24話 新たな街での仕事へ
デイビット達は、嬉しそうに微笑んでくる。
最初の出会いで、ちょっと力を貸しただけでここまでして貰えるとなると、少し貰い過ぎな気もするが。
……彼らの気持ちをこちらが判断するのは出しゃばり過ぎだしな。
素直に受け取れる分は受け取っておこう、なんて思っていると、
「あ、それで。アイゼンさん。市長についての話をした後に何なのですが、このあと、何かご予定はありますか」
ウッズがそんな事を言ってきた。
「予定? 特には無いが、どうしてだ?」
聞き返すと、彼は、表情を少しだけ緊張のあるものに変える。
「そのですね。ちょっと、アイゼンさんたちの腕を見込んで、依頼をしたいことがあるのですが……」
「依頼っていうと、冒険者としての依頼か」
「そうですね。先日、交易都市の番屋に賊を殺さずに捉えて突き出した実力と、預言者――というか言霊を使えるという能力を頼っての依頼ではあります」
「ふむ? 賊を捉えた、とか預言者は言霊を使える、とかウッズさんは知ってるんだな」
「前者は副市長ですから勿論ですとも。後者については、市長からの伝聞が多いですが……間違っていませんよね?」
「うん。大丈夫。使えるぞ」
「ああ、良かったです」
答えると、ウッズは僅かに笑みを浮かべ、しかし、表情を真面目な物に戻す。
「実はですね。今回、言霊の扉に、ある依頼をさせて貰ったのですが。少し大変そうな事態になっているので、是非、アイゼン様のお力も借りたいと。そう思って、ここでお話させてもらっているのです」
「ああ、元々は言霊の扉に依頼してたものなのか」
俺の言葉に、近くにいたデイビットが頷く。
「ああ、言霊の扉っていう名前の通り、言霊使いの職業者は結構、このカンパニーにいるからな。俺もその一人だし。ただ、今回の依頼はちと難しくてな、それ以外にも、色々な職業者で行くことになりそうなんだよ」
「ふむ……受けるかどうかの前に、依頼の内容ってのは聞いて大丈夫なのか?」
ウッズに聞くと、彼はこくりと頷いた。
「ええ。まず、前置きの話からになりますが、交易都市には、温厚な魔獣を家畜化して、飼育している牧場があるのです」
「へえ。魔獣の家畜化、か」
俺が異界に入る前、魔獣は基本的に打ち倒すものであった。
【モンスターテイマー】の職を持つ者が、魔獣を服従させたり、契約したりするのは、まだ普通であったけれども、飼育については一般的でなかった。
……幾らかの【魔獣学者】が、安全に飼育出来ないか試したりはしていたけれどなあ。
それでも、一昔前の常識では、魔獣の飼育は物好きのやる事であった。けれど、
「今はそういう事が、市営でされているんだな。昔、小規模で行っている奴は見たことがあるけれど」
「はい。アイゼン様が活躍されていた時代は、まだまだそういった産業は発達していませんでしたから。今は力のある都市だと、行っている所が多いのですよね。あくまで温厚な魔獣に限って、ですが」
ウッズの話を聞いて、時代の流れを感じる。
邪神だのなんだので、危険な輩がうろついていた昔とは違って、今は大分、世界が安定しているとのことだし。産業が発達するまでになったらしい。
……昔は非常に危険な扱いをされていたものが、今ではコントロールできるようになったという事だし。
良い事である。そう思いながら、俺はウッズの説明を聞く。
「とはいえ、温厚とはいえ、魔獣は魔獣です。危険な存在ではありますので、都市が直々に牧場を持っているか、都市から許諾を受けた業者のみが、畜産を行っている状態です。交易都市は前者ですね。――そして、ここから本題なのですが、その畜産をしている職員から緊急事態が発生したの連絡が来たのです」
「緊急事態って、穏やかじゃないな」
「ええ。事情を聴いたところ、どうにも魔獣たちが荒れているとのことでして。牧場の敷地内ではありますが、脱柵や脱走が発生して、少し手が付けられない暴走状況であると」
話を聞いて段々と内容がつかめてきた。
今回の依頼は、話の流れからすると、
「となると、依頼は、その魔獣たちの暴走を止めるって辺りか?」
言うと、ウッズは僅かに目を見開いた後、頷いた。
「はい。流石はアイゼン様。お察しの通りです。家畜も大切な財産でありますので、殺しても、倒してもいけないということで。『止めて』頂きたいのです」
「魔獣を、『止める』か。それは、大仕事だな」
魔獣は温厚な種族ですら、ヒトに対する殺傷能力を持つ事が殆どだ。
そして精神的に安定しているならともかく、暴走状態に陥ったものとなれば、人を傷つける事に何ら容赦はないだろう。
……殺しにかかってくる相手を殺さずに止めるとなれば、確かに大変だ。
その事をウッズも分かっているのだろう。
真面目な表情で、言葉を続けてくる。
「それを、今回言霊の扉に依頼させて貰ったのですが……アイゼン様がいらっしゃるという事を聞きまして。万全を期するために、是非、協力をお願いしてくれないか、と頼ませて貰った次第なのです」
依頼については分かった。けれど、まだ聞いていない部分はある。
それはウッズに対してではなく、デイビット達に対しての問いで、
「事情は分かったけど……デイビット達は、俺がこの依頼に参加してもOKなのか? ああ、もしかしたら、リンネやフィーラも来るかもしれないから、俺たちが、って事で聞くが」
俺が介入する事について、よろしくない事だと彼らが思っているのならば、参加するわけにはいかない。聞いておかねばならないことだ。
だからデイビット達に向き直って問うてみたら、
「勿論、大歓迎だぜ。アイゼンさん達の力はロウのお墨付きだし! デュロム嬢も、英雄の一人ってことで、色々と実力の程は聞いているしな」
「ええ。むしろ、私たちからもお願いさせて貰いたいくらいです。難しい仕事にアイゼンさんの力が加われば、それこそ百人力だと思えますから」
二人とも、俺が依頼を受ける事については賛成のようだった。
デイビット達の言葉を聞いてか、ウッズは改めて俺に声を飛ばしてくる。
「どうでしょうか? お願いできますでしょうか?」
聞かれ、俺は数秒目を伏せて考えて、そして頷いた。
「そうだなあ。……どうせこの街でしばらく滞在して、何らかの依頼を受けてみようとは思っていたんだよな。……うん、折角の縁だ。受けさせて貰うよ」
この都市に来て最初の依頼だし、ある程度見知った仲の人と仕事をしたほうが良いだろう。そう思って俺は返事をすると、
「ありがとうございます! 本当に助かります……! 依頼料はしっかり弾ませて頂きますので……!」
とウッズは心底嬉しそうな声と共に、握手をしてきた。
色々と不安だったのだろうか。依頼を受けるだけでここまで喜んでくれるのなら、受けて良かったかもしれない。
「それで、その依頼のスタートは今からでいいのか?」
「はい。牧場の場所の地図はデイビット様にも渡してありますが、アイゼン様にもお渡ししておきます。ただ現場の状況は、変わり続けているようなので。詳しい事は、牧場に到着してから、職員に聞いて頂ければと思います」
ウッズはそう言いながら俺に一本のスクロールを渡して来る。広げて見ると、交易都市とその周辺が映った地図が書いてあった。その一点に、赤い丸マークがついている。
「ここか。そこそこ近いな」
都市の外れも外れだが歩いていける距離にある。
数時間も掛からずに着くだろう。などと思っていると、
「それじゃあ、アイゼンさん。こっちに来てくれ。今回の依頼に行くメンバーを集めるから、紹介させて欲しいんだ」
デイビットがそんな事を言ってきた。
「おう。――っと、その前に、リンネやフィーラに参加するかどうか聞いて来てもいいか? 宿で、そろそろ起きているだろうからさ」
一人で行っても良いのだけれど、何も言わずに置いていくと、あとでむくれられそうなので。行く行かないに関わらず、話だけはしておきたい。
「ああ、そうだったな。……なら、俺の方は受付で待っているから、戻ってきたら改めてメンバー紹介をさせてくれ。こっちはこっちで準備を進めておくからさ」
「有り難う。それじゃあ、ちょっと宿に行って聞いてくるわ」
「おうよ。待ってるぜ、アイゼンさん」
そうして、俺はその部屋を後にするのだった。
交易都市で初の依頼に、少しだけ胸を高鳴らせながら。
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