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100人の英雄を育てた最強預言者は、冒険者になっても世界中の弟子から慕われてます  作者: あまうい白一
第三章

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2話


「あら、湖が見えてきましたよ、先生」


 魔法都市へ向かっている最中、ふと、リンネが進行方向を見ながらそんなことを言った。

 

 言われてみれば、街道の脇に湖が見えた。

 それもかなり大きいものだ。 


「おー、向こうに見える山と相まって、奇麗な景色だな」


 そんな俺の感想に反応したのは御者台のロウで、


「そうなんですよ。湖も美しいですし、その湖水の一端が湧き出ているあの火山も、魔法都市近隣の観光名所になっているんですよ。この湖が見えてくると魔法都市が近い証拠、という事でもありますね」


 と、追加説明をくれた。


「ほうほう。そうなのか」


 昔は、そういった名所となっている認識はなかったけれども。

 ここ数十年でなったということだろう。


「魔法都市では『茜のマダー・マウンテン』と呼ばれているんですが、山中の動植物が、付近の山とは異なって、赤く珍しい物が多かったりするんです。それに登山道もしっかり整備されているので、歩きやすいですし。登山を楽しむスポットにもなってるんですよ」


「登山道か。なるほどなあ」


 そのようなものが整備されている山は、自分の時代では珍しかったけれども。

  

 ……人が色々なところに行きやすくなる時代になったんだなあ。

 

 移動のしやすさは発展のしやすさにつながる。

 重要な事だ。

 

「登山道に付いても、山好きな百英雄の方が協力してくれたから、完成がスピーディーだったとのことです」

「あ、フィーラちゃんも聞いたことあるわ。あらゆる山を踏破するついでに、登山道の作成に協力してる同僚がいるって」

「ええ。街道の件もそうですし、そのほか我々が利用しているシステムは、アイゼンさんのお弟子さんによるものがほとんどですし。本当に助けられてますよ」

「なるほど。頑張ってるんだなあ、皆」


 教え子たちが努力した結果を、日常生活で実感できるとは。

 生活に根付いているということなのだろう。

 

 ……何とも嬉しいし、良い事だなあ。

 

 そう思っていると、俺の目の端で動くものがあった。


「――っと、ロウ。前方遠めに魔獣がいるぞ。グラスリザードマンが4匹ほどだ」


 だから報告すると、即座にロウは目を細くした。


「どこにいますか?」


 一瞬で雰囲気が変わった。

 この辺り、優秀な馬車載りの証拠なのだろうな、と思いながら、


「あっちだ。まだ遠いがな」

 

 言いつつ、俺はグラスリザードマンが居た場所を指差した。

 すると、ロウは目を二度三度と瞬き、


「え……と……ちょっとお待ちください」


 御者台に備え付けてある道具箱から双眼鏡を取り出した。

 そして、覗き始め、僅かにのけぞった。


「確かにグラスリザードマンがいます……ね」

「ああ。四匹で間違いないよな?」

「は、はい。見える範囲で四匹いますが……よくこの距離で、種族までしっかり見えましたね。色も周囲に溶け込んでいるのに」


 双眼鏡に目を当てながら、ロウはやや声を震わせて言ってくる。

 ロウの言う通り、少し距離はあるけれども。

 何やら四人で集まって、わらわらと手足を動かしているのはしっかり捉えられる。


「まあ、動いているところが見えたからな。保護色気味ではあるけれど、透明になっている訳でもないし」


 周辺の微弱な精霊からも情報は聞けるから、精査も出来る。だから、見ようと思えば見えるものだ。

 

「そ、そうなのですか……。いやはやすさまじい感知能力です。周辺から情報を集めることも含めて何とも素早い……」

「まあ、慣れみたいなものでな。……しかし、グラスリザードマンというと、そこそこ凶暴だったな」


 グラスリザードマンは、二足歩行をする大型の蜥蜴のような姿をしている魔獣だ。

 鋭い爪と牙が特徴的であり、人の肉程度なら簡単に裂いてしまう筋力も持つ。

 

 ……俺のいた時代では、時たま旅人を襲うこともある種だったが……。


「今も、人を襲ったりしているのか?」

「は、はい。被害数は減っていますが、ごくまれに、護衛を付けないで動いている行商人が襲われる報告はありますね。少なくとも友好的な種がいたという報告はありませんし」

「なるほどなあ……。なら警戒は必須だな」


 魔獣が人と共に生きれる時代と言っても、やはりそういう種もいるのだろう。


 ……そうじゃなくても、警戒がいる理由はあるけどな。


 そう思いながら、俺はグラスリザードマンを見ていると、


「あ……先生。あのリザードマンたち、普通じゃありませんね……」


 リンネが目を細めて、僅かに驚きを含んだ声を上げた。

 彼女の言いたいことは分かる。


「うん、分かってるよ。瘴気を纏っているな、あいつら」


 警戒すべき理由の一つがそれだ。

 彼らの体表の一部に、黒い靄のようなものがまとわりついているのだ。 


「……瘴気、ですか……!?」


 こちらの言葉にロウも、驚きの言葉を放ちながら、双眼鏡をのぞき込み、そして頷いた。


「よく見れば薄らと、手先に瘴気がまとわりついてますね」

「少量とはいえ、邪神の肉でも食らったか。それとも何かしら影響を受けたか、だろうな」


 瘴気の量で、邪神の肉をどれだけ食らったかは、ある程度予測は付く。

 だから、あのリザードマン達は、世界に多大な影響をもたらす、災害の様な存在にはなっていない。だが、 

 

「凶暴化していることは間違いないし、このままだと人を襲うだろうな」


 そのくらいは簡単に予測がつく。

 それについては、ロウも同意を示してくる。


「邪神の肉を食らった存在が、この街道沿いにいると、危険です……」

「ああ。それに進行方向にいられると危ないし――」


 となれば、やるべきことは単純だ。


「うん。俺が倒してくるよ」

「良いのですか、アイゼンさん?」

「ああ。安全に旅をしたいしな。あの辺まで近づいたら、一旦、止めてくれ」


 グラスリザードマンから、数十メートルの距離を指すと、ロウはこくりと首を縦に振った。

「了解しました」


 馬車はすぐさま、指定した位置へ向かう。

 そして辿り着くなり、俺は馬車の荷台のドアを開けた。


「じゃあ、行ってくるよ」

「あ、先生! 私も行きます!」

「フィーラちゃんも行くわ!!」

「そうか? まあ、全員で行くか」

 

 戦力は多いに越したことはないし。


 そう思いながら、俺は、前方を見つつ、歩み寄っていく。

 

 目の前には先ほどと同じようにグラスリザードマンが四体、そこにいる。

 

 ただ、おかしな点があった。

 

 近づくこちらを見ようとせず、これまた先ほどまでと同じように、手足を動かしているのだ。というか、


「……何かに攻撃しているな」


 彼らの動きは明らかに敵意や害意によるものだ。


 しかし、その攻撃を振るう対象は何なのだろう。そう思って、俺はさらに目を凝らした。すると、

 

「――!」


 リザードマン達の足元の草むら。

 そこでチカッと光るものが見えた。

 

 その光の正体は、


「狐か」


 一抱えにできる位に小さな狐だった。

 しかし、ただの狐ではない。

 体に炎を纏っている。


「炎を纏っているということは――炎狐ですよね、先生」

「ああ、魔獣の一種だな」


 炎狐とは、毛皮を炎に変えることが出来る、狐の姿をした魔獣だ。

 長命であり、長く生きれば生きるほど、その体躯は大きくなるのだが、


「……まだ子供だな」


 視線の先で、リザードマンの攻撃を避けている狐は、それこそ子犬とかそのくらいの大きさだ。かなり幼い。

 そんな身で、炎狐はリザードマン達に牙を向け、威嚇をしていた。


「フウウ!!」


 そんな子狐に対し、リザードマンはにやりと笑って、


「シャア……!」


 土を蹴り上げ、礫を当てていた。

 それだけではない。

 

 蹴りや爪による攻撃を行っている。

 

「魔獣同士でやり合っているようですね」

「ああ、だが……ちょっと良くないな」


 その動きを見れば、全力でないのは分かった。

 明らかにいたぶっているのだ。

 

「ああ、良くない」

 

 食って食われての狩り――自然の摂理の過程であればともかく、これは、そうではない。

 邪神の影響下によって凶暴化した意識が引き起こしている、ただの暴行でしかない。だから、


「そこまでだ」


 リザードマンと数メートルの距離まで来た俺は、言葉を飛ばした。

 

 ここまで近づけば、向こうもこちらを意識せざるを得ないようで。

 グラスリザードマンがジロリとこちらを見てくる。


「シャアア……」


 そして、子ぎつねに向けていた敵意と害意を、こちらに向けてきた。

 鋭い牙と爪と共に、だ。


 しかしその目はうつろで、焦点は定まっていない。


「どうにも、まともではなくなっているようですね」

「邪神の肉を食った……にしては瘴気の量が少ない気もするけども。瘴気の影響だろうな」


 瘴気による凶暴化は理性を失わせ、その種本来の行動とは似合わない事をし出すことがある。


 ……リザードマンは人を襲うし、食うけれども、獲物を嬲ったりする傾向は無かった筈だしな。


 だからこそ、一応理性は残ってないか、と俺はもう一度口を開く。 


「瘴気のせいで凶暴化しているのは分かった。……聞くが大人しくする気は――」

「クアアアアアアア!!!」

「――ないみたいだな」


 言葉を終える前に、4体のリザードマン達はその爪をこちらに向けて、走り出した。

 害意と敵意と、殺意のこもった瞳で。


「こうなれば、仕方ない。……退治だ」



 ロウはアイゼンたちの背後から、その光景を見つめていた。


 戦闘職ではない、しかし戦闘に携われるものの癖として、戦況を見届けることが身に付いている。だから今回も、敵の配置と、味方の動きをしっかり見ていた。

 

 敵は四体のリザードマン。

 それらが、左右に一体ずつ、そして中央に二体が縦列で並んで、アイゼン達に襲い掛かってくる。

 

 肉薄の速度は、そこいらの職業者よりもずっと早い。

 

 そんな状況で。

 

「……退治だ」


 アイゼンがその言葉を放った瞬間、


 ――ドッ!


 と、左右から向かってきた一体ずつが崩れ落ちた。


「右は終わりました」

「左も大丈夫になったわマスター」


 それぞれ、リンネの投げた短剣と、フィーラによる銃撃で倒されたからだ。

 

 一瞬の出来事に、俺に向かって来ていた二体のリザードマンはわずかに戸惑いの表情を浮かべたが、

 

「アアアアア!」


 突っ込むのは止めず、さらに声を上げて、アイゼンに向かって飛び掛かかろうとしてきた。けれども、

 

「ああ。こっちももう済んだ」


 鞘から抜いた事すらほとんど見えないほどの速さで放たれたアイゼンの斬撃により。

 一瞬のうちに、二体の身体は、横一線に真っ二つに切り裂かれた。

 

「――!?」

 

 そして、二体のリザードマンは、斬られたことに後から気付いたかのような、驚きの表情をもって、そのまま倒れ伏したのだった。

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