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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
145/384

2-11.


 喫茶店メモリーに突然現れたマスクドナイトNEXTが起こした乱は、あきらのママの登場によってあえなく終戦となった。

 明らかに切れている母親の圧力に負けたあきらは早々に変身を解いて、そのまま二人仲良く深々と頭を下げることになる。

 その後、朱美の取り成しもあって再び喫茶店メモリーに戻ってきた一同は、今更ながらあきらの事情を知る事となった。

 どうやらあきらの住まいは此処から遠方に位置しており、小学生がおいそれと通える距離では無い。

 今日は親族の集まりと言う理由でたまたま近くまで来ていたようで、この好機をあきらは見逃さなかったという訳だ。


「ああ、それで今日会う事に拘ってたんですね。 次にこの店に来るのは何時になるか分からないから…」

「何時の間にかこの子の姿が見えなくなって、もしやと思ったんですが…。 まさかこんな大事を起しているとは夢にも思いませんでした。

 ほら、あきら! みなさんに謝りなさい!!」

「分かっているよ、ママ。 ごめんなさい…」


 あきらは親族の集まりから上手いこと抜け出して、念願のマスクドナイトNIOHに会いにこの店までやって来たのだ。

 そこからの顛末はご存じの通り、期待を裏切られたあきらが暴走して偶々居合わせたあんずに返り討ちにあってしまう。

 あきらの母親は親戚の家からあきらが消えている事に遅まきながら気付き、すぐに喫茶メモリーに向かったのだと察したと言う。

 最近のあきらはマスクドナイトNIOHに夢中で有り、その中の人である千春が働いている喫茶メモリーのことも詳しく調べていた。

 そんなあきらの様子を日頃から目の当たりにしていた母親が、人知れず消えた子供の居場所に気付かない筈が無い。

 案の定、喫茶メモリーに向かう道中であきらを発見した母親は、こうして何度目になるか分からない謝罪をしていた。


「気にしないで下さい、お母さん。 店の方には被害も無かったですし…」

「そうですよ。 この子は千春さんに会いたい一心で…」

「すみません、すみません…」


 いくら子供がしでかした事とは言え、相手は魔法少女の力を持った子供である。

 結果的に被害という被害は無かったが、運が悪ければ喫茶メモリーの店内が酷い有様になっていたかもしれない。

 母親はその事実をしっかりと受け止めているようで、自分の子供が迷惑を掛けたことに対する申し訳なさで一杯一杯の様子だ。

 仏の心を取り戻した店長の寺下と店員の友香が場を取りそうとするが、母親の謝罪が収まるまではもう少し時間が掛かりそうだ。






 母親の登場で熱が冷めたあきらは、すっかりと大人しくなっていた。

 元々はそこまで悪い子では無いようで、自分の愚かな行為を遅まきながら自覚したらしい。

 それだけマスクドナイトNIOHに対する熱意が強く、期待を裏切られたショックが大きかったと言うことだ。

 あきらは千春と会うことを余程楽しみしていたようで、千春と会ったらやる事リストを作成していた程の気合の入れようである。


「サイン、ツーショット写真、バイクでツーリングに空の旅…、一緒に共闘!?」

「NIOHをどれだけ拘束するつもりだったんだよ…」

「う、五月蠅い! オレだって流石に全部できるとは思ってないさ。 で、でも万が一って事も…」


 話の流れで自身の学習ノートを公開させられたあきらは、あんずと梨歩の前で可愛らしい妄想を暴露されていた。

 意外に綺麗な字で書かれたノートには、あきらが夢に描いていたマスクドナイトNIOHとの様々な行為が箇条書きにされている。

 中には実現不能な内容も含まれており、あんずと梨歩は若干その内容に引いているようだ。


「マジで気合の入った千春のファンだっんだなー」

「あいつも本当に有名人になったわよねー。 こんなに熱狂的なファンが居るんだもの」

「ちょっと分かります、あの子の気持ち…」


 そんな小学生たちのやり取りを見ていた朱美と海翔は、千春を崇拝していると言っていいあきらの姿に困惑していた。

 マスクドナイトNIOHの知名度は今ではそれなりの物であり、あのようなファンが居てもおかしくない事は理解している。

 しかし千春の人となりを知っている彼女たちとしては、あれがあそこまで尊敬されているという事実を受け入れにくいのだろう。

 それに対してマスクドナイトNIOH以降の千春しか知らない佐奈は、彼に強い憧れを抱いているあきらに共感を覚えたようだ。


「そして何より驚いたのは…。 お前、女だったんだな!!」

「そっちが勝手に勘違いしただけだろう。 オレは男って名乗った覚えは無いぞ」

「そんな男っぽい格好をして、一人称が"オレ"なら普通に勘違いするって! 全く、"オレ"とか"僕"とか変な一人称を使う奴はどいつもこいつも…」

「あんず…、それは僕に喧嘩を売っているのかな?」


 その男の子ぽい格好と口調と名前から殆どの人間から男性扱いされていたが、実はあきらの性別は女だったそうだ。

 千春のように他の魔法少女から力を譲り受けた訳では無く、単に彼女自身が魔法少女であったという落ちである。

 よくよく考えて見ればあんずなどがあきらを男と断定して話をしていた時に、彼女は何を言っているのかと怪訝な表情をしていた。

 性別を隠しているつもりの無い彼女としては、男扱いしてくるあんずの対応は理不尽な物だったのだろう。

 あんずは彼女のライバルである梨歩を巻き込んで、あきらの性別を分かりにくくしている独特な一人称を駄目だしする。


「別にオレがどんな喋り方をしても自由だろう! それにスカートとかの女っぽい格好は嫌いなんだよ。

 動きにくいし…、それにあんな格好だとマスクドナイトNIOHのバイクに乗れないじゃないか!!」

「うわっ、本気でツーリングをする気だったんだ。 確かにスカートでバイクに跨れないけどさー」


 あきらのやる事リストにも書かれているツーリング、夢の千春とのバイク二人乗り。

 確かに女の子らしいひらひらとした格好では、彼のバイクの後ろに乗る事は不可能だろう。

 千春とのツーリングを期待して服装まで拘っているあきらのガチ振りに、あんずと梨歩は改めて驚かされていた。


「ツーリング!? 確かにスカートだと千春さんの後ろには…」

「そうそう、変な格好が出来ないのよね…。 お陰で私の普段着はこういうのばかりになったわよ」

「っ!? それじゃあ、朱美さんの普段着は千春さんのために…。 うぅぅぅ…」


 そして小学生たちの会話の内容は、思わぬところで佐奈にも飛び火してしまう。

 佐奈の一度ならぬ憧れた千春とのツーリングであるが、確かにそれをするためには服装は重要である。

 少なくとも彼女が今日のために用意したお洒落なロングスカート姿では、愛する彼のバイクに跨る事は不可能だろう

 それに対して日常的に千春のバイクを移動手段としている朱美は、自然とそれに対応した衣装となっていた。

 朱美と自身の差を改めて突き付けられた佐奈は、ショックの余り意識が一瞬遠のいてしまう。


「…朱美さん! 私、負けませんから!!」

「え…、うん。 そうね…」


 しかし佐奈の千春への思いはそこで挫けることは無く、萎え掛けた気持ちを奮い立たせる。

 その勢いのままに席から突然立ち上がった佐奈は、朱美に向かって大胆にも宣戦布告してきたのだ。

 突然の佐奈の奇行に状況が読み込めていないらしい朱美は、それに対して曖昧な返事しか出来なかった。











 騒がしい喫茶メモリーの店内から一人逃げ出した香は、彩雲たちが居る休憩室へと潜り込んでいた。

 今日の戦果の確認を兼ねて、彩雲たちに対してあきらとあんずの戦闘記録を披露しているようだ。

 休憩室に引っ込んでいた彩雲とその友人の泉美は、あきらことマスクドナイトNEXTの顛末を断片的にしか聞いていなかったらしい。

 彼女たちは興味津々の様子で、マスクドナイトNEXTとあんずとの戦いを眺めていた。


「マスクドナイトNEXTですか…。 うーん、武者鎧も中々いいですね…」

「NIOH様は本当に人気者なんですね。 こんな追っかけが出てくるなんて…」

「NIOHに憧れる魔法少女、マスクドナイトNEXTの登場。 これはきっと視聴者数を稼げるわ、久々にランキング入りとか…」


 後であきらに動画出演の許可を取る必要はあるが、恐らく千春のサインくらいで彼女はOKしてくれる筈だ。

 マスクドナイトNIOHファンのあきらなら、NIOHチャンネルに出られると知れば自ら進んで動画出演を望むかもしれない。

 NIOHの面影を持つマスクドナイトNEXT、華々しい魔法少女の世界では異質と言うべき小さな鎧武者はマジマジで注目を集めるに違いない。

 久々にNIOHチャンネルに熱中している香は取らぬ狸の何とやらで、この動画を投稿した後の評判を夢想するのだった。



今回の話はこれで終わりです。

私生活が年度末進行で少し忙しくなっているので、申し訳ございませんが次の投稿は来週の土曜あたりになると思います。


では。

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