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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第一部 魔法少女専門動画サイト"マジマジ"
11/384

4-1. 「初めてのお散歩をしてみた」


 レトロな雰囲気が漂う、今時珍しい純喫茶"メモリー"。

 その店内に置かれたテーブル席で、女子大生と女子中学生が差し向かいで座っていた。

 "マスクドナイトNIOH"チャンネルの主である天羽と、広報担当である朱美は不満げな表情で微動だにしない店の入り口を見ている。


「…遅いですね、お兄さん」

「店長、あいつサボりみたいよー。 減給よ、減給ー!!」

「はっはっは。 そうだね、とりあえず君たちのお代は、彼の給料から引いておくよ」


 テーブルに置かれた2つのアイスコーヒーは殆ど空になっており、彼女たちがそれなりの時間待たされていることを示している。

 どうやら彼女たちは本来ならこの時間、この店でバイトをしている筈のマスクドナイトNIOHチャンネルの主演男優を待っているらしい。

 しかし待ち人は来たらず、携帯に連絡を入れても音沙汰なし。

 流石に事故などということは無いだろうが、連絡も無しに遅れる男子のだらしなさに女子たちのフラストレーションが溜まる一方だった。


「…ああ、くっそっー!! 店長、バイトに遅れてすいません」

「おお、来たみたい…、えっ?」

「ちょ…、千春!? あんた…、なんで変身しているのよ?」


 噂をすれば影と言う奴か、騒々しい詫びの言葉とともに喫茶店のバイト店員が扉を開いて現れる。

 店長である寺下は雇い主として、遅刻について説教の一つでも垂れようとしたようだ。

 しかし現れた千春の姿を見て言葉を失ってしまい、説教の言葉は引っ込んでしまう。

 何故かマスクドナイトNIOHの姿に変身して現れた千春に、朱美の当然の突っ込みが入った。











 主観的な表現が多くで分かりにくい千春の説明を簡単に噛み砕くと、彼が店に着くまでの1時間の間にこのような事があったらしい。

 本人の証言が確かならば、千春は普段通りの時間に家を出てバイトに向かったらしい。

 移動の足は千春の愛車である中型バイク(中古)、いつも通りの通勤ルートを走らせていたそうだ。

 苦労して貯めたバイト代で購入した赤い車体の相棒は、汚れ一つなく光るボディから大切にされている事が見て取れた。

 暫くして道中の交差点で赤信号で停止したとき、唐突にそれが千春の真横に現れたと言う。


「…ん、なんだ? …犬?」


 それは奇妙な存在であった。

 最初にそれを見たとき、千春は犬のぬいぐるみか何かだと思ったらしい。

 円方形の胴体に関節部の無い棒上の足が前後に二本、短い首を挟んで大福のように丸い顔が飛び出している。

 しかしその顔には目や口のパーツは無くのっぺらぼうであり、額に見覚えのあるクリスタルが嵌め込まれていた。

 全身は白一色で配色されており、額のクリスタルも僅かに青が混ざった白色である。

 その白い肌の質感は普通の動物には見えず、どちらかと言えばぬいぐるみの肌の方が近いだろう。


「なんだ、これは一体…?」

「…□□□□□、□□っ!!」

「…なっ!?」


 その異様な存在に驚いた千春は、思わず被っていたヘルメットのバイザーを上げて裸眼でマジマジと眺め始めた。

 そんな千春の視線に気づいたのか、それは目のない顔を千春の方に向けて何やら奇妙な鳴き声を出したではないか。

 何処か興奮した様子で手足をばたつかせながら奇妙な声をあげた後、それはいきなり千春に向かって飛び掛かってくる。

 突然の突撃に千春はそれがぶつかってくる衝撃に備えるが、どういうわけ幾ら待っても来るべき衝撃が来ないでは無いか。

 そして千春に向かってきていた筈のそれは、いつの間にか姿を消してしまい何処にも見たらなくなってしまう。


「…あれ、あいつ。 何処に行ったんだ?」

「"□□□□!"」

「ん、まだあいつの声が聞こえる? 何処かに隠れているのか…」

「"□□□□□、□□□□□□□っっ!!"」

「えっ、下から聞こえる…。 はっ、俺のバイクが…。 うわぁぁぁぁぁっ!!」


 姿を見えずに声だけ聞こえている状況を不審がる千春は、あたりを見回しながらそれの姿を探そうとする。

 やがてその鳴き声がどういう訳か下の方から聞こえてくる事に気付いた千春は、自分が跨っている愛車の方に視線を移す。

 しかしそこには見覚えのある赤いボディの愛車の姿は無く、先ほどのそれとよく似た白一色の別のマシンへと変貌を遂げていたのだ。

 その瞬間に変わり果てた愛車はまるで暴れ馬のように千春を振り落とし、そのまま走り出してしまったのだった。






 変身を解いた千春はアイスコーヒーをがぶ飲みしながら、先ほど自分の身に降りかかった事件を語り続ける。

 本来なら千春は今はバイトの時間なのだが、それを咎めるべき店長も興味津々で耳を傾けているので問題無いのだろう。

 謎の存在にバイクを持ち逃げされた千春は、当然のように愛車を取り返すためにそれを追いかけたらしい。


「くっそっー、あの白いやつ! 俺のバイクを弄びやがってぇぇぇっ!!」

「…それで、あんたはそのバイクを追いかけるためにわざわざ変身して追いかけっ子をしたって訳?

 その様子だと、結局バイクを持ち逃げされたようね、ご愁傷様」

「あ、SNSに上がってますね。 公道でバイクと競争をする、仮面のヒーローの姿あり…。 この切り口は無かったな、次のネタに使えるかも」


 変身している千春と自走する謎のバイクの競争は、傍から見たらさぞや見ものだったろう。

 SNS上にネタにされる程度には衆目を浴びたこの戦いは、残念ながら千春の敗北に終わったようだ。

 変身した千春の身体能力は規格外であり、普通のバイクなら余裕で追いつくことが出来る筈だった。

 しかしあの謎の存在が取りついたバイクは既に普通のバイクでは無くなっており、二重の意味でのモンスターマシンと化していた。

 何しろ元はただの中型バイクだったそれが翼を生やして、空を自由に飛び回るようになったのだ。

 陸上なら兎も角、空を飛ばれたら流石に変身した千春でも捕まえることは敵わずに取り逃がすしかなかったらしい。


「ああ、こんなことなら、いっそ撃ち落とすべきだったか!? いや、流石に俺のバイクに銃を向けるのは…。

 くっそー、あの白いモルドン!? 絶対に俺が倒してやるからな…」

「…お兄さん?」

「はぁ、何を頓珍漢なことを言っているのよ、このバカ春は…」


 自分のバイクを持ち逃げしたあの白いやつを、魔法少女の宿敵であるモルドンと認識した千春はそれの打倒を決意する。

 しかし千春の魂の叫びを前に、その場に居た女性陣たちは困惑した表情を浮かべていた。

 その理由はただ一つ、千春のバイクを奪い去った謎の存在は少なくともモルドンで無いことが明らかだからである。











 魔法少女と共にこの世界に現れるようになったモルドン、この異形の存在には幾つかのルールが存在していることが分かっている。

 一つ、モルドンは例外なく日が完全に落ちた夜の闇と共に現れる。

 一つ、人型・獣型・昆虫型などその姿形は様々であるが、必ず体の色とクリスタルは黒一色である。

 一つ、体の何処かに核となるクリスタルが存在しており、これを壊されたら瞬時にその体は崩壊する。

 過去10年に現れたモルドンは必ず上記のルールを満たしており、決して例外は存在しない。


「ちなみに夜にしか現れない癖に、吸血鬼みたいに太陽に弱いって訳でも無いみたいね」

「ああ、知ってます。 確か複数の魔法少女たちが協力して、モルドンのクリスタルを壊さないようにしながら朝まで拘束したんですよね。

 それで太陽の元に晒しても、モルドンの体はピンピンしてたって…」

「それなら何で夜にしか出ないのかって、色々と議論が巻き起こったけど結論は出ずじまい。 元ネタのスウィートフルーツの設定を踏襲しているだけだって、身もふたもない結論に落ち着いたそうよ」

「スウィートフルーツの作品中に出てくるモルドンと完全に一緒かと言えば、違う設定も多いんですけどね…。 本当、よくわからない存在ですよね、あれ」


 以前より魔法少女関連の情報を集めていた朱美と、"マジマジ"の研究をしていた天羽の知識は確かな物らしい。

 モルドンは怖い怪物という程度にしか理解していない千春に対して、彼女たちはモルドンの概要について親切にご教授してくれた。

 確かに二人の説明が正しいならば、真昼間に現れた白い体のそれはモルドンではあり得ないだろう。


「…それならあれは何だって言うんだよ。 あれはどう考えても人間業じゃ無いだろう、モルドンで無ければ魔法少女くらいしか出来ない…」

「答えはバカ春が言った通りよ。 そんな真似は魔法少女くらいにしかできない、ならその白い犬みたいな奴の裏には魔法少女が居るのよ」

「…へっ?」


 難しく考える必要はない、魔法少女しか出来ないような事が起きたならばそれは魔法少女の仕業なのだ。

 犯人が魔法少女であると断言する朱美の予想外の回答に、千春は気を抜けた返事をすることしか出来なかった。



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