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100人の英雄を育てた最強預言者は、冒険者になっても世界中の弟子から慕われてます  作者: あまうい白一
第三章

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6話

メリッサに付いて行く形で俺たちは、市庁舎の屋上に設置された会議室……というか、屋上に大きなテーブルを置いて会議できるようにした場所……に通された。そして、


「貴方があの大英雄アイゼン……。そしてそのお弟子の方々ですね。お会い出来て光栄です!」


 そこで複数の市職員と共に待っていた魔法使いのローブを着た若い男性――魔法都市の市長から、そんな挨拶を受けた。

 

「私は魔法都市の市長、シャードと申します。お話はそちらのメリッサさんから聞いております。ルネット市長ともども、今回の件へのご協力、感謝します」


 シャードと名乗った彼は、俺たちに目線をくべながら、もう一度丁寧な礼をした。 

 熱量のある青年だな、と思いながら俺も言葉を返す。


「こちらこそよろしくだ。……といっても、協力以前に、まだ何が起きているかも分からないんでな。今、この街に何が起きてるか、君たちが何をしているか、教えてくれ」

「はい。それについては、私と、ルネット市長の方で説明させて頂きます。少し長くなりますので、どうぞ、お座りください」


 そういった市長はこちらが席に着くのを見た後、テーブルの上に地図を広げた。


「まず事の始まりは、しばし前のことです。この街の東部にある火山、マダー・マウンテンから火柱が上がったのを観測したことから始まります」

 

 彼は地図上の山を指した後、実際に外に見える大きな山に目をやった。

 

「あの山ですね。ここからだとよく見えると思いますが」

「観光名所になってるところよね。というか、火柱の原因は噴火なの?」


 フィーラが聞いた。


「その可能性もゼロではないかもしれません。確かにマダー・マウンテンは活火山ですし。ただ火山灰も出ていないですし……調査の限りでは、原因はあの山の主――『炎狐の女帝』の力によるもの、というのが最も可能性が高いのですよ」

「山の主……? そんな存在がいるのですか?」


 首をかしげるリンネに、シャードはええ、と肯定を返した。

 

「かなり昔の時代からいる魔獣でして。魔法都市とも古くから、協力体制を築いていたんですよ」

「そうですね。彼女のお陰で、邪神がいた時も、山に魔獣は増えなかったと交易都市にいた頃から聞きましたよ」


 ロウの言葉に魔法都市の市長は頷いた。


「その通りです。女帝も人語を解せる知能を持っていて、さらには人に危害をもたらす気はないと分かっていましたから。私の代でも、ほんの少し前までは友好的で、何事もない関係だったんです。直接会う事も、多々あったくらいに」

「それが、最近になって変わった、と」


 俺の問いかけに、シャードは難しい表情を浮かべながら首を振った。


「……はい。そうなのです。山から上がった火柱は、女帝の特有の魔法である『狐火』でして。何事かと、調査班がマダー・マウンテンに向かったところ、中腹付近で『それ以上近づくな』との怒りに満ちた言葉を掛けられたとのことでした。

 ――そして、それ以上一歩でも進めば、焼かれるような、危険な雰囲気も感じ取ったとも報告にはありましたね」

「なるほど。怒りの声が聞こえて、熱を感じたら、まあ、危険だよな。……それで、以後は?」

「まず調査班が帰ってきたと同時に、入山は禁止としまして。その判断は良かったようで、日に日に、火柱は強まり、山肌を溶かすほどの炎が噴き出るほどになっていまして。溶岩が流れて、街へと向かってきたり、弾丸となって街に飛んでくるケースも出てきてしまったのです。見ての通り、マダー・マウンテンとこの魔法都市は、そこまで遠くないので」

 

 シャードは彼方に見える山に目をやりながら言った。

 確かに、近くもないが、遠すぎることもない、と言うべき距離感に、マダー・マウンテンはある。

 間は目測で数キロほど。

 

 女帝の力がどれほどかはまだ不確定だが、

 

 ……古くから生きている魔獣であれば、強力な力で、出来なくもない、か。

 

 そんな風に思考していると、シャードは更に説明を重ねていて、


「当然、危険なので、何度も調査班を向かわせて、どうにか女帝に何が起きているのか、どうしてそうしているのかを訪ねようとしたのですが、いつどこが溶岩化するか分からない山をまともに歩くことは出来ず、そして、中腹にある女帝の住処に辿り着く前に、戻ることを余儀なくされているのが現状なのです」

「つまり、原因の究明は進んでいないということか」

「ええ。ですが、起きている事態は、どんどん悪化しておりまして。火山灰などはありませんが、溶岩が街に来る可能性も考えなければなりませんでした。ただ、魔法による抑えでは限界がありまして」

「――だから、私に相談が来て、呼ばれたのです。このままだと魔法都市が危険だということで」


 シャードの言葉から繋がるように、ルネットがそう言った。

 テーブルの上に、自らが持っていた弓と矢を置きながら、だ。


「なるほど。狙撃か」


 俺の言葉にルネットはこくりと頷いた。


「君なら、ここからマダー・マウンテンまでは、射程に入れられるし。空から飛んできた噴石も落とせるか」

「その通りです。実際に氷結の魔力が込められたで、山肌に炎や溶岩が巻き上がったら、売って凍らせることで抑えて頂いておりますし。山から吹き飛んでくる岩石も、神業の様な正確性で撃ち落として砕いて頂いております。……本当にありがたい事です」

「おお、そうなのか。さすがはルネットだな」


 そう言うと、ルネットは尻尾を一振りさせた。


「いえ。この距離ならば容易い事です。いざという時は、標的の魔力を矢にセッティングすることで、標的を追尾し続けられる【追尾矢】も放てますし。ただの炎や岩ならば、外す要素はありませんとも」

  

 ルネットは、矢に様々な魔法効果を載せて打つことが出来る。

 

 標的を凍らせたり、燃やしたり、しびれさせたりも可能だし。

 矢の速度を上げたり、追尾性を持たせたりと、様々な応用の利く射撃が可能だ。

 

「この距離から安全に、山からの炎を防ぐのであれば、彼女は確かに適任か」  

「ええ。……それに、女帝が本格的に怒りを人間にぶつけに来た時、彼女の熱が及ばない範囲から麻酔矢、もしくは鎮静矢……最悪の場合攻撃の矢を打ち込まなければなりませんからね。出来るだけ屋上に張り込みながら会議をしているのはそのためです」

「何が異常があればすぐに動けるように、か」

「その通りです、アイゼンさん。女帝に攻撃するなどと、本当は想定もしたくないのですが……」


 シャードは、悲しそうな表情で言う。

 市長として、街の為にやらなければならない事だと分かっていても、長い付き合いのあった魔獣を撃つ必要がでるかもしれない、というのは、確かに辛い事だろう。

 

 だから、もう少し情報を聞こうと、俺はシャードに問う。


「……その怒り狂っているっていう女帝とは、話は一切出来てないのか?」

「調査班がいけなくなってからは、マダー・マウンテン中腹にある住処に向けて、ルネットさんに矢文を放ってもらっています。ただ、その問いかけにも返答はなく、効果はないです」

「文字も読めるのか」

「ええ。それくらい女帝は人と共存していて、なじみ深い存在だったんです。今も、市の職員は彼女をどうにかしようと動き回っているのですが、皆、頑張ってくれているくらい、彼女を好ましく思っている人は多いのです」


 シャードだけではなく、女帝の好感度は高いようだ。

 何で、怒り狂って炎を振りまいているのかが、疑問で仕方がないというような表情をシャードの周りにいる職員たちも浮かべているし。


「魔法都市の市長が言う通り、私が女帝を直接狙うのは本当に最終手段です。撃つべき時を見失わないように、張り込んではいますが」


 ルネットもそう言ってくる。

 つまり、まだ、炎狐の女帝とやらを敵としては認識していないようだ。

 被害も、ルネットの狙撃によって、今のところはないみたいだし。


「うん、ちゃんと街を守れてるのは偉いなルネット。狙撃手としての力は落ちてないみたいだし」

「はい。我が師に褒められた力の一つですから。むしろ市長となった後も、鍛え上げています」


 ルネットは胸を張って、自信満々に告げてくる。その後で、


「……あ、ちなみに今の発言で、私を褒めて頂けたようですが、撫でて頂くのは可能ですか? 我が師的にはどうでしょうか?」

「うん? 撫でるって君をか?」

「ええ。この件が終わったら、可能であれば、思い切り撫でて頂きたいと思いましたが、今撫でて貰った方がやる気が出るので、今やって貰った方が良いと判断しました。先ほどの発言は撫でポイントが高いと、個人的には思うのですが、いかがでしょうか」

 

 ルネットは狼耳の付いた頭をこちらに向けながら言ってくる。

 

 ……あー、この辺り、フィーラに近い部分があるよなあ。

 

 彼女とは違って微妙に回りくどい感じがあるが、ともあれ、人前で撫でてほしがるくらいには、望んでいる事のだろう。ならば、


「うん。この件が終わらなくても撫でた方が良いなら撫でるが」


 それがルネットの望みであるならば、やるのは別に構わない。

 そう思って、耳のあたりを撫でる。


 すると、至極真面目な表情のまま、固まって尻尾を振り始めた。 

 

 その様子を見て、近くにいたメリッサはやや呆然としており、

 

「……このような市長は初めて見ます……」


 ぽつりとこぼしたそんな声に、フィーラは微笑する。


「あー、秘書ちゃんの前ではそうなのね。意外と、ルネットちゃんは、感情表現がストレートだから、求めたい時にはすぐに求めるタイプなのよー。表情とかには出にくいし、手紙とかでもあんまり言わないけどね」

「あ、確かに。ルネットさんの手紙はいつも、きっちりしていましたね」

「でしょ? でもでも、ああやってさせたいようにさせるのが、一番ルネットちゃんの性能を引き出せるから、見守るのが安定なのよね」


 などという感想会が近場で開かれているが、とうのルネットは全く気にした様子もなく、撫でられるがままだ。

 まさに堂々と撫でられているというべきか。

 その堂々さのまま、彼女は俺に目を向けて話しかけてくる。

 

「ああ、素晴らしい。やる気が出ますし、頭も回ってます……」

「そりゃあ良かったな」

「頭を撫でて貰いながら恐縮ですが、わが師はこの件に関して、どういう解決手段があると思いますか?」

「うーん、そうだな。解決と言ってもな。まだ情報が足りなさすぎる。とりあえずは、女帝本人に話をもっと聞いた方がいいと思ったな」


 説明をひと通り聞いた結果、まず思ったのがそれだ。

 

 何故、炎を吹き出しているのか。

 どうして、人に立ち入るなと言ったのか。

 何が理由で、女帝が怒っているのか。

 そもそも本当に怒っているのか。

 

「その辺りは、もうちょっと知りたいし、本人から聞きたいよな」

「それは……そうしたいのは私たちも同じなのですが」


 シャードは頷きながらも、苦心の表情を見せる。


「うん。分かってる。危険故に出来てないんだろう? だから――良ければ俺が話を聞いてくるよ」


 ルネットを撫でる手を、そろそろ良いだろうと止めつつ、何気なく俺は言った。すると、

 

「え……!?」


 シャードが驚きの声を上げた。

 そればかりか、彼の周囲にいた職員たちが目を見開いた。

 よほど返答が意外だったのだろうか、と思っていると、


「今のマダー・マウンテンに近づくのは、危険なのですよ……?」

「うん、話を聞いていたから、それは分かってる。……ただ、事情を分からないまま動くのも、また危ないからな」


 危なさの種類が違うけれども。

 俺としては山に入る危険性より、情報を集められずに、原因を放置してしまう危険性の方が大きいと、判断したのだ。


「それに、あの山に行くくらいは、そこまで時間が掛からないからな。ちょっと行って戻る位はさせて貰おうかと思うんだ」


 徒歩で行ったとしても、何時間もかからない距離だ。

 だから問題はないだろう、と思いながら、俺はマダー・マウンテンを見ていた。

 

 その時だ。


「きゅ……?」


 懐から、炎狐が顔をのぞかせたのは。


「あの……アイゼンさん? その子は、一体……?」


 いきなり炎狐が出てきたせいか、目をぱちくりさせながらシャードは問うてくる。

 確かにこの子については彼らも初見だろうし、軽く説明しておこう。、


「ああ、ここに来る前にちょっと助けてな。家に帰るまで面倒を見るつもりで入れているんだ」

「な、なるほど……」

「しかし、どうしたんだ? 今になって顔を出すなんて」


 炎狐は、リザードマンに襲われたのもあってか、だいぶ臆病になっているのか、基本的には、俺の内ポケットに入ったままだ。


 人前にはあまり姿をさらさないようにもしているのは、ここまでで感じていた。なのに顔を出したという事は、

 

「――あの山に何か用があるのか。……というかもしかして、君の住処は、あの山か」


 考えた事を炎狐に問いかけた。そうしたら、


「きゅん」


 どうやらご名答らしい。

 炎狐は首を縦に振りながら、前足で山を指した。


 行きたい、という意思をしっかり示してくる。


「ふむ? 危ないみたいだけど、それでも行きたいんだな?」

 

 先ほどまでの、自分たちが話していた内容を理解できているかは分からない。

 

 ……まだ、俺に伝えてくる意志すら、幼くて不安定だからな。

 

 だから改めて、俺は山に行くことの危険性を伝えたのだが、

 

「きゅ、ん」


 行きたい、という意思は変わらないようだった。


 リザードマンにボロボロにされた時も最後まで威嚇していたが、意外と気が強い子なのかもしれない。

 そして、きちんと自分の意志で、行きたいと思っているのであれば、

 

「行かない理由は、猶更ないな」


 やる気は出来る限り尊重すべきだ、とアイゼンは思う。

 だから、決まりだ。


「うん。シャードさん。危険はあるけれど、俺はマダー・マウンテンに行ってみるよ。事情を聴くのもそうだけど、この子の住処があるっていうんだから。そこも確認したいしさ」


 少なくとも二種類の用事があの山にできた。

 ならば、早いうちに行くのが吉だ。そう思って伝えると、

 

「そう、ですか……」 


 シャードは数秒、目をつむった。そして、


「分かりました。ではこちらも、改めて調査班の中でも、熱耐久に優れた職業者の精鋭を選出します。そして再調査と、アイゼンさんの案内役を務めるために、アイゼンさんと共に、同行をさせられればと思います」

「おお、それは助かる。ありがとうシャードさん」

 

 以前の山の様子を知る人間がいた方が、より得られる情報が増える。そう思って礼を言うと、シャードは首を横に振り、力強い瞳でこちらを見てくる。


「いえ、私たちに出来る事がそれ位なだけですので。むしろ、このような危険な役目を引き受けて頂き感謝するばかりです。……ええ、街を守るためにも、協力をよろしくお願いします」「ああ、了解だ」



 あまういが原作を務めます、「叛逆の血戦術士」のコミックス第一巻が、9月9日に発売されました(表紙画像↓から公式サイトへ行けます)


 是非一度、お手に取って頂ければ嬉しいです!

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