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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第三部 "渡り"事変
123/384

1-2.


 千春の高校時代の友人が店に来たことを知った店長の寺下は、気を利かせて千春を早上がりさせてくれた。

 今日やる予定だった通販関連の雑務は当然ながら残っているが、明日以降の作業で十分に後れを取り戻せる筈だ。

 寺下の好意を素直に受け取った千春は私服に着替えて、そのままメモリー店内で友人の海翔との会話を楽しんでいた。

 話の内容は主に海翔の大学生活の話であり、大学に縁のない千春には興味深い話である。

 恐らく話の何割か盛っているのだろうが、それを差し引いても一度限りの大学生活を満喫している様子が目に浮かぶようだ。


「大学か…、相変わらずそっちは楽しそうだなー」

「お前も頑張れば、うちの大学くらいは受かっただぜ? 高校時代、受験勉強もしないでバイトばかりしてたら受かる筈も無いだろう…」

「五月蠅いな…、もうその話はいいんだよ」


 千春と仲が良かった海翔は高校時代、どちらかと言えば劣等生寄りの生徒であった。

 そんな彼でも真面目に勉強をしていれば大学受験に勝ち残り、こうして大学生活を満喫出来ているのだ。

 母親との確執もあって早々に受験を放棄した千春としては、海翔の今の姿は違う選択肢を通った自分と言えるかもしれない。

 高校の時に自分が選んだ道に後悔は無いかと言われれば迷う所であり、千春は胸の中にモヤモヤした感情が沸き上がる。


「はい、千春さん。 これは店長からのサービスです」

「おう、悪いな」

「ふふふ、随分と話が弾んでますね。 私、驚きましたよ。 千春さんに男の人の友達が居たなんて…」

「おいおい、どういう意味だよ…」


 友人と語らう千春たちのテーブルに、店員の友香がサービスのコーヒーゼリーを運んできた。

 去年から千春との付き合いが始まった友香は、朱美以外の千春の高校時代の知り合いを見るのは初めてである。

 マスクドナイトとしての千春しか知らない友香から見れば、千春は年下の魔法少女たちや朱美とばかり絡んでいた。

 千春と関りのある男性と言えば友人とは言い難い魔法少女研究会の面々や、この店の店長である寺下くらいしか思い浮かばない。

 そんな千春が同年代の男性と楽しそうにしている姿は、友香にとっては非常に新鮮な光景であったのだ。


「はははは、学生時代にこいつとつるんでいた連中は全員進学してな…。 今は新天地で楽しくやってるんだよ。

 こっちに残ったのは、あの新聞部だけだろう?」

「卒業した直後はちょくちょく帰ってきたのに、去年は全然帰ってこないもんな…。 俺は寂しかったぞ」

「悪かったって。 俺はバイトやら何やらで忙しかったんだよ」


 高校を卒業した直後は、高校時代の友人たちは頻繁に地元に戻ってきて千春と遊んだものである。

 しかし大学生活が二年目に突入すると忙しくなるのか、昨年は千春の友人たちが殆ど帰らなくなってしまう。

 この海翔も昨年は殆ど大学近くの下宿先で生活しており、一人地元に残された千春は寂しい思いをしていた。


「…そもそも、その格好は何だよ? 就職活動にはまだ早いだろう」

「ふっ、久々に友と会うんだ。 正装しないと失礼だろう」

「正装って…。 そういえばお前、注文の時にもちょっと変だったらしいぞ?」

「ええ、変って…」


 友人との再会という衝撃もあって失念していたが、そもそも千春がこのテーブルに来た理由は海翔の奇妙な姿や行動にあった。

 当然ながら千春の知る海翔は普段からスーツを着用するおかしな奴では無く、喫茶店内で演劇のような振る舞いをする奴でも無い。

 一体何を思って友人がそんな奇行に走ったか分からず、千春は単刀直入にその真意を尋ねる。

 しかし当人の方は自分の奇行に気付いて無いようで、友人の指摘を受けて怪訝そうな顔を見せた。


「お前、何でそんな怪しい事をしたんだよ。 ウィ…、家の店員が警戒してたぞ」

「ふっ、お前の友人枠って事で、俺も何時動画に出るか分からないだろう? 間抜けな様子を取られたくないから、少し気を使ってみたんだが…」


 どうやら海翔は千春の知らない所で無断で投稿されている、マスクドナイトの活躍を収めた例の動画の事を意識していたらしい。

 例の動画はプライバシー保護のためか、動画に登場する人たちは目線加工などが施されて素性が隠されている。

 しかしそれは千春自身やその関係者には適応されず、仮に千春の友人枠である海翔が動画に出番があるなら恐らく素顔での登場になるだろう。

 この千春の友人は何処から撮られているか分からない動画を意識して、お洒落スーツ姿で一人痛い演技をしていたという事だ。


「馬鹿か、お前! そんな事を考えてたのかよ…。 って、ちょっと待て!? なんでお前が例の動画のことを?」

「千春、あんな物が隠せる訳無いだろう…。 よっ、マスクドナイト様! ははは、仲間内だとお前はすっかり有名人だぜ」

「えぇぇ、もしかして他の連中もあれを見たのかよ!? マジかよ、止めてくれよぉぉぉ!!」


 千春はようやく海翔の意図に気付いた、友人の考えなしの行動に頭を抱えてしまう。

 しかし遅まきながら海翔がマスクドナイトの事を口にしたことに気付いた千春は、そんな些細なことなど頭から消えてしまっていた。

 そして海翔の言葉が本当であれば、他の友人たちも同様にマスクドナイトについて把握していると言うでは無いか。

 予想外の衝撃を受けた千春は思わず、店内で絶叫をしてしまった。






 千春は地元を離れた友人たちと今でも定期的に連絡を取っているのだが、実は昨年から始めたマスクドナイトの件は全く話していなかった。

 流石の千春も同年代の友人に対して、自分が変身ヒーローになった事を伝えるのは恥ずかしかったのだ。

 腐れ縁の朱美や年下の魔法少女たちならと比べて、同い年である男友達にマスクドナイトの話をするのは逆に抵抗があったらしい。

 そのため千春は今でも海翔や他の仲間たちには、自分の秘密が知られていないと信じていた。


「酷いんだぜ、友香ちゃん。 こいつ、俺にマスクドナイトことを黙ってたんだぜ。 このことをもっと早くに知ってたら、夏休みもこっちに戻ってたのに…」

「言える訳無いだろう!? フリーターやりながら変身ヒーローやってるなんて!! ああ、もう駄目だぁぁぁっ!?」


 残念ながらマスクドナイトの存在は千春の予想以上に広まっており、故郷を離れて大学生活をしている海翔の耳にも伝わってしまった。

 そもそも香と共にマジマジという狭い世界の中で動画活動をしていた頃なら、海翔が千春の秘密を知る事は無かっただろう。

 しかし例の動画がマジマジ以外の動画サイトにも投稿されるようになった事で、今ではマスクドナイトの存在はマジマジの外まで広まっている。

 スマホなどの電子機器が必需品である今時の大学生である海翔が、ネット上を騒がせたマスクドナイトを見逃す筈が無いのだ。

 そこで自分の高校時代の友人が、恥ずかし気も無く変身ヒーローをやっている事を知った海翔の衝撃は相当な物だったろう。

 同年代の友人たちに変身ヒーローをやっている事を知られた事が余程堪えたのか、千春の胸の内が絶望で満たされていた。


「千春ー、来てやったわよ。 あれ、あんたは千春とつるんでいた…」

「よう、新聞部! 動画見たぞ、千春との仲は相変わらずだなー」

「腐れ縁よ、腐れ縁。 森田、こっちに戻ってきてたんだ?」

「昨日な、そっちも大学は休みに入ったのか?」


 衝撃の事実に千春が打ちのめされている所に、またしても高校時代の同級生が喫茶店メモリーに現れた。

 自ら腐れ縁と称するように千春との関係が深い朱美は、当然ながら海翔のことを知っていた。

 千春を通して二人はそこそこの面識があるようで、未だに落ち込んでいる様子の千春を無視して朱美と海翔は世間話を始めるのだった。


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