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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第一部 魔法少女専門動画サイト"マジマジ"
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4-2.


 この世界で魔法少女と呼ばれている少女たちだが、彼女たちが使う異能が魔法であるとは限らない。

 不可思議な現象を魔法という言葉に一括りにしまうと言う考え方もあるが、流石に銃火器をぶっ放す少女を魔法少女と呼ぶには違和感がある。

 結局の所は魔法少女と言うのは単なる呼称であり、その力の有り方は少女たちのインスピレーションによって千差万別。

 その中には千春が被害にあった、あの奇妙なぬいぐるみのような存在を生み出すことも可能だろう。


「察するにその白いのは、魔法少女が生み出した使い魔タイプの力。 能力は乗り物への憑依ってところかしら?」

 近くで魔法少女が操っていたのか、それとも自律していたのかは分からないけどね…」

「魔法少女ね…、一体何の用があって俺のバイクを…」

「お兄さんがあのNIOHだって知っていてやったのか、それとも偶然お兄さんが悪戯のターゲットにされたのか…」


 現実の世界に生まれた魔法少女たちが全て正義の味方である筈も無く、中にはその力を使って悪事をする輩も居る。

 自分の力を使って犯罪同然の悪戯行為をマジマジに投稿して、炎上している趣味の悪い魔法少女も普通に居るくらいだ。

 あの白い奴の親とも言える魔法少女もそれと同類で、千春は顔も名前も知らない彼女に遊ばれたのかもしれない。

 しかし仮に千春を狙った犯行だとして、白い奴の親が千春の正体がマスクドナイトNIOHであるかどうかで話が変わってくる。

 魔法少女と同等の力を持つ存在にちょっかいを掛けたりしたら、それは冗談ではすまない結果になるからだ。


「ふん、やることは変わらないさ…。 俺はあの白い奴から愛車を取り返す、ついでにクリスタルを破壊してお灸を据えてやるぜ」

「"ノックアウト"狙いか…、まあ魔法少女通しの喧嘩なら、それも仕方ないのでしょうね…」


 夜の闇と共に現れる人類の害敵モルドン、その核と言える黒いクリスタルを壊されたら奴らの体は一分と持たずに消滅してしまう。

 それならば奴らのそれと同等の、魔法少女たちの力の源であるカラフルなクリスタルを壊されたらどうなるか。

 モルドンと同様に魔法少女は命を落とすのかと言えばそうでは無く、彼女たちは単なる気絶で済むらしいのだ。

 同じクリスタルを持つ者でありながら、一方は即死亡で一方は気絶だけという理不尽な差ではあるが現状のこの世界のルールはそのように適応されていた。

 魔法少女は力の源であるクリスタルを破壊されると、その衝撃を受けて意識を失ってしまうという。

 その崩れ方をボクシングのそれに見立てて、"ノックアウト"と言う呼び名が世間では定着している。


「千春、あんたも気を付けなさいよ。 あんたが万が一にもその自慢のベルトを壊されたら、ノックアウトするのは天羽ちゃんなんだからね」

「そうです、本当に気を付けて下さいよ、お兄さん! ネットの噂だと、ノックアウトする時は凄く痛いっていいますし…」

「分かっているよ、流石にその位は重々承知だ…」


 ノックアウトによるダメージは、その大本である魔法少女に行き着くになる。

 仮に千春のマスクドナイトNIOHの力の源であるベルトのクリスタルを破壊されたら、ノックアウトは彼に力を与えた少女の元へと届く。

 あくまで魔法少女の力を譲渡されている千春には、決してその衝撃は伝わることが無いのだ。


「ふふふ、しかし相手は魔法少女ですか…。 もしも相手がお兄さんのことを知らずに手を出していたら、とんだ不幸ですよね…。

 逆にこっちは幸運、魔法少女通しのバトルなんて絶対視聴者数を稼げるわよ! お兄さん、頑張ってね!!」

「あー、一応言っておくけど、ちゃんと壊したクリスタルは回収するのよ。 後で交渉に使えるから…」

「分かっているさ、その位は…。 俺を弄んだ魔法少女が、どんな顔であの白い奴の残骸を回収に来るのか楽しみだよ」

「うわー、お兄さん。 若干、S気が入っている…」

「いやー、千春くんはあのバイクを大事に乗っていたからね…」


 流石にモルドンとの格差があんまりだと思ったのかは知らないが、魔法少女のクリスタルを壊された時のペナルティはノックアウトだけでは無かった。

 一度壊されたクリスタルは修復するまでに数か月を要するという話で、その期間は魔法少女はただの人と変わらなくなる。

 加えてクリスタルが修復される条件は、持ち主である魔法少女の手元にあることらしい。

 そのため仮に破壊されたクリスタルを奪われでもしたら、その魔法少女の力は下手をすれば永遠に戻ってこなくなる。

 愛車を奪われた千春はその恨みを晴らすため、顔も名も知らない魔法少女の力を奪い去る気のようだ。

 自分の力を失った魔法少女の姿でも想像しているのか、不気味な笑みを浮かべる今の千春の姿は正義の味方(マスクドナイト)とはかけ離れていた。











 とりあえず方針らしき物は決まったが、そもそも肝心の相手は何処に居るかは分からない。

 闇雲に探し回っても意味が無いので、天羽たちはSNSなどを通じて空飛ぶバイクの情報収集を始めていた。

 しかし変身した千春との追いかけっ子の目撃情報はそこそこ見つかるのだが、それ以降の情報は何処にも見当たらないのだ。

 天羽と朱美は手分けしてネットの海を探索して、千春は本来の役割であるバイト店員の仕事を始めてから暫く時が過ぎた。


「あ、いらっしゃい。 久しぶ…」

「おい、寺下。 店の前に居るあれはなんだ、もしかして新手の宣伝か?」

「えっ、店の外…」


 馴染みで回している店と言っていい喫茶メモリーを訪れる客は、八割近くは顔見知りである。

 新たに店に現れた客もまたその一人であり、店長である寺下は気安い態度で客を出迎えていた。

 しかし店長の挨拶を遮って、常連客は何故か戸惑った様子を見せながら店の外が見える窓を指示した。

 その客の誘導に従って、千春たちの視線は店の外へと誘導される。


「□□□□□っ、□□□□□!!」

「お兄さん、あれってもしかして…?」

「あいつ、人をおちょくっているのかぁぁぁぁっ!! くそっ、すぐにあいつのクリスタルを砕いてやって…」


 居た、そこには天羽たちが探していた例の白い奴が喫茶メモリーの前に居るではないか。

 まるで散歩を心待ちにするお馬鹿な犬のように、例の白い奴と融合している千春のバイクは地面を跳ね回っている。

 人を舐めているとしか思えないその態度に切れた千春は、すぐさま店を飛び出して白い奴に飛び掛かろうとする。


「待ちなさい、バカ春! 馬鹿正直に正面から行っても、また逃げられるだけよ。 

 頭を使いなさいよ、頭を…」

「いい加減、人を馬鹿呼ばわりするのは止めろ! 一体どうするんだよ、朱美」

「見た所、相手は精々あんたと同程度の知能しか無いわ。 だったら、やることはシンプルでいい筈よ」


 明確な馬鹿呼ばわりは止めた物の、暗に千春の知能を揶揄しながら朱美は自信満々に自らの策を披露する。

 その後に話し合いは行われたが、代案は出てこなかったので朱美案で動くことが決まった。






 本人が言うように、朱美の立てた作戦は実にシンプルな物だった。

 作戦の内容をメンバーはすぐに理解して、早速実行に移される運びとなる。

 まずは第一陣として、恐る恐る店から出てきたのは動画撮影時に付けている変装用のマスク姿の天羽だった。


「はい、それでは新たに現れた魔法少女の使い魔らしき存在を観察しようと思います。

 話によるとこれは元は普通の中型バイクだったようで、白いぬいぐるみらしき存在と合体したことでこのような姿に…」

「□□□□? □□□??」


 天羽の役割は囮、後で動画投稿に使う素材集めも兼ねて堂々と元千春のバイクに近づきながら撮影を行う。

 恐らく千春のバイクを奪ったそれは、千春が出てくることを期待していたのだろう。

 予期せぬ展開に戸惑っているよう様子のそれは、自然とこちらを遠慮なく撮影してくる天羽に集中してしまう。

 密かに店の裏口から出た変身済みの千春が、その身体能力を生かして店の屋根の上まで飛んだことには全く気付くことは無かった。


「そっこぉぉぉっ!! よーしっ、捕まえたぞ!!」

「□□っ!? □□□□□□□□っ!」


 囮役で相手を引き付けている内に、屋根の上から奇襲を掛ける。

 説明をすれば一行で終わってしまうシンプルな作戦だが、朱美の言葉通りに成功を収めることになる。

 屋根から飛び降りた千春はそのまま、変わり果てた愛車の座席部分に座ってハンドルを掴む。

 そのまま車体を倒して動きを止めて、最後にクリスタルを破壊すればミッションは完了であった。


「待て、暴れるな。 うぁぁぁぁぁぁっ!!」

「□□□…、□□□□□□□□っっっ!!」

「お兄さんっ!!」


 しかし千春の意図に気付いたのか、それは自分の背に乗った荷物を落とそうとその場で暴れまわる。

 そして荷物が落とせないと察したそれは、そのまま空中へと舞い上がって空へと消えてしまった。

 バイクを逃すものかと必死にハンドルを掴んでいた千春は、そのまま一緒に連れて行かれてしまう。

 共に空へと向かって行く千春の悲鳴は遠ざかっていき、ドップラー効果によって奇妙な音として天羽の耳に届いた。


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