17話 懐かしい出会い
ロウは目の前で繰り広げられている光景に、混乱していた。というのも、
「いやあん、本当に会いたかった、マイマスタ――!」
この店で演奏していた百英雄の一人――フィーラ・デュロムが、アイゼンの前に来るなり、抱き着き始めたからだ。
……英雄がいる店に連れてきてしまって、どうしようかと悩む前に本人が来るとは……!
まさかの展開だ。
発している声は大きくないし、場所も半個室という事で、周りからはあまり見えない状態でもある。騒ぎにはなっていない。
……それは不幸中の幸いです……。
手紙に書かれていた、大騒ぎになる事は避ける、というのはまだ成立している。ただ、目の前の光景は色々とおかしかった。それ故、ロウの頭は若干フリーズしていた。
なにせ、今まで見ていたフィーラ・デュロムという英雄の性格からすると、
……これは全く予想できない行動ですよ。
彼女は、この店にしばらく前からいたので、その落ち着いた立ち振る舞いとか、静かに楽器を演奏する様はよく見ていた。
また、ジャグリングなどの軽業を見せてくれる時は、多少陽気なこともあったが、それでもたいして表情も崩さない、物静かで大人な女性という感じに見えていたのだが、
「ああ! もう、このマスターの心音……! もう何年振りかしら。頭に響いてくるだけで、懐かしくて落ち着いて――幸せだわ!」
やけにテンションが高い。
金髪の髪を振りまわしながら、アイゼンの胸元にぐりぐりと耳を当てている彼女は、非常に嬉しそうにしている。
それはもう、今まで見たことがない位の喜びようだ。
「……楽聖の英雄デュロムさんは、このような、派手な性格のお人でしたっけ?」
「いや、前に見た時は、歌姫をやってたけど、ここまでテンションが高くないというか、もっとおしとやかだった気するが……」
デイビットに聞くも、彼もどうやら自分と同じ意見だったようで、困惑していた。
色々とどうなっているんだろう。
そう思っていると、頭をグリグリしている彼女の目がこちらを向いた。
「あ、御免なさいね、お客さんのいる前でこんな風になっちゃって。でも、マスターの前ではこっちになるのは必然なのだから! ええ、いない時ほどダウナーに振る舞えないわ!」
「は、はあ、なるほど」
いきなりこちらに振られた解答に頷いていると、アイゼンが苦笑と共に声をかけてくる。
「驚かせて悪いな、二人とも。この子は、結構感情豊かでな。こうなる事がよくあるんだ」
「あー、いや、大丈夫ですよ。ちょっと面食らっただけですので」
「ああ、それは良かった」
と、こちらが受け答えしていると、アイゼンの胸元でフィーラが何やら感激したように目を見開いていて、
「――マスター! さっきも、私のことフィーラって名前を呼んだけど、ちゃんと覚えててくれたのね!?」
「うん? そりゃあ、忘れる訳がないだろう。大事な教え子なんだから」
アイゼンの言葉に、フィーラは、満面の笑みを浮かべた。
「えへへ、幸せ……! これまでの幸せランキングの中で五指に入るくらい最高ね……!! マスターに褒められたものは全部同列一位だけど、今回もその一つに入るわ……!!」
フィーラは全身を使って嬉しさを示すように、ぐぐっと体を震わせた。
そんな彼女を見て、先ほどまで口を丸くして呆然としていたリンネが声を上げる。
「せ、先生、あの、凄いテンションの方のこちらはもしや――」
「ああ、フィーラ・デュロム。人に笑って貰う事が好きな俺の弟子だよ」




