王国騎士 クロス
ちょっとBL…的な…所あります。
屋敷の中に無事潜入出来たけど、見事にクロスを見失ってしまった。
近付き過ぎるとバレてしまうし、もし見付かってしまったら今度は確実に動けなくされてしまうので、警戒しすぎた。
薄暗い広い屋敷の中で人の気配を探しながらウロウロしていると、奥の部屋の扉の前に騎士が二人立っていた。
私はその近くの部屋に忍び込み天井裏に向かった。
天井裏は思った通り繋がっていたので、隙間から部屋の様子を確認する。
薄暗い部屋で大きなベットに両手首縛りつけられ身動きが取れないエド。
その表情ははっきりと見えないが呼吸が少し荒く虚ろな顔をしているように思える。
薬…
私は唇をグッと噛み締めて怒りを抑えた。
「エイド…そろそろ限界だろう?さあ、望みを言え」
この声は、ネシル王子。
声が聞こえる方向を確認するとネシル王子はベットの側で椅子に腰を掛け足を組んで座っている。
そして、その後ろに2つの影が見えた。
あれは…まさか…
「ウタさまが捕らえられるのは時間の問題だ。エリさまの所で匿っているがわたしの配下が手を回している」
!?クロスの声が聞こえる…
信じたくないと思って場所を移動して隙間から再度確認すると、間違いなくクロスともうひとりは黒づくめの兵士が待機していた。
そんな…
「いゃ…だ。はぁはぁ…わたしの望みは…ウタさまの…」
「…薬を追加しろ」
ネシル王子の声に黒づくめの兵士は持っていた注射をエドの腕に指した。
エドはうめき声を上げて苦しみもがき出す。
私は我慢の限界になって腰に下げていた短剣を握り突入しようとした瞬間、薄暗い灯りが消えて真っ暗になった。
そして、ドガっという大きな音と共にうめき声が聞こえた。
「ネシル王子!覚悟!!」
クロスの緊迫した声がしたかと思ったら灯りが戻り、剣を構えているクロスの足元に黒づくめの兵士がひとり倒れて動かない。
そして、その視線の先にはネシル王子と王子を庇うように黒づくめの兵士が二人どこからともなく現れて構えている。
「く…」
クロスは眉間にシワを寄せて苦渋の表情を浮かべた。
「クロス、お前とは付き合いが長いから大体考えていることはわかる。なにが、あの女が欲しいから協力するだ。お前の性格上、あの女を助ける為に動くと、始めからわかっていた」
「ネシル王子、貴方も自分が間違っていることに気がついているはずだ。これから国を背負っていく貴方は間違いを正すことも出来るはずだ!」
「間違い?なぜだ。国のために捧げる我が身が唯一欲しいと願ったモノを手に入れて何が悪い!これだけは…譲れない。わたしのモノにならないのなら…」
ネシル王子は黒づくめの兵士から腰に下がっていた剣を手に取りベットに縛られているエドに向けた。
ネシル王子の瞳は冷たく曇っている。
「エイド…愛してる」
そう静かに告げるとエドの胸に向かって剣を突いた。
私は迷わず天井を蹴破りその剣を止める為左腕にその剣を受けた。
激痛が走り血が滴り落ちる。
「ウタさま!!」
「な!!」
痛い…当たり前だけど痛い!
私は苦痛な表情を一瞬したがベットに縛りつけられているエドの表情が青ざめ愕然として私を見ていたので私はあえてエドに笑いかけた。
「ヒーロー登場ってやつ、前からやってみたかったのよ」
「ぁ…貴女は…バカ…ですね」
「なによ!主人に向かって失礼ね」
エドは苦痛な顔をして首を横に振った。
私の登場で一瞬動揺した隙にクロスが黒づくめの兵士ひとりを倒し、もうひとりと交戦中となっている。
ネシル王子は我に返り、私の左腕に刺さった剣を引き抜き振り上げ私に振り下ろすと私は右手に持っていた短剣でそれを受け流す。
ネシル王子は怒りの形相となっている。
あのすかしたイケ好かない王子はそこにはいなかった。
「キサマ…こんな奴のどこが!!」
「ネシル王子。イケメンの顔が台無しですね」
「うるさい!!」
剣を振り回すが太刀筋は荒く、乱れている。
剣術の練習はしているはずなのに、怒りで暴走しているのか
軽々と私は攻撃をかわし、エドの方に振り下ろした剣を上手く弾いてエドを縛っていた縄を切らせた。
「あら、うちの側近を解放して頂き、ありがとうございます。」
「!!」
更に頭に血が上ったネシル王子は私に剣を構えて力づくで攻撃をしてきた。
動く度に左腕から出血が溢れているようで、力がぬけていく。
油断した一瞬の隙に私の短剣は弾かれ壁に飛ばされた。
しまった!
今度こそ殺してやると言わんばかりに大きく振りかざしたネシル王子の剣は私に振り下ろす前にネシル王子の背後から近づいていたクロスに奪われた。
クロスと戦っていた黒づくめの兵士は二人とも床にのびて動かない。
さすがである。
「クロス!!」
「もう止めましょう。ネシル王子」
怒りに震えているネシル王子とは対照的にクロスは至って冷静でかつ威圧的だった。
「この女もキサマも死罪は免れぬぞ!!」
「…王子、わたしは罪を受け入れます。しかし、ウタさまは隣国の姫、さらに被害者です。国の問題になります」
「黙れクロス!!こんな侮辱、屈辱…許せぬ!!」
ネシル王子が凄い剣幕でクロスにつっかかっている。
なんとも、みっともないが王族に刃向かったのだ、罪は免れないだろうな…私はせめてエドとクロスに罰が与えられないようにどうしたらいいか考えていた。
「わたしはこの国の次期王だ!!」
「そんなことわかってますよ」
エドの声が聞こえると
クロスに食って掛かっていたネシル王子の肩をエドが掴み、少し強引に振り向かせるとエドは不意打ちでネシル王子の唇をふさいだ。
両手首に縄で擦れたアザが痛々しいエドから、突然の口づけにネシル王子は目を丸くして固まって静かになる。
私は自分の側近(男)と一応私の婚約者候補の痛い王子ネシル(男)のキスシーンが突然目の前で起こり、左腕の痛みを一瞬忘れかけた。
一時してエドがネシル王子から少し離れ囁いた。
「愛しております…わたしも。でも、今の貴方では、わたしは貴方の側にもどらない」
今の貴方では…か。
私はこの時、エドは本当にネシル王子を愛してるのだとわかった。
本当に愛してるから邪魔したくないんだ。
さっきまで取り乱していたネシル王子はまるで別人のように静かになり、ジッと一点を見つめて何か考えているようだ。
その様子を見守っていると不意に左腕を掴まれ激痛が走る。
「いった!!」
「すぐ止血します。少し我慢を」
クロスが真剣な顔をして自分の服を裂いて簡易包帯を作り私の左腕に強く巻いていく。
その表情は少し怒っているようで目を合わせてくれない。
呆けて動かなくなったネシル王子はそのままそっとして、クロスは私を抱き抱えると私に有無言わせず騎士団医務室に連れて行った。
私は出血が多く貧血気味になっていたので輸血をすることになり傷口の治療をしてもらった。
エドは薬(媚薬と幻影薬)の中和剤の投与をして回復しているらしい。
その後、何故か部屋に戻されずエリさまの住居エリアで監視?付きの半分監禁状態となった。
そして、数日後
毎日のようにお見舞いに来てくれるエリさまとセシャルに私はクロスとエドの様子を聞いてみた。
「エリさま、セシャルさん…嘘偽りなく教えて下さい…」
「勿論ですわ。セシャル!」
「はい。まず、エド殿はほぼ完治しており王の許可のもと、一度我が国の使者と共にウタ様の故郷に戻られました」
「え!私を置いて帰ったの?!」
「はい。ウタさまはまだ自由に動けるまで回復しておりませんし、急ぎの伝令を受けたようです」
内容は何か気になるー…でも、エドが元気に戻ってきてくれて良かった。
「クロス殿ですが…王国騎士を退団されました」
「…それで…何か罰は…」
「いえ、おとがめはありませんでした」
私は少しホッとした。
でも、騎士を辞めたとなると…
「あの!クロス殿に逢いたいのですが!」
「そう言われると思っておりました。今は自宅の屋敷にいるようです」
エリさまとセシャルはにこりと微笑んだ。
ハロルド・クロス
名家ハロルド家の次男、王国騎士団でもっとも優秀な騎士だった。
私はセシャルにお願いしてクロスの屋敷を訪ねると大きな屋敷から若い青年執事が出迎えにやってきた。
「これはこれは。ウタ様ですね。お話は予々。わたしはクロスさまの執事のアオイと申します。さあ、ご案内致します、どうぞ」
眼鏡をかけたスラッとした執事は愛想よく私を案内してくれた。
客間に通されお茶とお菓子を準備してくれた。
「先客がおりますので、少しこちらでお待ちいただけますか?」
「はい」
一礼してアオイが去ると私はソファに座りお茶とお菓子を頂くことにした。
それから…約1時間だろうか…普通に待たされた。
その間、何度もアオイがやって来て紅茶を入れ換えたり、お菓子もケーキになったり。
もしかして…面会を拒否されてる?
私が怒って帰るのを待っているのだろうか。
それはちょっと傷つくな…
「あの、アオイさん。私がここに来たのはご迷惑でしたでしょうか」
私は思いきってアオイに聞いてみた。
紅茶を入れ換えていたアオイは手を止めた。
「…そうですね…貴女のせいで主は仕事を失ったのですから。これから先、クロス様はどうしていいのか…」
「あ…そうですよね…」
重い空気が辺りをつつんだかと思ったら、アオイがプッと吹き出した。
「これは、失礼。嘘です。」
「え?」
「王国騎士を退団したクロス様のもとに次から次へ、仕事の話が来ており、その対応に今も時間がかかっております。高貴な貴族の護衛騎士団長や大きな商会の跡取り、他にも娘の縁談相手なんて話が多いですね」
「す、凄いですね」
「クロス様はとても有能な方ですので。そういうウタさまもでしょう?」
「いえ、私は…ふふ。私もクロス殿をスカウトに来たひとりです。でも、その様子だとちょっと難しいかしら」
ちょっと諦めかけていると、扉が開いてクロスが部屋に入って来た。
とても魅力的な黒い瞳に私の心は吸い込まれそうになる。
「ウタさま、お待たせして申し訳ございません。」
クロスの視線は私の左腕の包帯を見ると一瞬表情を曇らせ頭を深々と下げた。
「先刻は大口をたたいておきながら、ウタさまに傷を負わせてしまい、なんと謝罪をしていいか…」
「え、いや、これは自分で飛び込んで出来た傷だし、クロス殿が協力してくれたからエドが助かったのだから、私がお礼を言うことがあっても謝罪されることはないわ」
「しかし…」
頭を上げてクロスは本当に申し訳ないといった表情だ
「実はクロス殿を私の国の騎士として働いてもらえないかスカウトに来たのよ。」
「!」
「あ、でも色々な所からお誘いがあるみたいだから、無理にとは言わないわ。そんなに高いお給料払えないし、待遇は決していいとは言えないから」
私は苦笑いを浮かべると、クロスは片膝を床につけ、頭を深く下げ騎士の礼をした。
「クロス殿?!」
「そのお話、願ってもないお言葉です。こんなわたくしでよければ、ウタさまにお仕えする事をお許しくださいませ」
「え?いいの?」
私は予想と違った嬉しい展開に動揺した。
てっきり待遇のいい所に行くと思っていたし、それだけの力量があるお方だ。
下げていた頭を上げてクロスは真っ直ぐに私を見上げた。
「ただ、ひとつだけお願いが」
「はい」
「国の騎士として務めると同時に、ウタさまの専属護衛を担当させて下さい」
私の国は基本的平和なので専属護衛など必要ない。
それに、腕のたつ側近のエドがいたから尚更だけど。
その程度のお願いを叶えるだけでこんな有能な騎士が来てくれるのなら。
「わかりました。そちらもお願いします」
「ありがとうございます。では、早速準備をして参ります」
「え?いや、まだゆっくり準備してもらっても」
「いえ、たった今よりわたしはウタさまの護衛騎士です。アオイ、急いで準備を」
クロスの指示に呆然としていたアオイがハッと我に返る。
「待ってください!!クロスさま、本気ですか?」
「ああ、お前はここで待て」
「冗談じゃありません!わたしも着いていきます!」
「我が主はウタさまだ。お前を雇うとは言ってない」
「しかし!」
アオイはギッっと私を睨んだ。
そんな顔されても…
「わたしをクロスさまの世話係として着いていくことをお許しください!」
アオイの必死な訴えに私は断ることが出来なかった。
クロスはすぐにでも護衛を始めると言ったが、私は現在エリさまの屋敷で居候中の身ということもあって、一旦準備期間ということにしてもらった。
そんな事があって2日後、エドが王国の使者と帰って来た。
「ただいま戻りました…」
「エド、おかえりなさい。私を置いて戻るなんて酷いじゃない」
「色々、王に報告もありましたので。しかし、クロス様はなぜあそこに?」
部屋の隅で待機しているクロスにエドは目を細めた。
「うちの騎士に雇ったのよ。私の専属護衛」
「クロス様なら引く手あまたでしょうに」
「わたしからウタさまにお願い致しました。」
エドとクロス様は少し無言でにらみ合っている?
「まあ、いいでしょう。それよりウタさま重大なお話があります」
深刻な表情をしているエドの様子から、おそらく良い話ではないだろう。
「ネシル王子の婚約者に選ばれました」
「…は?だれが?」
「ウタさまです。あと2名はセレナさまとベネッサさまです。」
私は目を細めてとても嫌な顔をするとエドは深くため息をついた。
「ネシル王子の考えはこちらの使者から聞きました」
少し下がって待機していた王家の使者が頭を下げる。
「ウタさまとの婚約はフェイクでわたしと仲を戻したいのが目的ですよ」
「そうでしょうね…エドはどうなの?」
「わたしはウタさまを迷わず選びます」
「それは主としてでしょ?さて、どうしたものか…」
「…方法ならあります。」
「お?」
「ウタさまがネシル王子の婚約者として相応しくなければいいのですよ」
エドはニヤリと悪い顔をして私の護衛をしていたクロスに近付き何か耳打をしていた。
次の日の昼
エリ様が慌てた様子で私を訪ねてきた。
「ウタお姉さま!聞きましたわ。クロスといつの間にそんな仲になったのですか?」
「ごきげんよう、エリさま。そんな仲って、主と護衛騎士じゃないの?」
「違うわ!恋人同士だって皆がお話してるの!」
「…」
これはエドの仕業だろう。
なるほど、お手つきされている女は王族の婚約者にするわけにはいかない。
しかし…私は別にいいけど、クロスはどう思ってるのかな…
部屋の外で護衛勤務をしているクロスの表情は確認出来なかった。
その日の夜、なんとネシル王子が私の部屋を訪ねて来た。
クロスとエドは難色を示したが、一国の王子が会いに来て断るわけにもいかない。
部屋の中に案内するとネシル王子はお供を部屋の外で待機させた。
以前のような作り笑いをしておらず、冷めた目をしている。
きっとこれが普段のネシル王子の顔なのだろう。
「わたしの正式な婚約申し出を断ってくるとは。しかも、既成事実まで準備して。エイド、お前の仕事だろう?」
「…」
「クロス、お前もすっかりその女に使われているな」
「わたしが仕えるに値する主です」
「…そうか。その女の情夫と化すか。せいぜい快楽を与えて楽しませてやるがいい」
「…」
ネシル王子は事実はそんな関係ではないとわかっているだろう。
なのに、あえて卑猥な嫌味を言ってくる。
私は不愉快といわんばかりに不機嫌な顔をした。
「ウタさま」
「エド、わかっているわよ。こんなちんけな挑発にのるものですか。こんな夜分になに用ですか?」
「…お前はわたしの婚約者になりそびれた姫だ。そして、わたしのライバルでもある」
ライバル?
「今後、友人としてお前の国に訪問することもある。その時はエイドを貸してもらおう」
「はい?友人?」
私はあまりに突拍子もない事を言われて呆けていると、エドはぶっと音を立てて吹き出す笑いを堪えていた。
そんなエドの様子を見てネシル王子はふて腐れた顔をする。
「ぷ…くく。ウタさま、つまり、ネシル王子はウタさまと友人になりたいのですよ」
「えー嫌だ」
「そんな事を言わないで下さい。わたしからも…お願いします。数少ないネシル王子の本性を知っている友人になってやって下さい」
私に頭を下げるエドを見て、私は仕方ないなと思って一歩ネシル王子に近付き顔を覗き込んだ。
「な、なんだ」
「ヘラヘラ顔を作っている王子より、こっちの王子の方が人間ぽくって私は良いと思います。友人として…嫌がる事をしないのであればいつでもお越し下さい。」
私の言葉にネシル王子は少し顔を紅くして無言で帰っていった。
それから数日後、私は故郷に帰ることになった。
帰りの馬車はアオイが運転しており、お付きの馬にはクロスが護衛として着いている。
「帰ったらサジイの小言の嵐でしょうね」
「まあ、いいじゃないですか。将来の花婿候補を連れて帰ってるのですから」
「え!まぁ…」
多分、私はクロスに好意を持っている。
それは、恋…的なものなような気がするが…
馬車の窓から護衛をしているクロスの横顔を眺めるだけで胸が熱くなりざわつく。
頬を赤くして俯く私をエドは黙って眺めていた。
最後まで読んで頂きありがとうございます!