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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
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4-0. 「"渡り"の帰還」


 志月(しづき)と言う名の少女に取って、これまでの人生は苦しみしか無かった。

 難病に冒されて明日をも知れない体、病院と自宅と往復するだけの灰色の日々。

 平凡な学校生活などは夢のまた夢であり、心を通わせられる同年代の友達など居る筈も無い。

 決して裕福では無い家族は、そんな厄介者である少女を必死に養ってくれた。


「志月、調子はどうだ?」

「大丈夫だよ、お父さん…。 最近は調子が良いんだよ、あんまり苦しくならないし…」

「ははは、それは良かった。 後もう少しだけ我慢するんだ、そうしたら志月も学校に行けるようになるさ…」

「はい、お父さん…」


 自分の治療費を捻出するのは大変なのか、一家の大黒柱である父親の姿は年を経るごとに窶れていた。

 疲れた表情を笑顔で無理やり誤魔化そうとする父親の姿を見て、志月は申し訳なさで一杯になった物だ。

 志月は父親と同じように精一杯の作り笑いで自身の内心を覆い隠し、父親と話をする必要があった。

 息苦しい親子の会話を終えた後、病室に残れた志月の顔には当然のように笑顔とは真逆の悲痛な物になっている。


「分かっている、私はもうすぐ死ぬんでしょう! 学校になんていけないのよ!!

 なんで、なんで私ばかり…」


 家族で食卓を囲みたい、学校で友達とお喋りしたい、修学旅行にだって行ってみたい。

 そんな普通の人には当たり前の日常は、志月に取っては決して叶わない夢であった。

 本来なら中学校に行っている筈の年齢となった少女は、残酷なことに自身の灰色の未来を正確に把握していた。

 自分はこのまま病院の外から出る事無く死ぬのだと、病室の枕で涙を濡らす日々が続いていた。






 そんな不幸な志月の元に、望外の幸運が訪れる。

 魔法少女、十代の少女であれば誰もが手に入れる可能性がある力を授けられたのだ。

 志月は現代の医療では助からない自分の命を救うため、この魔法少女の力に僅かな希望を見出していた。

 時間だけは余っている退屈な病院生活の中で、一縷の望みをかけて必死に魔法少女のことを研究していた程だ。

 志月はその苦労が報われた日が来たことに喜び、病室の中で久方ぶりに作り物では無い笑顔すら見せていた。


「…どういうこと、魔法少女の力は万能じゃ無いの!? 何よ、ぬか喜びも良い所じゃない!!」


 しかし彼女の希望は容易く絶望へと裏返り、その笑顔は曇らされた。

 魔法少女の力を持った少女は直感的に自身に与えられたリソースで実現できる物を察することが出来る。

 その志月の直感が継げていた、彼女に与えられた魔法少女の力では自身の病を治すのは不可能であると…。


「嫌よ、私は絶対に幸せになるの。 学校に行って、友達を作って、修学旅行にだって行って…」


 それは何時かの白奈も辿った道であった。

 同じように魔法少女となった白奈は、その力で自身の病を克服できない事を知って絶望した。

 そして彼女は自身の体のことを潔く諦めて、使い魔シロと言う夢を彼女の見つけたヒーローに託す選択を選んだ。

 しかし志月は白奈と違って諦めが悪かったようで、あくまで自分を苦しめている病と戦う道を突き進もうとした。

 白奈と志月、同じような立場であった二人の少女は与えられた魔法少女と言う力の使い方について異なる選択したようだ。






 志月がどんなに頭を捻っても、どんなに魔法少女の事を調べても解決策は見付からなかった。

 根本的に志月に与えられた一人分の魔法少女のリソースでは、どんな能力を作り出しても彼女自身を救えない。

 絶対に自分が助かる道がある筈だと、志月は自分自身を励ましながら魔法少女の力の使い方について模索していた。

 そしてある日、志月はその存在を知ったのだ。


「"ヲヲヲ、ヲォォォォォ!!"」

「"○○○○!!"」

「"炎、ウィッチの能力か!? お前がそれを使ってるんじゃねぇぇ!!"」

「何よこれ…。 渡りの…、モルドン? 魔法少女のクリスタルを取り込んで成長するなんて…」


 渡りのモルドン、天敵である魔法少女を上回る力を手に入れた規格外のモルドンである。

 モルドンは本来は、決して魔法少女に敵わない都合の良い敵役でしか無かった。

 しかしこのモルドンはその名前の通りに街を渡り歩き、何人もの魔法少女のクリスタルを喰らう事でその前提を覆したのだ。

 このモルドンの存在は志月に天啓を与えた、クリスタルを喰らう事で成長した渡りのモルドン。

 これと同じくことをすれば魔法少女を超える力を、志月が求める物を手に入れられるのでは無いか。


「そうよ、私はどんな手を使っても幸せを掴むのよ…。 私は、私は…」


 志月はマジカルレッドこと花音が実況中継していた、渡りのモルドンと魔法少女たちの戦いを記録した映像を何回も視聴した。

 その視線はじっと渡りのモルドンの姿を捉えており、その異形の姿を目に焼き付けているかのようであった。






 志月が渡りのモルドンの存在を知ってから時を流れ、彼女は"奇跡の子"と呼ばれる存在になっていた。

 現在の医療技術は決して克服できない難病から回復すると言う、文字通りの奇跡を起こした少女。

 彼女は望んでいた幸せな日常を掴み取り、今では何処にでも居るただの中学一年生である。

 もう少ししたら中学二年生に進学して、夢にまで見た修学旅行にだって行けるのだ。

 今の志月は幸せの絶頂であり、学校から帰宅した志月はまだ見慣れない自室のベットでにやけ面をしていた。


「ふふふ、今度の休みはお友達とショッピング。 ああ、夢みたい…」


 ベッドの上で寝ころびながら、志月は慣れた手つきで携帯を弄っていた。

 確認するのは魔法少女関連のニュース、今の志月には最早不要であるが念には念をだ。

 魔法少女ファンが非公式に作成したまとめサイト、そのトップページはマスクドナイトNIOH関連の新作動画についての話題が上がっていた。

 とある事情からマスクドナイトNIOHの事を意識している志月は、すぐさまその動画の内容を確認する。


「ふん、あのお嬢様が出ているんだ。 へー」


 先日の劇場版マスクドメビウスの一件がまとめられた動画には、シロと共に撮影に参加した白奈も登場していた。

 志月は眉間にしわを寄せながら、画面越しに青白い顔色の白奈の姿を睨みつけている。

 かつて同じ病院に入院していた事もあり、志月は以前から白奈の顔や素性はある程度は知っていた。

 彼女のような貧乏人には縁のないVIPルームの病室で療養する、いけ好かない金持ちのお嬢様。

 マスクドナイトNIOHの動画を通して、白奈が魔法少女である事を知った時は心底驚いた物である。


「本当、バカな女よねー。 私みたいに上手くやれば、病気なんて簡単に治せるのに…。 ねー、"ライフ"」

「ヲヲヲヲヲヲ…」


 自分の同じように魔法少女の力を手に入れながら、白奈が生み出したはシロと言うどうでも良い使い魔である。

 動画に映る白奈の様子を見る限り病状は悪化する一方であり、恐らく何時かの自分と同じ明日も知れない身なのだろう。

 そんな哀れなお嬢様とは対照的に、健康な体と日常を取り戻した志月は勝ち誇ったように微笑む。

 そして自分にこの幸せな生活をくれた愛する使い魔に向かって、優しく声を掛ける。

 生みの親である魔法少女に応えるように部屋の中に姿を見せた"ライフ"、漆黒の体を持つ蜥蜴型の使い魔は奇妙な鳴き声を漏らしていた。


GW休みが終わってまた忙しい日々が戻ってきました…。

また週一~二ペースの更新になると思いますが、気長に付き合ってくれると嬉しいです。


では。

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