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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
130/384

1-9.


 魔法少女やモルドンと言う異物が日常に入り込んで10年以上経ち、麻乃が物心ついた頃かそれは彼女の傍に居た。

 しかし麻乃にとって魔法少女と言う華やかな存在は、正直言って余り魅力的な物では無かった。

 彼女が魔法少女に好意的では無い理由の一つは、彼の少し年の離れた兄の影響が大きいだろう。


「おお、NIOHすげーな! アヤリンと共闘して、渡りのモルドンとの再戦かー、燃えるぜー!! 」

「はぁ、またやっている…。 正月から飽きもせず…」


 アメリカ映画ならギーク役がお似合いな麻乃の兄は、随分と前から魔法少女の世界にどっぷり嵌っていた。

 人目を憚らず携帯で魔法少女専門動画サイト"マジマジ"を楽しむ兄の姿を見て尊敬できる妹が、この世界にどれだけ居るだろうか。

 最近お気に入りらしいマスクドナイトとやらの動画を見ている兄の姿を、麻乃は頬杖を突きながら白い目で眺めている。

 麻乃は魔法少女に夢中になる兄の姿を反面教師として、なるべくその手の物には関わらないように今日まで生きてきた。

 流石に互いに全く口を利かない程に仲が悪い訳では無いが、互いに殆どコミュニケーションを取らない距離を置いた兄妹と言うのが彼らの関係である。

 そんな疎遠な兄妹の仲に転機が訪れたのは、この翌日の事であった。






 噂によると彼女が住む街の先代の魔法少女は、念願の彼氏が出来たことを機に魔法少女の活動をすっぱりと止めたらしい。

 魔法少女が居なくなったことでモルドンの被害が出るようになった街の住民たちは、新たな魔法少女の誕生を願っていた。

 麻乃も新しい魔法少女を待ち望む者の一人だったのだが、彼女の願いは予想外の方向で叶えられることになる。

 何と正月を迎えて数日経った頃、麻乃の元にお年玉ならぬ魔法少女の力が届けられたのだ。


「最悪、何で私が魔法少女なんかに…」

「すげーぞ、麻乃。 俺の妹が魔法少女…、いいぞ、いいぞ!!」


 他の魔法少女たちの例と同様に、麻乃は自分の中にこれまでに存在しなかった何かあることを感覚的に理解していた。

 少しネットで調べれば魔法少女の実体験談は幾らでも転がっており、まさに今の麻乃はそれと同じ体験をしているのだ。

 麻乃は心底悩んだ末に、嫌々ながらこの手の話には無駄に詳しい兄の助けを借りることにした。

 予想通り兄は実の妹の魔法少女の目覚めを狂喜しており、まるで自分が魔法少女になったかのように喜びだす。


「麻乃、どんな能力にする! 無難なのは使い魔系かな、お前は運動神経が良いから自分で戦う能力も…。

 そうだ、マスクドナイトみたいにスーツタイプの衣装に変身してみるか! NASAみたいにアメコミスタイルでも…」

「…兄貴、そんなに魔法少女が好きなら、この力をあげる? 私は本当に要らないから、多分全部渡せるわよ」


 能天気に笑う兄の姿に苛ついたらしい麻乃は、兄が大好きなマスクドナイトNIOHと同じ事をするかと尋ねてみた。

 魔法少女に詳しくない麻乃でも、流石にあのマスクドナイトNIOHのことはある程度は知っている。

 彼は他の魔法少女から力を譲渡される事でマスクドナイトNIOHとなった、世界初の男性変身者だ。

 魔法少女の力に未練が無い麻乃は、マスクドナイトと同じように自分の力を兄に全て丸投げしようと言う考えらしい。


「えっ? いや、それは…。 お、俺はどちらかと言えばサポート向けだ。 お前の方が運動神経がいいんだし、俺はお前のバックアップに…」

「はぁ…」


 麻乃の持ちかけた提案に対する兄の反応は、残念ながら彼女の予想通りの物であった。

 小太りで万年文化系の兄はマスクドナイトに憧れていても、自分がそれと同じ存在になって戦うことなどは夢にも思わないだろう。

 事実上モルドンと共存している現代において、魔法少女にしか対抗できないその異形の怖さは兄も身に染みている。

 格好悪く言い訳をしながら戦いを拒絶する兄の情けない姿を見て、麻乃は自然と長い溜息を吐いてしまう。

 結局、麻乃は兄に魔法少女の力を押し付ける事も無く、その力を捨てる事もしなかった。


「まあ、これでいいかな…。 まさか小学生の頃の夢が今頃になって叶うとはなー、はぁ…」

「魔法少女はインスピレーションが大事なんだ! 子供の頃の憧れを実現するのは、中々良い選択だぞ思うぞ!!」


 小学生低学年の頃に大好きだったゲーム、その主人公の姿を真似たファンタジーな姿が麻乃が手に入れた魔法少女の力である。

 光るクリスタルが嵌った長剣を持ちながら、麻乃はままならない人生を前に何度目になるか分からない溜息をつく。

 そして勝手に撮影係兼サポート役を名乗り出た兄と共に、地元の平和を守るために魔法少女としてモルドンと戦う日々が始まった。










 年明け辺りから魔法少女を始めた、新米魔法少女の麻乃に取って今宵は予想外の事ばかりが起きた。

 街をパトロールしていた彼女はその日、偶然にも空を飛んでいく鳥形モルドンの姿を目撃したのだ。

 ほぼ夜空と同化している黒い怪鳥の姿を見つけられたのはまさに幸運であり、麻乃たちはすぐさま後を追った。

 結果だけ言えばその偶然はは幸運どころか、不幸の始まりだったことは言うまでも無い。


「あれ、モルドンよね! ああ、行っちゃう!!」

「町外れの方に飛んでいく? 追うぞ、麻乃」


 黒い怪鳥が飛んで行った方向に向かった麻乃たちは、気付かない内に街区を超えて隣の街に入ってしまう。

 やがて麻乃たちはこの田舎道の道路に辿り着き、鳥形モルドンに奇襲を掛けたことでその食事を邪魔したのだ。

 そして麻乃の鳥形モルドンとの戦闘が始まり、彼女はそのモルドンに一方的に倒されてしまった。






 まだ魔法少女としての経験が浅いとはいえ、麻乃もこれまでに街に現れたモルドンを何度か倒してきている。

 その経験と照らし合わせてみれば、この鳥形モルドンが異常な存在であることは理解できていた。

 そしてどう見てもモルドンにしか見えない黒い体の大型鳥は、突然現れた見知らぬ少女が言うには使い魔だと言うのだ。


「えっ…、その鳥ってモルドンじゃないの?」

「うん、これは私の可愛い使い魔なの。 ごめんね」

「はぁぁぁ、そんなの有りかよぉぉっ!!」


 突然の展開に麻乃は二の句が継げなくなり、彼女の心情を代弁するかのように兄が絶叫をあげていた。

 黒いマスクで顔を隠した如何にも怪しげな少女は、その言葉通りモルドンにしか見えない黒い怪鳥を従わせている。

 ただのモルドンが大人しく人間に従う筈も無く、あれがモルドンでは無いという何よりの証拠であろう。


「…悪いが俺たちも話に混ぜてくれないか」

「その顔…、見覚えがある。 どうしてこんな場所に、マスクドナイト様が居るの?」

「ふふふ、調査活動の一環と言う奴ですよ」

「切っ掛けが俺が持って来た情報なんだぜ。 俺はこいつの古いダチでなー」

「何なのよ、これは…」


 そして状況が読み込めない麻乃に対して更に追い打ちを掛けるように、更なる登場人物がこの場に姿を見せたのだ。

 彼らの先頭に立つ二十歳くらいの青年の顔を見た、ブレイブと言う名の使い魔を従える少女の表情が一変する。

 マスクドナイト、それは魔法少女歴の浅い麻乃にも聞き覚えある程度には有名人だ。

 麻乃もすぐにその男の正体に気付き、これが噂のNIOH案件と呼ばれる状況に巻き込まれた事を理解する。

 眼鏡を掛けた優男を奇妙なスーツを着た男を左右に従えたマスクドナイトの出現に、ますます混沌が深まっていった。


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