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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
136/384

2-2.


 とある天気の良い休日、この日のために少女は出来る限りの準備をして来た。

 基本的に融通が利かない彼女は、学校の規則に従って休日でも制服を来ているお堅い人間であった。

 そんな彼女が一大決心をしてこの日初めて、規則に背いた私服姿での外出を決意したのである。


「佐奈さん、これはどう?」

「駄目よ、ちょっと派手過ぎるわ。 こ、これなんてどうかしら?」

「ええー、地味すぎるよー。 それじゃあ、制服と大して変わらないって。 僕はこっちの方が…」


 後輩である小学生の少女たちのアドバイスに耳を貸して、何軒もの店を渡り歩いて準備した勝負服。

 清潔な白のニットセーターにロングスカートを纏う彼女は、普段より女性らしさが際立っているように見える。

 見る人が見れば地味な格好と言われるかもしれないが、四六時中学校制服で出歩いていた彼女に取ってはこれでも十分な冒険であった。


「…佐奈さん、顔が怖いよ」

「笑顔だよ、笑顔! 大丈夫、今日の佐奈さんは綺麗だよ」

「あ、ありがとう…、二人とも。 よし、よし!!」


 緊張の余り顔が強張っていた少女、佐奈は同行するあんずと梨歩の小学生コンビのアドバイスを受けて表情を繕う。

 コンタクトに切り替える勇気が持てず、未だにお世話になっている眼鏡を掛け直しながら笑顔を意識する。

 軽く深呼吸をした佐奈は意を決して、開店直後の喫茶店メモリーの扉を開いたのだ。

 全ては佐奈が憧れる男性と再会するため、少女は心臓の鼓動を感じながら店へと足を踏み入れた。


「…え、千春さんですか。 あの人は今日お休みですよ。 数日前から風邪を引いたって…」

「そ、そんな…」

「佐奈さん!?」

「気を確かに持って!?」

「だ、大丈夫ですか、佐奈さん!!」


 そんな佐奈の決意を嘲笑うかのように、本日は彼女の憧れの男性は病欠で店に居ないらしい。

 いきなり出鼻を挫かれた佐奈は衝撃の余り、その場に崩れ落ちてしまう。

 膝をつく佐奈の姿を見て、彼女たちを応対していたバイト店員の友香が慌てて駆け寄ってきた。






 力尽きた佐奈はあんずたちに引き摺られて、とりあえず近くのテーブル席に座らされた。

 佐奈のただならぬ様子を心配してくれたバイト店員の友香に一端下がって貰い、あんずと梨歩は容赦なく彼女を問い質す。


「ちょっと、どういうことなの、佐奈さん!」

「なんでNIOHが病欠したことを聞いてないの? 今日店に遊びに来るって話してたんだよね?」


 今日の外出は佐奈がマスクドナイトNIOHこと千春が働く喫茶店メモリーへ、あんずと梨歩を案内してあげる事が目的であった。

 正直に言えばあんずと梨歩はそこまで喫茶店メモリーに興味は無かったが、あえて喜ぶ振りをして佐奈の提案に乗ってあげた。

 佐奈の方も本音は千春と直接会うために、喫茶店メモリーを訪れる口実が欲しかっただけだと察したからだ。

 そうで無ければあんずと梨歩の案内のためだけに、気合を入れてお出かけ用の私服を準備する筈が無い。

 しかし蓋を開けて見れば、本来の目的と言っていい千春が病欠で店に居ない居ないと言う。

 佐奈が普段から千春とチャットソフトでオタクトークを交わしている事を知っている二人は、本日の病欠を把握していなかった理由を尋ねる。


「れ、連絡してないの、今日お店に来ることを…。 今日は出勤日って事は、前に聞いていたから…」

「えっ!?」

「なんで…」

「べ、別に千春さんは関係ないじゃない。 今日はあなたたちが此処に来てみたいって言うから、案内しただけで…」


 どうやら佐奈はあくまで今日は、あんずと梨歩を案内するという建前を貫くつもりらしい。

 別に千春に会いに来たわけでは無いから、今日の来訪を千春に伝えてなくても問題無いと言うのが彼女の理屈だ。

 しかし単に佐奈が千春に今日のことを話すのを恥ずかしがり、偶然の再開を装うとしていたのは明白だろう。


「うわー、佐奈さん、それは無いよー」

「あの佐奈さんが、学校指定の制服を脱いでまでお洒落したんだよ。 気合入っているのは、バレバレだってー」

「う、五月蠅いわよ、二人とも。 仕方ないじゃない、恥ずかしかったのよーー」


 店に遊びに行くことすら伝えられない佐奈のヘタレ振りに、小学生たちは呆れたような顔つきを見せる。

 容赦なく佐奈に詰め寄る小学生たちを前に、佐奈は力ない声で嘆くのだった。











 それ程広くない店内で姦しく話をしていたら、嫌でも彼女たちの会話の内容は耳に入ったのだろう。

 佐奈たちの会話が終わったタイミングを見計らって、友香が恐る恐る彼女たちのテーブルに近づいてくる。


「あのー、そろそろ注文を取ってもいいですか?」

「あ、すいません。 あ、あの…、千春さんはのお体は大丈夫なんですか?」

「た、多分大丈夫ですよ。 自分で店長に病欠の連絡を入れてますし、店長から聞いた話だと熱はもう下がったらしいです」

「そう、良かった…」


 まだ佐奈たちの注文を聞けていない友香は、店員の役目を果たすために注文を取ろうとする。

 しかしそれより千春の状況が気になる佐奈は、注文の前に千春のことを訪ねてきたのだ。

 またしても注文を遮られた友香だが、人の良い彼女は嫌な顔一つせずに千春について知っている情報を伝える。

 話を聞く限りでは千春の状況はそれ程酷い物では無いらしく、佐奈はとりあえず一安心したようだ。


「佐奈さん、これはチャンスだよ。 病気で苦しむ男の人を看病するのは、アピールポイントが高いよ!!」

「お見舞いだよ、お見舞いに行こう!!」

「ええ、でも迷惑じゃ…」

「あのー、注文は…」


 千春の体調不良を逆にチャンスと見た小学生たちが、ここぞとばかりに佐奈にお見舞いを薦めてくる。

 佐奈の方も千春の見舞うこと自体は満更では無いらしく、言葉こそ否定的だが顔の方は乗り気のように見える。

 そして再び始まったガールズトークに注文を遮られた友香は、このテーブルから注文を取るまでもう少し時間を取られるのだった。



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