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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
131/384

1-10.


 ある日の大学の教師、教壇の前では白髪が目立つ講師が一本調子で話をしていた。

 まるで催眠術でも掛けているかのように、教室の大半の生徒は机に突っ伏して眠りの世界に落ちている。

 講師の方はそんな教師の惨状には慣れっこなのか、全く動じることなく淡々と講義を続けていた。

 その中で生き残った精鋭の中の一人に、じっと机の上のノートを睨み付けている海翔の姿があった。


「"此処の面は激ムズなの、ノーミスでクリアできるようになるまで苦労したのよねー"」

「ああ、Treeの動画はいいな…」


 残念ながら海翔は耳にワイヤレスのイヤホンを嵌めることで、講師の催眠術から逃れているだけであった。

 海翔はノートを見ている振りをしながら、膝の上に置いたスマホの画面を見ているようだ。

 そこには彼が趣味としているゲーム実況動画、その中でイチオシのチャンネルの新作動画らしい。

 画面の中では若い女性の声による解説と共に、とあるゲームのプレイ風景が流れている。

 そのゲームは海翔も実際にプレイ経験がある物だったので、画面上で行われているプレイはまさしく神業であると理解できた。


「"はい、クリアー。 今日のプレイはまあまあだったな…。 それじゃあ今日は此処まで、チャンネル登録をしてない人は…"」

「うわ、本当にノーミスだよ。 すげーな、Treeは…。 よし、次の動画を…」


 不特定多数に見られることを考えれば、実況者が顔を隠すのは当然の選択である。

 自称女子高生ゲーマーであるTreeもまた、マスクで口元を隠した状態で動画に顔を出していた。

 ゲームをクリアしたTreeは最後にマスク姿で登場して、チャンネル登録をお願いしてくる。

 しかし既に登録済みの海翔は彼女のお願いを途中で止めて、次のゲーム実況動画を漁り始めるのだった。











 千春が共食いモルドンに感じた違和感、それはモルドンらしからぬ共食いモルドンの行動にあった。

 基本的にモルドンは夜の街に現れて、魔法少女に止められるまで破壊行為を繰り返す迷惑な存在である。

 明確な意思を持って行動するモルドンなど、魔法少女のクリスタルを狙う"渡り"のモルドンくらいしか思い付かない。

 しかし共食いモルドンは渡りと同様に、意図的にモルドンのクリスタルだけを狙って行動をしていた。

 渡りと言う前例があるので完全に否定できないが、その行動は普通のモルドンと明らかに異なる物だと言えよう。

 それはモルドンと言うよりは、モルドンに偽装した何かだと考えた方が自然であった。


「NIOHさんは共食いモルドンが、モルドンでは無く使い魔だと予想していたのですか?」

「最初の頃は予想って程じゃ無くて、単なる違和感程度だけどな…。 こいつがその子を相手に手加減している様子を見て、初めてあれが使い魔じゃ無いかって考えたんだ」

「手加減って…」

「うちの子は気が強くって…。 どうやら食事を邪魔されて怒ったみたいで、少しあなたで遊んじゃったみたい」


 千春の読み通りブレイブと言う名前らしい使い魔は、麻乃を直接傷つけるつもりは無かったようだ。

 第三者視点から見てもブレイブと麻乃の差は歴然であり、やろうと思えば勝負は一瞬で付いただろう。

 しかしブレイブは麻乃を倒す事も無く、彼女のクリスタルを奪うこともなく一方的な戦いを続けてた。

 加えて麻乃に対して明らかに致命傷を避けるように気を付けて戦っており、たたのモルドンが人間相手にそこまで気を遣うとは思えない。

 ブレイブの戦い方を訝しんだ千春は、やがてあればモルドンでは無く使い魔であると言う発想に至ったらしい。


「モルドンのクリスタルを喰わせている意図は何となくわかるが、一つだけ確認させてくれ。 君はホープって使い魔のことは知っているか?」

「ああ、知っている! 使い魔がモルドンになっちまった奴だな!!」

「ホープ! そうだよ!!

 おいおい、大丈夫かよ。 使い魔にモルドンのクリスタルを喰わせるなんて自殺行為じゃ無いのか…」


 魔法少女の使い魔がモルドンのクリスタルを取り込むことで成長する前例は、かつて千春が倒した使い魔ホープの事例で証明されている。

 しかしホープはモルドンのクリスタルを通してその性質まで取り込むことになる、最終的にモルドンと同等の存在に成り果ててしまった。

 まだ名前も聞いていないマスクで顔を隠した魔法少女は、モルドンに偽装させた鳥形の使い魔に対してホープと同じようにモルドンのクリスタルを喰わせていると言う。

 ホープの顛末を知っていればその行為は自殺行為であるのは明白なので、千春がホープの例を出して少女の真意を確認する。


「勿論知っているわ。 だから私はこの子に有る能力を付けた。 モルドン化を防ぐってね…」

「ああ、それでホープの二の舞を回避しているのか。 モルドン化を防げれるならば、こいつはモルドンのクリスタルを喰えば喰うほどに強くなる」

「何かゲームのレベル上げみたいだなー。 モンスターならぬモルドンを倒して、経験値ならぬクリスタル集めか…」


 どうやらホープの一件は鳥型使い魔を使う魔法少女も把握しており、既に対策を施しているらしい。

 魔法少女の能力はリソースの範囲内であれば、魔法少女の想像をそのまま具現化することが出来る。

 彼女はホープの二の舞を避けるため、わざわざモルドン化を防ぐと言う能力をあのブレイブと言う名の鳥形使い魔に施したらしい。

 つまりブレイブは最初からモルドンのクリスタルを喰らわせることを前提とした使い魔であり、ホープの二の舞にはらならないと言うのだ。


「ホープの件を知ってると言うことは、結構最近に魔法少女になったんだな。 まあやりたいことは分かるけど、何でそんな見た目にしたんだよ」

「目立ちたくなかったのよ。 モルドンに似せておけば、目立たないと思ったんだけど…。

 それにこの子の本当の姿はこれよ」

「お、色が変わった? へー、カラーチェンジか。 ますますゲームっぽいな…。

 ん、ゲーム? そういえば…」


 少女が指で音を鳴らした瞬間、ブレイブの黒一色の見た目が炎の様に鮮やかな赤色に変わったのだ。

 恐らくこれがブレイブと言う使い魔の本来の姿であり、共食いモルドンの姿は何処にも見えなくなった。

 モルドンのクリスタルを利用した強化に加えて、カラーチェンジの能力を有する鳥形の使い魔。

 確かにこの使い魔ブレイブは、何処かゲーム的な要素を取り込んだ存在と言えるかもしれない。

 ゲーム実況系のジャンルを好む海翔は使い魔ブレイブについて感心した様子だったが、何かに気付いたのか表情を一変させる。


「な、なあ…。 俺、君の声に聴き覚えがあるんだけど…」

「!? 何よ…、突然。 用は済んだし、私はこれで帰る…」


 恐る恐る問いかけた海翔の質問を受けて、魔法少女はまさに意表を突かれたという感じであった。

 少女は見るからに狼狽した様子となり、急にこの場から逃げようとする。

 黒いマスクで顔を隠して現れた所といい、この鳥型の使い魔を連れた少女は何か隠したい秘密でもあるのだろう。


「いや、普段の動画と違うマスクだったから最初は分からなかったけど…。 もしかして君、Tree(ツリー)って名前で動画をあげてないか?」

「動画? マジマジのか?」

「違う違う、ゲーム実況のチャンネル! この子は有名ゲーム配信者! 女子高生ゲーマーのTreeだよ、本物だぁぁぁ!!」

「はぁぁ、マジかよ…」


 そして彼女が隠そうとしていた秘密は、千春の友人である海翔によって暴かれてしまう。

 Tree(ツリー)、彼女はその名前で活動している有名ゲーム実況者であるらしい。

 ゲーム実況関連には余り詳しくない千春たちを尻目に、海翔はまるで芸能人にでもあったかのように興奮してしまう。

 海翔と対照的に額に手を当てながら落ち込む少女の姿を見れば、海翔の考えが的外れてないことを証明していた。




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