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6月11日日報、本日の業務開始

[アラーム:6月11日 7:00 起床]


[起床モードに移行します]


『んん…良く寝たな』


 欠伸をしつつ前足で顔を擦りながらのっそりと体を起こすと、もうフレスは起きていたらしくどこにも見当たらなかった。

 仕方なくベッドから降りてのっしのっしと寝ぼけた足取りでギルドハウスを歩き回る、一応食堂に行けば良いという話を昨日ちらっと聞いたのでそこを目指すことにした。


「おはようございます!」


『おはよう』


「おはよー」


『はい、おはよう』


 廊下を歩けばちらほらとギルドメンバーとすれ違う、どうやら朝食を済ませた組らしい。

 食堂につくとここも馬鹿でかい入口になっていてすんなりと通過、扉などはついておらず俺が通っても二、三人とすれ違う程度の余裕はある。


「あ、旦那様おはよー」


『おはよう、朝早いんだな』


「うん、まあねー当番制で今日は私だったから、昨日はごめんね先に寝ちゃって」


『いや食事当番なら仕方ないさ、それよりもその当番は全員交代制なら俺も順番が来るのか?』


「あー、旦那様はいいよ、というか無理じゃない?」


 分かっていたが一応な、システム的に無理ではないが調理場に獣が入るのは衛生的によろしくない、印象があるし。


『ならいいが、ところで俺はフレスの従魔にはなったが一応プレイヤーなのだからギルド登録するべきだと思うが、どうするんだ?』


「今日はそこらへんの説明とかもかねて、街を案内するつもりだったから、ご飯食べたら出かけようよ」


 街を案内か、悪くないが俺一人で出歩くことはあまりないと思う。

 俺の目の前にやたらデカイ器が運ばれてきた、どうやら俺が最後だったらしく、身支度をしてくるとフレスは部屋へ戻ってしまった。

 一人残された俺は料理を観察する。


[本日の献立:ワイルドトーラスのステーキ]


 明らかに特注の犬の餌入れみたいな器にデカデカと乗ったステーキ肉……朝からステーキは重いだろ……亡国アメリカを彷彿とさせると言ってもデータベースで見かけた程度の情報なので実際のところは分からないが、これがまた器からはみ出てるし、器自体レイドボス時の大きさに合わせてるみたいで、これ食ったら今日一日食事しなくてもいいんじゃないだろうか。


『いただきます……』


 出されたものは残さない主義だ、食えんわけでもないし黙って食う。

 品がないが前足で肉を押さえながら端から引きちぎりながら咀嚼していく、次からは一口サイズにカットしてくれと頼むか。

 ステーキと格闘すること30分、なんとか食べ終わり器の端を咥えて洗い場まで運ぶ。


[スキル≪洗浄≫を発動]


 脂でべた付く前足と共に器に≪洗浄≫のスキルを使って綺麗にする。俺の場合≪洗浄≫はモンスターの返り血を取るぐらいしか使い道がなかったのだが、これからはたくさん使うようになるだろう。


 洗浄を終えエントランスに着くと既にフレスが支度を整えて待っていた。


「旦那様、早かったね? もっとゆっくり食べててよかったのに」


『お前を待たせるのも悪いからな、皿も洗っておいたぞ』


「あー、ありがとう。でもごめんね、あのお皿捨てて今日は今の旦那様に合うサイズのを買いに行こうと思ってるの、旦那様の装備とかね、サイズが縮むと思って無くて買いなおす必要があってね……」


 聞けば背中に乗るための鞍とか防具とかレイド級サイズに合わせて特注していたらしい。

 装備に関しては職人にサイズ調整をしてもらえば済むが他の生活雑貨、皿とかブラシは買いなおすのだという。


『こちらの不手際……とは違うかもしれないが俺が金を出そう』


「そんな、悪いよ……元はと言えば先走ったのは私なんだし」


『気にするな、金なら現実の給与もあるし、いくらか余裕がある』


 ゲーム世界と現実世界の金銭は等価となったこの時代で、普通に生活するならゲームでも稼げるし、俺はそれプラスゲーム内の事を記載した日報を、会社に送付して給料を貰えるので普通のプレイヤーよりは裕福である。


「それならお願いしよっかな……ちょっと今月苦しくてね、≪なんでもやります!≫さんへの報酬とか色々出ちゃったから」


『なら任せろ、俺たちは夫婦になったんだからもっと頼ってくれていいんだぞ』


「うん、ありがとう。そうさせてもらうね」


 昨日の騒ぎがあったから今日もリュールやミニルが一緒なのかと思ったが、「今日はデートだから」ということで二人は遠慮してウル君たちを連れて狩りに出ているらしい。


「それじゃ、いこっか」


 フレスは俺に騎乗した。


『モフってもいいがちゃんと道案内はしてくれよ……』


 不安だな。


 道中特に寄り道もせず、周囲から異様に見られている、状態でフレスはほぼモフりっぱなしで時たま「そこ右」、「そこ左」程度の指示だけ出しては、俺の毛皮を堪能していた。

 デートってこういうの言うんだっけ?


「ここが総合ギルドだよー、ギルド毎に仕事を斡旋してくれたり新規メンバーの登録やギルド設立とかの申請とかは全部ここでするの」


『俺は入れるのか?』


 あのギルドハウスを見てからここを見るとどうにもこじんまりというかちっさく見えて仕方がない。


「あはは、大丈夫だと思うよ、レイドボスの時の大きさだったら危なかったけどね、あれが適正サイズかな、旦那様の」


 適正サイズって言うがドア全開にしてギリギリだったがな、幅が。

 中に入ると大勢のプレイヤーが居た窓口に列を作り並び所せましと居る、昔データベースで見た市役所という奴に似ているな。


 プレイヤー全員もれなく俺の姿を見て目を丸くしている。

 昨日の騒ぎで知っているもの、全く知らずに面食らって固まってるものなど居るが、どれもそれ以上に騒ぎはしない。


「旦那様こっちだよ」


 俺から降りたフレスはちょいちょいと俺の首周りの毛を掴み、痛くない程度に引っ張って誘導してくれる。

 ひそひそと周りのプレイヤーが話すのは「旦那様?」とフレスの俺への呼び方についてらしい。

 フレスに連れられて行った先は他とは違い誰も並んでいない窓口だった。


「いらっしゃいませ、こちらはギルド登録並びに従魔登録の窓口となっております。お客様、本日は従魔登録でよろしいでしょうか」


 受付AIがはきはきと喋り用件を聞いてくる。


「はい、従魔登録とギルドメンバーの追加申請と後今度のイベントの参加申請をお願いします」


「かしこまりました、ではこちらの書類にご記入をお願いします。書けましたらまたこの窓口に並んでお待ちください」


 ガラガラで待つ必要を感じない窓口だが流石AI言うべきことはしっかり伝える。


「それじゃ私が書くから、分からないところがあったら聞くね」


 そういってフレスは手慣れた風に書類に必要事項を記入していく。


『というかイベントって何だ?』


 街などに入れないのでプレイヤーサイドのイベントというのとは無縁で居たので気になって尋ねてみた。


「あー、イベントは毎月あるんだけど今月はバトルイベでPVPって分かるかな、プレイヤー同士で戦うんだけど、申請今日まででね、旦那様をテイムで来たら参加しようって思って旦那様の登録とかもあったから丁度良かったよ」


『俺をテイム出来たからか、じゃあ普段はそういうイベントは参加してなかったのか?』


「んーしてたよ、ソロでソロの方が稼げるし、けど優勝となると難しくてね、やっぱり私テイマー職だからテイムモンスターと一緒に出た方がいいなって思ってね」


『なるほどな……しかし俺はプレイヤーだが一緒に出てソロ扱いになるのか?』


 テイムモンスターありきのソロテイマーは普通NPCモンスターを連れているからソロでも通るのだろうけど、俺の場合プレイヤーだから、二人で出たらソロにはならないんじゃないのか。


「え? あ、あれ……どうだろ、ちょっと受付で聞いてくるね」


 書きかけの書類と俺を置いて窓口に駆けていくフレス、おっちょこちょい感がとても愛らしい。

 しばらくして帰ってきたフレスは目に見えて落ち込んでいた。


「やっぱりダメだって、従魔でもプレイヤーならソロにはなりませんからパーティ戦に参加してくださいって」


 がっかりしたようなフレス、そんなにソロが良かったのだろうか?


『けど、いつもはソロなんだろう? ソロで出たいなら俺の事は気にしなくてもいいからソロで出たらいいじゃないか』


 テイマー職で従魔なしにどうソロで戦うのか気になるしな。


「ええー……でも、そうだね、そうする。けど旦那様も出たかったら出てもいいんだよ? 旦那様だけでもソロプレイヤーとして参加はOKらしいし」


 そう言って、ちゃっかりイベント参加申込書をもう一枚取ってきていたフレス……抜けてるようで抜け目ない奴だ。


『ふむ、確かに今のプレイヤーの実力とどこまでスキルを取得しているかは気になるから参加しようかな、悪いフレス、俺の分も書いてくれないか?』


「いいよ、旦那様と一緒でないのは残念だけど旦那様とも戦って見たいし、お互い頑張ろうね!」


 PVPイベントか……そういうイベントならユニークもどきたちも参加するだろう、大衆の前でその種明かしをするのも悪くはないな。


 今から楽しみだなとフレスに返して、俺の尾は自然と揺れていた。

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