16話 繋がる縁
ロウとデイビットの頷きに、俺はふと、先ほど聞こうと思っていたカンパニーについての問いを思い出した。 更に追加で、開拓都市で得ていた知識を合わせて言葉を発した。
「……『言霊の扉』って確か、交易都市の中では結構でっかいカンパニー、なんだよな?」
言うと、彼らは頷いた。
「まあな。俺たち二人が創始してそこそこ経つが、色々な職業者を纏める事が出来ているからな。そのお陰で、商売から鑑定、鍛冶、護衛とか、割と各都市で名前が通じる程度には手広く仕事をやらせて貰ってるよ」
「そうですね。カンパニーとしての規模も、近隣の各所に支部を持てる程度には、大きくさせて貰っています。こうして、交易都市の店とも懇意にさせて貰ったりもしていますね」
「ふむふむ。……前に二人は『同期』と言っていたけれども、それは創始者っていう意味だったのか」
「はい、そういうことになりますね。僕とデイビットは職業が違うんですが、妙に気が合って。その流れで、色々な職業者を集めて、様々な依頼を受け付けられるカンパニーを、と思って作ったんです。そして、今は共同で代表者をやっているのですよ」
彼らの言葉で得心がいった。
……この二人が何でもないように良い宿屋とか、特等席を用意出来ているのは、大きいカンパニーの代表であったからか。
『錬金術師の庭』というカンパニーは沢山の錬金術師で構成されていたし。『言霊の扉』という名前をしているから、それこそ言霊を扱える者ばかりがいるカンパニーなんだろうか、とは思っていたけれど。
……様々な職業者を所属させてるカンパニーで、しかも、この二人が作っていたとはなあ。
何とも驚きだ、と思って頷いていると、
「……ってことは、やっぱりあれか。アイゼン殿もリンネ殿も、俺たちが言霊の扉の代表って事を知らなくて、でも助けてくれたんだな」
デイビットがそんな事を聞いてきた。
「うん? そりゃ、まあな。今知ったばかりだからな」
リンネもリンネで、先生に同じく、と頷いている。
完全に初耳だった。
そういうと、デイビットとロウは二人で微笑を浮かべた。
「へへ、なんつーか、立場とか抜きにそういう事をして貰ったって分かると、尚更有り難く思えるな」
「ええ。カンパニーの代表ということが知られていることは悪い事ではないですし、メリットも多いですが……。それだけに、今回のアイゼンさん達の、善意と縁に感謝ですよ」
そう言った後、デイビットは俺に話を振ってくる。
「しかし、俺たちの事は知らなくても、『言霊の扉』っていうカンパニーの名前は知っていたんだな、アイゼン殿は。結構でかいって事も」
「あ、そうなんだよ。言霊の扉の人と仲が良いっていう知人がいてな。ちょっとだけ聞いていたんだ」
「知人、ですか?」
「うん。ユリカ・グリフォンっていう子なんだけど、知ってるか?」
俺がその名前を出した瞬間、二人の言葉が止まり、表情が僅かに意外そうな物に変わった。
「ユリカさん――というと、それは『錬金術師の庭』の社長の?」
「ああ。そのユリカだな。そこまで知ってるって事は、やっぱり知人で、いいんだよな?」
「ええ。彼女は我々の取引先であり、共に会社を大きくしようとしてきた友人なのですが……そんな繋がりがあったんですね」
「そうなんだよ。――で、ユリカ繋がりで思い出したんだが、『言霊の扉』の人にあったら渡してくれっていう手紙を持っていてな」
「手紙。ですか?」
今日は本当にめぐり合わせがいい。
元々探そうとしていた人物に合っていて、渡そうとしていた物を渡せるとは。
……言霊の扉の代表者に渡してくれと言っていたけれども、ロウもデイビットもカンパニーの代表ということだしな。
二人に渡して良いだろう。
そう思いながら俺はテーブルに、ユリカから受け取っていた封筒を出した。
「これなんだが、見てくれないか?」
言うと、まずロウがその封筒を手に取り、くるりと回すようにして全体を見た。
「差出人は……確かに錬金術師の庭の手紙ですね」
「しかも、この封蝋は、ユリカ嬢しか使えない魔法封蝋だな。――うん、疑ってたわけじゃないが、アイゼン殿がユリカ嬢の知り合いってのは間違いないみたいだな」
「ですね。では、中を改めさせて貰いますね、アイゼンさん」
「ああ、頼んだ」
そして、二人は封筒の中から一枚の手紙を取り出して、広げて読み始めた。
最初は上からゆっくりと目線を動かして、しかし、
「「……ん?」」
途中で、二人とも首を傾げた後、目の動きが加速した。
一気に下まで目線をやったと思ったら、二人して手紙に目を近づけて凝視したりしている。
何とも仲良く読んで貰っているようだし、とりあえず読み終えるまで食事でもして待とう。
そう思う事数分。
俺がサーブされた飲み物を飲み終える頃合いで、
「あの、アイゼンさん……? ここに書かれている事は、真実、なのでしょうか?」
ロウは静かな動きで、そんな事を聞いて来た。
「うん。嘘はないぞ」
手紙を貰う前に中身を軽く見させてもらったが、特に偽りはなかったし。
そう言うと、
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ってことは、あ、アイゼン殿は――マジで預言者アイゼン・オーティスなのか。あの、百英雄の師匠の……!」
目を見開きながら、しかし真剣な声色でデイビットは言ってくる。
「うん。そうだけど、デイビットも知っているんだな」
「そ、そら、そうだろ。伝説の人物だぜ? 吟遊詩人とかがよく、『百英雄の師である預言者』を題材にした唄を歌ってるし」
「そうなのですよね。ただ、その吟遊詩人などの唄で聞いた話からすると、今は大分お歳を重ねてるはずですが、それにしては容姿に年齢の開きがあるように見えますね。……何かの老化防止の魔法ですか?」
「魔法……うーん。まあ、そんなものかな。時間が捻じれた場所でしばらく暮らしたから、こうなったんだよな。……というか、吟遊詩人の唄になっていたのか、俺は」
そんな事になっているとは思わなかった。
むしろ忘れ去られてる位だと思ったのだけれど。
「ええ、伝説上の人物ですからね。百英雄の方々が口をそろえて師と仰っているほどの凄い方ですし。……実際の姿を見た人は、あまりいないのですが。英雄の方々が色々とエピソードを語ってくれますから、情報に疎くないものでなければ、存在自体は知っていますよ」
「ああ。けれど、預言者っていう職業者自体が、もう滅びていないってのが常識になってるタイミングでこの知らせが来るとは。かなりびっくりだぜ。……でもユリカ嬢は嘘を書くような人じゃねえしな……」
ロウもデイビットの言葉に頷く。
「そこの誠実さはあるヒトですからね。信頼も出来ます。けれど……まさか、こんな爆弾のような情報が来るとは……」
「まさか伝説の預言者アイゼンがこの世界を周遊しに来ていたとはなあ。しかも、影響力を考えて、百英雄達とは静かに会えるように、お忍びでなんて――」
そこまでデイビットが言ったタイミングだった。
「「あ」」
二人が揃って声を上げたのは。
「うん? どした、二人とも」
「いえ、その――ちょっと待って下さい。……デイビット? アイゼンさんが、伝説の預言者アイゼンであり、英雄たちのお師匠であり、この手紙に書いてある通りの状態であるならば、今日のこの店は、よろしくない可能性があるのではないでしょうか」
「――ああ。俺も今、丁度それに思い当たった」
「うん? 何がよろしくないんだ?」
いきなり口調が焦りを帯びたものになっているけれども。特に良くない気持ちになってはいないのだけれども。そう思って聞くと、
「いえ、そのですね。この店は色々と高品質な空間と、食事を提供してくれるのですが――その空間を演出するために、様々な職業者を呼んでいるんです。そして――さっき話した多芸なエンターテイナーは、この街にくる事すら珍しい、特に素晴らしい一人なのです。……何せ、百英雄の一人、ですから」
静かに、ロウはそう言った。
「うん? ということは、つまり――」
「ええ。そうなんです。ここには今、アイゼンの旦那のお弟子さんがいるという事に――」
ロウは早めの口調で俺に説明をしていた。
その時だった。
「――この懐かしい鼓動は……まさか――いるのね!?」
半個室に置かれた小舞台。
そこに、声と共に、人影が飛び出してきたのは。
「――やっぱり!! やっと見つけたわ! 私の、愛しい、愛しいマスター!!」
舞台に飛び降りるようにして出てきたのは、綺麗な金髪を棚引かせる女性だ。
彼女はそのまま、舞台に足をつけるなり、こちらへと突っ込んでくる。
いきなりの事で、ロウもデイビットも困惑の表情を浮かべ、リンネですら若干の慌てた動きを見せる。暴漢だと思ったのだろうか。
が、しかし、俺としては彼女の顔には見覚えがあった。
だから、迎えるように声をかけた。
「何だか音に聞き覚えがあると思っていたら――楽器の演奏をしていたのは君だったか。フィーラ」
「勿論! 愛するマスターの愛弟子、フィーラちゃん、参上したわ!!」
最強預言者のコミック1巻が来月、11月19日に発売されます!
また小説2巻も11月20日に発売します! どちらも面白く仕上がっていますので、是非よろしくお願いします!
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