7話
会議の結果、マダー・マウンテンへは、俺たちと、都市運営に関わる者で構成された数人の調査隊と共に行くことが決定した。
そのため、移動は大勢が入れる大型の車両が付いた馬車によって行われることになった。
運転は、緊急事態があった場合でも対処しやすいということ、また、大型の馬車を楽々引けるユニコーンを扱えるもの、ということでロウが選ばれた。
そうしたことが決まった翌日。
幾つもの車輪がついた屋根付きの車両の中に、俺はいた。
周りには、リンネやフィーラの姿がある。
それ以外にも、同行する者はいて。
「本日はよろしくお願いします、アイゼン様。我が都市の市長から色々と伝説をお聞きしていた、預言者様と共に行動できること、嬉しく思います」
メリッサがいた。彼女は念話魔法において高度な技術を持っている。彼女がいれば魔法都市にいる市長とも、比較的に簡単に連絡が取れるのだ。
……魔法都市が作成した装置のお陰で、念話の精度や通話可能距離がより良く補正されるからな。
なので、メリッサは連絡役として、俺たちに付いていく事になっていた。
更には、
「あ、俺たちも挨拶をば。魔法都市へのご協力、市の住人としてとても感謝しております。どうぞよろしくお願いします」
魔法都市から派遣された職員――《地理学者》や《フィールドワーカー》たちで構成された調査員たちもいた。
皆、先日の、市庁舎屋上の会議にいた者たちだ。
この辺りの地理に詳しく、そしてこれまでの調査を続けてきたことから、変容した今のマダー・マウンテンにも対応できる人員ということで選ばれたのだ。
「ああ、こちらこそよろしく頼むよ」
これらが、マダー・マウンテンに行く者たちだ。
ただ、このカーゴに乗っているのは、マダー・マウンテン行の者だけではなかった。
というのも、
「我が師よ。私たちは途中までですが、ご一緒出来て嬉しいです……!!」
尻尾を振りながらそんなことを言ってくるルネットもいた。
彼女だけではない。
彼女を補佐する魔法都市の兵士――というか《魔術師》たちも乗っていた。何故なら、
「ルネットたちは途中の狙撃ポイントで降りるんだよな」
「はい。調査の結果、狙撃が必要ならすぐに撃てる位置に居たいですから。街からの追尾矢でも十分ですが、より確実にしたいので」
俺たちがマダー・マウンテンの女帝に話を聞きに行った結果、状況が劇的に変わる可能性がある。
良い方向にも悪い方向にも、だ。
……勿論、良い方向になるようにしようとは思うけれども、保険はかけておくべきだしな……。
魔法都市の市長と共にそこも話し合い、出来るだけ素早い対応が出来るように、ルネットをよりマダー・マウンテン近くに配置するアイデアが出た。
今回同行しているのは、それにルネットも賛成してくれた結果だったりする。
そして当のルネットは先ほどから、とても気分が高揚しているようで、
「こうして我が師と移動するのは久しぶりです……!」
尻尾を振りながらテンション高めに話しかけてくる。
「戦争が終わって以来だし。その戦争もずっと昔だしなあ」
「ええ、思い出しますよ。何人もの同僚と共に生活しながら、我が師にくっついて回った日々を」
そんなルネットの言葉に、フィーラも頷く。
「そういえば、ルネットちゃんとは同時期に弟子になったものだから、色々と喋ったわよねえ」
「うむ。あれは、とても楽しかった……。君の銃と私の弓で射撃競争を行った時もあったな」「そうねえ。私としても、芸としての射撃を極めるために、あの頃は色々とやってたものねえ」
「ああ、射撃しすぎて、邪神が作っていた拠点付近の丘が平らになってしまったがな……」
「え、フィーラさんとルネットさん、そんなことをしてたんですか?」
リンネの驚くような声に、二人は苦笑する。
「うむ……中々白熱した結果でな。狙う標的と、威力を上昇させ続けていたら、若干やり過ぎたのだ」
「そうねえ。マスターは笑って許して、言霊で丘だけは直してくれたけど、後から考えればちょっとやり過ぎだったわね……」
「な、なるほど……。本当なんですか、先生」
「うん? まあ、そうだな。なんかやり合ってたけど、倒さなきゃいけない魔獣の拠点だったから別にいいかと思って放置してたら、更地になってたんだよ」
なつかしい記憶だなあ、などと思っていると、
「昔から、先生のお弟子さんたちは、凄い事をやってたんですね……」
「あの……市長の話を横から聞いているだけで何だかとんでもない事をやっている感じがしますよ……」
リンネやメリッサが冷や汗を浮かべながらそんなことを言ってくる。
……弟子の中には、結構、威力高めの行動をするのがいたからなあ。
彼女たちだけが特別という訳でもなかったりするのだが。ともあれ、
……こうして今、昔の弟子の仕事ぶりを見ながら、懐かしい話を出来るのは幸いなことだよなあ……。
発展した世界を見ながら、弟子たちの活躍も見たい、という気持ちもあって始めた旅であったけれども。
こうして実際に出来ているのは本当にありがたい事だ。
……実際に、起きている事態そのものは、大変な事だから、気を引き締めて望まないと駄目だけれども。
などと思っていると、
「――」
わずかな振動と共に、馬車が止まった。
そして、御者台の方からロウが顔を出してくる。
「ルネットさん。到着しましたよ」
「む、そうか。……では、この同行も一旦終わり、か」
言いながら、ルネットは車両に付いている窓の外を見る。
そこにあるのは、
「戦争時に使っていた監視塔、か」
背の高い石造りの塔だ。
魔法都市の市庁舎を小型化したような形をしているものだ。
「ルネットはこの屋上に行って、準備するんだよな?」
確認するように言うと、ルネットは頷きを返してきた。
「そうですね。今は市庁舎の職員が、泊まり込みに使ったりしているのですが。丈夫ですし、今でも奇麗に残っていますから。狙撃地点としても使いやすいものかと思います」
「それで、もしもの時は、ここから、狙撃を開始する、か」
「はい。ここからならば、威力の減衰もないでしょうしね」」
ルネットは、背中に装備していた一張の弓を取り出しながら言う。
それは樹木と金属で構成された、長弓。
彼女が狙撃をするときに使う基本装備だ。
「装備も万端ですし。いざという時は、周りの被害を考えずに打てる魔法矢も増えます」
「ああ、矢によっては、射撃の瞬間、衝撃が凄まじい物もあるしな」
彼女から放たれる矢によっては、地面にクレーターを作るものもある。
もちろん、そういったものを撃つのには修練や技量が必要なのだが、ルネットはそれを持ち合わせている。
だから、何の憂いもなく、彼女の矢が援護してくれるというのは、心強いことだ。
「それでは、名残惜しいですが、私はここで」
そう言って、改めて弓を持ったルネットは車両のドアを開けて、地に降り立った。
「またなルネット。それと、フォローが必要な時は頼む」
ルネットはこちらのセリフに対し、一礼を返して、
「かしこまりました。万全を尽くしますとも」
真面目な顔で胸を張りながら、自信満々に言ってくれた。
そうしてルネットと数人の兵士を降ろした後、俺たちを乗せたカーゴは、炎を吹き出す山へと向かっていく。
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