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100人の英雄を育てた最強預言者は、冒険者になっても世界中の弟子から慕われてます  作者: あまうい白一
第二章

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27話 人と魔獣の関係性


 俺たちが目的としていた町外れの牧場にたどり着くまで、小一時間も掛からなかった。

 交易都市の郊外にある、なだらかな台地を丸々と使った牧草地だ。


「わー、交易都市にはこんな所もあったんですね。街中と比べると凄くのどかに見えますよ、先生」

「そうね! 私もこの都市に来て始めてきたわ! マスターの仲間になった瞬間に新しいものを見れるなんて最高ね!」

「いやまあ、俺も初めて見る場所だけどな」


 俺は隣で嬉しそうに感想を述べている二人に言葉を返しながら、牧場を見る。

 

 広い牧草地には金属製の柵があり、柵に沿う形でそこには幾つかの建造物が建っていた。

 その建物の一つの前に、人が手を振っているのが見えた。


 明らかにこっちに向かって手ぶりしている姿に対し、俺は横を歩いていたデイビットに声を飛ばす。


「デイビット。あれが、副市長が話を聞いてくれって言っていた職員さんか」

「ああ、あの服装は、牧場の職員で間違いない。恐らく、そうだろうな」

 

 デイビットの言葉を聞いて、俺たちは、その職員の元まで向かった。


「今回の依頼を受けて下さった、言霊の扉の皆さんと、その協力者のアイゼンさん達ですね!? 今日はお越しいただき、ありがとうございます」


 そして、俺たちが到着するなり、職員はそう言って出迎えてきた。

 デイビット達と共に軽く挨拶を交わしたところ、どうやら副市長から話は言っているらしく、俺たちの事は分かっているらしかった。

 

 そして、俺たちとしても依頼の内容は、ここについた段階で大体分かっていた。


「えーと……今回暴走していて止めなきゃならないっていうのは、あちこちで走り回っている羊たちか」


 俺の視線の先、そこには、牧場を縦横無尽に走り回る羊達がいた。

 ただし、普通の羊ではなく、全身を銀色に輝かせた、金属で出来たような体躯をしている羊だ。 

「そうですね。メタルシープという魔獣になります。ご存知でしょうか」


 職員の言葉に俺は頷く。

 この銀色をした羊は昔もいたし、出会って触れ合っていた経験もあった。


「確か、興奮した時、体毛や角を金属のように変化させる魔獣、だよな? 興奮しなければ、人に危害を加える事もない奴らだと思ったが」


 そう言うと、牧場主は、目を見開いて、やや驚いたように頷いた。


「そこまでご存知でしたか。仰る通り、メタルシープはとても温厚でして。普段、ただの牧羊犬の指示にも従ってくれる程度には大人しいのです」

「だよなあ。俺も、偶にここの牧場の近くを通りがかった事はあるが、犬に追いかけられて、ほのぼのと柵や厩舎の中に入っている姿を見たことがあるし。――今は、とてもそうみえないが」


 デイビットの言う通り、現状のメタルシープたちは、ほのぼのとは無縁のようで。

  

 牧草地の区画仕切っている木製の柵に体をぶち当てては壊しまくっている。

 あちらこちらでそれが起きて、恐らく以前は区画で整理されていた牧場はむざんな状態になっている。

 

「何故か、羊たちが興奮してしまっていて。こうなってしまうと私たちでは手が付けられないのですよね……」

 

 そういう職員の手足には、擦り傷が見られた。恐らく自力で止めようとして、金属の体毛で擦られたのだろう。

 

「温厚と言っても魔獣で、力はありますから。牧場の最も外にある金属柵まではまだ突き破られてはいませんが、それも時間の問題で抜けられてしまう可能性はあります。ですからその前に興奮を冷ますか、向こうの厩舎に破壊耐性魔法を掛けた柵がありますので。そこに押し込められれば、一時的とはいえ、羊たちを大人しくさせられるかな、と」


 そう言って、職員は、近場にある大きい厩舎を指差した。

 

「あそこの中に押し込められれば、とりあえずは大丈夫ってことか?」

「はい。どうしても大人しくならなかった場合の為に複数の魔術士に依頼して、持続型の破壊耐性魔法掛けて貰った柵と檻があります。もしもの時は厩舎そのものが檻になるような仕組みにもなっていますので。どうしようもない場合はあそこに押し込んで、原因を判明させようと」


 言いながら、職員は吐息する。

 

「……彼らから取れる体毛は、普通の羊のそれより強靭で、魔力を通せば金属のように硬くなると、産出品としても素晴らしいもので、畜産魔獣としてはとても有り難い存在なのです。また、それ以上に我々にとっては世話をし続けてきた可愛い子達でもあります。ですから、原因が分からないのに、討伐して終わり、という事はどうしても避けたくて、今回依頼させて貰ったのです」

「――ええと、つまり、俺たちの仕事は、羊たちを大人しくさせるか、暴走状態を抑え込んであの厩舎に放り込むか、なのか」

「その通りです、アイゼンさん。この百匹弱に渡る羊たちの興奮をまずどうにかして頂ければと。牧場の外に飛び出して、街に危害を加えたなんてことが起きては、もう取り返しが尽きませんから」


 職員の言葉に、まずデイビットがなるほど、と頷いた。


「確かに、ただの興奮状態なら、言霊を直接響かせることで、ある程度抑制できそうではあるが……」


 そう言いながら、牧草地の方を見た。 

 

「んー、でもここから見るだけでも、結構散らばってるな。――でもまあ、話も分かった所だし、とりあえず、試してみるか」


 そう言ってデイビットは、視線の先、近くを走っていた羊に近寄っていく。


「近くに一匹いるし、まずは俺が言霊で試してみるわ。……アイゼン殿も、ちょっと近くで何かおかしい所がないか観察して貰ってもいいか?」

「うん? ああ、了解だ」


 俺は羊に向かって歩くデイビットを追って、彼の動作と羊の様子を見る。

 

 興奮の理由が分かっていない以上、言霊の力がどのように出るか分からないし。そういう意味でもしっかり観察しておこう、と思っていると、


「それじゃあいくぜ。メタルシープたちよ――【鎮静 せよ】……!」


 デイビットは声に魔力を集中させ、目の前を走るメタルシープに向けて言霊を放った。


 その言葉を受けたメタルシープは、先ほどまで土を蹴っていた足の力が緩んだのか、走りの速度を落とした。だが、

 

「――メ、エ……!」


 何かに抗うようにして、鈍い動きのまま、止まる事はない。

 

「うーん。アイゼンさん、これ、効き目、鈍いよな?」


 デイビットは目の前の現象に対し、そう言ってくる。

 

「確かにあれだけ魔力のこもった言霊だと、足を止める位はすると思ったけれど。興奮が酷すぎるのか、効き目はちょっと落ちてるかもな。とはいえ、段々、落ち着いているようには見えるぞ」

「だよなあ。……まあ、これだけ走りの勢いが落ちれば怪我をさせる事もないかもしれないし、今のうちに厩舎に押し込むことも出来るだろうしな」


 デイビットはそう言いながら羊の背中を押す。

 それだけで、羊は誘導されるがままに動いていく。

 

「うーん、これなら地道にやっていけば出来そうだが、一人一人当たるにしてはちと辛いだろうから……そうだな。――よし、お前ら。各自、数人で組んで、一匹ずつ、確実に厩舎に送っていけ!」


 デイビットは言霊の扉の面々に向かって指示を出した。そして、


「了解です、ボス!」


 返事をするなり、言霊の扉の面々は動き始めた。

 デイビットが上司だからか、彼らも動き出しはとても早いようだ。

 となれば、俺たちもいつまでも待っているだけという訳にはいかないし、

  

「さて、それじゃ、俺たちも行くか。フィーラ、リンネ」

「了解よ、マスター! 私のマスターの仲間になっての初仕事だもの。頑張るわよ」

「わ、私も頑張ります。……ただ、動き方については、ここに来る前に仰られていた感じでよろしいんですよね? 私とフィーラさんで組んで羊を抑え込んで、先生は先生で単独で羊を集める、という感じで」


 リンネのセリフに俺は頷く。

 

「ああ、問題ない。デイビットとも話して了解を貰っているしな。俺の方は言霊でどうにでもなるから一人で充分だし。……リンネはフィーラと話しながら、色々と魔法や体術を使えばいいと思うぞ。フィーラの魔法でサポートも出来るしな」


 俺に付いてくるよりも、フィーラとリンネで組んだ方が、この手の仕事の場合は良いと思う。それはフィーラも分かってくれているらしく、


「そうね。リンネちゃんのサポートバリバリしちゃうわよ!」

「あ、ありがとうございます。で、では、よろしくお願いします」

「うふふ! お姉さん弟子に、任せて!」

 

 昨日一晩クテクテになるまで、フィーラとリンネは話し合って仲を深めていたわけだけれど、こういった仕事での仲も確認したほうが良いだろうし。


 ……今日の仕事で更に打ち解けてくれればありがたいしな。

 

 そう思いつつ、俺は、杖を手にして、周囲を見る。

 そして誰も行ってなさそうな方を見て、


「うん。それじゃあ、俺は向こうの羊に言霊を飛ばして来るよ」

「あ、はい! いってらっしゃいませ」

「そっちからでもフィーラちゃんの活躍を見ててねマスター! 上手く出来たら褒めてね――!」

 そんな言葉に対し微笑で返しながら。

 俺の羊を集める依頼は開始したのだった。

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