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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
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2-1. 「千春の居ない喫茶店メモリー」



 レベルアップする使い魔ブレイブとの一件は、当然のように例の動画にまとめられていた。

 千春の友人である海翔も念願かなって、変なスーツを着た面白友人枠として魔法少女ファンに認知されたようだ。

 本人的には知的なお助け友人キャラを目指したらしいが、傍から見れば完全に色物キャラだったのでその扱いも仕方ないだろう。


「見たか、マスクドナイトの新作。 NIOH、凄かったなー」

「ゲーマー魔法少女との対決だろう。 俺、Treeのゲーム実況好きだったんだよ」

「レベルが足りなかったみたいだなー。 流石はNIOHだ」

「それよりあの変なスーツ男はなんだよ、出しゃばってきてウザかったよなー」


 未だに魔法少女やモルドンと言う異物を受け入れない大人も少なくないが、中学生くらいの年頃であればそれは既に日常の一部である。

 彼らはスポーツや芸能の話と同じレベルで、何の抵抗もなく魔法少女の話を楽しむことが出来た。

 そして好奇心旺盛な若者たちが、刺激的なマスクドナイトの話に興味を持たない筈は無い。

 例の動画が上がった次の日は、彼らの教師の話題は自然とマスクドナイト一色になってしまう。

 今回のエピソードはゲーム好きには有名なゲーム実況者Treeも関わっており、その話題性を後押ししていた。


「モルドンのクリスタルでレベル上げかー。 この調子だと、クリスタルを自分で喰う魔法少女も出てくるんじゃ無いか?」

「ああ、魔法少女って何でも有りだもんな。 それで下手こいて、世界初の人間モルドン誕生って奴だ!!」

「あーあー、女はいいよなー。 俺もあんな力が欲しいなー。 俺だったら使い魔と一体化して戦う良い所どりの…」


 男子中学生にとって魔法少女の力は、俗に"中二"と称される男のロマン的な部分がビンビンと揺さぶられる物であった。

 少し前までそれは女性だけの物だったので、彼らは口では強がりながらも内心では羨ましく思っていた筈だ。

 しかし世界初の男性変身者であるマスクドナイトNIOHという突破口が開けたことで、それは実現不能な夢では無くなった。

 今まで別の世界の話として興味の無い振りをしていた男性たちも、今では積極的に魔法少女の話に混ざる様になった。

 魔法少女の能力ついて考察やら妄想をしながら、男たちの雑談は何時までも続いていく。






 マスクドナイトNIOHの正体が矢城 千春である事が世間に知られた事で、彼の妹である矢城 彩雲の生活は少しばかり変化していた。

 今は家を離れて一人暮らしをしているであるが、ご存じの通り妹の彩雲とは定期的に顔を合わせている。

 NIOHチャンネルのために定期的にイラストを供給するようなり、兄との関りは一昔前より強くなったと言ってもいい。

 そんな関係が深い千春の正体が世間に明かされたならば、彩雲との血縁関係を学校で広まるのは自然な流れである。


「志月ちゃんもマスクドナイトの動画見た?」

「知ってる、志月ちゃん! 彩雲ちゃんって、あのマスクドナイトの妹なんだよ!!」

「ええっ、そうなの!?」


 一時的はクラス内で時の人になってしまった彩雲であるが、飽きっぽい中学生たちの間で話題が長続きする筈も無い。

 病み上がりの志月がクラスに復帰した頃には既にブームは去っており、マスクドナイトの話題に上がる事はこれまで無かったようだ。

 しかしマスクドナイトの最新作の登場によって、再びクラス内で千春と彩雲の関係についての話が出てきた。

 志月にとって彩雲と千春の兄妹関係の話は初耳であったようで、余程驚いたのか悲鳴に近い声を漏らす。


「そ、そうなんだ…。 そういえば名字が同じだもんね…」

「…? 兄の…、マスクドナイトの事が嫌いなんですか?」

「ち、違うの…。 私もあの動画は知っているけど、昔の私には刺激が強すぎて…」

「ああ、分かる、あれって結構生々しいもんねー。 女の子相手に普通に殴るなんて、ちょっと酷いしー」


 マスクドナイトの話題が出た瞬間、志月は傍から見て分かるほどに動揺した様子であった。

 確かに魔法少女を相手に本気で戦っているマスクドナイトの動画は、一部の五月蠅い輩からの抗議コメントが飛び交う程度には過激である。

 少し前まで病院で療養をしていた志月が、その過激な動画を忌避するという話は筋が通っている気はする。

 しかし彩雲が見る限り、先ほどの志月の反応はそれ以上の何かがあるように思えてならなかった。


「マスクドナイトの事は別すれば、他の魔法少女のことは詳しいわよ。 時間だけはあったから、マジマジの動画を沢山見てたの」

「へー、それならマジゴロウの動画とか好き? 可愛い使い魔が一杯出てくるよねー」

「うん、私は…」


 志月に気を使ってか話の流れがマスクドナイトから移り、女子中学生の他愛のない会話が戻って来ていた。

 先ほどの自身が感じた違和感に蓋をして、彩雲は魔法少女の使い魔に関する雑談に加わるのだった。










 中学生の間で話題を独占しているヒーロー、マスクドナイトNIOHこと矢城 千春。

 妹の彩雲が同級生たちと語らっている丁度その頃、彼は非常に苦しい戦いの渦中に立たされていた。

 住まいである安アパートの一室、そこには布団の上で苦しんでいる千春の姿が見える。

 風邪、人類を古来より苦しめてきた万病の源が、高熱とタッグを組んで千春に襲い掛かったのだ。


「く、薬、薬を…」

「○○、○○○○!?」

「ほら、持ってきてやったわよ。 水と一緒に此処に置いておくから、後で自分で取りなさい。 下手に近づいて、風邪をうつされたく無いから」


 携帯で千春の窮地を知らされた朱美は、仕方なく彼のために薬などを持ってアパートにと訪れていた。

 不用心なことに鍵の掛かっていない扉を開いて、玄関から千春に向かって大声で話しかける。

 彼女の視線の先では寝床で苦しむ千春と、その枕元で悲し気な声で鳴くシロの姿があった。

 実にわざとらしく苦しんで見せる千春の姿に若干苛ついた朱美は、少し声を荒げながら千春へと声を掛けた。


「全く、こういうのは身内にやらせなさいよ。 何で彩雲ちゃんに頼まずに、私に…」

「はぁはぁ…、お前はどうせ大学が春休み中で暇人だろう。 それに可愛い妹に病気をうつす訳には…」

「はぁ、私はうつしていいって言うの、バカ春!!」

「ぐはぁ!? こ、こら、中身入りのペットボトルを投げるな!!」


 わざわざ薬を持って来た恩人に対して、暗に風邪をうつしても構わない人材と言われたのが余程頭に来たのだろう。

 朱美は怒りのままに中身が入ったままの薬局の袋を、千春の寝床に向かって投げつける。

 その攻撃を避ける気力も残っていない千春は、袋の中に入っている500mのペットボトルの直撃を受けて悶えるのだった。

 


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