12話 重なるありがたみ
「命を救って貰っておいて、お金を渋るようでは、商人の名折れですからね。お二人は旅人だと仰っていましたし、少なくとも、この街におられる間に、返せるだけ返させて頂かないと、名が折れたままになってしまいますから」
「本式の礼は、まだ考える事も出来ていないから、後程にさせて貰いてえんだけどな」
先ほど宿を取ってくれた二人は、更にそう言ってくる。
「うん? いや、滞在先を提供してくれるだけでも充分に有り難いことだぞ?」
先日の開拓都市の時もそうだったが、まず街に訪れたら、どんな宿屋があるか、そして宿屋でしばらく滞在をして良いのか、調べる必要があるのだ。
……自分達は、現在の交易都市がどうなっているのかは分かっていないからな。
その調査をショートカット出来るだけでも十分に有り難い。そう思っていったのだが、デイビットは笑みと共に首を横に振った。
「いやいや、こっちとしちゃあ同期一人と、その大切な相棒である馬の命を救って貰ったんだぜ? 替えのきかねえ、大事なものだ。それを受け取ったこっちからするとまだまだ充分じゃないからな」
「デイビットの言う通りです。――とりあえず、本日は簡易的な礼として、宿屋に他に、この後の夕食でもご一緒させて貰えればと思うのですが……。良い店を知ってるのです。是非、ご馳走させて頂ければと」
ロウまで、そんな事を言ってくる。
「いいのか?」
「ええ、無論、このあと、ご予定がなければですが」
「その辺りは大丈夫だ。とりあえず、荷物を宿屋に置いたら、この街を軽く回ろうと思っていたくらいだし。リンネはどうだ?」
「私も先生と一緒にお散歩するくらいでしたから、問題はないですよ」
その言葉を聞いたからか、ロウはホッとした様に微笑んだ。
「ありがとうございます。――デイビット、予約を」
「おうよ。そう言ってくると思って、店も時間帯も、幾つか前もって抑えてあるぜ」
デイビットはロウの言葉に繋げるようにしてそう言った。
本当に動きが早い二人だ。
「うん。なんというか、君たちの好意を無駄にしない選択が出来て良かったよ」
「はは、いやいや、顔の利く店があるってだけだから、アイゼン殿はこっちの事は全く気にしなくていいんだぜ。時間も幾らでも融通できる。だから、急かしてる訳ではねえんで、アイゼン殿の方で、都合のいい時間を指定してくれればと思うぜ」
「そうか? ……それじゃあ、俺としてはまずは宿屋に行って、軽く街を回ってから、食事にして貰えれば有り難いな」
「あ、私も、先生とお散歩したいですー」
リンネもそう言ってくる。
そんな俺たちの言葉を聞いて、ロウとデイビットの二人は頷いた。
「了解です。ではそのような形で、――まず宿屋へご案内させて頂きますね。歩く最中、簡単な街の店の紹介なども出来ればと」
「何でも聞いてくれよ、アイゼン殿。リンネ殿。なんたって、この街は俺たちのホームだからな」
「おお、ありがとうよ、ロウ、デイビット」
「お世話になります!」
そうして。着いていきなりの至れり尽くせりと言うべきか、手厚い支援を受けながら、この街での滞在先へと向かうのだった。




