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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
159/384

3-13.


 劇場版マスクドメビウスの撮影を妨害していた、人型使い魔の排除に成功したことで話が大きく進展する。

 予定通りに警察に事情を説明して、人型使い魔が持っていた端末から犯人である魔法少女を追って貰う段取りとなった。

 しかし警察が本格的な調査に乗り出す前に、その魔法少女の両親が本人を連れて出頭してきたのだ。


「永路くーーん、永路くーーん! なんでよ、なんでよぉぉぉっ!!」

「こら、雪美!」

「暴れないで、雪美。 ああ、なんでこんな事に…」


 雪美という名前らしい魔法少女にとって、あの人型使い魔は余程大事な物だったらしい。

 クリスタルが破壊された事によるノックアウトから回復した後、彼女は半狂乱となって自宅で暴れたそうだ。

 その中で断片的に今回の事件のことを呟き、彼女の両親が警察に連絡してきたと言うのが事の顛末である。

 流石に自宅であの人型使い魔と一人遊びをしていれば、家族はその存在に薄々気付いていたのだろう。

 この家族はこれまで見て見ぬふりをしてきた報い、これから償うことになるようだ。






 人型使い魔はクリスタルを破壊されて行動不能となり、魔法少女である雪美も警察に確保された。

 魔法少女関連の事件なので有耶無耶な決着になりそうだが、少なくとも劇場版マスクドメビウスの撮影が邪魔されることは無いだろう。

 用心棒役として撮影に同行していた新米スタッフ、矢城 千春の役目も此処で終わりになる。

 個人的には最後まで撮影に付き合いたい気持ちもあるが、喫茶店メモリーの仕事を友香一人に押し付けたままではいられない。


「篠原監督、お世話になりました。 足立さんも、色々とご迷惑をおかけしました」

「お前はよく働いたよ、新米。 また俺たちと働きたくなったら、何時でも歓迎してやるよ」

「見事に事件を解決したね、NIOHくん。 君を…、マスクドナイトNIOHに出演依頼を出して大正解だったよ。

 例の動画も映画のいい宣伝になったし…、この作品は興行成功間違いなしだよ!!」


 千春は劇場版マスクドメビウスの篠原監督と、先輩撮影スタッフである足立に別れの言葉を交わす。

 無事に撮影を妨害していた魔法少女を排除出来たこともあり、二人とも笑顔で千春を送り出してくれた。

 何時ものように今回の一件も、ゲームマスター様の手によって編集された内容が動画サイトに投稿されていた。

 紙一重だった気もするが、結果的に魔法少女が絡んできた今回の事件は劇場版マスクドメビウスを世間に広める切っ掛けとなったらしい。 


「ありがとうございます、千春さん。 やっぱり本物は違いますね…」

「本物はそっちだろう、メビウス。 劇場版、楽しみにしているよ」


 魔法少女のストーカー被害に悩まされてきた俳優の長谷 飛鳥は、解放された喜びからか爽やかな笑顔で千春と別れを告げた。

 彼に取ってマスクドナイトNIOHこと千春は、魔法少女の魔の手から自分を救ってから本物のヒーローと言えるだろう。

 一方の千春に取っては飛鳥は本物のヒーロー、マスクドメビウスその人である。

 千春は飛鳥から差し伸べらた手を強く握り返しながら、照れたように頭をかいていた。

 画面の外でしか関われなかったマスクドシリーズの世界に足を踏み入れられた、千春に取っては夢のような時間が終わりを迎えた。










 それから数か月後、劇場版マスクドメビウスは予定通りに公開を迎える。

 ゲスト出演した経緯もあり千春は、公開初日かつ舞台挨拶付きのチケットを貰っていた。

 朱美や香という何時ものメンバーと共に映画館に突撃した千春は、最前列の席でマスクドメビウスの活躍を楽しむことができた。

 興奮の余り声が漏れると言うマナー違反もしたが、劇場版マスクドメビウスは無事に終幕を向かえていた。


「本家マスクドナイト、士道さんとの共演。 本当に実現したんだな…」

「一緒に撮影したんだから、知っているでしょう」

「実際に観るのと違うんだよ…」


 スクリーンの中で幻想の世界からやってきた、怪物や建物が光と共に消えていく。

 マスクドメビウスの世界に侵略してきた魔法少女は敗北し、彼女が持ち込んだ物が全て元の世界に帰ることになるのだ。

 その中には千春ことマスクドナイトNIOHも含まれており、変身を解いた千春と腕に抱えたシロの体も透明になっていく。

 そんな千春を見送るのは同じく変身を解いた士道 騎、マスクドナイトとマスクドナイトNIOHが向かい合う。

 互いに頷いて見せた二人のマスクドナイトは無言で別れを交わし、千春とシロは笑顔と共に消えて行った。

 本来の台本では千春と士道 騎が対面するこのシーンは無かったのだが、士道役である俳優の中植 健吾の提案でこの場面が実現していた。


「あ、俺と白奈の名前もあった。 うぅぅぅ、生きてて良かった…」

「ちょっと首が痛いわね…、映画は真ん中あたりで見るのが一番ね」

「仕方ないじゃ無いですか…。 この後のこともありますし…」


 エンドロールの中には本人役でゲスト出演した千春の名前と、シロを通して出演した白奈の名前が連ねられていた。

 スクリーン上に書かれた自分の名前を見て、改めて自分が劇場版マスクドメビウスに出演したことを理解した千春の涙腺は自然と緩んでしまう。

 そんな千春の感動を邪魔するかのように、隣に座っていた朱美が首を擦りながら愚痴を零していた。

 確かに最前列という位置から映画を見るとき、スクリーン全体を見渡すために常に上向きに見なければならない。

 朱美の言う通り、映画館で映画を見るのにベストの席は最前列では無く中列から後ろ辺りになるだろう。


「ん、この後? この後は舞台挨拶か…、確かに俳優さんを間近で見るなら最前列だよな」

「そ、そうですよ、お兄さん。 私は撮影に行けなかったんで、楽しみです…」


 今日は終幕後に映画スタッフによる舞台挨拶も行われることになっており、この後で壇上に俳優陣たちが勢揃いする筈だ。

 俳優たちと一番近い位置になるのは最前列なので、そちらを重視するなら今の席は悪いものでは無い。

 今更ながら自分の元に送られたチケットが最前列であった理由に気付いた千春は、数か月ぶりに顔を合わせる飛鳥たちを楽しみにしていた。






 後になって考えれば、千春が事前にこの後の茶番に気付く機会はあっただろう。

 幾ら劇中でゲスト出演したとは言え、明らかに関係者やマスコミ用に空けられた最前列のスペースに席を用意されたこと。

 そして香が映画館の中では常にマスクを被り、NIOHチャンネルの撮影時の姿になっていたこと。

 別に浮ついた話でも無いにも関わらず、朱美が気合を入れてメイクまでして来ていたこと。

 何より千春自身の格好についても注文を付けられて、映画館に来る前に喫茶店メモリーで女性陣から身だしなみチェックを受けたこと。

 普段の千春であれば察する可能性もあっただろうが、自身のゲスト出演に浮ついている状態でそれを求めるのは難しかったかもしれない。


「はい…、ここでスペシャルゲスト、マスクドナイトNIOHを演じた矢城 千春さんでーす」

「はっ…!? えっ、俺?」

「千春さん、どうぞこちらに上がってきてください!!」


 舞台挨拶も半ばを迎えた頃、いきなり千春の席にスポットライトが当てられた。

 突然の事態に狼狽する千春に向かって、飛鳥はイケメン俳優らしい爽やかな笑顔で呼び付ける。


「ほら、行った行った!! シロちゃんも忘れないで!!」

「お兄さん、頑張ってー」

「その反応…、お前ら知ってたな!!」

「〇!」


 狼狽する千春を朱美と香が無理やり立たせて、そのまま壇上へと押し上げようとする

 まるでこの展開を予測していたかのような行動を受けて、千春は遅まきながら自分が嵌められた事に気付く。

 どうやらこの悪女共は事前に今日の舞台挨拶に千春が呼ばれることを聞いていながら、この瞬間まで口を閉ざしていたのだ。

 既にマスコミのカメラや映画館に来ている観客たちが千春に注目しており、此処で恨み言を漏らしても意味は無い。

 意を決した千春はまな板の上の鯉になった気分で、スタッフの誘導を受けて壇上へと上がっていった。






 流石に素人の千春を人前に立たせ続けるのは問題だと判断されたようで、千春は挨拶と軽いトークなどで壇上から返されていた。

 時間したら精々5分くらいだったろうが、心の準備が出来てなかった千春には何十倍もの時間に感じただろう。

 この僅か5分の舞台挨拶で千春がどのような醜態を晒したかについては、彼の名誉のためにあえて語らないでおく。

 両手で顔を覆っている千春とその様をニヤニヤと眺めている朱美と香の姿を見れば、その舞台挨拶がどんな物であったかは察せるだろう。


「最早一発芸ねー、あんたの変身は…」

「お客さんには受けてましたよ、お兄さん」

「仕方ないだろう…。 いきなり何にかやれって無茶振りされたら、俺にはあれくらいしか…。

 後で覚えてろよ、朱美、香…」


 密かに今回の悪戯を仕組んだ二人の悪女たちへの復讐を誓った千春は、ふと隣の席へと視線を向けた。

 そこには折りたたまれた席の上に、先ほど一緒に壇上へと言ったシロが置かれている。

 本来ならばこの席はシロでは無く、シロの生みの親である白奈のために用意された席だった。

 しかし残念ながら白奈はドクターストップが掛かったらしく、こうして彼女の席をシロが戦友しているという訳だ。


「白奈が調子いい時にでも、この映画を一緒に観に来ような」

「〇!!」


 千春はシロの頭を軽く撫でながら、今日来れなかった少女との映画デートを約束する。

 恐らく病室に居る白奈は、自身の使い魔であるシロを通して今日の映画を見ているに違いない。

 しかし折角ならば、実際にその目でこの劇場版マスクドメビウスを観ておいた方がいいだろう。

 千春は白奈と並んで映画館に来ている姿を夢想しながら、まだ舞台挨拶が続いている壇上へと視線を向けた。











 …結論だけ言えば、千春があの少女と一緒にこの映画を観る事は無かった。



これで今回の話は終わりです、ギリギリGWの週で終わらせられました。

次の投下は来週の土日辺りから始めたいと思います。


では。

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