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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
149/384

3-3.


 マスクドナイトNIOHを撮影に参加する上で、一つの大きな問題があった。

 それは超常の力を持つ魔法少女と同種の力を備える、マスクドナイトNIOHのリアル性能の高さである。

 画面越しに見れば超常の戦士であるマスクドヒーローたちも、その正体はただの見かけ倒しの張りぼてだ。

 そんな視界や動きが制限される撮影用のスーツを相手に、リアルでマスクドをしているNIOHが戦闘シーンを撮ればどのような結果になるか。

 恐らく撮影中に何らかの事故が起きる可能性が非常に高く、制作サイドがそのようなリスクを背負う訳にはいかない。

 この問題を解決するために、篠原監督が率いる撮影スタッフが出した答えがこのもう一体のNIOHである。


「これが撮影用のNIOHスーツ。 本当にこんな物を作ったなんて…」

「はっはっは。 君のマスクドナイトNIOHのデザインは本家マスクドナイトの系列だから、そこまで大変じゃ無かったよ。 既存のスーツを改造するだけで済んだからね」


 彼らは何とマスクドナイトNIOHの僅かな出演シーンのためだけに、撮影用のマスクドナイトNIOHスーツを用意したのだ。

 千春の妹である彩雲が仁王像を参考にして生み出した、マスクドナイトNIOHと言う名前のヒーロー。

 しかしそのデザインは完全なオリジナルでは無く、基本的な造形は"マスクドナイト"を踏襲した物となっている。

 "マスクドナイト"の名前を冠している通り、マスクドナイトNIOHはあくまで本家の"マスクドナイト"から派生した存在と言えた。

 そのため同じように"マスクドナイト"から派生したスーツを用いれば、部分的な改造だけでNIOHとすることが出来たらしい。






 マスクドシリーズで使用する撮影用のスーツは非常に高価な物らしく、おいそれと新造できる代物ではない。

 そのため今回のNIOHのように出番が限られる劇場版限定のマスクドヒーローなどは、既存のスーツを改造することで代用することは良くある話ではあった。

 しかし元となるスーツがあったとは言え、千春の前に現れ改造スーツはほぼ完璧にたマスクドナイトNIOHの姿を再現している。

 参考となる映像は動画サイトを漁れば幾らでも見つかるとは言え、此処まで再現するとは流石はプロの技と言った所か。


「既存のスーツ…。 まさかこれは…、ダークナイトのスーツを改造したんですね。 ダークナイトのスーツがNIOHに生まれ変わった…、これもマスクドシリーズの醍醐味ですね!!」

「…正解です、本当にお詳しいですね」

「うわ、気持ち悪っ…」


 マスクドオタクである千春は一目でNIOHの元となったスーツは、劇場版マスクドナイトに出てきたダークナイトであると見破っていた。

 千春は過去にマスクドナイトと死闘を演じたダークナイトが、NIOHに生まれ変わったことに大して非常に感動しているようだ。

 その千春のガチ振りは関係者から見ても驚きのようで、撮影スタッフの足立は若干困惑している様子である。

 朱美などは完全にその無駄知識に引いているようで、子供のようにはしゃいでいる千春の方に冷たい視線を向けていた。


「初めまして、NIOHさん。 今日の撮影でマスクドナイトNIOHを演じる、納谷(なや)といいます」

「納谷さん!? これまで数々の2号マスクヒーローを演じたスーツアクター様が、マスクドナイトNIOHに!! よ、よろしくお願いします!!」

「スーツアクター?」

「あんな風に撮影用のスーツを着て演じる人の事。 撮影用のスーツを着ながら演じるのは重労働で、そのために日々鍛えている専門家がスーツアクターなんだよ」


 わざわざ千春たちにNIOHスーツを披露するために準備してくれていた、スーツアクターの納谷が右手を差し伸べながら自己紹介する。

 当然のようにスーツアクターの納谷の名前を知っていた千春は、感動の余り声を震わせながら恐る恐るその手を掴みながら挨拶を交わしていた。

 特撮オタクと言う訳では無い白奈は、千春の口から出てきたスーツアクターと言う聞き覚えの無い単語に小首を傾げている。

 そんな白奈に対してスタッフの足立は、わざわざスーツアクターについて解説してあげていた。


「千春さん。 撮影前にスーツの最終チェックをしたいんで、一回変身して貰えませんか。 一度、間近で変身を見てみたいし…」

「あ、丁度いいんでその変身シーンを撮影してもいいですか? 事前にお伝えした通り、特典のメイキング映像で使うかもしれないので…」

「任せて下さい! 最高の変身を見せてやりますよ!!」

「凄い調子に乗っている…」

「千春さん、本当に子供みたいですね…」


 どうやら撮影前に本物のマスクドナイトNIOHと、撮影用のNIOHスーツに差異が無いか確認しておくらしい。

 篠原監督の指示を受けた千春は、喜んでそれに応じて変身をするために一歩前へと進む。

 そんな千春の変身シーンを収めるため、別のスタッフが小型カメラを向けていた。

 劇場版マスクドシリーズのお約束で、後に発売されるDVDには撮影中のメイキング映像が特典として付くのが通例である。

 今回の劇場版の目玉の一つと言うべきマスクドナイトNIOHの撮影風景は、当然のようにメイキング映像に納める事になっていた。

 メイキング映像の件は前もって聞かされていたため、千春はカメラを意識しながら一層気合を入れて何時もの変身ポーズを構えた。










 自らの意思で重労働の撮影スタッフをしているだけあって、彼らは少なからずマスクドシリーズに愛着を持っていた。

 そんな彼らは画面越しでは無い、リアルの変身が見られると聞いて黙っている筈が無い。

 今から千春がマスクドナイトNIOHに変身すると言う話を何処から聞きつけたスタッフたちは、仕事の手を止めて集まり出した。

 何時の間にか千春の周囲にはほぼ全てのスタッフが集まり、彼らの視線は魔法のステッキに見立てた二本指を前に出している千春へと向けられている。


「行きますよ…、変身っ!!」


 魔法学部で行われた年末のイベントで、この何百倍の視線に晒された状態で変身シーンを演じて見せた千春がこの程度で怯む筈も無い。

 腰に赤いクリスタルが埋め込まれたベルトを展開させた千春は、そのまま魔法のステッキに見立てた二本指で大きく円を描く。

 そして二本指が一周した所で、気合の入った声と共にそれを正面に振り下ろした。

 するとベルトの赤いクリスタルが強く光り出し、やがてその光は千春の全身を包み込む。

 光が消え去るとそこには、マスクドナイトNIOHと呼ばれる鎧の戦士が立っていた。


「おおっ!?」

「変身した!」

「本当にテレビみたいに変身するんだなー」

「エフェクトが派手だが、効果音は流石に無しか…」


 彩雲がマスクドナイトと言う作品と、近所の仁王像に影響を受けて生み出したオリジナルヒーロー。

 西洋風の鎧姿の本家マスクドナイトとは異なる、東洋風の赤い鎧姿。

 顔を覆う金属製のマスクには逆ハの字の眉を思わせるアンテナと鋭く吊り上がった目、そして大口を開いているかのような口元のパーツ。

 一瞬の内にマスクドナイトNIOHへと姿を変える、魔法少女の力を宿した千春による文字通りの"変身"シーン。

 画面越しなら兎も角、現実世界でのリアルな変身を目の当たりにしたスタッフたちは口々に驚きの声を漏らしていた。


「いやー、凄いですよ! 動画の方では何回も見ましたが、やっぱり直に見ると違いますねー。 まさにイメージ通りの変身シーンです!!」

「ははは…、それ程でも…」


 千春の変身シーンはこれまで何度もマスクド作品を手掛けてきた篠原監督に取っても、非常に興味深いものだったらしい。

 感心した様子で変身したマスクドナイトNIOHの姿を見渡し、変身シーンを演じた千春を褒めたたえる。

 篠原監督やスタッフからの反応が予想外に大きいため、マスクドオタクである千春は逆に反応に困っているようだ。

 そして更に千春に追い打ちを掛けるように、スタッフたちに紛れて先ほどの変身シーンを見ていた人物が前に歩み寄ってきた。


「謙遜すること無いよ、実にいい物を見させて貰った。 ははは、今日の撮影が楽しみになったよ」

「あ、あなたは…!? マスクドナイトこと士道(しどう) (かける)を演じた…、俳優の中植(なかうえ) 健吾(けんご)さん!?」

「本家マスクドナイト、此処に参上!! 今日はよろしく頼むよ、後輩くん」


 既に台本を何十回と読み込んでいた千春は、彼がこの撮影場所に来ていることを知っていた筈だ。

 しかし事前に知っていたとはいえ、現実に彼が目の前に現れた時の衝撃は千春の予想以上の物であった。

 中植 健吾、かつてマスクドナイトこと士道 駆を演じた、千春に取っての一番のヒーローの登場。

 かつて人々を守る騎士を目指していた若者は、10年以上の月日を経た事で落ち着きを感じさせる大人へとなっていた。

 まさに劇中のイメージ通りの爽やかな笑顔と共に千春の前に現れた健吾を前にして、千春はろくに言葉も出せないような状態となっていた。


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