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側近のエド

誤字脱字あったらゴメンなさい…

「ウタさまのお父様に拾われる前まではこちらで書官としてお世話になっておりました」


私は紅茶を飲む手を止めて、まじまじとエドを見た。

書官とは、書記官のようなもので国に仕える者はそれはもー頭が良くエリート中のエリートである。

エドは確かに頭がキレる優秀な側近なので、能力的には納得だが…

そんなエリート職からなぜ離れることになったのだろう。

私は理由を聞きたいが、エドが話したくない事を聞くわけにはいかないと思った。


「…そう…」

「…理由聞きたいですか?」

「う…」


私の顔に書いたあったのだろうか。

私が座っているソファの斜め前に立ち、すました顔をしているエドを少し憎たらしいと思いながら、持っていたティーカップをテーブルに置いて私は聞く体制をとった。


「オホン。なぜ、書官から離れたの?」

「ネシル王子と関係を持ってしまったからです」

「関係?どんな関係?」


王子と仲良くしてはいけないのだろうか?

私が頭を傾けて考えていると、エドは少し目を細めた。


「まったく、ウタさまの天然っぷりに驚きますよ。大人の関係です」

「大人の…お金とか、脱税とか、法に触れる事とか?」

「…はぁ」


エドはまるで残念なモノを見るような目で私を見て大きくため息をついた。


「肉体関係です。性交渉を行う恋愛関係と言った方がわかりますか?」

「はぁ?!だって、男同士だし」

「ええ。男同士でも本気の恋愛は出来ます。問題は子供が出来ない事ぐらいです」


平然としていたエドの表情が一瞬暗くなった。


「ネシル王子は国のためにも子孫を残さねばいけません。しかし、わたしがいることでその事を拒否しておりました。それでは未来のために良くないと何度も話し合い、わたしは身を引いたのですが、ネシル王子に捕まり監禁されてしまいました」

「…監禁」

「薬漬けにされて、精神が崩壊する直前で何とか逃げる機会があり、ぼろぼろになって路肩で倒れていた時にたまたま偶然王様に拾って頂きました。」


さくさくっとカミングアウトしているエドの話の内容があまりにハードで私は脳ミソがついていけず目が点になっていた。


「そんな危険な場所にのこのこ花嫁候補として行くと、ウタさまが言うものですから…」

「いや、それって私が行く前に教えてくれても良くない?」

「わたしのプライベートな事ですので」


いやいや、そりゃそうだけど…


「因みに、こちらに来てウタさま3回ぐらい、命を狙われております」

「え!」

「一回目は昨晩の食事に毒が入っておりました。二回目は場内の見学時に遠方から射撃で狙われておりました、三回目は今朝部屋に侵入しようとする者がいましたので、すべてわたくしが処分しておきました」

「処分…ですか」

「…安心してください、命はとっておりません」


私は少しホッとした。

命は、の「は」が気になる所だけど、聞かないでおこう。


「どうして私の命が狙われているの?」

「簡単です。王妃候補のライバルは減らしたいのでしょう。差し向けた相手もバラバラですし」


私はハハと乾いた笑いを浮かべた。


「…しかしながら、今まではお遊びのようなモノです。」


命を狙われているのが、お遊び?

エドは顔色を曇らせる。


「わたしの事がネシル王子にバレてしまった以上、あのお方なら次の行動は」

パリーン!


エドの言葉をかき消すように部屋の窓ガラスが割られて、そこから3人の黒づくめの武装した者たちが部屋に侵入してきた。

私は慌てて立ち上がろうとすると、エドが手でそのまま座っておくように静止した。


「来ると思ってましたよ」


エドの言葉に黒づくめのひとりが口を開く。


「…大人しく従ってもらおうか」

「残念ながら、わたしの主はウタさまでごさいますので指示に従う訳にはいきません。それに、連れて行かれた先でまた薬づけでしょうし」

「…」


エドと侵入者のピリピリと緊迫した状態の中、ジワジワと私に近付いていた侵入者のひとりが私に襲いかかった。

エドはその侵入者に対して剣を向けて動きを止めて、座っていた私の腕をひいて立ち上がらせ自分の背後に庇った。


「貴様ひとりでは我々には勝てないぞ」

「そうですね…」

「も、目的はなに?」


私の質問に黒づくめのひとりがニヤリと笑う。


「その男ですよ姫様。そうだ、主としてその男に命令してください。抵抗せず従うように。そうすれば、姫様の命は保証しますよ」

「エイド一緒に来てもらおうか」


私を守ろうとしているエドの背中を眺めて、エドの腰にかけている予備の短剣を拝借した。


「悪いけど、うちの優秀な側近をそう簡単に渡せないわ」

「ウタさま…」


ジリジリと距離をつめてくる侵入者のひとりが斬りかかると同時に他のふたりも襲いかかる。

エドは構えていた剣で凪ぎ払い、私も攻撃をかわしてカウンターで短剣で切りつけると黒づくめの剣で弾かれた。


「っ…まだまだ!」


相手の攻撃が強い分だけ、私は衝撃を回転に変えて連続で攻撃を繰り出すと黒づくめのひとりは体制を崩したがもうひとりが加勢に入ってきた。


「ウタさま!!」


エドは侵入者のリーダー格のような強者の応戦をしており、手が回せそうにない。


「はは、あんたの生死は問われてない。残念だったな」


黒づくめの侵入者は男の力任せな攻撃を繰り返し私は受け流すだけで精一杯だった。

このままでは…やられてしまう。

黒づくめのもうひとりも私めがけて襲いかかり、わたしの短剣は弾き飛ばされた。

次の瞬間、片方の黒づくめの剣が浅くわたしの肩を切りつけ私は倒れ込んだ。


「いった…」

「ははは!姫様にしちゃなかなかの腕だったが、残念だったな。覚悟しろ」

「止めろ!!」


黒づくめが私にたどめをさそうとした瞬間エドが叫んだ。

エドを見ると自分の首に自分で剣を突きつけている。


「ウタさまを殺せば、わたしも死ぬ」

「エド…」


黒づくめの男たちはピタリと動きを止めた。

どうやら私は殺してもいいが、エドは生きたまま連れて行かないといけないようだ。


「…ウタさまを無事に解放しろ。そうすれば、私は言うことに従う」

「…わかった。姫様、ひとりで自分の国に帰りな」

「え…」


エドを見るとその瞳は申し訳ないといった悲しい目をして、まるで私に言うとおりにして欲しいと頭を下げた。

エドを渡してしまったら、どんな酷い事をされるか…

でも、このまま戦っても私達に勝機がなく傷つき命を落としてしまうだろう。

悔しいが私達だけでは黒づくめの3人に勝てない。

私は黒づくめの男たちに連れて行かれるエドを唇を噛んで黙って見送った。

部屋を出る一瞬、エドが振り返り私に小さく微笑みかけた。

まるで、「心配しないで」と言ってるかのように

何も出来なかった自分が悔しい・・・

私は溢れ出しそうになる涙をぐっとこらえて、これからどうすれば一番いいのかを考えた。

自国に帰り父に助けを求めるか

恐らく父は対応を悩まれるだろう

相手は大国の第一王子ネシル、まず間違いなく相手にされない。


「・・・・どうすればエドを助けることが出来るの」


絶望的な状況の中、頭に浮かんだのはクロスの顔だった。

彼だったら力を貸してくれるのでは?

しかし、クロスはネシル王子の護衛兵。

普通に考えると私なんかよりもネシル王子に加勢する・・・

でも、エリ姫を助けた恩も感じているはずだ。

確実にこの話をクロスにすると迷惑になる。

私は少し目を閉じ数回深い深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。

そして、立ち上がり身なりを整えるとエリ姫のもとに向かった。

エリ姫は王族の生活エリアにいる事はわかっていたので

エリア入り口の兵に面会をお願いすると意外にもすんなり案内された。

応接の部屋に通されエリ姫の側近が現れる。


「エリ様側近のセシャルと申します。かねてよりウタさまの事はエリ様よりお聞きしております。先日は命を助けて頂き、ありがとうございました」


深々とお礼のお辞儀をするセシャルは落ち着いた雰囲気のおじ様である。

私は気になさらないで下さいと返していると扉が開き、相変わらずお人形さんのように可愛らしいエリ様が部屋に入って来た。


「ウタ様…その…」

「体調は大丈夫ですか?エリ様」

「はい…」


もじもじ恥ずかしがっているエリ姫の傍にセシャルが寄り添う


「ウタ様さっそくではございますが、ご用件をおききしてもよろしいでしょうか?」


小さなエリ姫では判断が付かない事は沢山ある。

恐らくセシャルはエリ姫の判断を助ける重要な人材なのだろう。

ここで相談すれば、ネシルに筒抜けになる可能性もあるが・・・

ただ、黙って自国に尻尾巻いて帰るのは御免だ


「セシャル殿、これからお話する内容はご内密にお願いしたいのですが」

「…かしこまりました」

「エリ姫、私の側近がネシル王子に連れて行かれてしまいました」

「え?」

「どうもネシル王子と私の側近は昔お友達だったようで…喧嘩してお別れしたみたいで」

「まぁ…」

「私としては側近を帰して頂きたいのですが、お力を貸して頂けないかしら?」

「えっと…セシャル?」

「…はい、そうですね。ネシル王子にお願いをしてみましょう。今晩使いを寄こしますのでウタ様はお部屋でお待ちいただけますでしょうか?」

「ご協力ありがとうございます。ご連絡をお待ちしております」


私がお礼を言って部屋を去ろうとするとエリ姫が1歩前に出てきた


「ウタ様、また会いに来てくださいますか?」

「ええ、もちろん。今日はお時間がありませんが次回はゆっくりお菓子でも」

「はい!また…」


エリ姫は本当に可愛らしい。

私は微笑み会釈をしてエリ姫の部屋を去った。

これであのセシャルはどう動くだろうか…

エリ姫とネシル王子の関係は正直よく解らない。

ただ、私の直感的に二人はすごく仲が良いという関係でもないと感じていた。

それはエリ姫の側近とネシル王子の中も比例するはず。

あの優秀そうなセシャルはすぐに調査を行い事実関係をあらいだす。

私は自室に戻り持って来た少ない荷物を簡単にまとめていつでも自国に戻れる準備をした。


その日の夜、セシャルの言った通り私の部屋を訪ねるノックの音がした

私は命が狙われる可能性も考えて短剣を隠し持ち、警戒して扉を開けるとそこにはなんとクロスが神妙な面持ちで立っていた。


「夜分失礼いたします、少しお話を…」

「はい、どうぞ中に…」


私は迷いもせず部屋の中に招き入れた。

クロスが私を暗殺する可能性がないわけではない

しかし、なぜかこの人物は信用できると思ったのだ。

部屋に入り私は応接の椅子に座るよう促すがクロスは首を横に振った。

そして私の与えられた部屋を見回し警戒をしているようだ。

昼間の侵入者のおかげで窓が割られ家具が荒らされていたが私は出来る限りの片づけをしていた。

一通り確認をするとクロスは片膝を床につけて私に深く頭を下げた。


「この度はこのような失礼をいたし大変申し訳なく思っております」

「…いえ、どの程度調べがついているの?」

「はい、エド殿とネシル王子の関係、監禁先まで。セシャルはとても有能な側近でございます、お恥ずかしながらネシル王子とエリ姫には別々の組織となっており、このような王家の恥じる事態に気が付けず…」


俯き悔やんでいるクロスに私は視線を合わせるようにしゃがみ込んだ


「私は、私の側近を連れて帰りたいだけなの。信じてもらえるかどうかはわからないけど、ネシル王子の王妃候補もお断りして頂こうと思ってここに来ただけ」


真剣な目でクロスを見つめるとクロスは少し目を見開き驚いた様子だった。


「お願い。エドを助けるのに協力して下さい」

「勿論です。エリさまを助けて頂いた恩を返させて下さい。」

「ありがとうございます!」


それから、エドを連れていった黒づくめの奴らの話をすると、彼らはおそらくネシル王子直属の隠密部隊だと判明。

私とエドでは勝てなかったが、クロスはかなり腕に自信があるようで、いまからすぐにエドの監禁場所に救出に行くと言い出した。


「その、さすがにそれは・・・まさか一人でという訳じゃないですよね?」

「いいえ。わたし一人で十分です。むしろ一人の方が動きやすい」


いたって真剣な表情のクロスに私は少し考えた。


「やはり、ひとりでは心配です。邪魔しない様にしますので私も同行してもよろしいでしょうか?」

「しかし・・・」

「お願いします!」


私は深々と頭を下げるとクロスは慌てて私に頭を上げるように頼んだ。


「どうぞ頭を上げて下さい。わかりました、わかりましたから」

「一緒に行ってもいい?」


クロスは呆れたような困った顔をして渋々承諾をしてくれた。


「危険ですので出来るだけわたしから離れないで下さいね」

「わかったわ。あ、ちょっと待って、こんなドレスじゃ動きづらいから着替えてくる」

「え…はい」


私は急いで寝室に戻り、出来るだけ動きやすい馬術服に着替えた。

クロスは私の姿に少し呆れているようだった。


「な、なに?」

「いえ…その、あまりにも姫君らしくないといいますが…」


確かに、私は国のお姫様という感じではないだろう。


「私の国ではこれが普通なの。さ、行きましょう!」

「はぁ…」


セシャルの調べた通り、王族住居区画の庭園奥にひっそりと屋敷があった。

そこは本来、王の愛人を隠しておくところらしい。

屋敷の周りにクロス直属護衛騎士が数名見張っているので、まず中にいるのは間違いないだろう。

エドは無事だろうか…まさかもう薬漬けに…

悪いイメージを払拭させるために首を左右に振った。


「…正面や裏口からの侵入は無理です。秘密の通路を使いましょう」

「クロスはここ知ってるの?」

「はい。こちらへ」


クロスが案内したのは少し離れた所にあった物置き古屋だ。


「緊急時に繋がる通路です」


扉を開けて床板を上げると下に降りる階段が現れた。

暗い地下通路をクロスが先頭に進み私は後から着いていく。

すると鉄格子が並ぶ空間にたどり着いた。

じめっとした薄気味悪い空気が漂う。


「牢屋?」

「ええ。王家の表で処分出来ない罪人はここに入れられます。」


暗くてよく見えないがクロスの声は沈んでいる。


「あそこを見てください」


扉が空いている牢屋の中を指差したので私はその方向に視線を向けると首の後ろに衝撃が走った。

私は気が遠くなり体に力が入らなくなって倒れ込むとクロスは私の身体を支えてゆっくりと牢屋のベットに寝かせた。


「申し訳ございません。貴女にこれ以上危険な目にあわせられない。罪人は…わたしひとりで十分です」


そう告げると深々とお辞儀をしてクロスはひとり奥に進んだ。


「…」


クロスの足音が遠くなるまで私は待って閉じていた目を開ける。

そう、必殺たぬき寝入りだ。

眠った振りをするのは前の世界から得意である。

恐らく手刀で気絶させようと思ったのだろうが、残念ながらお転婆姫の私はこの程度では気絶しない。

普通のお姫様なら十分な強さだったけど。

私は首の後ろをさすりながら起き上がった。

さて、どうするか。

恐らくクロスは私を助ける為にここに残したのだろう。

強者のクロスだけど、ネシル王子の近衛騎士と黒づくめを相手に真っ正面から勝てるわけない。

エドを救出する方法は…ただひとつ。

ネシル王子を人質に取るしかない。

それは反逆であり、死罪に値する。

わかっていた。

私はこうなるのをわかっていてクロスに助けを求めたのだ。

なんて疫病神な奴なんだろう。


「…そうはさせない」


私はクロスにばれないように後を追った。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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