警備日報、またの名を嫁との馴れ初め
いつもの見切り発車、テンプレ反発精神から来る謎設定、詳しい説明回はおいおいしていくので、面白そうだなと思ったら応援してね。
当方、未完結前科多数。
眠くて若干雑だったので加筆し修正。
新歴2000年6月10日土曜日―――。
VRMMO世界[Twelve Stars online]
-ミキスリト大森林-にて。
ミキスリト大森林は深い霧で覆われた森のフィールドである。
出てくるモンスターは四足獣系統、熊であったり狼であったり虎であったり、ともかくモフモフとした獣モンスターの巣窟である。
その森の中を進む一団が居た。
[権限行使:情報検索]
先頭を行くのは大手何でも屋ギルド≪なんでもやります!≫のマスター、ナンデモだ。
猫耳中年オヤジの見た目ナイスガイを自称するトッププレイヤーであり職業は≪忍者≫、それに続いてぞろぞろとその仲間たちが少々乱れた隊列を組み、そしてそれに続き≪なんでもやります!≫とは違う印象を受ける一団があった。
[権限行使:情報検索]
男女比2:8の中堅ギルド≪フラワーガーデン≫である。
集団の先頭から白銀髪に巫女装束のテイマー、職業を≪巫女≫であるギルドマスターのフレス。
その後を副マスターであり黒髪美少女侍な見た目で、職業≪騎士≫のリュール。
三毛猫耳少女、ギルドのムードメイカー笛術師ミニル。
その他女性ギルドメンバーにちらほら少年が混ざった総勢30名が総出で来ているようだ。
≪なんでもやります!≫と合わせて60人10パーティ(1パーティ6人)レイド用編成であるところを鑑みるにこの森に出現するレイドボス、デュアルドッグの討伐に来ているらしい。
[権限スキル≪聞き耳≫を発動]
「もうそろそろですかね?」
フレスが先頭まで駆けて行きナンデモに確認を取る。
「さてね、どうだろうね、なんせあいつはフィールド徘徊ボスだからどこか一か所と決まった場所には居ないからね、それはお嬢さんも承知だと思ってたんだけどね?」
「はい…けど待ちきれなくて」
独特のイントネーションで諭すようなナンデモに対して、しゅんとし反省してみせるフレス。
揉めている様でもないが、両者の間にはモチベーション的な違いが見受けられる。
「まあね、依頼されたことはね、ちゃんとするからね、待ってほしいね」
困り顔で苦笑するナンデモは、フレスを元居た配置まで下がらせる。
「ナンデモさん、どうだって?」
「分からないって……」
「そりゃ徘徊してるからそうだと思ったよ」
あっけらかんと告げるリュールとフレス、この二人にもモチベーションの差が見られる。
どうやらこの集団のきっかけはフレスにあり、ナンデモは依頼、リュールは協力しているだけのようだ。
つまりフレスはデュアルドッグに何かしらの用があるらしい……ならば仕方ないな。
[権限スキル≪透過≫を解除]
デュアルドッグはフィールド徘徊ボスであるが、嗅覚が鋭くこの森にプレイヤーが侵入した段階で感知しすぐさま近くまで来てしばらくプレイヤー達の規模や戦力を観察するという行動を行う。
つまり彼らのすぐそばに既に居て、ずっと観察をしていたのだ。
『ウゥゥゥウウ……』
唸り声をあげながら自己アピールし霧の中では見づらい真っ白な毛並みの巨体を集団に晒した。
デュアルドッグなりの優しさである。
[レイドボス:デュアルドッグ出現]
[レイド戦を開始します]
「来たね、それじゃあね、みんな戦闘準備しようね」
締まらない掛け声で≪なんでもやります!≫の面々は武器を構え陣形を組む、その後ろで≪フラワーガーデン≫の面々も支援陣形を組む。
[スキル発動≪ハウリング≫]
『ウワォォォォン!!!』
デュアルドッグが咆哮をあげ周囲の霧を吹き飛ばし、邪魔が入らないように周囲のモンスターに威嚇、牽制をする。
霧が晴れると同時に近くでプレイヤー様子を伺っていたフォレストベアやウルフが蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
スキル≪ハウリング≫、口があるモンスターなら誰でも使えるスキルであり対モンスターならば力の差によって怯み状態による身動きが取れなくなったり、恐慌状態で逃走し、対プレイヤーであっても効果は絶大だ。
この咆哮で≪なんでもやります!≫の前衛が数名が怯む状態になった。その顔には恐怖が浮かび上がり全身がガタガタと震えあがる。
「怯むなー!総員突撃!」
[スキル発動≪戦士の鼓舞≫]
≪なんでもやります!≫副マスターの職業≪盾士≫のゲキが大盾を振りかぶり地に叩きつけた。スキル≪戦士の鼓舞≫を発動して前衛及び中衛に戦闘高揚状態を付与して怯み状態を解消する。
すると先ほどまでの震えは武者震いへと変わり、好戦的な笑みを浮かべた前衛達が若干のタイムラグはあったものの盾で突撃をかまし、デュアルドッグの体を盾で抑え込む。
レイドボスと言えど大きさはレイドボス性質の中ではかなり小さい方で10人にも及ぶ大男たちに抑え込まれては身動きも取れず、その隙に中衛部隊10人掛かりで槍で盾の隙間を縫ってデュアルドッグの体を貫いていく。
体中に赤いラインが走り、ダメージエフェクトが鮮血のように赤く宙を舞う。
実のところこれが、デュアルドッグが攻略法として確立させている方法で実際に今まで何度もこの方法で討伐させている。
みるみるうちにデュアルドッグのライフゲージが削れていく、≪フラワーガーデン≫の面々は細々と支援している。
今のところ順調であった、もう後一撃で倒せるというところで攻撃が止んだ。
何事かとデュアルドッグは訝しみ≪なんでもやります!≫のメンバーを見るが何やらレアそうなアイテムを取り出し、それから放たれた鎖がデュアルドッグの四肢を拘束し身動きを取れなくする。
このゲーム世界にはラストアタックボーナスというものがある、恐らくそれのための仕込みだろう、フレスが安全にラストアタックできるようにする措置だろうか?
しかし彼女は一応トッププレイヤーに分類されそんなことせずとも皆が譲ればデュアルドッグを仕留めることは盾による拘束でも可能なはずだ。
フレスが前に出てくるところを見るとどうやらラストアタックボーナス狙いのようだが……どうにもおかしい、何故、≪なんでもやります!≫の面々は陣形を崩して撤収していくのか。何故フレスは、にやけながらこちらに近づいてくるのか。
「それじゃあね、依頼達成でいいんだね?」
「はい、ありがとうございます、これが報酬です」
重そうな麻袋を軽々と渡すフレス。
「確かにね、それじゃあね、頑張ってね、応援してるね」
そういってナンデモ達は帰還転移アイテムでフィールドから消えた。
次いでフラワーガーデンの面々がデュアルドッグを取り囲み、フレスがデュアルドッグに触れられる位置まで近づいてくる。
例え一撃で死んでしまうとしてもこの距離頭から噛み砕けばフレスだけでも道連れに出来る。
だが、デュアルドッグは賢いドッグ、そんな往生際が悪いことしない、勝者がどうしようとそれは当然の権利だ。ただ不愉快そうにフレスを睨む。
対照的にフレスは顔を上気させ、デュアルドッグの顔面に抱き着き、囁いた。
「≪テイム≫」
[プレイヤー:フレスからの干渉を確認、拒絶しますかYES/NO]
[スキル≪テイム≫を拒否しました]
は?
え、なに、≪テイム≫? レイドボスを? 冗談だろ?
「≪テ・イ・ム≫」
艶めかしく顔を見つめながら再びそう言われた。
[プレイヤー:フレスからの干渉を確認、拒絶しますかYES/NO]
きょ、拒絶である、ダメだそんないきなり……潔いおりこうドッグは終いだ、俺はこんなとこに居られるか!自分の領域に戻るぞ、と言わんばかりにガンガン暴れようとするが鎖が食い込むばかりでほとんど身動きが取れない、先ほど噛み砕ける! などと言ったがそれも不可能である。
[スキル≪テイム≫を拒否しました]
「≪テイム≫」
[プレイヤー:フレスからの干渉を確認、拒絶しますかYES/NO]
いや無理だって、ニュースとか見てないの? いや違う、そうじゃない、そもそも彼女は勘違いしているんだ、そうだ、それを正さねば。
[スキル≪テイム≫を拒否しました]
「≪テイムゥ≫」
[プレイヤー:フレスからの干渉を確認、拒絶しますかYES/NO]
『拒否する!』
[スキル≪テイム≫を拒否しました]
口を開き肉声を発する、その場か静まり返る、皆一様にポカンとしている……だが俺はなりふり構っていられなかった。
『俺……実はプレイヤーなんだ、だからな、無理』
悪いがさっさと諦めてトドメを刺してくれ、プレイヤーだって情報ばらしてもいいから勘弁してくれ。
「初めて見た時から好きでした、結婚してください、≪テイム≫!」
[プレイヤー:フレスからの干渉を確認、拒絶しますかYES/NO]
『なんでだよ! 知らんわけじゃないだろう、リアルエンゲージシステムにかかわるんだぞ! プレイヤー間の≪テイム≫は!』
ゲーム内における結婚や契約に関するシステムで契約が発生した場合に長時間拘束されるケースが度々社会問題になり、現実において別の人と結婚したりしていると浮気として起訴されたケースが昨年で2000件もあったために改正された法案でゲーム内婚ないし≪テイム≫などの長時間ともにあるという契約行為に関して現実において同様の婚姻と見なされるというものだ。
俺の上司にも一人婚約者がゲーム内婚した結果別れたという実体験をつい先日聞かされたばかりで気を付けようと思っていた矢先にこれなのだ。
良く知りもしなくて俺のモフモフが気に入ったとかだけで結婚してくれと言われても、はい、そうですか―――とはいかない。
「わかってますよ? だからプレイヤーであったならなおさらです、結婚しましょう……≪テイム≫」
[プレイヤー:フレスからの干渉を確認、拒絶しますかYES/NO]
『リアルとかお互い知らないわけだし、もう少しお互いを知る機会とか必要じゃないか!? 困るだろ!?』
「大丈夫ですよ、どんな人でもアナタなら愛せます、お願いします……それとも私の事嫌いですか?」
『嫌いってわけじゃないが、いやそういう問題じゃないだろう?』
「そういう問題です、好きか嫌いか、結婚なんてそんなものだって母さんも言ってました」
母親! どういう教育してるんだ、娘が顔も知らぬ男といきなり結婚しようとしてるぞ!
なんやかんやギャーギャー言い合ったが結局フレスは折れることはなかった、それどころか……。
「好きな食べ物は何ですか? ≪テイム≫」
[プレイヤー:フレスからの干渉を確認、拒絶しますかYES/NO]
『肉、断る』
「ご趣味は? ≪テイム≫」
[プレイヤー:フレスからの干渉を確認、拒絶しますかYES/NO]
『ゲーム、断る』
「お仕事は何をされてますか? ≪テイム≫」
[プレイヤー:フレスからの干渉を確認、拒絶しますかYES/NO]
『秘密……いや公務員だ、断る』
などとお見合いの質問かよと思うような問いに≪テイム≫を絡めてくる。
そんな質疑応答を繰り返していくうちに俺もだんだんこいつでいいんじゃね? と思うようになってきた。
話していると悪い奴ではないようだし、尽くすタイプみたいだし、顔も容姿も良い、胸は、程よくしかないが、よくよく見ればドストライクだったのだ。
「では、これが最後の質問です、≪テイム≫、されませんか?」
彼女の足下にはMPポーションの空き瓶が山になっていた。
≪テイム≫する度に少なくないMPを消費しているらしく、ポーションも無くなったからこれで最後、ということらしい。
[プレイヤー:フレスからの干渉を確認、拒絶しますかYES/NO]
これを断れば晴れて自由の身、だが俺の腹はもう決まっていた。
『分かった、そこまで言うなら、俺の嫁になってくれ……』
ついに俺が折れた。
「! ありがとうございます、私フレスって言います……お名前を教えてください」
『俺は……ソウ、という、今後ともよろしく』
こうして俺たちは夫婦になった。