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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第一部 魔法少女専門動画サイト"マジマジ"
10/384

3-4.


 外灯に照らされた住宅街の道路で、魔法少女の力を持つ青年とモルドンの戦いが始まった。

 赤い鎧を纏う千春が振るう剛腕は、頑丈なクリスタルを一撃で粉砕する威力を持つ。

 先の虫型のモルドンとの一戦でクリスタルを容易く砕いた千春の力は、密かに魔法少女業界で注目された程だ。

 しかしその剛腕も当たらなければ意味が無く、千春の赤い拳は先ほどから空を切り続けていた。


「くそっ、じっとしてろ!!」

「■■、■■■」

「うわっ、熱っ!!」


 猫科を思わせるその洗練されたフォルムは伊達ではないようで、モルドンは軽やかなステップで千春との距離を一定に保ち続ける。

 千春が近づけば後ろに遠のき、かと思えば左右の住宅の塀を使った三角飛びで千春の頭上を飛び越えてしまう。

 その機敏な動きに加えて、牽制もかねて放たれる額からの光線に千春は翻弄されていた。

 まるで柔よく剛を制すのお手本とばかりに、千春のパワーは完全に空回りさせられていた。


「くそっ、そんな豆鉄砲。 俺の鎧で耐えきって…、ああ、逃げるなぁぁぁっ!!」


 マスクドナイトを自称する千春の全身を覆う東洋風の鎧、その頑丈な装甲を頼りに特攻しようとしてもモルドンはそれに付き合わない。

 やぶれかぶれに正面から突っ込んでも、簡単に避けられてお返しの光線を浴びせされる始末だ。

 ダメージこそ殆どないものの、千春はいまだに指一本触れることが出来ずにいた。


「ちょっと、大丈夫? 見た所、殴り合いしか脳の無さそうな、あんたのそれとは相性最悪っぽいモルドンだけど…」

「五月蠅いな、外野は黙ってろ! あ、やべぇ…」


 余りの劣勢に外野からの野次が入り、それに反応して気が逸れた瞬間にまたしても光線を浴びせされてしまう。

 まるで絵に描いたような悪循環は、千春がモルドンに予想以上に追い詰められていることを示していた。






 その頑丈な鎧で守られているお陰で、未だに千春の体はピンピンしている。

 しかし不毛な追いかけっこを強いられた疲労から、千春の体力は消耗を強いられていた。

 こちらのダメージが無いのは、相手の放つ光線が威力より回転を重視した牽制攻撃に徹していることもあるだろう。

 常に動き回りながら一瞬だけ放たれる光線の威力は軽いが、体力が尽きて動きが止まった千春に放たれる物が同じ威力であるとは限らない。

 このままでは負けてしまう、そのように判断した千春はある切り札を出すことを決意する。


「…よーし、分かった。 お前に俺たちの取って置きを見せてやる!!」

「ええっ、もうあれをやるんですか? マンネリになった時の切り札として、取っておくつもりだったのに…」

「此処で負けたら元も子も無いだろう! 計画変更だ、変更!! 行くぞ、これがマスクドナイトNIOHのフォームチェンジだ!!」


 何やら覚悟を決めたらしい千春は、悲鳴に近い天羽の抗議を無視して自身の持つ新たな力を使うことを決める。

 千春の気合に応えるように腰のベルトが一瞬ぶれて、そこに嵌め込まれたクリスタルが赤から青へと姿を変える。

 そして千春の体全体が切り替わり、次の瞬間にはそこには先ほどとは微妙に異なる青の仁王が立っていたのだ。











 千春が見せた新しい姿は、先ほどの赤い鎧姿と比べてカラーリング以外にそれ程の差異は見られなかった。

 全身を覆う鎧のパーツが少し削られていること、仮面の口を意匠するパーツが食い縛るように閉じた形に変わっていること。

 後は先ほどの姿には無かった、腰に携えられている柄の上下にナイフくらいの小さな刃が生えた武器らしき物があることくらいか。

 しかし見た目以上の大きな変化を、戦いを見守る朱美達はすぐに知る事になる。


「はははは、もう翻弄されないぜ! そこっ!!」

「■っ?」


 先ほどまでのテレフォンパンチとは打って変わった、小振りの鋭い一撃が初めてモルドンへと命中する。

 モルドンの軽やかな動きを前に相手の影すら踏めなかった千春のいきなりの変わりように、外野の朱美達は驚かされる。


「姿が変わった…、動きもさっきと全然違う。 一体あの姿は…?」

「マスクドナイトNIOHのもう一つの姿です。 パワー重視のAHの型、テクニック重視のUNの型、お兄さんは二つの型を使い分けて戦う魔法少女なんです。

 本当だったら、もう少し引っ張りたかったのに…」

「技の一号、力の二号か…」

「AH、UN…。 ああ、阿吽のことね、仁王像の…」


 阿吽、寺院の守り神として設けられる仁王像は基本的に二体一セットの構成であった。

 それと同様に千春の仁王をモチーフにしたあの姿には、役目の異なる二通りの姿が存在していたのだ。

 最初の戦いで見せたAHの型、パワーを重視したあの姿から繰り出される一撃に耐えきれるモルドンは居ない。

 しかしAHの型はその有り余るパワーに振り回されてしまい、今回の身軽なモルドンが相手では対応が難しい。

 そこで強大なパワーを代償にして相手の動きに付いていける器用さや、相手の動きを先読みする五感を強化したもう一つの型を用意したのだ。

 UNの型、それがあの青いマスクドナイトNIOHのがフォームチェンジした姿の名称である。






 強大なパワーから繰り出される手や足の一撃がそのまま必殺となるAHの型と違い、パワーを犠牲にして他を強化しているUNの型ではどうしても火力が足りない。

 それを補うためにデザインされたのが、腰に携えているあの両刃の武器である。

 金剛杵(ヴァジュラ)、仁王様こと金剛力士が持つとされる架空の武器の名前だ。

 その名通りダイヤモンドの如き硬さを持ち、雷を操るという神話級の兵器である。

 流石に伝承通りの力とまでは行かないが、マスクドナイトNIOHのために用意されたヴァジュラは名前負けしない性能を持つ。


「力が無ければ武器を使えばいいって事だ!! さっきのお返しだ、くらえぇ!!」

「■■っ」


 千春が腰のバジュラを手に取って構えると、両端の刃から雷が迸る光の刃が作り出されたではないか。

 先ほどの意趣返しとばかりに光の刃を振るい、モルドンの動きを潰しながら正確無比な剣捌きを見せる。

 額のクリスタルを集中的に削られていったモルドンは見るからに弱っていき、現在の自身の状態を表すかのように黒いクリスタルも罅割れていた。


「よーし、とっておきだ!!」


 千春はヴァジュラから迸る光剣を止めると、柄の中心部分を起点にヴァジュラの上下を数十度曲げて拳銃のような形状にしたでは無いか。

 この武器をデザインした少女に取って飛び道具とは銃であり、その思想を受けて遠距離攻撃時にはこのような形態となるようだ。


「銃!? 仁王にそれはありなの?」

「千春君、旧世代(オールドエイジ)・マスクドシリーズに武器は、ましては飛び道具は…」

「こいつは新世代(ニューエイジ)ライクのマスクドなんですよ! いっけぇぇぇぇっ!!」


 千春の気合の声と共に、拳銃型のヴァジュラから稲妻が迸る。

 それはUNの型によって強化された五感により、違えることなくモルドンの額のクリスタルへと命中した。

 既に罅が入っていたクリスタルにその致命的な一撃を耐えきれるわけもなく、黒いクリスタルは完全に破壊されてしまう。

 クリスタルの破壊と共にモルドンの消滅が始まり、住宅街を破壊して回った四つ足の異形の姿は影も形も消えてしまった。











 早々にフォームチェンジという切り札を出すことになったが、無事にモルドンの打倒には成功した。

 朱美たちの野次や余分な映像を省いて編集した、新たなマスクドナイトNIOHの動画は早速"マジマジ"に投稿されていた。


「"マスクドナイトNIOHの新たな力、UNの型!" "ニューエイジのマスクドシリーズに付き物のフォームチェンジですよ!!"

 "今回もお兄さんの活躍で、街の平和は…"」


 天羽の実況を入れた動画を食い入るような眼で見る、一人の少女の姿がそこにあった。

 少女は見るからに大人しそうな地味な雰囲気であり、黒縁眼鏡や三つ編み髪のその姿から一昔前の文学少女風と言えるかもしれない。

 画面の中で楽し気な様子で実況を行う天羽とは対照的に、少女は何かを堪えているような何処か悲痛な表情を浮かべている。

 そんな彼女に呼応するかのように近くに置かれている、木製らしき杖に嵌め込まれている灰色のクリスタルが淡く光っていた。

 無残にも罅が入ったクリスタルが…。




旧世代(オールドエイジ):昭和ラ〇ダーシリーズ相当

新世代(ニューエイジ):平成ラ〇ダーシリーズ相当

と考えてくれて構いません。多分、何処かのタイミングで作品内でも触れますんで…


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