15話 新しい街での食事にて
交易都市の散歩の後、宿屋で待ち合わせたロウたちに連れられて訪れたのは、街の中央にある、猫の看板が取り付けられた大きな建物だった。
『白猫の休み場』と呼ばれるその店の二階席は、幾つかの仕切りで区切られた半個室で構成されており、俺たちはその内の一つに通された。
「今日は遠慮なく存分に飲み食いしてほしい。ここの料理は、交易都市の中では一番美味いんだぜ」
「ああ、有り難うデイビット。それじゃあ、お言葉に甘えて頂くよ」
そんなやりとりの後、食事会は開始した。
デイビットはあらかじめお薦めの料理を注文してくれていたようで、様々な料理が運ばれてくる。ロウとのやり取りでも見ていたが、手際がいいな、と思っていたら、
「……ん?」
何やら一階から、音が聞こえてきた。
通された半個室の一角には壁がなく、低めの柵によって仕切られていて、階下が良く見えた。
そこから見れば誰かが、一階にある舞台でピアノを演奏していた。
「この店はこういう生演奏も楽しめるのか」
言うと、俺の前に座るロウが頷いた。
「ええ。演奏だけではなく、ダンスだったり歌だったり、曲芸だったり、常にショーが見られるんです。そして、この席は、そういう意味では特等席だったりするんですよね」」
「特等席っていうと?」
「まず、ここからですと一階の舞台が全て見えるでしょう?」
喋りながらロウは一階の舞台を指し示す。
確かにこの位置だと、演劇がよく見え、演奏も良く聞こえる。そう思っていると、更にロウは言葉を続けてきて、
「しかもあの舞台は裏手から二階にもつながっていて、丁度この席の前にある舞台にも来られるんですね」
ロウは一階を指していた手を、俺たちの席の直ぐ近くに設けられた、床から一段だけ高くなっている台まで動かした。
広い個室の中の半分を占める大きさの台で、一体なにに使うのかと思っていたが、
「なんだか微妙に床が高い所があるな、と思っていたけれど。これも舞台だったのか」
「そうです。ですからここで食べていると、演者が目の前まで来てくれることもあるんです。演者にこちらから触れたりは出来ませんが、曲をリクエストする事も可能です。いわゆる、特等席になっているんですよね」
「なるほど。面白い店だし、良い席なんだな、ここは」
「ええ。しかも最近、歌姫であり楽聖、そして軽業の達人でもある花形のエンターテイナーがこの街に来ていて、今日はこの店に来られているので。多分、楽しめると思います。……っと、もう裏方で、その方の演奏は始まっているようですね」
ロウが言うように、少し前から、ピアノとは違う曲が聞こえ始めていた。
恐らく、弦楽器だろうか。
綺麗な音色が聞こえてくる。
弾いている姿はここからだと見えないが、どことなく楽しそうな気持ちにさせてくれる曲だ。
「その歌姫とやらが多芸な音楽家なのか曲芸師なのかは分からないけど……聞こえてくる音が楽しそうでいいな。料理も美味いしさ」
「ホントです。このお肉とかも、良い香りが付いていてとても美味しいです。どうやったらこう出来るのか、厨房で材料を見てみたいですね」
リンネはサーブされた肉料理を切り分け、その香りを味わうようにしながら言った。
「おや、リンネさんはお料理をするのがお好きなのですか?」
「はい。アイゼン先生に作って食べて貰うのが特に! ですから、美味しいものは真似したくなるんですよね。先生もここのお店の味、お気に召しているようですし」
言われ、俺は苦笑してしまう。
本当にリンネはこっちの好みをよく把握しているな、と。
「うん、そうだな。結構好きな味付けだよ。スパイスも効いているしな」
様々な種類の香辛料が使われているからか、豊潤な香りが続く。中々味わったことがない感じではあるものの、好ましいものだ。
そう伝えると、まずデイビットが笑みを浮かべた。
「喜んでもらえてるようで何よりだぜ。交易都市の名の通り、各地から色々な物品と人――料理人が集まってるから、料理に関しちゃ大分、お薦め出来るからさ。だから、じゃんじゃん食べてくれ! 今回して貰った事に対したら、まだまだ礼をしたりないし――俺たちが代表を務めるカンパニー、『言霊の扉』の総力を挙げてでも持て成させて貰うぜ」
歯を見せる笑みと共に、デイビットは言ってくる。
その最後の言葉が気になった。
「……『言霊の扉』? 二人が所属するカンパニーって言霊の扉っていうのか」
「ええ。そういえば言っておりませんでしたね。そうなんです。まあ、所属というよりは、共同で代表者をやっていると言った方が正しいかもしれませんが」
「そうそう。【言霊使い】の俺と、【商人】のロウで作ったカンパニーだからな」
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