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100人の英雄を育てた最強預言者は、冒険者になっても世界中の弟子から慕われてます  作者: あまうい白一
第二章

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29話 話し合いの前提


 俺は、メタルシープを連れながら、母屋厩舎のある方へ向かって歩いていた。


「さあ、こっちだぞー」


 俺の声と動きに従って、背後の羊も付いてくる。

 

 ……まるで羊飼いにでもなった気分だな。

 

 そう思いながら歩いていると、

 

「あ、アイゼン殿――!」


 デイビットが走り寄って来た。


「おお、デイビット。とりあえず向こうの羊はあらかた呼んできたぞ」

「呼んできたって……こいつら……ど、どうやって大人しくさせたんだ? 皆、体毛を真っ白にしたままだし、興奮も収まってるみたいなんだが……」


 デイビットは目を丸くして、俺の背後にいるメタルシープを見ながらそう言った。けれども、


「どうやってって……普通に言って聞かせただけだよ」 

 

 何ら特別な事はやっていないのだ。そう告げると、

 

「いや、でも、普通にやっても俺たちの方じゃ、メタルシープの興奮を抑える事なんて出来てねえんだが――」


 そんな言葉を返してきたのと、同時だった。


「――ッ! すみません、ボス! そっち行きました!!」


 横合いから声が聞こえてきた。


 そちらを見れば、

 

「メ……エ……!!」

 

 羊の群れが走って来ていた。しかも、

 

「なんだ、あの先頭の奴! 今までで一番でけえぞ……!」


 立派な角を頭に生やした、大きいメタルシープが突出して突っ込んでくる集団だ。

 大の男数人分くらいの体格はあるな、と思っていると、

 

「あ、アイゼン殿。あれはヤバい! 多分、この牧場で一番でけえ個体だ! 一旦避難しないとあぶねえ!」


 デイビットが焦りと共に告げてくる。

 確かに、今までで一番大きいメタルシープである事は間違いないが、


「避難は大丈夫だ。折角こっちに来てくれたんだし。この機会に宥めておいた方が楽だろうし。ちょっと行ってくるわ」

「え、ちょ……アイゼン殿!?」

 

 俺はデイビット達から数歩分前に行き、突っ込んでくるメタルシープとの距離を詰める。

 無論、メタルシープは方向転換したりしない。

 

 ほんの数秒で、一番先頭のメタルシープと接触するだろう。

 

 ……こういった興奮した輩には、近くに行って言霊で語りかけるのが一番いいからな。

 

 近づいてくれる分には問題ない。とはいえ、 

 

「とりあえず、最初にその速度は殺しておこう。危ないからな」


 俺は更に一歩を踏み込み、先んじて先頭の羊と接触した。


 俺の両手が羊の角を掴む形で、だ。

 

「――!?」


 こちらの動作に驚いたのか、羊は目を見開く。が、しかし、それだけでは突進の勢いは止まず、こちらに突っ込もうとしてくる。だから、 


「その勢いを利用する形で、怪我をしないように――っと」


 俺は腕を捻ると同時に足を柔らかく払う。

 同時に羊の身体を持ち上げるようにかちあげた。それだけで、

 

「メ……!?」

 

 羊の身体は、空中で一回転した後、ドドン、と背中から地面に転がった。


 ●


凄まじい勢いで突撃してくるメタルシープがひっくり返った様を、デイビットは見ていた。


「――め、メタルシープを投げた、のか!?」


 言いながら、その光景を共有したであろう、言霊の扉の部下たちに視線を送る。

 すると、彼らも間違いなく、それを見ていたようで、


「ま、間違いなく投げてましたね……あの重たい金属の塊になった獣を」

「しかも、一番デカい個体を、軽々とやってたぜ……!?」


 投げられ、背中から落ちた羊の表情も、驚きに満ちているのが分かった。

 ただ、驚きはあれど、苦痛を感じているようには全く見えず、


「ダメージを食らった様子もないし、つまり、あの突進の衝撃を全部いなしきったのか……?!」

 その事実に、デイビットが思わず言葉を零していると、


「ふふ、凄いでしょ、言霊の扉の代表さん。あれが、マスターの体術なのよ」


 いつのまにやらこちらへ来ていたフィーラがそんな事を言ってきた。


「あ、ああ。ロウから聞いていたけれど、実際に見てみると、ヤバさが分かるぜ。近接戦闘職を持った兵士でも、あんな動きをしている所は見たことがねえ……」

「ふふ、マスターは、私たちに戦闘のイロハを教えてくれた人なんだから当然なのだけれどね。リンネちゃんも、習っていたでしょ?」

「そうですね。教えて貰いたい事が多かったので、アイゼン先生の言う『護身術レベル』までしか、習えていませんでしたけれど。それでも、かなり技術はつきましたからね」


 その言葉に、デイビットは吐息と共に苦笑した。


「突撃してくる羊を淡々と処理している所を見たけれど、あれで護身術……か」


 こちらとは、考えのスケールが違うらしい。


「あれが、英雄の師匠……か……」


 呟きながらデイビットはアイゼンを見る。

 こちらが、フィーラとリンネから話を聞いている間に、アイゼンは次の動きを取っており、

 

「よしよし、落ち着いたなー」

 

 そんな声を掛けながらメタルシープたちに近づいていた。 

 先ほどまで突撃して来た群れは、先頭の一人が投げ飛ばされ、仰向けになった事に驚いたのか。

 足の動きは完全に鈍っており、歩くほどの速度になっていた。

 

「それじゃあ突進も終わった事だし、これだけゆっくりになってくれればあとは簡単だな」


 アイゼンはそう言って一息吸い込むと、


「――【皆 安心して 動きを止めて 話を聞かせてくれ】」


 言葉を放った。

 その瞬間、

 

「…………」

 

 羊の動きが一斉に止まったのを、デイビットは見た。

 そして羊たちが一斉に体毛を白く変えて、アイゼンの顔を見たのも。


 そう。アイゼンが一声かけただけで、落ち着きを取り戻したのだ。


「す、すげえ……!」

「あれだけの数が、一気に大人しくなっちまった……!?」


 それを見ていた部下たちはいっせいに驚きの声を上げる。

 ただ、それに驚いているのは部下だけではなく自分も出、


「え……? い、今のは何をしたんだ、アイゼン殿……?」


 大人しくなった羊を撫でているアイゼンに聞くと、

 

「うん? さっきデイビットも使っていたけど、言霊だよ。言葉に魔力を乗せて普通に話しかけただけさ」


 そんな風に簡単に答えてきた。

 

「い、いや、今のが言霊って……発した言葉も長いのに……マジかよ……!?」


 言霊魔法は、基本的に、短い言葉に魔力を乗せて扱うものだ。

 

 長くなればなるほど魔力の使用量は増え、それだけコントロールも難しくなる。文節の多寡も、制御に関わってくる。

 

 各文節、各単語、各言葉に適切な魔力を乗せられなければ、術の効果は正確に発揮されない。

 

 それなりに言霊を使い慣れていて、言霊使いとしては少なくとも上級者の部類に入る自分ですら、早々長い言葉や、多くの文節を扱う事は出来ない。

 

 ……一般的な言霊使いは一文節、俺は精々、二文節の言霊魔法が出来る位だ。

 

 それ以上に喋る言葉が多ければ多いほど、その言葉によって発揮される効果が小さくなっていく。


 二文節の言霊を扱えるだけでも、【言霊使い】としては十二分にやっていける程度だ。だのに、

「あんな長い言葉全てに魔力を乗せるなんて……これが英雄たちの師匠でもある、凄腕の預言者の力か……。凄いな……」


 デイビットが感嘆の声を上げていると、

 

「デイビット。これでとりあえず、見える範囲の羊は全部集まったぞ」


 アイゼンがそんな事を告げてくる。

 言われて見れば、自分達の目の前にメタルシープの群れがある以外、他所で動く魔獣は見えない。


「確かに……そうだな。じゃあ、これで一応、集まったってことで厩舎にいる職員を呼んでくるわ」

「頼んだ。俺はこいつらを厩舎に入れる前に、なんで興奮していたか、ちょっと聞いてみるわ」

「そういえば、アイゼンさんは動物や魔獣と話せたんだっけな。じゃあ、そっちは任せるぜ」

「了解だ」


 そしてデイビットは厩舎へと向かう。

 どうやら、難しいと思われていた依頼は、預言者のお陰であっさりと終わりを迎えられそうだ、と、驚きと感動を胸に抱きながら。


いつも応援ありがとうございます!

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