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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
158/384

3-12.


 シロの拘束から逃れた人型使い魔、現在の姿に合わせるなら偽永路と言うべきだろうか。

 マスクドメビウス劇中での衣装を着た姿の偽永路の右手には、何時の間にか劇中の変身アイテムであるメビウスドライバーが握られていた。

 そのままメビウスドライバーを腹部にあてて装着した永路は、右腕を正面に掲げた劇中お決まりのポーズを取る。

 この場に居る撮影スタッフに取って今の偽永路の動きは見慣れた物であり、ここからの展開が予測できた彼らは口々に驚きの声をあげていた。


「うわっ?」

「そのベルトは…、まさか!?」

「"変身!! キュィン、キュィン、キュィィィィン"」


 偽永路の方から聞こえてきたのは、劇中での永路の肉声と変身音である。

 どうやら体の何処かにスピーカーか何を仕込んでいるようで、口パクに合わせて肉声とは異なる音声が聞こえてきた。

 しかし声や効果音は偽物のようだが、そこから偽永路の体に起きる変化は本物さながらであった。

 偽永路の体が光に包まれるとそこには、千春を含む撮影関係者が良く知るあのヒーローが居たのだ。。

 白を基調としたメカニカルなボディ、象徴と言うべき胸部のメビウスのマーク、∞(無限)を意識した眼の造形。

 偽マスクドメビウスとなった人型使い魔は、こちらを警戒するように構えを取っていた。


「ほ、本当に変身した…」

「ち、千春さん…。 どうします、相手が変身しましたよ」

「なるほど、よくできた人形だよ。 人間だけでなく、マスクドの姿にもなれるか…。 これが偽NIOHの種って訳だな」


 見事な変身を見せた偽マスクドメビウスの姿に、撮影スタッフたちの間に動揺が広がる。

 永路役を演じる飛鳥もまた、マスクドメビウスとなった自身の偽物の姿に度肝を抜かれたようだ。

 しかし狼狽する飛鳥たちとは対照的に、落ち着いた様子の千春は人間だけで無くマスクドの姿にもなれる人型使い魔の多芸さに関心していた。

 恐らくあの人型使い魔が変身できるマスクドは一種類では無く、やろうと思えばマスクドナイトNIOHの姿にもなれるに違いない。


「…まあ、見ててくれ、飛鳥くん。 さて、相手がマスクドメビウスなら、相応の対応をしないとな。 相手をしてやるよ、偽物さん」

「!?」

「いくぞ…、変身っ!!」


 千春はその場から歩み出し、偽マスクドメビウスとなった人型使い魔の方へと向かった。

 あくまで余裕を崩さない千春は、偽物とは言えマスクドメビウスである相手に相応しい姿へと変わる。

 仁王像をモチーフにした東洋風の赤い鎧に、仁王像の"阿"をイメージした口元のフルフェイスマスク。

 手早くマスクドナイトNIOHのAHの型となった千春は、マスクドメビウスとなった人型使い魔と対峙した。






 人型使い魔の捕獲作戦から転じて始まった、偽マスクドメビウスVSマスクドナイトNIOHのバトル。

 二人のマスクドたちは互いに相手の動きを伺っているようで、互いに距離を維持したまま円を描く様に少しずつ移動している。

 特撮作品に良くある睨み合いのシーンを前にして、すっかりギャラリーと化した他のスタッフたちも両者の戦いに呑み込まれていた。


「おい、本当に戦うのかよ?」

「マスクドメビウスとマスクドナイトNIOHの戦い、か…」

「カメラ、カメラは…」

「ばっちり撮ってます! 無事に撮影が終わったら、これも特典に付けましょうよ!」

「いや、多分その前にNIOHさんの例の動画の新シリーズに収まると思うぞ…」


 好きでマスクドメビウスの撮影スタッフをやっている彼らが、このマスクド同士の戦いに興奮しない筈がない。

 彼らは口々に感想を漏らしながら、固唾を飲んで偽マスクドメビウスとマスクドナイトNIOHの戦いを見守る。

 一部のスタッフは慌ててカメラを出して、この両者の戦いを収めようとしていた。


「NIOHさん、頑張って下さい…」

「うーん、期待しているところ悪いけど、多分すぐ終わるわよ…」

「☆!!」「〇!!」

「えっ…」


 本家マスクドメビウスと言うべき俳優の長谷 飛鳥もまた、千春を応援しながら目の前で始まろうとしている戦いを見ている。

 その表情は真剣そのものであり、一体どんな激しいバトルになるのかと密かに興奮すらしていた。

 しかしそんな飛鳥に水を差す様に、シロとガロロと共に飛鳥の近くまで退避していた真美子が早期決着を予告する。

 使い魔の第一人者と言うべきマジゴロウこと真美子には、この戦いの決着が手に取る様に見えていた。











 一撃、それだけで全てが終わった。

 意を決して突っ込できた偽マスクドメビウスは、千春が軽く放った右ストレートを受けてあえなくダウンしてしまう。

 その衝撃でマスクドの姿を維持できなくなったのか、それは顔も体も真っ白のまさしく人形と言うべき姿を晒している。

 胸には光り輝くクリスタルが埋め込まれており、それが魔法少女が生み出した創造物であることを示していた。


「なっ…」

「弱っ!?」

「おいおい、これで終わりかよ…」

「はぁ…、予想通りとは言え…」


 マスクド対マスクドの壮絶な戦いを予測していたギャラリーのスタッフたちは、拍子抜けと言っていい結果に失望を隠せないでいた。

 この結果に失望しているは千春も同じようで、無様な姿を見せた人型使い魔に対して呆れている様子だ。

 仮にもマスクドメビウスの姿をしているならば、もう少しそれらしい活躍をしろと説教をしたい気分である。


「説明したでしょう…、人型使い魔は戦闘能力には期待できない。 人型に加えてあんな変身能力を持たせなら、戦闘面に振れるリソースは無いのよ」

「つまり…、あれは見た目だけの張りぼて?」

「腐っても魔法少女の使い魔だから、普通の人間相手なら何とかなったのでしょう。 でもNIOHさんが相手だと…」


 人間を形作るだけで多大なリソースを必要とする人型使い魔は、戦闘能力が極めて低いことは始めから分かっていた。

 あの人型使い魔はそれに加えて、様々なマスクドや人間の姿に変身する能力まで備えているのだ。

 魔法少女のリソースは有限であり、それだけの能力を持たせた使い魔に戦闘能力も持たせることは不可能である。

 飛鳥が言う通り、どんなに本物に似せていてもあれはただの張りぼてでしか無い。

 それが分かっていたからこそ、千春は偽マスクドメビウスに対してあれだけ強気だったのだろう。






 人間サイズのデッサン人形と言うべき姿になった人型使い魔は、千春から受けたダメージが余程大きいのか地面に倒れたまま起き上がれないでいた。

 その戦闘力は本気でただの人間から毛が生えたレベルであり、恐らくモルドン相手に勝利することは難しいだろう。

 よくこの実力であの人型使い魔が、あそこまで強気にマスクドナイトNIOHへ挑めたかが不思議である。

 恐らくモルドンとの戦闘経験すらも無いだろうから、見かけ倒しの人型使い魔の強さを過信したのかもしれない。

 地面で藻掻いている人型使い魔の姿を観察してみると、そこには先ほどの効果音などを出したと思われる携帯端末が体に括られていた。

 どうやら人型使い魔を指示する魔法少女は、この端末を使って変身時の声と効果音を再現していたようだ。


「…此処からあの効果音が出てたのか、芸が細かいな。 これを辿れば、犯人の魔法少女が分かるか?

 とりあえず人型使い魔を無力化しておきますね」

「仕方ないですね…」

「それじゃあ、これを見ているかもしれない魔法少女くん。 お仕置きの時間といくぞ、歯を食いしばれよ!!」


 犯人に繋がりそうな証拠品も押収できたし、先ほどの例もあるのでこの人型使い魔をこのまま拘束していくのも怖い。

 千春は人型使い魔に止めを刺すために未だに自前に転がるそれに近づき、真美子は悲痛な表情を浮かべながらも止めなかった。

 本音で言うなら千春を止めたい所だが先のホープの件もある、使い魔を無条件で見逃して後で惨事を引き起こす訳にはいかないと心を鬼にする。

 真美子からの静止が無いことを確認した千春は、そのまま人型使い魔の体を踏みつけて固定した。

 必死に手で胸を守ろうとする人型使い魔に対して容赦なく鉄拳を下して、その脆い腕ごとクリスタルを破壊したのだ。

 クリスタルが砕かれる嫌な音とともに、千春は何処から聞こえてきた少女の叫び声を幻聴をした。


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