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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
118/384

7-10.


 魔法学部が誇る巨大実験場、その周囲には今日のイベントのために観客席が設けられている。

 その中に設けられた関係者スペースの中に、ビデオカメラを構える朱美の姿があった。

 本日は不参加である香に代わって、NIOHチャンネルで使用する映像を収めるのが今日の朱美の役割だ。

 千春たちの身内と言うこともあって、既にあのモルドンが本物であることは把握していた。

 そもそも彼女は本来の競技内容を把握しており、それは今目の前で繰り広げられている死闘ではない。

 この異常事態を前にしながらもジャーナリスト志望の意地か、朱美は僅かに表情を曇らせながらも撮影を続けていた。


「全く、とんだサプライズね…」

「おや、やはりこれは想定外の事態なのですか?」

「はぁ…、なんであんたが此処に!?」


 撮影に集中している朱美が思わず漏らした独り言に対して、どういう訳か男の相槌が返って来たでは無いか。

 驚いて視線を実験場から隣に向けたそこには、眼鏡を掛けた痩せ型の若い男の姿があった。

 彼女の通う大学に存在する魔法少女研究会という変わり者の集団、そこの会長である浅田が何時の間に来ていたのだ。

 この男が今日のイベントに一般客として参加しているという情報は、朱美も把握している。

 しかし此処はイベントの主催者側のテリトリーであり、本来ならば立ち入る事が許されない場所にどのように潜り込んだのか。


「ははは、どうやらスタッフが私の顔を知っていましてね…。 君に会いに来たと言ったら、通してくれたんですよ」

「意外に面の皮が厚いわね、あんた…」


 魔法少女研究会の会長である浅田は、例のマスクドナイトNIOHの動画に何度か出演していた。

 動画内ではプライバシーを守るために基本的には顔に加工が施されているが、マスクドナイトNIOHこと千春の関係者にはそれが当てはまらない。

 わざわざ魔法少女絡みのイベントのスタッフをしている連中ならば、この動画を通して浅田の顔を知っている者も居るだろう。

 この男は自身の知名度を利用して、朱美と同じようにこの場所に立ち入る権利があると誤認させたようだ。


「やはりあれは本来の演出では無く、予期せぬイレギュラーなのですね? あれが本物の渡りならば、もしかして先ほどの警告音は…」

「多分あんたが考えている通りよ。 この戦いは言うなればメインディッシュを終えた渡りの食後の運動、それともデザートって所かしら?」

「それは災難でしたね…。 しかし他人の不幸を喜ぶようで心苦しいですが、今日はこのイベントに来て本当に良かった。 まさか本物の渡りの姿を拝めるとはね…」


 仮にも魔法少女研究会の会長を名乗るだけあり、浅田はこの状況の異様さに勘付いたようだ。

 朱美が浅田と話した感じでは、この男が手元にある情報から導きだした推測はほぼ正鵠を射ていた。

 魔法少女やモルドンについて研究している男に取って、謎が多い渡りの蜥蜴型モルドンを直に観察できる今の状況は非常に喜ばしい物だった。

 本当に楽しそうに実験場の方を見ている浅田の様子に、朱美は少なからず怒りを覚えるが何も言わない。

 仮にあそこで戦っているのが千春と言う知り合いで無ければ、ジャーナリスト志望である彼女もこの男と同様の反応を見せるに違いないと自覚しているからだ。


「そういえば、粕田教授や魔法学部の魔法少女たちは此処に居ないのですか? 折角ですから、挨拶でもしようと思ったのに…」

「責任者がこんな所でじっとしている訳は無いでしょう。 このイベントをどうにか穏便に済ませるために、今も動き回っているわよ。

 ちなみに此処の魔法少女たちも、万が一のストッパーとして他の場所で待機中」

「ああ、それもそうですか…。 難しいですね、本来ならば彼女たちも手を貸して袋叩きにするのが一番効率がいいんでしょうが…。」

「それをすると此処の観客たちが、あれが本物の渡りだって気付いてしまう。 あくまでイベントの体を維持するには、あそこにいる千春たちだけでこの事態を納めなければならない


 魔法学部は今回のイベントの会場として実験場を提供して、事実上の主催者として動いていた。

 それはこのイベントを通して、魔法学部の知名度を上げようと言う目的があっての事である。

 しかし此処で渡りのモルドンによる負傷者などが出てしまったら、逆に大学の評判が下がることは間違いない。

 そんな顛末を魔法学部が許容できる筈もなく、粕田たちはこのイベントを無事に終わらせるために懸命に動いていた。

 どうにかイベントの一環としてこの事態を収めて、観客にパニックを起こさせないようにしなければならない。


「おや、どうやら勝負に出たようですね」

「!?」


 そんな風に朱美が浅田と話している間に、小競り合いを続けていた実験場での戦いに変化が起きた。

 花音ことマジカルレッドが率いる魔法少女たちが、勝負を決めるために打って出たのだ。

 浅田の言葉を聞いて状況を瞬時に把握した朱美は、再びカメラを構えて撮影に集中し始めた。











 "マジカルレッド"、"アヤリン"、"ジュニア"の一斉攻撃が、渡りのモルドンに向かって襲い掛かった。

 魔法少女3人分の一撃は、実験場周辺の観客席を揺さぶるほどの衝撃を起こす。

 主に"ジュニア"こと朋絵の発火能力(パイロキネシス)によって、渡りのモルドンの居た場所に凄まじい炎と煙が立ち上がる。

 渡りのモルドンがあの場から逃げた様子は無く、確かに彼女たちの攻撃はあれに命中した筈だ。

 そして何時かのような障壁の能力を持たない今の渡りであれ、あの一斉攻撃を防ぐ手段は残っていない。


「やったの…?」

「…」


 未だに炎と煙に包まれて視界が開けない前方の状況を前に、三者三様の反応を見せる魔法少女たち。

 かつて渡りのモルドンとの実戦経験があるマジカルレッドこと花音は、今の一撃であの強敵が倒されたとは思えないようだ。

 あの煙の掻い潜って渡りが迫ってくる未来を予想してしまい、武器を構えながら注意深く前方を見守る。

 その見た目や言動に反して、根がリアリストであるアヤリンもまた戦いが終わったとは微塵にも考えていないらしい。

 狙撃銃を構えた姿勢を崩さず、目を見開きながら微かな変化も見逃すまいとしている。


「よーし、クリーンヒット! どうよ、これが私と先輩の…」

「ああ、待って! ジュニア!!」

「…えっ、何?」


 そんな二人とは対照的に、ジュニアこと朋絵は一人だけ勝利を確信してしまったらしい。

 すっかり浮かれた様子で渡りへの注意を怠り、無邪気に喜ぶ姿は花音たちから見れば危険以外の何物でも無い。

 慌てて愚かな不注意者に警告を促すが、それは逆に最悪の結果を導き出してしまう。

 仲間の声に反応して顔をそちらに向けた朋絵は、完全に渡りが居た方向から意識を逸らしてしまったのだ。


「ヲヲヲっ!!」

「っ、危ないーー!!」

「えっ…」


 最初にその動きに気づいたのは、注意深く渡りの様子を観察していたアヤリンである。

 炎と煙の揺らめきが変化して、何かがこちらに向かってくるような軌跡が描かれていく。

 その変化がもたらす結果は明白であり、アヤリンは即座に警告の声を叫ぶ。

 しかしこれも渡りの新しい能力なのか、まるで瞬間移動のような速度で一瞬で距離を潰した渡りはもう朋絵に手が届く所に居るでは無いか。

 朋絵は間の抜けた声を漏らすのと、渡りのモルドンの腕が振り下ろさせるのはほぼ同タイミングであった。











 失礼な話かもしれないが、千春は花音たちの一斉攻撃で勝負が決まるとは毛頭考えていなかった。

 以前に比べて弱体化しているかもしれないが、相手が規格外のモルドンであることには変わりない。

 そんなに簡単に勝負が決まるとは思えず、千春たちは花音たちを囮に次の手に出ていた。

 本来はマジカルレッドたちとの対決で使用する予定だった、彼女たちに無く千春たちにのみ存在するアドバンテージ。

 まさかそれを渡りのモルドン相手に使う事になるとは、人生とは分からない物である。


「うぉぉぉぉっ!!」

「ヲヲヲっ!?」

「…えっ?」


 今にも渡りのモルドンの手に掛かりそうになっていた朋絵は、流星のように落ちてきた鎧の戦士の姿を前にまたしても困惑の声を漏らす。

 飛行手段を持たない花音たちを相手に活用するつもりだった、飛行可能なシロとNASAと行う空中殺法。

 渡りのモルドンが花音たちに気を取られている内に、シロに乗って上空に来ていた千春たちは渡りのモルドンの動きを完全に把握できていた。

 そしてそのまま頭上からの奇襲を敢行することで、渡りのモルドンの頭部に急降下式の飛び蹴りをクリーンヒットさせた。

 



更新まで間が空いてしまってすいません…。

一応私用が重なったという事情も少しはありますが、ほぼ私のサボりが原因です。


次は一週間以内に更新できるように頑張ります


では。

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