだ。


「うわぁぁっ、追ってくる!? こっちに来るなぁぁぁぁ」

「ヲヲヲ!!」


 動きやすく改造された袴衣装に加えて腰に刀を差した彼女の姿は、侍の格好をした男装の麗人と言う所か。

 モルドン相手に刀で立ち回る姿はさぞかし絵になるだろうが、残念ながら絶賛逃走中の彼女にそれを期待するのは酷だろう。

 恐らく中学生くらいの年頃だと思われる侍姿の魔法少女は、涙目になりながら必死に足を動かしていた。

 極々一般的な魔法少女でしかない彼女には、あの渡りのモルドンと立ち向かう勇気は欠片も持ち合わせていない。

 自分の命が一番であるらしい魔法少女は、必死にあの凶悪なモルドンから逃れようと走り続ける。



 幸運なことに彼女は魔法少女の力で身体能力が強化されており、加えてこの一帯は彼女に取っては庭と言っていい住みなれた街だ。

 その魔法少女は右折や左折を繰り返しながら、決して渡りと障害物の無い長い直線の追いかけっこをしないように気を付ける。

 頭の中に地図がインプットされている彼女は行き止まりに嵌らないように、街中を縦横無尽に逃げ回っていた。

 曲がり角で"渡り"が勢い余って塀や家の一部を壊しているようだが、そこはモルドンが原因ということで街の人たちには許して貰うしかない。


「なんだなんだ!」

「うわっ、モルドンじゃないか! おい、ちゃんと戦えよ」

「ちょっと待って、家の塀が壊れてるじゃ無いか。 保険出るかな…」

「おい、さっきのモルドンってもしかして…」


 街中で繰り広げられた渡りのモルドンと魔法少女の情けない逃走劇、その騒ぎは付近の住民たちの耳にも届いていた。

 この世界ではモルドンという存在は最早日常の一部であり、モルドンの姿を見てもそこまで動じることは無い。

 しかしモルドンに追い掛け回される魔法少女の姿に違和感を覚えた一部の者が、やがて渡りのモルドンの事に気付いたらしい。


「あ、あれは渡りのモルドンだ!!」

「おい、ビデオを回しておけ。 これは話題になるぞ!!」


 渡りのモルドンの方も魔法少女のクリスタルと言うご馳走が最優先のようで、他の住民たちのことなど眼中にないようだ。

 そのため自身の姿を撮影しようとしている人間を意に介さず、ただただ魔法少女を追い続けていた。

 街に現れた渡りのモルドンを撮影した者は彼だけでは無く、何人もの大馬鹿者がその蜥蜴型の異形の撮影に成功していた。


「死にたくない、死にたくないよぉぉ! もういやぁぁぁぁぁっ!!」

「ヲヲヲ、ヲヲヲ!!」


 別にクリスタルを喰われた所で死ぬことは無いのだが、混乱している様子の今の魔法少女にはその常識が通じないようだ。

 死を前にした火事場の馬鹿力もあってか、この魔法少女は奇跡的に渡りのモルドンの追跡から生き残ることに成功する。

 ただの魔法少女があの渡りのモルドンから逃げきったのだ、それは一種の偉業と賞賛されてもいいだろう。

 そしてこの時の動画がマジマジに次々に投稿されたことで、世間にあの化け物の復活を知らしめることになった。






 HR前に渡り復活の情報を知った直後の志月の様子が、余程酷い物だったのだろう。

 クラスの友人たちは志月が何か言う前に、彼女に今日は早く帰って休んだ方がいいと言ってきたのだ。

 昨年まで闘病生活を送っていた志月の経歴や、未だに健康的な見た目とは言い難い線の細い身体つき。

 それも相まって志月の状態を心配した友人たちが、純粋に自分の体を気遣ってくれたらしい。

 志月は申し訳なさを感じつつも、都合のいい友人の誤解に乗って午後一に帰宅していた。


「確かにこれは渡りね…、本当に戻ってきたんだ」


 自室に戻った志月は朝確認できなかった、昨晩の渡り復活の証拠動画を何回も見返していた。

 素人が撮ったお世辞にも綺麗に撮れているとは言えない映像だが、確かにそこには蜥蜴型の異形の姿がある。

 侍の姿をした魔法少女を追い掛け回しているそれは、まさしくあの渡りのモルドンだった。



 渡りのモルドン、その存在が世間に認知されたのは昨年の夏頃だろうか。

 魔法少女のやられ役であるモルドンが、複数の魔法少女級の戦力を相手に互角以上に立ち回っている姿がマジマジで実況中継されたのだ。

 その時の動画はネット上で瞬く間に拡散しており、今でも動画サイトを漁ればコピー動画が幾つも出てくるだろう。

 残念ながら今年度もクラスメイトになってしまった彩雲の兄、マスクドナイトNIOHこと千春の活躍で撃退された渡りはそれから暫く行方を晦ますことになる。


世間(・・)的に"渡り"が復活した日は、魔法学部での襲撃事件…。 そこから数か月後経った昨日、また姿を見せた事になるか…」


 再び渡りのモルドンの名前が世に出てきたのは、昨年の年末になる。

 またしてもマスクドナイトNIOHが中心となって行われていたイベントの最中、蜥蜴型の異形は再び人々の前に現れたのだ。

 魔法学部に保管されていた魔法少女のクリスタルを強奪し、その場にいたNIOHと魔法少女たちと激しい戦いを繰り広げた。

 結果的にクラスメイトの兄はまたしても渡りのモルドンを取り逃がすことになり、一部の心無い者たちから批判を受けたらしい。

 昨年の夏に年末、そして今年の春、数か月の時間を挟んで渡りのモルドンが姿を見せていることになる。


「やっぱり死んでなかったのね、そこまで都合は良くないか…。 どうしてあの渡りは半年(・・)以上も姿を晦ましてたのかしら…」

 半年以上、それは志月が先ほど自らが呟いた言葉とは矛盾する期間であった。

 昨年の夏から半年以上となると、年末に現れた渡りのことを計算に入れていない事になる。

 しかし志月に取ってはそれが真実であるようで彼女は一人、このタイミングで渡りが再び現れた理由について考えていた。



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