表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
116/384

7-8.


 マスクドナイトNIOHと魔法少女たちとの対決イベント。

 時には年末に近い真冬の昼下がり、屋外に設けられた実験場の気温は極寒の一桁台である。

 本来なら暖かな部屋にでも逃げ込みたいだろうが、この場に居る人たちは誰もその場を離れようとしない。

 ファンたちは冬の寒さを吹き飛ばすほどの声で、推しの存在の名前を叫んでいた。


「いけー、アヤリン!!」

「いいぞー、NIOHさん! リベンジマッチだ!!」

「シロちゃーん! こっちを見てぇぇぇっ!!」


 会場となった魔法学部の巨大実験場は、この対決を見るために押し寄せたファンたちの声援に包まれていた。

 しかし興奮するファンたちとは対照的に、実験場に立つ千春たちの顔は優れない。

 正確に言えば素顔を隠すコスチュームをしている千春などの表情は分からず、見えるのは顔がオープンになっている佐奈たちのみである。

 彼女たちは何処か引き攣った表情をしているが、ファンたちはそれは緊張から来るものだと都合のいい解釈をしていた。


「ヲヲ、ヲヲヲヲっっ!!」

「ああ、何でこうなのよぉぉぉっ!!」


 彼らを困惑させている原因は、実験場でこちらを威嚇するように奇妙な声で吠える。

 勇ましく吠える渡りを前にしたマジカルレッドこと花音は、千春たちの思いを代弁するかのようにヒーローらしくない泣き声を漏らす。

 かつて幾多の魔法少女のクリスタルを喰らってきた悪食、あの渡りの蜥蜴型モルドンが千春たちの前に居るのだ。

 こんな状況など予想できる筈も無く千春たちは動揺を抑えきれないが、それを周囲に諭される訳にはいかない。

 数百人規模のファンたちが居る会場でパニックを起こさせないため、千春たちはこれはあくまでイベントの一環であると見せかけなければならなかった。











 突如現れた渡りのモルドンらしき存在に驚きを隠せない千春たちの耳には、現在起きている非常事態の内容が即座に伝えられていた。

 彼らの耳には事前に渡されていた小型の無線イヤホンが嵌められており、それを通して密かに情報を教えて貰ったのだ。

 イベントの進行のために手薄になっていた魔法学部の研究室へ、渡りのモルドンが襲撃を掛けたこと。

 研究室にあった10個近いクリスタルが、渡りのモルドンの餌になってしまったこと。

 そして食事を終えたモルドンが腹ごなしの運動とばかりに、千春たちの前に現れたこと。

 最悪と言っていい状況を聞かされた千春たちの頭の中から、イベントのことなど吹き飛んでしまったことは言うまでもない。


「"マスクドナイトNIOHとマジカルレッドの因縁を作り出した渡りのモルドン! この存在こそ両者の対決に相応しいテーマでしょう!!

 今日の対決はレイドバトル! 我々が用意した仮想渡りのモルドンを先に倒したチームが勝者だぁぁぁ!!"」

「…おいおい、勘弁してくれよ」


 しかし千春たちだけなら兎も角、この場には実験場の周囲に群がる多数のファンたちが居るのだ。

 彼らが魔法学部で起きた出来事や、あれが危険な渡りのモルドンであると知られたらどのような反応を見せるかは想像したくもない。

 群衆がパニックを起こした時の大惨事の怖さは、現代人であればテレビのニュースなどを通して十分に把握している。

 そこでこのイベントの進行役を務める粕田教授は、予想外の奇策でこの危機的状況を乗り越えようとした。

 何とこの教授は渡りのモルドンというイレギュラーを、このイベントに取り込んでしまったのだ。

 あれは何時かの実験のように魔法学部が用意した、偽装された渡りのモルドンであると盛大な大嘘をかましたのである。


「え、何よ。 それならあれは此処の人が用意した偽物なの?」

「レッドちゃん、前に実物を見たんでしょう? 私は初めてだけど、あんな凄いプレッシャーを掛けてくるモルドンなんて見た事ないわ。

 こんな展開は台本に無かったし、どう考えてもあれは本物よ」

「パニックを起こさないための苦肉の策か…。 行けるか、佐奈」

「は、はい!!」


 不幸中の幸いだったのは、今回のイベントで千春たちがどのような内容で対決するか事前に告知してなかった。

 対決の直前になって対決ルールを公開する段取りになっていたので、本来の内容を知らないファンたちが粕田の嘘を見抜ける筈が無い。

 加えてこの実験場は少し前に、渡りのモルドンを想定した模擬戦闘実験が行われていることも周知の事実だ。

 魔法学部サイドがモルドンを用意できることは知られているため、渡りのモルドンに似せた存在を用意できても不思議はないと考える筈だ。

 なし崩し的にお蔵入りが確定した本来の対決方法は、千春的には中々面白い内容だと思っていたのでこの展開は非常に不本意である。

 こうして状況を把握した千春たちは、期せずして渡りのモルドンとの二度目の対決を強いられることになった。






 覚悟が決まったかと聞かれたら否定するしかないが、最早逃げられない状況であることは分かっている。

 仮にもヒーローを気取っている自分が我が身可愛さに逃げられる訳も無く、千春は半ばヤケクソ気味に二本指を立てた何時ものポーズを取った。

 その姿を見た佐奈と花音も、千春に合わせるようにそれぞれ戦闘態勢を取ろうとする。

 千春と佐奈は腰にベルトを展開させて、花音は変身アイテムらしいスマホのようなアイテムを構えた。


「「変身っ!」」

「あっ…、変身!!」


 千春と佐奈の声が綺麗に揃い、そこに少し遅れて花音の声が発せられる。

 次の瞬間に彼らの体が光に包まれて、そこには戦闘用のコスチュームを纏ったヒーローの姿があった。

 架空の特撮作品であるマスクドナイトを元に考案された、千春ことマスクドナイトNIOH。

 名前の通りに仁王像を意識した赤い鎧を身に纏い、顔には"阿"と叫んだ口元が特徴のマスクを被っていた。

 海外製のヒーロー映画に出てくるキャラクターを参考にした、佐奈ことNASA。

 ボディースーツ風の近未来的な宇宙服で豊満な体を覆い、目元を黒いアイマスクで隠していた。

 戦隊系列の特撮作品を参考にしているらしい、花音ことマジカルレッド。

 如何にもな赤いボディースーツ姿、バイザーで顔の上半分を隠す赤いヘルメットをしていた。

 実験場に現れたヒーローたちは、こちらを舐めているのか自分から動こうとしない渡りのモルドンの前に並び立つ。


「いいぞー、NIOH」

「うぉぉぉぉっ!! 生変身、最高ぉぉぉっ!!」

「NASAちゃんの色気が凄いな…」

「あれで高校生だぜ…。 高校生に手を出すなんて、それでもヒーローかぁぁ、NIOHぉぉぉ!!」


 粕田の大嘘を聞かされたファンたちは、これは予定通りのイベントの進行であると信じてくれたらしい。

 彼らは見栄えのいい千春たちの一斉変身シーンを前に、すっかり興奮しているようだ。

 呑気にこちらへ歓声を送るファンたちの姿に少し思う所はあるが、とりあえず会場でパニックが起きる危険性は回避されたようだ。

 後はこの渡りのモルドンを倒してイベントを完遂されば満点であるが、そんなに上手く行ってくれるだろうか。


「やっぱり変身する子たちは派手でいいわねー。 さて、私も目立たないとね。 朋絵ちゃん、私たちも派手にいきましょうか」

「…ええっと、とりあえず戦えばいいのよね! 先輩、私の活躍を見ててくださいね!!」

「〇〇〇〇〇〇〇〇っ!!」


 一方で変身というギミックが存在しない、アヤリンたちは既に戦闘態勢である。

 こちらを品定めでもするように様子を伺い、相変わらず動く気配がない渡りのモルドンに対して構えを取った。

 そしてアヤリンが構えた巨大なライフルの銃声音と共に、渡りのモルドンとのレイドバトルが開始された。




相変わらず更新が遅れてすいません。病気とかでは無く、単にやる気の問題です。

少し前に毎日投下していたことが嘘のように、書くモチベーションが低下してしまって…。

暫くは週1~2ペースでだらだら投下していくことになりそうですが、エターしないように頑張ります。


では。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ