22話 言霊の扉にて
フィーラを仲間に迎えた翌日の朝。
俺一人、朝の空気を吸いながら宿から出て、ロウ達がいるという『言霊の扉』の本部に向かっていた。
……一人で動くのは久々だなあ。
旅に出てから大体、リンネが付いて来ていたけれど。
リンネとフィーラは、昨日から夜通し語り合ったと反動で、今もぐっすりと眠っている。
気持ちよさそうに眠っていたのを起こすのも忍びないし、話を聞くだけなら俺だけでも問題ないという事での単独行動だ。
といっても、目的地までは宿から数分も離れておらず、
「ここか」
俺は直ぐに、【言霊の扉】と刻まれた看板が置かれた建物にたどり着いた。
石造りの頑丈そうな建物だ。
その入り口である木で出来た大きな扉は既に開け放たれていて、何人もの人々が出入りしている。
……カンパニーは朝から開いているから、都合のいい時に来てくれとは言われていたし、行くか。
思いながら入り口を潜ると、広間が見えた。
どうやら一階はロビーになっているようで、幾つかのカウンターが見えた。
そして大体のカウンターに、客が数名並んでいた。
……早い時間なのに、人は結構いるんだなあ。
ロウたちから、それなりに繁盛しているカンパニーだと聞いていたけれど。朝からこれだけ人が集まってる所を見ると、実感を得られる。
何であれ自分の目で確かめる事は重要だな、と思いながら、俺は、周囲を見回す。
そして、昨日デイビットに言われた通り、『総合受付』と書かれたカウンターに向かった。
「おはよう。ちょっと良いかな」
他の客は並んでいなかったので、俺はカウンターに座る女性に声をかけた。
すると彼女は、話しかけられたことに一瞬、戸惑いを見せつつ、
「はい。本日はどのようなご用件でしょうか」
「ああ、俺はアイゼンっていうんだが、ロウとデイビットに会いに来たんだけど、取次をお願い出来るかな?」
そう言った瞬間、受付の女性は目を丸くした。
「ロウ様と、デイビット様、ですか? あの、それは……もしかして当カンパニーの代表の?」
「うん。その二人に呼ばれていてな。話とか、聞いてないか?」
聞くと、受付の女性は唖然とした表情で首を横に振った。
「は、はあ……」
彼女はどうしたものか、というような表情になったあと、数秒考えて、
「ええと、ちょっとお待ちください。まず失礼ですが、貴方様と、当カンパニーの代表がどのようなご関係か聞いても宜しい――」
でしょうか、と言ったのと、ほぼ、同時のタイミングで、
「――おお。来てくれたのか、アイゼン殿!」
横合いからそんな声が響いた。
大きくはないが、しっかり通る、先日聞いたばかりの声だ。
その持ち主は、俺の右方から歩み寄ってくる。
「よう、デイビット。おはよう。約束通り来させて貰ったよ」
だからそう言葉を返すと、こちらに歩いて来たデイビットはニカっと笑った。
「ああ、しかもこんなに早く来てくれるとは、有り難いぜ。アイゼン殿は動きが早いから、朝一に待っておくべきだと思って出てきたのだが――ぴったりだったしな!」
言いながらデイビットは俺の隣に立った。
「え、と、デイビット様……? どうしてここに……? というかこの方は……」
デイビットを見て受付の女性は、再び唖然とした声を上げた。
そんな彼女に対し、デイビットは微笑と共に首を横に振り、
「ああ、気にしなくていい。君はいつも通りの仕事を続けてくれ。彼は俺の客人でな。俺が案内をさせてもらうと思ってきただけなんだ」
「そ、そうなのですか。ほ、本当に、お知り合いだったのですね……。対応が出来ず、すみません、アイゼン様」
受付の女性は、驚きからか声を僅かに震わせながら頷いた。
というか、どうやら、微妙に関係性を疑われていたらしい。
まあ、いきなり知り合いだから合わせてくれ、と見知らぬ男が言ってくれば、当然の対応だ。
「いや、全然問題ないから。気にしないでくれ」
「は、はい……」
「俺の方からも説明が足りなくて済まなかった。彼は知人で、恩人なんだ。だから帰りの時とか、今後も尋ねて来てくれた時は、丁重に持て成してくれ」
「は、はい。了解です!」
こくこくと首を振る受付の女性の様子を見た後、デイビットはこちらに視線を映した。
「では、アイゼン殿。付いて来てもらえるか。向こうに部屋を用意してあるんだ」
「おお、そうなのか。分かった」
そして俺はデイビットに先導されて、言霊の扉の本社内を進むのだった。
●
デイビットとアイゼンの二人の姿が一階のロビーから消えたあと、そこにいた『言霊の扉』の面々はざわつき始めていた。
「お、おい、見たか?」
「ああ。ぼ、ボスが、直接相手をするなんて、どんな上客なんだ、あの男性は……!?」
「しかも、あっちの通路に繋がってるのは、重鎮に対してしか使わない応接間だぞ」
ロビーにいたカンパニーの職員たちは、やや興奮したように言葉を交わす。
その中には、総合受付にいた女性も混じっていて、
「え、えと、あの方はデイビット様の恩人と仰っていましたけれど、ご存知でしたか?」
額に汗を浮かべながら隣にいる同僚に、話しかけていた。
「いやあ、あたしも初めて見たわね。数年ここにいるけれど、一度も顔を見た事はなかったわ」
「で、ですよね……。私もまったく拝見したことがなくて。『総合受付』として大事なお客人や、知己の方の顔は覚えていたと思ったのですが……」
「そうね。このカウンターは、基本的にはウチと付き合いの深い人じゃないと利用できない場所だものね」
『総合受付』という名前をしたこのカウンターは、カンパニーにとって特別な人に利用して貰う為のカウンターだ。
だから、使える人は限られているし、それ故に受付の職務として、顔を覚える事も含まれる。
それ故、いきなり知らない人にロウやデイビットに会わせてくれ、と言われたときは驚いた。
ただ、
……このカウンターに来る人に対して、出来るだけ失礼をしないようにと上司から言われ続けていて本当に良かった……。
デイビットから恩人と言われるような人を邪険にする何てことがあっては、失敗にもほどがあるのだから。とはいえ、残る疑問はあり、
「あのアイゼン様と仰る、魔術師らしき御仁は、何者なのでしょうか……」
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