6月10日日報、テイムされてその後
ランダム更新だよ、ストックなんてないんでね、決まった時間には更新できない。
[レイドプレイヤー:ソウのレイド制限解除]
[≪世界≫レイドボス:デュアルドッグが調伏されました、以降特殊条件以外で出現することはありません]
この世界のプレイヤー全体への通知、俺がレイド級で無くなったという報告がプレイヤー達を震撼させていることだろう。
俺としての変化としては体が一回り小さくなった事ぐらいか、まあそれでもヒグマよりデカイが、これから街へ行くとなると丁度良いサイズ感だ。
「ちっちゃくなっても素敵!」
フレスはずっとこんな感じで俺の背に乗り毛皮に頬ずりしている。
地肌ではないためその感触はあまり伝わらない、残念だ。
「全然ちっちゃくないからな?」
リュールはジトりとした視線を送ってくるがフレスはどこ吹く風、俺の毛並みにご満悦だ。
『というかギルドハウスって言ったか、俺は入れるのか?』
「それは大丈夫ですよ、フレスちゃん、デュアルドッグをテイムするんだー! ってギルドハウス作るときにわざわざ入口とかでっかくしてましたから、レイドボスサイズで」
疑問にはミニルが答えてくれた。
それなら大丈夫だな、まあそれだとちょっとデカすぎでは?と思うが。
「ほんと、呆れるわよね、そして実際にテイムまでしてるんだから凄いとしか言えないわ」
リュールも呆れながらも感心しているようだ。
「えへへ、でしょー?」
褒められてるか微妙だがフレスのにやけ顔にリュール達は黙って息を吐いた。
本来ならみんなは帰還転移アイテムでサクッと帰れるのだが、テイムモンスターとはいえプレイヤーである俺が一度行った場所にしか転移できないという括りに引っかかり、ならば折角だからみんなで徒歩で移動しようとなったのだ。
30人と1匹でぞろぞろと森を進む、道中にモンスターは居ない。
「この森をこんなピクニック気分で歩けるとは思わなかったわ」
『俺のパッシブスキルの≪獣王の威風≫でレベル以下のモンスターは近づけないか、追い払ってしまうからな』
スキル≪ハウリング≫のを常時使っているようなもんだが、レイドボス時はモンスター側だった為に効果対象がプレイヤーのみだったので仕方なく≪ハウリング≫を取得していた。
レイドボスなら手下に周囲のモンスターを使うこともあっただろうがここのモンスター達は割と狡猾なので近くに置きたくなくて≪ハウリング≫を多用していた。
「旦那様凄い!」
首を絞めるように抱き着いてくるフレス、まあ細腕で絞められても全く苦しくはないが……。
そろそろ自重すべきではなかろうか、リュールとミニル以外の沈黙が痛い、なんか呆れられてるというか、がっかりされてる。
「あのぉ、マスター俺ら先に帰ってもいいっすか?」
一人の少年が申し訳なさそうに出て来た。
「ん? ああごめん、みんないいよ先に帰ってて今日はありがとう、凄く助かったよ」
俺の背で姿勢を正して軽く頭を下げるフレス。
「あの、えっと、マスター、ご結婚おめでとうございます、それじゃお先に失礼します」
「ありがとー、ウル君おつかれー、みんなもお疲れさま」
そういうとリュールとミニルを残し他のメンバーはみな帰還転移アイテムで転移していった。
『二人は良いのか?』
「あー、うーん、二人だけ置いていくと何かあったら困るでしょ?」
「それに多分すごく目立つと思うから私たちも一緒に居た方がいいかなってフレスちゃん今あんなだし……」
フレスが心配だと、まあ俺一人で今のフレスを御しきることは出来そうにないな、というか二人っきりにされたら街に入れるかすら心配だ。
『助かる、二人だけが頼りだ』
「もっふもふ~」
フレス……他のメンバーが居なくなった途端また一段とだらしなくなった。
そうこうしてるうちに森を抜け街の防壁が見えて来た。
流石に最前線の街である、立派なもんだな。
「止まれぇ!」
門番のNPCが叫ぶ、まあそりゃ止められるわな。
「どうかしましたか?」
フレスが俺の上から顔を覗かせる。
「これは君の従魔かね?」
「はい、そうですけど……」
『プレイヤーだ、通せ』
「!? し、失礼しました、どうぞ」
こういうとこのNPCはまず管理AIよりの最低限の権限と知識を与えれているからな、プレイヤーであると示せば簡単に通すだろう、と私的な知識で押し通る。
「え? え?」
『気にするな、門番NPCは基本プレイヤーが上位種族だと知ってる』
この世界は、いやここだけではない人類、AI、NPCこれらの序列は絶対であり、その辺のNPCならともかくちゃんしたとこのNPCならば神のごとく敬われるのだ。
「そっか、普通のNPCってそういうの知らなくて横暴な態度とかするのもいるけど門番さんは違うんだ」
「ふーんそういうもんなんだね、まあ私らも門番はね。というかNPCの反応はあんまり気にしてなかったかな……問題は私らと同じプレイヤーでしょ? レイドボスが復活しないってもうバレてるから絶対しつこくされるよ?」
「そうだよ~だからはやくいこー?」
門を潜りながら俺の腰回りをせっついてくるリュールとミニル。
そして―――門を抜けるとそこは……プレイヤーの巣窟だった。
「あちゃあ~もう囲まれてるよ~」
「遅かったか、まあ徒歩だったし仕方ないね、ギルドハウスの真ん前に陣取られるよりマシだけどさ」
「みんなどうしたんだろうね?」
いや、お前が俺をテイムしたからだろうよ……俺の嫁抜けすぎ。
「やぁやぁ、フレス君? 君大変な事をしてくれたね?」
「やあ博士、ついに願いが叶ったよ」
「それはおめでとう、というとでも? レイドボス一体、それも狩り易いのをダメにしといてはいそうですか、とはいかないよ?」
博士と呼ばれた白衣姿の男は眼鏡をいじりながらフレスを睨みつける。
「今すぐテイムモンスターを解放するんだ」
「それで戻るという保証は?」
「ありませんが、何もしないよりマシでは?」
険悪な雰囲気だな、周りのプレイヤーも解放しろとヤジが飛ぶ。
『やれやれ、ではお前は新婚夫婦に今すぐ離婚しろと言うのか?』
あまりの横暴さに俺も少々苛立ちつい口を挟む。
「……喋った?」
博士は口をあんぐりとあけ呆けている、周りのプレイヤー達も同じく。
『先ほどから黙って聞いて居れば、解放だと? プレイヤー間の契約は現実の婚姻となる、という法律を知らんのか?』
知らなかったのは俺がプレイヤーであるとう事実だろうが、だからと言ってこうも高圧的に集団で取り囲むなんて許されるはずがない。
「なっ、君はプレイヤーだというのかね?」
『無論だ、些か運営側に片足を突っ込んでいたが、それも解消された今は一般プレイヤーだ』
色々話して出しても痛くない情報でこの場をやり過ごそう、こういうインテリ風は未知の情報とか渡せばすんなりと許すだろう。
「それで?」
『公開されていない情報を渡すから許せ』
そのうち公開されるだろうけど、レイドボス12体にそれぞれの裁量によって任されている情報だ、どう扱っても構わないと運営から言われている。
「例えば……?」
そうだな……。
「こういうのはどうだ?」
右前足を軽く上げて、スキル≪光爪≫を発動し、前足を覆うように光の爪が形成される。
「それは≪光爪≫!?」
あれ、知られてた……?