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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
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6-15.


 粕田教授による魔法学部への入学を勧めるプレゼンテーションは、それから小一時間続いた。

 スーツが似合うビジネスマン風の教授は、見た目だけでなく営業トークも達者であった。

 下手をすればこれが今日の本命だったのでは思えるほどに、粕田は千春や佐奈に対して魔法学部をアピールして見せた。


「別に今すぐに決める必要なありません! 今日はパンフレットを持って帰って、自宅でゆっくりと考えてみて下さい」

「はぁ…」

「分かりました…」

「良かった、私は中学生で…」

「大学か…」


 流石に今すぐに決められることでは無いので、粕田は返事は後でいいと締めて話を終えた。

 千春と佐奈は大量のパンフレットや資料をお土産に貰って、反応に困ったのか苦笑いを浮かべている。

 一方で中学生という事もあって千穂と天羽は、千春たち程には粕田の攻勢を受けていなかった。

 将来的に考えて見てくれと、パンフレットを一枚貰っただけで話が終わったのである。

 千穂は巻き込まれなかった事を喜び、天羽は何かを考えているのか手元のパンフレットを眺めていた。


「はっはっは、少し話過ぎましたね。 今日は本当にありがとうございました。

 最後に一つだけいいですか、矢城さんのお耳に入れておきたい話があるんです」

「…なんですか?」

「少しお耳を…」


 予想外であった魔法学部の勧誘話も終わり、いよいよこの大学を離れる時が来た。

 最後の千春たちに改めて礼を述べた後で、粕田は意味有り気に伝えたいことがあると言ってきた。

 粕田はわざわざ千春の耳元に口を寄せて、周りに聞こえないように小声で話しかける。

 その配慮もあって話の内容は周りには聞こえておらず、それえを聞いて驚愕の顔を見せた千春の反応しか分からなかった。











 今日は非常に濃密な一日であった。

 魔法学部の見学から始まり、本番である模擬戦闘実験、そして怒涛の勧誘トーク。

 大学からの帰り道、千春は行きと同様にバイクを手押ししながら駅まで向かっていた。


「どうする、佐奈。 本当に魔法学部にでも行くか?」

「うーん、難しいですね…。 千春さんはどうですか?」

「俺も微妙だ、今も通販の仕事があるしなー」


 道中での会話は自然と色々とインパクトが強かった、魔法学部への入学勧誘の話になっていた。

 しかし残念ながら粕田の熱意は実らなかったようで、千春も佐奈も余り魔法学部への入学に興味は無いようである。

 千春の方は宙ぶらりんだった昔ならいざ知らず、今は寺下から任された喫茶店メモリーの通販事業の仕事で忙しい。

 ここでこれから大学に通うので仕事を辞めたいなどと、不義理なことを出来る筈が無い。


「実は私…、朱美さんが通っている大学に行きたいと思っているんです。 ちょっといいなって思ってるだけで、まだ具体的なことは全然考えてないですけど…」

「おお、あそこの大学か。 結構頭のいい大学みたいだけど、佐奈は成績が良さそうだし大丈夫だろう。

 でもあの大学だと佐奈の家から通えないだろう、地元から出る事になるけどいいのか?

「地元には余りいい大学が無いんです。 どちらにしろ大学に通うなら地元から出る事になるので…。 それに…、いえ、何でも有りません」


 佐奈はあの場では話さなかったが、漠然とした物であるが彼女の中には既に志望校があるらしい。

 少し恥ずかしそうに佐奈は、朱美が通う千春の地元の大学の名前をあげる。

 地元に丁度いい大学が無いからと佐奈が語るが、彼女の様子や千春の方を見ながら言葉を濁した処を見ると他にも理由はありそうだ。

 別にそこまで察しが悪くない千春は何となくその理由を察したが、藪蛇になりそうなのであえて触れないようにしていた。


「ネットでも調べてみたけど、あの大学の評判は今一ね…。 あの大学に目指したって言っても、お母さんは絶対許さないわ…」

「出来立てほやほやの大学だからな…。 あそこを目指す奴は魔法少女ファンか、魔法少女関係者くらいだろうし…」


 魔法学部を要するあの大学は、数年前に建てられたばかりの新興大学である。

 正直言って目玉である魔法学部を除けば、建物が新しい以外の特色を見つけられない。

 魔法学部という目当てでも無ければ、わざわざ目指すような大学では無いだろう。

 家族が普通の感覚の持ち主であれば天羽が言うように、もっとまともな大学を目指せと怒られるに決まっている。


「逆を言えばあの大学に入学したら、自分が魔法少女だって世間に教えることになるかもしれませんね…」

「そのリスクもあったな…。 あんまり目立ちたくない魔法少女はわざわざ魔法学部なんかに入って、見世物やモルモットになりたくないよな。

 あの教授はそれを分かっているから、学費無料とかをアピールしてたのかも…」


 全ての魔法少女が自身の能力を誇りに思っている訳ではなく、中にはクリスタルを捨てて魔法少女と縁を切る者も居るのだ。

 大学に行くほどの年代となった魔法少女たちが、どれだけあの魔法学部に行くかは分かった物では無い。

 ただしやはり学費などの金銭面での補助は魅力的なので、全く人が集まらないという事も無いだろう。

 実際に魔法学部はマネーパワーで彩花という魔法少女を確保しているので、彼女と同じような人種であれば集められる筈だ。










 話している間にあっという間に駅に着いたので、ここで天羽たちとはお別れだ。

 彼女たちは駅から電車でそれぞれの家に戻り、千春はバイクで一っ走りである。

 駅の目の前で天羽たちの別れの挨拶を交わしていた千春は、ふとあることに気付いて鞄の中を漁り始めた。


「ああ、忘れてた。 これは俺からのお土産な…」

「これは…」

「っ!? これは千春スペシャルブレンドのコーヒーですか!! いいんですか、貰っちゃって…」

「ただの試供品だよ、気にするなよ。 本当は機会があれば、魔法学部でも家のコーヒーをアピールしたかったんだけどな…」


 それは千春が携わっている喫茶店メモリーの通販事業で販売している、家庭用コーヒーのサンプルであった。

 以前に個数限定販売をした千春のスペシャルブレンドコーヒーを、営業活動のために千春は幾つか持って来たのだ。

 上手く大学の方でコーヒーをアピールできれば、通販事業の売り上げに繋がると密かに考えていた。

 結局大学の方では営業活動をする機会は無かったのだが、今日付き合ってくれた魔法少女たにもお土産として配るつもりらしい。


「ありがとうございます…」

「嬉しい、これ飲んでみたかったんです!!」

「はっはっは、心して飲めよ」


 まだ中学生なのでコーヒーにそれほど興味が無いのか、千穂はとりあえず受け取った感じであった。

 一方の佐奈は本気で嬉しそうであり、千春から貰ったコーヒーを大事そうに抱える。

 実はこの子は喫茶店メモリーの通販利用者であり、例の千春スペシャルブレンドも応募してくれたのだ。

 本当なら贔屓したい所だったが心を鬼にして厳密に抽選をした所、残念ながら佐奈は枠から外れてしまっていた。

 その事も記憶にあったので、千春は限定商品だったスペシャルブレンドをサンプルとして準備したのである。


「今度暇があったら、家の店に来てくれよな。 朱美に話をつけて、大学の方も見学させてやるぜ」

「っ、はい! 絶対に行きます!!」

「うわっ、青春しているよ、リュー。 いいな…」

「□□□…」


 千春の誘いが余程嬉しかったのか、佐奈は僅かに顔を赤らめながら力強く頷いて見せる。

 そんな若い男女のやり取りに興味深々なのか、千穂は目を輝かせながらその様子を眺めていた。

 使い魔であるリューにはその手の機微が分からないらしく、興奮気味に語りかけてくる千穂に困惑している様子だった。











 魔法少女たちが全員駅に入って行き、その数分後に電車が出発するのを確認した。

 どうやら丁度いい時間に電車が来ていたようで、彼女たちは全員あれに乗っている事だろう。

 天羽たちが無事に帰途に就いたことを確認した千春は、自分も帰宅しようとバイクを走らせようとする。

 しかし駅から飛び出してきた一人の少女が、千春の出発に待ったをかけたのだ。


「…ちょっと待って、お兄さん!?」

「はぁ、天羽!? なんで此処に…」

「電車には一度乗ったけど、すぐに出てきたのよ。 他の人たちは、ちゃんと電車に乗っているわ。

 少しお兄さんと二人だけで話がしたくて…」


 天羽は千春と話をするために、他の二人を電車に置き去りにして一人だけで出てきたと言う。

 佐奈たちに聞かれたくない話と言えば、思い当たる内容は一つしか無い。

 千春としてはその話は後日でもいいかなと考えていたが、天羽のほうはより性急だったらしい。

 あの件について話をすることには特に異存は無く、長話になるかもしれないので二人は落ち着いて話が出来る場所まで移動した。




更新が止まってすいません。調子が戻ったので今日から再開です。


では。

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