21話 予想外に合わせる
言霊の扉の本社は、四階建ての石造りの建物となっている。
その四階には、カンパニーの代表が使う執務室がある。そこに今、ロウとデイビットはいた。
お互いの机に着いて、ふう、と落ち着いた様な息を吐く。
「いやはや、今日は色々と、事件があったなあ」
「ええ、まあ、馬車が壊れるわ賊に襲われるわで悪い事もありましたが……一日で合計して見ればむしろ良い事の方が多かったですけどね」
ロウの言葉に、ああ、とデイビットは頷く。
「まさか、アイゼン殿が、かの伝説の預言者だったとはなあ」
「最初に出会った時から、ただものではない雰囲気は漂っていましたが……我々が子供の時に聞かされていた話の人物が、目の前に出てくるとは思いませんでしたよ」
「だなあ……」
邪神との戦争は、もう十年以上前の出来事だが、自分達の記憶にその脅威は深く刻まれている。
少なくとも邪神という存在は忘れられることはないだろうし、それらの軍勢を倒す中核となった英雄たちもまた、同じくらい深く印象に残っている。
それ故、戦争を終わらせた百英雄は偉大とされているのだが、
……彼らが一様に話す『師匠』の存在は、戦争が終わった後、その姿を見られることがなかったのですよね……。
写真も絵も戦火のせいか、残されてはいなかった。
だから、伝説の存在として語られて、その実像を見たことがある人は少なかったのだが、
「この目で見る事になるとは……おとぎ話の人物がそのまま出てきたかのように思えますよ」
「ああ。しかも、そのアイゼン殿と親交を深められたのは、本当に幸運としか言いようがないな」「ええ。ユリカ嬢の紹介があったとはいえ、それを知る前から幾度も会話が出来たのは本当に幸運でした。変な色眼鏡を付けることなく、お互いを知る事が出来ましたし。――商人としては、その方が安心できますからね」
身勝手な話ではあるが、『【言霊の扉】代表のロウ』ではなく、一人の商人として言葉を交わした方が、信頼はしやすい、とロウは思う。
だから、今回のような出会いがあったのは、本当に運が良かった、とも。
「まあな。そもそもの話として、お前を賊の手から助けただけでも、俺からすると信頼度は超高いんだけどな」
「はは、何というか、出会ってから助けられてばかりですよ、私は」
苦笑しながらロウは言う。
そんな言葉に、デイビットも頷く。
「ちゃんと恩は返さねえとなあ。……うし、アイゼン殿に言った手前もあるし、今のうちに俺たちに出来る範囲での情報収集をしておくか」
「ですね。……まずは、都市運営にいる百英雄の一人が、今どこにいるのか。連絡を取れるところから当たっていきましょうか。この時間ならば、夜間受付も空いていますから」
ロウは部屋の窓から見える建物に目をやった。
四階にあるこの部屋からは、ある程度の交易都市の中央部にある建物が見渡せる。その中の一つに交易都市の運営部があった。
また明かりが付いているのも確認できる。
「この街の運営は夜でも、ある程度は連絡を取り合えるように特設の窓口を稼働し続けてくれるから、こういう時は助かるな」
「ええ。それに、私たちも都市の運営と懇意にしている甲斐も出たというものです」
運営部の夜間受付は誰でも利用できるという訳ではない。
緊急性の要件がある者か、もしくは多少なりとも、都市の運営と親密である者でなければ、基本的には翌日に回されるのだが、
「言霊の扉としていけば、話は通せるでしょうからね。緊急性……もある気はしますが、まあ、静かに情報を集めたい所ですし」
「ああ、そうだな。アイゼン殿は大丈夫だって言ってくれたが、色々と迷惑をかけているのも事実だし。埋め合わせになるか分からねえが、しっかり慎重に話を聞きに行こうや」
「勿論です。手持ちの仕事も大分落ち着いてきたので時間もありますしね」
ロウは、自らの机の上にある書類に目をやる。
それらは、今日は馬車の事故や賊の件などもあり、終わらないかと思っていた仕事たちだ。
……けれど、命も時間も拾わせて貰ったお陰で、ちゃんと予定通りに終える事が出来ましたからね。
そのお陰で今の空き時間がある。ならそれをしっかり活用させて貰おう、と思っていたら、
「あ、仕事で思い出したが、俺も、都市の副市長から一個、依頼をしたいって連絡があったんだよな」
「おや? そうなのですか?」
「うん。俺とロウに一つずつあるって言っててよ。――今日は、その話をするついでに、ちょっと探ってみっか」
「良いですね。では、都市運営からの情報収集はそのラインから行きましょう。――では、ひとまず運営部に顔を出しに行きましょう」
「おう。アイゼン殿との飯で良い感じに気分も高まったし、夜の仕事をしに行こうか」
そんな感じで、交易都市の明るい夜の中で、言霊の扉の代表者二人は動き出していくのだった。
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