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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
127/384

1-6.


 千春たちが初めて共食いモルドンを目撃した夜が明けた翌日、彼らは喫茶店メモリーに集まっていた。

 テーブル席を繋げて陣取った彼らは、机の上に置いたパソコンに映し出されている昨夜の映像を見ている。

 研究会が撮影していたそれは、それなりの機材を使ったようではっきりと共食いモルドンの姿が捉えられていた。

 その画面の中には急降下ダイブで昆虫型モルドンを貫き、そのまま右腕に埋め込まれたクリスタルを奪った共食いモルドンの姿が映し出されていた。

 素晴らしい手際の良さでモルドンを片付けたそいつは、クリスタルを咥えたまま再び空へと消えてしまったのだ。

 千春たちが呆気に取られて見ているしか無く、後に残されたのは昆虫型モルドンの残骸だけであった。


「何度見ても凄いな、これは…」

「時間にしたら1分にも満たない早業ですよ…」


 共食いモルドンの姿を確認した上で、こうしてモルドンに対する捕食シーンの撮影にも成功した。

 昨夜の遠征は一応は成功だったと言えるだろうが、千春たちには達成感はなかった。

 それ程までに共食いモルドンのインパクトは大きく、この証拠映像が無ければ夢でも見ていたと思える程だ。

 既に何十回とその映像を繰り返し見ているのだが、彼らは飽きもせず映像をループさせ続ける。


「凄いですね…、これが共食いモルドンって奴ですか?」

「お、ウィッチちゃーん。 ああ、これがそうだよ。 いやー、凄い迫力だったぜ。 ウィッチちゃんも来ればよかったのに…」

「すいません、私は今日学校があったので…」


 昼過ぎから始めた喫茶店メモリーでの反省会は白熱している内に、何時の間にか学校帰りの友香が店に現れる時間帯になっていた。。

 海翔の誘いを断って昨夜の遠征に不参加であった友香は、映像越しであるが初めて共食いモルドンの姿を目撃することとなる。

 春休みに入った学生たちとは違って現役高校生である友香にはまだ学校があり、流石に平日に街の外まで出る訳にはいかないのだ。


「ははは、まあ高校生以下は夜遊び厳禁って事だよ。 昨夜はこいつもお留守番だったから仕方ないさ…」

「えっ、シロちゃんも行かなかったんですか?」

「少し前に怖い看護師さんから釘を刺されてな…。 こいつの中の人を夜遅くまで付き合わせるなって、怒られたんだよ」

「○○…」


 千春と相棒的存在である白いぬいぐるみ調の使い魔シロ、その生みの親は現在病院で長期療養中の白奈という病弱な少女である。

 使い魔のシロを通して千春たちの活躍と特等席で観戦している白奈は、必然的にシロが活動している時間帯には常に起きている状態だ。

 そして基本的に夜にしか現れないモルドンを相手にするため、場合によっては深夜近くの活動を強いられることがある。

 今までは白奈のことを知らなかったこともあり、千春はシロを夜遅くまで付き合わせる事が度々あったのだ。

 しかし白奈の病気の事を知った今では昔の様にはいかず、前に彼女の病院へ見舞いに行った時に看護師に注意されてしまっていた。

 それもあって昨夜の遠征はシロは不参加であり、この使い魔は若干不機嫌そうに撮影した映像を見ているのである。


「シロちゃん、残念だったね。 これは生で見た方が迫力あっただろうな…。 本当にこんなに早くモルドンを倒すなんて、普通じゃないですよ…」

「これをマジマジであげたら、反響が凄いだろうな…」

「香ちゃんが居なくて良かったわね。 少し前のあの子だったら、後先考えずにこれを投稿して視聴者数を稼いでいたわよ…」

「はははは、あいつなら絶対やるなー」


 ウィッチとして今でもモルドンと戦っている現役の魔法少女から見ても、共食いモルドンの早業は異常な物らしい。

 こんな異常なモルドンは誰も見たことが無く、本当にマジマジ辺りに投稿でもしたらランキングトップは余裕だろう。

 NIOHチャンネルの主である香は現在、母親のご機嫌取りのために勉学に励んでおりNIOHチャンネルの活動を抑えている。

 今の香なら問題無いだろうが、マジマジにのめり込んでいたかつての彼女がこの映像を手に入れたら恐らく極端な行動に出ていたろう。

 最近は自分と余り顔を合わせておらず、代わりに妹の彩雲とよく会っているらしい香の暴走している姿を想像して千春は面白がった。











 個人経営である喫茶店メモリーの営業時間は短く、あと少しで閉店時間となってしまう。

 今日は仕事が無いので客として店に来た途中参加の友香を交えた反省会も、そろそろ結論を出す時間帯となった。

 途中で話が脱線してしまい千春たちの高校時代の暴露話などにも発展したりもしたので、千春は無理やり流れを軌道修正して当初の話題に戻す。


「…さて、そろそろ本題に戻ろうぜ。 とりあえず俺たちは当初の目的通り、この共食いモルドンを見つけた。

 昨日の様子を見る限りこいつはモルドンのクリスタルにしか興味が無く、他のモルドンみたいに破壊活動はしない」

「あの街の魔法少女に確認してみましたが、昨晩に街での事件や事故などは全く無かったそうです。 この鳥形は、本当にクリスタルだけを奪って消えてようですね」

「街では少し前からモルドンが出なくなり、モルドンの被害が全く無かったと言う。 恐らく昨夜のように、この共食いモルドンが人知れずモルドンだけを倒していたからだろう。

 状況的にこのモルドンは、人類には害を成さない特殊なモルドンって事だな」


 あの街を縄張りとしている地元の魔法少女が言うのだから、本当にモルドンの被害が全く出ていないのだろう。

 街に被害を出す事なくモルドンのみを捕食する共食いモルドンは、人類側から見たら益虫と呼べるかもしれない。


「こいつが"渡り"と繋がりがあるとも思えないし、人に迷惑が掛かってないなら俺はこのまま放置でいいと思うぞ」

「えぇー、もう終わりかよ。 折角だし、もう少し調べてみようぜ。 そうだ、もしかしたらこいつを調教して、マスクドナイトの新戦力にするのも…」


 渡りとの繋がりも無く人に害を与えない共食いモルドンを、千春はこのまま放置しても構わないと判断したらしい。

 共食いモルドンの話を持ち込んだ張本人である海翔は不満そうだが、千春としてはこれ以上は関わる必要が無いように思えた。

 完全に思い付きで言っている海翔の悪あがき染みた提案を無視して、このまま話を終わらせようとする。


「…いいえ、まだ調査は必要よ。 こいつには大きな謎が残っている」

「何故、モルドンの出現位置が分かったかですね。 事前にモルドンの出現を察知してなければ、あれほど鮮やかな奇襲は無理です」

「っ!? そういえば…、あのモルドンはウィッチみたいにモルドンの出現を予測できるのかよ?

 魔法少女の同等の能力が使えるモルドン、それって渡りと同じじゃ…」


 千春の意見を否定した朱美と研究会の浅田は、共食いモルドンについての大きな謎に言及する。

 基本的にモルドンは魔法少女の下位互換であり、彼女たちのように多彩な能力を持つことは無い。

 千春の知る限り魔法少女と同じ力を持つモルドンは、クリスタルを捕食することで彼女たちの能力を取り込んだ"渡り"くらいしか存在しない筈だ。

 しかしよくよく考えて見たら昨夜の共食いモルドンは、明らかにあの昆虫型モルドンの出現が分かっていた。

 渡りと同じように魔法少女と同等の能力が使える共食いモルドンに対して、千春はある嫌な想像が書きたてられた。


「こいつは今はモルドンのクリスタルしか興味が無いようだけど、昔はどうだったのかしらね?」

「渡りと同じように、魔法少女のクリスタルを捕食して能力を取り込んだのか? まさかそれは…」


 朱美も今の千春と同じように、共食いモルドンが魔法少女のクリスタルを捕食した可能性に至ったらしい。

 渡りと言う前例を考えれば、共食いモルドンの能力の種が魔法少女のクリスタルであると考えるが自然だろう。


「ついでにもう一つ、どうやらこいつは活動範囲を広げているようよ。 あの街の周辺を調べて見たら、同じようにモルドンの出現が減ったことを不思議に思っている魔法少女が居たわ」

「その中には弱小ですがマジマジで活動している子もいました…、このまま放置していれば近いうちに世間にばれますね」

「…もう少し追ってみるしか無いのか」


 共食いモルドンが活動範囲を広げているとなれば、それだけ他の魔法少女たちと遭遇する機会が増してしまう。

 魔法少女を襲った可能性がある危険なモルドンを魔法少女に近づける訳には行かないので、朱美の言う通りもう少しだけ共食いモルドンに付き合う必要があるだろう。

 思ったより話が複雑になっていることを理解した千春は、恨めしそうな表情で一連の流れの切っ掛けを作った友人の顔を睨みつけた。



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